第273話 デーモン戦
軍団長三人を斬り伏せたエレクトラと向かい合うのは魔貴族の女性。
ダガーのような精霊剣を両手に持ち、風を纏う美しい女性魔人だが、内包する魔力はエレクトラを優に上回る。
「強いな其方は。それにその美しさ、気に入ったぞ。其方を私の部下にしてやろう」
「うふふっ。お褒め頂き光栄ですわ。ですが、部下になるのはお断りさせて頂きます」
笑顔で答えるエレクトラだが、残る魔力量から考えるとこの魔貴族を相手取るには少し厳しい。
戦闘前の食事と魔力回復薬の効果が働いている為、少しでも時間を稼ぎたいところだ。
「つれないなぁ。珍しい毛色の人間…… むう? なぜ其方は頭に耳が生えているのだ? 他の人間は生えてないようだが」
「わたくしの国ではこのような獣耳が生えている者が一般的ですの。毛色、この髪の色はドロップというアイテムの魔法の効果ですわ」
「ほほぉ。では私の毛色も変えられるという事か?」
「もちろんです。お好きな色を選ぶ事ができますよ」
髪色に興味を示す魔人女性と会話を楽しむエレクトラ。
周囲で戦いが繰り広げられる中、しばらく会話を続けていたのだが。
「では私とエレクトラはこれから友達となるのだな?」
「はい。よろしくお願いしますね、ティアさん」
「よし、では戦おうか!」
「ええ!? お友達になったのですよ!? なぜ戦う必要があるのですか!?」
「我々魔人の上位にある者は実力を示さねばならん。互いの実力を認め合ってこそ友であろう?」
やはり魔人は人間の感覚とは少し違うなと思いつつ、魔人の教えがそうであるならば付き合うしかない。
「仕方ないですわね……」
下級魔法陣を発動したエレクトラは精霊ルーシーに多くの魔力を渡し、妖刀夜桜を鞘に納めて得意とする抜刀の構え。
対するティアは左の精霊剣を逆手に持ち、暴風を放って下方へと向かって加速。
エレクトラもそれに追従する。
速度に乗ったティアが上昇を始め、エレクトラはそれ以上の速度で追いつき神速の抜刀を放つ。
蒼真から習った圧空刃を使用した高威力の斬撃だが、ティアは体を捻って回転させると竜巻を生み出し、自身を覆う事でエレクトラの圧空刃を受け流す。
そのまま竜巻となったティアをエレクトラは……
様子を見る事にした。
高速飛行戦闘から軍団長二人を雷撃によって沈め、魔貴族を相手に魔剣クラウ・ソラスを振るい圧倒する。
ダガーのような短めの精霊剣を持つ魔人は防御能力が高いものの、アイリの放つ雷撃は魔人の放つ風の刃よりも威力が高い。
距離を取りながらの戦闘であり、呪文を唱えて部分的な精霊化をした魔人が速度を上げてアイリに向かう。
豪風を放つ魔人と魔剣クラウ・ソラスにチャージされた精霊魔法がぶつかり合い、雷撃となったイザナギが相殺され、イザナミを放って距離を取る。
精霊魔法では豪風を相殺する事はできず、魔力を温存したかったが仕方がない。
下級魔法陣を発動して再び魔剣に雷撃をチャージする。
速度を高めて接近するアイリと風の魔人。
正面から向かい来るアイリに魔人は豪風の刃を放つが、瞬雷により紫電を引きながら魔人の横を突き抜ける。
すれ違い様に腹部を斬り裂き、イザナギによる豪雷が魔人の体を貫いて周囲に轟音を響かせる。
部分的とはいえ精霊化した魔人であろうともその雷撃に耐える事はできずに地面に向かって落下。
アイリは無茶をするであろう蒼真の姿を探す。
高速飛行から遠く離れた位置にいる為、探すのには時間が掛かりそうだ。
蒼真が斬り掛かったのはジャバウォックと呼ばれる空を飛ぶ事ができる爬虫類型の魔獣のデーモンだ。
首や手足が長く蒼真の倍程の巨体を持つ魔獣だが、デーモン化により強靭な筋肉と、手足の長い爪までもが大きく膨れ上がっている。
元々刃を通さない程に強固な鱗を持ち、精霊を取り込んだ事により魔法的な防御力も高くなっている事だろう。
圧空刃でデーモンに斬りつけると、その高い威力から鱗をも斬り裂いてダメージを与えるも、炎を纏った右の爪刃が蒼真を襲う。
蒼真はこの程度ならばと風の鎧の性能を試してみる。
デーモンの炎を相殺し、直接攻撃である爪は蒼真の体が押し流される事でダメージを受ける事はない。
蒼真は体を回転させてデーモンの肩を斬り裂き、悲鳴をあげたデーモンは傷口から炎を放って超速回復をする。
咆哮をあげたデーモンは炎のブレスを放射して蒼真へと向かい、爪刃と圧空刃とがぶつかり合う。
最初の一撃よりも威力の高い炎の爪刃は、圧空刃をもってしても受け止めるのがやっとの威力。
その質量と膂力から蒼真を下方へと弾き飛ばす。
降下するデーモンと体勢を立て直して空を舞う蒼真だが、飛行能力の高くないデーモンでは追従する事ができない。
急旋回からデーモンへと一気に距離を詰める蒼真は、加速度を乗せた圧空刃でデーモンの炎の爪刃と斬り結ぶ。
速度を乗せた高い威力であればデーモンにも打ち勝つだけの威力があり、そこから蒼真の剣技とデーモンの乱撃を打ち付け合う。
圧空刃の余波を受けて多くの傷を負いながら戦うデーモンを見て不利と感じた魔貴族の男。
蒼真の頭上から襲い掛かり、精霊剣を唐竹に振り下ろすがしかし、上級精霊ランによる強大な旋風が放たれて錐揉み状態になって吹き飛ばされた。
その後もデーモンと蒼真の戦いは続き、襲い掛かる魔貴族はランの旋風に吹き飛ばされるのを繰り返していくうちに、空中浮揚しながら待機していたデーモンに旋風が直撃。
薄らと透き通る死霊系魔獣上位種、スペクターのデーモンだろう。
通常のゴーストよりもはっきりとした姿をしており、乱れた長い髪と仮面のような顔、ボロ布のような物を纏っているが体は見えない。
周囲に数十ともなる火球を展開して蒼真へと向かって来る。
「蒼真! もう一匹来たっ!」
「来た、じゃないだろ! デーモン二体相手にどうしろって言うんだ!?」
「蒼真は私が守る!」
「うおっ!? この魔貴族も邪魔だ、な!!」
魔貴族の斬撃を躱して左薙ぎにジャバウォックデーモンに向けて払い除ける。
そして背後からは大量の高出力の火球が撃ち込まれ、ランは旋風で正面の火球を掻き消し、周囲から向かう火球を風の防壁で防ぐが貫かれ、慌てて威力の高い風球を放って相殺する。
「うわっわっわっわっ! どうしよう蒼真! あれ強いよ!?」
「なんとか耐えてくれ! こっちもキツい!」
デーモンはやはり使役されているのだろう、魔貴族はデーモンからの攻撃を受ける事はない。
正面からジャバウォックデーモンと魔貴族同時に攻撃され、蒼真は防御と回避で耐え凌ぐ。
そこへスペクターデーモンが蒼真の頭上に瞬間移動し、咄嗟にランは飛行装備を操作して下方へと逃げる。
刀を振るっていた蒼真も急な移動を予想しておらず、ジャバウォックデーモンの一撃を受けきれずに風の鎧で威力を軽減させるも右足に傷を負う。
高速移動で距離を稼ぎ、追従するスペクターデーモンと魔貴族。
ジャバウォックデーモンも後を追って来るが、それ程速度は出ない事から今はスペクターと魔貴族を何とかすればいい。
しかし距離をとった事で魔貴族は精霊化を済ませ、地の魔人として獣魔人化。
そう易々と倒す事はできないだろう。
スペクターはその存在の希薄さからか瞬間移動を何度も繰り返して蒼真との距離を詰めて来る。
スペクターが蒼真の間合いに入るであろうタイミングを予想しながら乱嵐を鞘に納めて抜刀の構え。
蒼真のどの位置に移動して来るかわからない為、ランには高い位置から見下ろしてもらいながらその時を待つ。
いざとなればランの旋風に対処してもらう事も可能だ。
スペクターがすぐ背後まで迫り、次の瞬間間合いに入ると思ったところ、正面に回り込まれた蒼真。
対応しきれずにスペクターのボロ布を突き抜ける事となった。
物理的なダメージはなかったものの、汚そうなボロ布に突っ込んだ事による精神的ダメージを受けつつ次の移動に備える。
先程よりも前に瞬間移動したスペクターに、神速の抜刀からの特大風刃を放ってその胴体を斬り飛ばす。
「ボオォォオォォオォオ!!」と悲鳴のように空気を振動させて再び瞬間移動。
同時に周囲に展開させていた火球が蒼真へと放たれ、蒼真はスペクターと同じように瞬間移動で回避。
特大の風刃を放った後で纏う魔力が大きくはないとはいえ、風の鎧と身体強化の魔力分を消費する為、緊急回避としては有用だが通常時に使うには消費量が大きい。
しかし蒼真はそこに着目した新たな戦闘方法として考えていた事があり、すでにアイリとも練習済みだ。
それをこの戦いに使用する。
再び瞬間移動をして大量の火球を放って襲い掛かるスペクターは、風刃によるダメージはないのだろう。
それでも魔法攻撃を受けた事で保有する魔力が消失し、スペクターデーモンとしての総量は少なくなっているはずだ。
全ての火球を蒼真が打ち払うと薄暗い魔力の膜に覆われ、内部に強大な魔力が膨れ上がった直後な炎に包まれる。
スペクターデーモンの高威力魔法、魔力球内を燃やし尽くす熱量魔法だ。
相当な魔力量を消費する魔法であり、蒼真の風の鎧を爆散させても破壊はできないだろう。
瞬間移動しようにも外に魔力を出す事が出来なければ脱出は不可能だ。
風の鎧により炎熱を相殺しつつ、圧空刃で膜を斬り付けてみるが出力が足りない。
上級精霊の精霊魔導で斬り裂けないとすればその強度は相当なものだろう。
風の鎧での相殺で魔力消費も大きく、この攻撃に耐えられる者はそう多くはいないはずだ。
上級魔法陣は風の鎧が解除されてしまう為、最後の手段として今はおいておく。
次に試してみるとすれば精霊の力を行使できる蒼真と、精霊として蒼真の力を行使できるランの二重魔導。
単純に蒼真の出力を二倍にするだけだが、汎用性の高い下級魔法陣での出力を倍にできるとすれば、出力のみに特化した上級魔法陣よりも使い勝手が良い。
神速の抜刀からの全力の圧空刃を振るい、出力が上がり長く伸びた風の刃がスペクターの作り出した膜を斬り裂いた。
外に出るとすぐに斬り掛かってくる獣魔人。
蒼真はその剣を受け流し、数え切れないほどの剣戟を重ね合いながら、スペクターの火球をランか相殺する。
追い付いて来たジャバウォックデーモンも襲い掛かり、この戦いが厳しいと判断せざるを得ない。
高速飛行戦闘に持ち込むべきたが、スペクターが瞬間移動で飛行を阻む為それも叶わない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます