6ラブ 仮の関係

「…今、聞いた事を話したらブチ犯すぞ、てェ…解ってるか?ぁあ?」


そんな声を上げるのは、学園一の人気者、学園の王子様って言われている花園渚はなぞのなぎさ、微笑みも仕草も人当たりも皆に平等、優しくスマート、次期生徒会長候補筆頭。勉強も出来てスポーツ万能、家も金持ちとハイスペック男子と言われている男だ。


そんな花園の冒頭での言葉と共に壁ドンされているのは俺………ではなく、俺のクラスメイトで地味子と渾名がついている川路かわじさん。見た目も目立った容姿でもなく、名前が美佳子みかこと言い川路さんの「じ」と美佳子の「み」と「こ」で「じみこ」と渾名がついていると聞いた。


「テメェ、シカトしてんじゃねーぞ!」


「ひっ、し、してません、してません!あ、余りの事に、お、驚い、て」


声を荒げる花園、怯える川路さん。


皆に優しいハイスペック男子の花園、実は裏の顔がありその裏の顔を目撃する地味な女子、川路さん。これはまた、良くありそうな冒頭シーンのようだ。


そう考えて地面に座り込む。


くそっ、またラブコメ場面に遭遇か!?しかもこれは一歩間違えれば俺があの場所に居る事になったかも知れない。


そう考えると川路さんに感謝する。


てか、あ、あっぶねーっ!花園に壁ドンとか、男にされたくはねー、川路さんが居てくれてほんと助かった。ホッと、俺は一息吐く。


万が一、川路さんより早く裏道を通っていたら、ラブコメが血みどろ展開になっていたかも知れない。最悪まさかのBL展開に発展したかも知れない。


想像し、気分悪さに口許を抑える。


BL展開……、花園が女みたいな顔をしてたら見た目的に我慢出来たかも知れないが、見た目がっつり男前。地味な俺を壁ドンとかないわ、マジでないわ。


「テメェ、またシカトか!?」


花園の声に俺も驚き肩を揺らす、耳が良いと怒声にかなりビビる俺がいる。そして、他の事にもビビる俺がいる。


最近、ずっとこんな感じでラブコメ場面に遭遇中だ。良くありそうなラブコメに発展しそうな花園と川路さん。


俺の予想では、花園が秘密にしろと強要、川路さんは誰にも言わないと言うと思う。それでも信用ならない花園は川路さんに何らかの方法を使い秘密を守らせようとするだろう。


「良い方に考えれば、花園が川路さんを見張ると言い出しずっとくっつく。悪い方に考えれば花園が川路さんの秘密を作らすとかさせて無理矢理あはんな展開に……」


ぶつぶつ呟く俺、ハッと我に返る。


展開予想してる俺は既にラブコメ脳に汚染されてるのか!?地面に座り込んだ侭、頭を抱える。


「見た事、聞いた事を他人に話すんじゃねーぞ?」


「い、言いません!誰にも何も言いません!」


「…信じられねェな、本当に言わねェのか」


「ほ、本当に本当に言いません!誓います!」


案の定、俺が予想した展開になりそうな言葉の流れになっている。やっぱり、花園は川路さんの言葉が信じられないようだ。こうなると、この先の展開は川路さんにとって、過酷なものになりそうだ。


川路さん、君の犠牲は忘れない。俺の心の中で、そっと思っておく。話し掛けはしないが、応援だけはしとくよ、川路さん。


その場を後にしようとした俺の耳に、花園の言葉が届く。


「はっ、なら良い。今日から卒業までテメェは俺の彼女、監視してるからな」


また一人、ラブコメに犠牲になった者が生まれた瞬間だった。


いや、ほんと、この学園どうなってんだ?通い辛っ!

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