この学園はラブに汚染されて俺は生き辛い

紫斬武

1ラブ 隣の席の同級生

その事に気付いたのは、俺が高校二年生になった春。


俺の席は窓際の一番後ろで目立たない席だ。前にいる男女二人、男はクラスで元気な何処にでもいる男子、女子も特に気になるようなこともない普通な女子だ。


この二人、ある日を境に急接近。


男子の方は女子を気にしているだろうな、と、後ろから見れば直ぐに解った。女子は全くと言って良い程、男子を気にしていなかった。


そんな二人の急接近、俺はタイミングが良いのか悪いのか、全て見ていた、聞いていた。


教室に忘れ物をした俺が教室に入ろうとすると、教室内で声がした。何となく入り辛く俺は廊下で二人の会話が終わるまで待つ事にした。特に用事もなく、スマホを弄ってれば時間も経つだろうの判断だ。


因みに俺は耳が異様に良い、遠くの場所からも意識すればはっきりと聞こえるくらい耳が良い。


だから、教室の扉を挟んだ二人の会話は丸聞こえに近かった。


「フクロウ貸してくれね?」


「…………は?え?」


俺も、は?え?である。


声からして、と言ったのは俺の席の前にいる、元気一杯な男子、笹木ささき。は?え?と言ったのは笹木の隣の席の宮本みやもとさん。


「袋…貸してくれって?」


ニュアンス的に、袋、ビニール袋とか布袋とか、と宮本さんは聞いてるっぽいな。俺には明らかにって聞こえたが、期待を裏切って袋か?


「いや、フクロウ貸してくれって言った」


「フクロウ…フォー、フォーとか鳴く、夜行性の?」


「そうそう、そのフクロウ」


やっぱりフクロウか、って、フクロウ貸すって何だよ。借りれるもんなのか、フクロウって。


「…私、フクロウ飼ってるとか思われてるの?」


え?思われてんのか?宮本さんフクロウ飼ってる顔では断じてないな。


「いやいや、思うわけないって。え?フクロウ飼ってんの?」


思わないなら聞くなよ、宮本さん可哀想だろーが、何だどうした笹木。


「飼ってない、飼ってない。だって、フクロウ貸してくれって私に言うから、そう思われてるのかなって」


「フクロウ飼ってないなら、何飼ってんの?俺は犬」


「あ、私も犬。種類は?」


「柴犬、そっちは?」


「うちも柴犬!一緒だね、名前は?」


「在り来たりな太郎、そっちの名前は」


「うちは桃太郎って名前だよ」


宮本さん、ちゃんと会話続けてあげてんな、俺なら何言ってんだこいつ、とか思うけど。ここが、男子と女子の違いか?宮本さん優しいんだろうな、優しそうな顔はしてた。ちょっと可愛いし。


スマホの中にあるアプリゲームを弄りつつ、俺は二人の会話を聞きながら考える。しかし、まだ終わらないのかよ、二人の会話。


好きな食べ物、最近見たテレビ、好きな漫画、趣味など。おい、早く終われよ、お見合い会場かよ。俺は二人が出るの待ってるんだけど?


笹木、宮本さんと話せてテンション上がったのは理解した。チラチラ見てたもんな?解る、俺にも少しは理解出来る。けどな?その会話で犠牲になってる俺の事を考えてくれ!


宮本さん、君はきっと優しいんだな。哀れな男子の会話を繋げてあげてるもんな。けどその優しさは今はいらない、何時間話してるんだ?その会話で犠牲になってる俺の事を考えてくれ!


あらかた、二人の悪口を脳内で浴びせていれば、ついに会話を終えた二人が教室を出ていった。


それを確認し、スマホを制服のポケットに入れてから二人が居なくなった教室に入る。自分の席に行き、忘れた弁当箱を取り教室を出た。弁当箱忘れると姉ちゃん超怒るからな。


弁当箱の入った袋を持ち、下駄箱で靴を履き替え外に出ると前を歩く笹木と宮本さんを発見。確か笹木は帰る方向が俺と一緒だったが、宮本さんも一緒か?


並んで歩く二人の後ろを着いていくが、俺も帰る方向が一緒なだけで後を着けてるとは断じて違うと言わせてもらう。


「ね、そー言えば何で私にフクロウ貸してくれって聞いたの?」


夕暮れの帰り道、前の二人から聞こえた会話。盗み聞きじゃない、聞こえる俺の耳が異様なだけだ。しかも宮本さん、それ、今聞くのか?まあ、俺も気にはなるが。多分、会話の切っ掛け作りだと俺は踏んでる。


「……印象、残るだろ?いきなり、フクロウ貸してくれって言ったら」


「うん、確かに。何を言ってるの?とか思った。最初は言えなかったけど、今ならちゃんと言えるかな」


やっぱり、何言ってんだって宮本さんも思っていたか。最初は話した事も意識した事もない男子に言われても、何だ?とか言い辛いよな、俺も仲も良くない女子に言われても、何も言えずにあ、うん、とか言いそうだし。あるいは無視するな、聞き間違えだと解釈して。


夕暮れが前の二人を照らす、何だが良い雰囲気に見える。ふと、笹木が視線を宮本さんに向けていた、開いた唇から奏でられた言葉は俺に一字一句、はっきりと聞こえる。


「お前と、話したかったから。会話の切っ掛け作り。上手くいって良かったかな」


照れ臭そうな笹木、そして顔の赤い宮本さん。


笹木、どこぞのラブコメ発動させてんなよ、帰り道に!帰り道の夕暮れ景色、ちょっとキュンと女子がしそうな言葉、好意がないと多分やべー言葉だが、今の宮本さんなら多少の好感度は上がっている。きっと、キュンとしてる、顔を見る限り嫌そうな表情はしていない。


また、言わせて貰う。どこぞのラブコメだよ!と。


この日を境に、俺の周りでラブが渦巻いていく。はっきり言って、見ているこっちが恥ずかしい。

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