才能とは?
水谷一志
第1話 才能とは?
一
「才能」のある者だけが、この狭いオリのような世界から脱出できる。
そう、ここは監視された世界。ここにいる人間は自由に外を出歩くことができない。もちろんここでは3度の飯は保証されているし、しっかり眠ることもできる。また無理やり労働させられることもない。しかし…。
ここにいる人間は自由に外に買い物に行けない。また遊びに行くこともできない。そう、ここの人間はこの世界から脱出する権利を得なければ自由が得られないのだ。
補足であるがこの世界の周りは高い壁や天井で覆われている。またドアは1つだけで、それも外側からしか開けることができない。
また天井付近には防犯カメラがつけられており中の人間は常に監視されている。
そう、ここは閉鎖された世界。そしてここから脱出する方法は、たった1つだけ。
それは定期的に開かれている「大会」で自分の「才能」を示し、その大会で1番であると認めてもらうことだ。
そう、才能のある者だけが、1番になった者だけがこの密閉された世界からの脱出が叶う。それが、この世界に存在するたった1つのルール。
二
俺はそんなオリの中にいる1人の男だ。しかし、俺にははっきり言って何の才能もない。
例えば分かりやすいのが、スポーツ。はっきり言って俺は運動神経が良くない。まあそれで俺は傍観者としてこのオリの中で開かれたテニス大会を見ていたことがある。
そして、それは正に…「地獄絵図」だった。
「おい審判!今のどう見てもアウトだろ!」
とあるプレーヤー(この世界の人間)が大声で叫べば、その相手(こちらもこの世界の人間)が、
「はあ?どう見てもインだろうが!」
と反対のジャッジを叫ぶ。これはそのテニス大会の決勝。そしてこの試合に勝った方がこの世界から脱出できるというシチュエーションであった。
そのため、ここから脱出したいがために2人のプレーヤーは過剰にエキサイトし、ワンプレーが終わる度に一触即発の乱闘騒ぎになる。
結局その試合は最終セットのタイブレークで片方が勝利した。
そして、その勝利した方のプレーヤーはさっそうと開けられたドアから外の世界へと出ていく。
それは見ていて心地の良いものであったが、負けた方のプレーヤーはものすごい表情で相手をにらんでいた。
「畜生!畜生!畜生!」
もう片方のプレーヤーはそう泣き叫び、それはそれは見ていられないものであった。
三
また、この世界ではサッカー大会が開かれたこともある。これはこの世界の人間を便宜的に11人対11人に分け、その試合の中で最も活躍した選手1人が脱出できるというものであった。
しかし、運動神経が悪い俺はとりあえずこれも最初から参加しない。結局俺は、傍観者であった。
このサッカーの試合も…滅茶苦茶であった。
「お前がキーパーやれよ!」
「はあ?やだよ!」
「ってかキーパーでも活躍できるだろ!」
「じゃあお前がやれ!」
「やだよ!」
…まずお互いのポジションが決まらない。やはりみんなはFWやMFなどのゴール、またアシストの奪えるポジションにつきたいようだ。
その後外の世界からきた審判に半ば無理やりポジションを決められ試合はスタートした。しかし…。
「お前こっちにボールよこしたらゴール決められただろうが!」
「お前のシュートなんか当てになっかよ!」
「何だと!」
…基本的に誰もパスを出そうとしない。ヘタをするとディフェンダーまで勝手にゴール付近まで行きシュートを打とうとする。
「これでは試合になりませんね。今回のサッカー大会は無効試合とします。したがって今回のこの世界からの脱出者はいません。」
審判が前半終了後にこう告げると、
「話が違げえじゃねえかよ!」
そう言って怒る者、また泣き叫ぶ者が出てくる。
しかしそれはしょうがない。「1番」はあくまで審判が決めるもの。そして、「才能」を認められた者たった1人がこのオリから脱出できる。
それが、この世界の冷徹な「ルール。」
四
しかし、思えば「才能」とは何なのであろうか?
俺はこれまでこの世界の色々な大会を見てきたが、それは決してスポーツのような分かりやすいものばかりではなかった。
ある時は「モノマネ大会」で優勝して脱出した者もいる。またある時は「詩吟」の大会で脱出した者もいる。…さらに、「一発芸」の時もあった。
そう、この世界では実に様々な大会が開かれ、様々な「才能」が試される。そしてそんな中では今まで何の才能もないと思っていた俺も、この世界で輝く「才能」を見つけられるかもしれない。
そう、俺は思うのだ。何の才能もないと思っている俺でも、他の才能ある人を見ていれば、いつか自分に合う「才能」、「能力」を見つけられるのではないか、と。
そして俺は、そんな考えの下…、
『このオリのような世界を作り、他の人間たちを見ることにした。』 (終)
才能とは? 水谷一志 @baker_km
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