3ラブ しりとり

「全然、開かない」


「マジかよ、勘弁しろよ」


「それ、こっちのセリフ」


「はいはい、取り敢えずいつか誰か気付くだろうな」


いや、俺もだから、勘弁しろは。


心の中で、話してる男女に向かって呟いた。


放課後、静かな図書室でスマホに差したイヤホンを両耳に入れ最近気に入っているアプリゲームに没頭する。


結構な時間になり図書室を出た時に、体育の先生に出くわした。


何やら嫌な予感がしたが、案の定的中。体育館倉庫に返してくれと言われた箱を押し付けられ、仕方なしに体育館倉庫へ。


体育館倉庫に入り奥にあるラックに向かう、その時に喧嘩っぽく話しながら男女が入ってきたが、気にせずラックに箱を置いた。


んで、出ようとした時に聞こえたのが、全然開かないの言葉。


普段の、いつもの俺ならLINEで友人辺りに体育館倉庫に閉じ込められたから開けてくれみたいなメッセージを送って、開けられるまでアプリゲームでもしながら待ったりするんだが、後から入ってきたこの男女に嫌な予感が涌き出る。


それはここ最近の出来事による為だ、同級生のフクロウ事件と二階堂解りすぎ事件。どこぞのラブコメみたいな出来事が周りで起きてる、二度ある事は三度あるって言うし。この男女にも起こりうる可能性がある。


無意識に俺の表情は歪められる。それでも、まさかそんな、またラブコメみたいな事が起こるわけないとも思っている。


何やら喧嘩っぽい事をしている男女をほっといて、俺はLINEで友人にメッセージを送った。


『体育館倉庫閉じ込められ、なう。至急脱出させよ。』


直ぐに既読がつき、『www』で返って来た。いや、ちょ、おま、返事!暫く友人とLINEメッセージをやり取りする。その中で、二人の会話を耳にした。


「暇だし、誰か来るまでしりとりしね?」


言ったのは鮎川あゆかわと言う男子、暇でしりとりって子供かっ!と突っ込む。


「は?何であんたと、しりとり何かするのよ」


ちょっと気が強そうな声の女子が、百瀬ももせさんと言うようだ。


「え?暇だから」


「暇でしりとりってお子様」


まさに、俺が思っていた事を百瀬さんも思ったようだ。暇だったらしりとり以外にもありそうだな、と思いながらLINEメッセージを続けるが、未だに『www』しか返して来ない、おい、解れよ!開けてくれの意味だっつうの!


LINEメッセージをしてる最中も、鮎川と百瀬さんの会話は続けられた。


「お子様でも何でも良いし、しりとりな、しりとり。モモが負けたら次体育館使うの俺らね」


「モモ言うんじゃないって言ってるじゃない、って、体育館賭けるならやる。私が勝ったら私達が使うからね!」


「はいはい」


関係性的には、百瀬さんが鮎川に突っ掛かってる感じに思える。顔は見えないが、声からして鮎川は百瀬さんに甘いような気がしないでもない。嫌な予感が沸々としてくる、暗がりの体育館倉庫、好意が互いにありそうな男女。


…………。


俺は光の速さで、友人にLINEメッセージを送る、『まじで開けに来てくれ、今すぐに!!』


必死さが伝わったのか、友人の返事は、『ちょい待ちー』と緩い感じで返ってきたが、来る事には変わりなく安堵する。


その間に、鮎川と百瀬さんの間でしりとりが始められた。


「バレーボール」


留守るす


すずめ


「メス」


「スルメ」


本当にただ単にしりとりが始められた、しかし、多分、聞く限り鮎川は『す』で全部終わらせてるよな。ま、しりとりで勝つには最後の文字を同じにするのが良い。それにも限界があるけど。


「す…、…ちょっと、「す」攻め止めなさいよ!す、ばかりじゃない!」


「や、しりとりだし」


案の定、『す』で終わる事に気付いた百瀬さんが怒る。いやいや、しりとりの必勝だから、やるからには勝ちたいだろ、俺もゲームは負けたくないし。


「いいわよ、なら私も「す」攻めするし!」


「はいはい、どーぞ」


声や言葉使いからして、百瀬さんはツンツンしてそうだ。鮎川の方は落ち着いた感じの声に聞こえる。ただ、こーいうタイプは心の内だと何を考えてるか解らないんだよ、二階堂タイプだな、二階堂タイプ。ま、表情は豊かそうだけど。


「……す、スチュワーデス!」


「ステンレス」


「…す、す、ステンドグラス!」


互いに『す』攻め中だ、にしても結構『す』で始まる言葉はあるもんだな。呑気に考えながらLINE画面を開き友人に何処に居るのか言葉を打ってる最中に俺の耳に届いた鮎川の声。


「好き」


どこにい、の文字を打ってる最中に手が滑り送信。


まて、おい、まてまてまて、いやいやいや、ああ、しりとりだ、おう、しりとりだ!嫌な予感を打ち消す様に俺の心は叫ぶ、そして友人からの返事は、『誤送信慌て過ぎじゃん、もう直ぐつくー』であった。


「……ふふっ、ついに「す」攻め終わりね、私の勝ちよ。え、っと、き、き…」


俺も全力で、百瀬さんの言葉通りに思いたい、是非ともしりとりの回答だと。しかし、俺の心の声とは裏腹に鮎川は告げる、声からしてマジだ。


「好きだ」


「ちょっと、解ってるわよ、「き」でしょ?き、き、」


百瀬さん……非常に残念なお知らせだが、鮎川は君に告白をしている!しりとりと言う名前の告白をしている!そしてまた、とんでもないタイミングで告白したな、おい鮎川!


誰も居ないと予想したんだろうが、おあいにく様だ、俺がいる!もうこの際、百瀬さんは突き詰めてしりとりを続行させてくれ、そして俺の友人が体育館倉庫につきそうだ、どうする!?


俺は百瀬さんがしりとり続行、告白だと思わなかった的な話で終わると思っていた、だが、鮎川は終わらない。


「好き、だ。答えは、キスでいいよ、モモ」


な、ん、て、こ、と、やりやがるんだ鮎川!俺は隠れている為、あの二人からは見えない。俺も二人は見えない。しかし、鮎川の言葉の後に二人の声が聞こえないが、何やら口と口を近付けちゅっちゅっしてる音が聞こえる、そして友人がつくまで後数秒のようだ。


二度ある事は三度ある、俺の周りはどうやらラブコメで出来ている、生き辛っ!

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