2ラブ 2番目に好かれた男

「……いや、ない」


前にも話したが、俺の耳は異様に良い。聞こえないだろう距離でも、何かの拍子で声が聞こえたりする。


俺はスマホから視線を上げ、無意識に声のした方へ目線を向けた。


前から2番目に座る席の男、多分声を出したのは二階堂にかいどうだろう。


二階堂という男は、寡黙な男だ。周りの女子が騒いでいるのを何度か目撃した事がある。


クールという奴だろうが、話し掛ければ別段普通に話す男だし、女子から話し掛ければ普通に話す。


ただ、喜怒哀楽が解りづらいのは確かかも知れない。


何を考えてるか解らないが、普通な高校生男子だな、と言うのが俺の印象……印象なんだけどさ。


「二ノにのみやさん、ちょっと良い?」


「ん?」


クールで、寡黙な男の、俺でも格好良いと思っていた二階堂、ここ最近、隣の席の二ノ宮に話し掛ける度にとんでもないイイ笑顔を向けて話し掛ける。


敢えて言おう、二階堂、お前…解りやす!


他の女子に話し掛けた二階堂の顔が零表情だとすると、二ノ宮に話し掛けた二階堂の顔は百over表情だ、天と地の差、天国と地獄、兎に角、あからさま過ぎる。


気付いてないのは、本人達のみ。


俺や周りのクラスメイト、そして最近良い雰囲気の笹木と宮本さんも気付いている。


敢えて言おう、二階堂、お前…バレバレだ!


そして、二ノ宮、気付いてくれ、このままだと男子に被害が出てしまう。二ノ宮がクラスメイトの男子、二階堂以外の男子に話し掛ける度にみるみる内に二階堂の表情が絶対零度くらいの表情になり、急にクラス内が寒くなる。背筋が凍るとはこの事だ。


今は二階堂に話し掛けられた二ノ宮が、二階堂の相手をしている為に真夏の暑さくらいに暖かい。二階堂、お前は天候を操れるのか、と冗談言うくらいにクラス内の温度が上がったり下がったりする。


「二ノ宮さん、ここ、解る?」


「え、どこどこ?って、わ、解んないかな…」


二階堂が二ノ宮に何かを聞いてるようだ、多分教科書を見せてる辺り勉強の解らない所を聞いているっぽいな。


しかし、俺、いやクラスメイトは全員知っている、二階堂の成績は学園二位だと言う事を!


二ノ宮は勉強が苦手だ、俺と一年生の頃に同じような成績で話し掛けられた事もある、ただスポーツが得意で陸上部に所属していた筈。そんな二ノ宮に二階堂が勉強聞くって、無理あるから、話したいからって無理あるから、二階堂。


「どこ、解らない?」


「え、っと、ここかな」


「もうすぐテストだけど、平気?」


「うーん、や、やばいかも?勉強しなきゃ」


「なら、俺も勉強するし一緒にどう?」


「え、でも悪い」


「一緒にした方がはかどるし、二ノ宮さんに教えたりすると俺も勉強になるから」


「ほんと!?なら頼もうっかな、周りは私に教えるの難しいって言っててさー、理解出来なかったらごめん!」


「全然、ゆっくりじっくり、遅くまで根気よく教える」


俺は知っている、二ノ宮に勉強を教えようとした女子に、二階堂が裏から手を回していた事を。


クラスメイトの女子は、活発で元気な二ノ宮に、好意を抱いてるだろう二階堂の応援に回っている。


二階堂は二ノ宮への好意がバレない様にしているみたいだが、バレてるからね、裏から手を回さずとも押し付ける気満々だったから女子は!


しかし、勉強を教えたいが為に裏から手を回し、男子を近付けさせないってある意味凄いよ二階堂、怖いから早く二ノ宮と付き合ってくれ、切実に俺は願う。


思いの外、俺は二人に視線を送ってしまっていたのか、ふと視線を上げた二ノ宮と俺の目が合う。


「五十嵐ー、五十嵐も勉強教わらない?私と同じくらいの成績だったもんね」


一瞬、このアマ!と罵倒が出そうになったが、飲み込んだ。ちょ、おま、俺に話し掛けたら、ほら、見ろよ!二階堂の絶対零度出ちまっただろうが!


俺を巻き込まないでくれ、切実に俺は思いつつ、どうやって切り抜けようか考える。


ほんと、他人の色恋は、面倒だ。

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