001 - 004 - シア
シアが自分の能力に気づいたのは、6才になったばかりのある朝だった。
昨日まではまるで見えなかったオーラのようなものが、街ゆく人々からユラユラ溢れ出ているのがはっきりと見えた。
もちろんそれが自分の周りにも満ちていること、そして他の人と比べると圧倒的に自分の周りのソレが濃いことにも気が付いていた。
そしてソレが、異人のエネルギー源だと仮定するまでにそう時間はかからなかった。
この世界では、1年に1度、異人かどうかを検査する義務がある。
検査は簡単で、マハと呼ばれる異人のエネルギー源の体内濃度を測ることで判定する。
マハは磁気に微弱な影響を与えるため、その作用を利用して、エネルギー濃度を測る検査方法が確立された。
僕には時間がなかった。この施設を僕は気に入っていた。
このままでは異人と認定され、ムー大陸へ送り返されてしまう。
おそらく自分の能力は「マハを見る」と言うだけの、異人というだけで何の戦闘能力も持たない、ムー大陸にいては危険な存在だろう。すぐに死んでしまう。
そんなある日、シアは意識することで、体内のマハを僅かにコントロールできることに気が付いた。
最初は僅かなゆらぎをおこす程度だったが、飽きることなくコントロールを繰り返した結果、検査箇所である右手から左足へマハを移動することで検査をスルーすることに成功した。
こうしてシアは、隠れ覚醒者として逃亡生活をすることなく、異人ながら普通の生活を送る権利を獲得した。
シアは隠れ覚醒者を見つけることだけで言えば、これ以上ない人材だ。
そのため、一年のうちに何人もの異人を発見することができたし、何度かは能力の発動を目撃することもできた。
この経験を繰り返すごとにシアは、能力発動のメカニズムを徐々に理解し始める。
異人はいわば、マハを変異させ、特定の現象を引き起こすための装置だ。
例えばマハを炎に変えたり、マハを利用して瞬間移動を行ったりと、多種多様だが、数多くの能力を目にするごとにシアはパターンを理解していった。
そして10歳の頃に、初めてシアはマハを炎に変換させることに成功した。
マハのコントロールと並行し、シアは異人学の研究に没頭していた。
それは彼自身が感じていたこと、そしてついに理想となったある思想を実現するためである。
「異人のいない世界をつくる」
異人は世界にとって、あまりにオーバースキルであり、いつか世界を滅ぼす力だ。
現に、人類と異人による第一次異人戦争、そしてムー大陸完成後、大陸内の覇権争いによって発生した異人同士の第二次異人戦争が、それを証明している。
人は力を持つとそれを振りかざす。
そしてその力が限度を越えれば、それは自身を焼き尽くすまで消えない業火となる。
この未来を防ぐためには、能力を根本から消さなければならない。
そのためには知識が、力が、仲間が必要だ。
シアは世界有数の異人に関する知識を手に入れた。
しかし、力を手に入れることはできなかった。
炎も氷も風も電流も、念力も透視も物質創造も物質変化も、テレポーテーションもテレパシーも習得したが、どれもこれもコピーにすぎず、オリジナルには大きく劣る。
もちろん、これら複数を駆使すれば、そこらの異人には負けないが、世の中には圧倒的な力を持った異人がごまんと存在する。
理想を形にするためには、きっと大きな力が必要だ。
そう考えたシアは一つの類稀なる能力と、一つのアイデアを手に入れた。
アイデアは「ハッタリ」だ。
そのためには仮面が必要だった。
何かを成したいと思った時、動かせる駒は多いほうがいい。
まずは軍隊を手に入れ、そしてムー大陸へ向かう。
その計画が3日後に決行される。
そのための準備は入念に行ってきたつもりだ。
もちろん失敗するかもしれない。
けれど、これは理想のための第一歩でしかない。
あるかどうかもわからない「能力を消し去る方法」を探すための第一歩。
ここでしくじるわけにはいかない。
僕はコートの内側から仮面を取り出すと、それを顔に装着し、幕があがるのをゆっくり待つことにした。
mw kasode @kasode
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