第274話 舌戦?
守護者の一人と向かい合うミリー。
爆焔による一撃でその攻撃を弾き返したものの、豪炎を放つ守護者の斬撃は重く鋭い。
ミリーの右薙ぎの一撃を精霊剣で右袈裟に受け、爆音を轟かせながら連続した攻防を繰り広げる。
ミリーの高速の乱打も全て防ぐ守護者の実力はさすがと言っていいだろう。
以前サディアスと戦った事のあるミリーも今ではあの頃に比べて倍近い出力があり、守護者相手に互角の戦いをみせる。
威力が互角であれば魔力総量の少ないミリーが長期戦で不利になる。
ミリーは爆焔の威力を加速に利用して高速飛行戦闘へと切り替える事にした。
守護者は炎を撒き散らしながらミリーを追い、速度の乗ったミリーは旋回して七色の魔力を放出しながら守護者へと向かう。
向かって来るミリーへとその方向を変えた守護者だが、速度で勝るミリーの爆焔は守護者の豪炎を上回る。
受けた精霊剣が後方に押しやられ、飛行装備が爆風を受けて後方へと吹き飛ばされる。
爆焔の凄まじい威力に体勢を保てない守護者は回転しながら飛んでいき、強引に風を起こして向きを修正したところに追い討ちの爆焔が頭上から振り下ろされた。
咄嗟に振り上げた精霊剣で受けるも威力を落とす事のないミリーの爆焔は凄まじい。
相殺できずに爆焔の余波を浴び、地上に向かって落ちていく。
しかし守護者がこの程度で終わるはずはない。
ミリーは上級魔法陣インフェルノを発動し、ホムラを纏って爆炎竜となり、最大威力でのブレス【爆轟】を放つ。
落下しながらも追い討ちがあると予想した守護者は呪文を唱えて精霊化。
全身から業火を放って耐えようとするも、爆轟をその身に受ければ精霊化した守護者といえども耐えられる威力ではない。
体勢が定まらず全身を抱え込むようにして防御した守護者だったものの、全てを消し去る程の爆発に弾き飛ばされ地面に突き刺さる。
四肢が千切れる事はなかったものの、全身から血を流して意識を失っていた。
「コール! …… ユユラさん、この戦いで倒された魔貴族さん達の回収もお願いします! 私ちょっとやり過ぎちゃいました!」
『え!? 魔族の回収もするんですか!? こちらの主力軍だけでなく!?』
「そうですよ! 死んじゃいそうな場合は回復もしてあげてください! お願いしますね!」
『わかりましたミリー様! 今すぐ指示を出します!』
地面に落ちて魔獣群に踏み潰されれば、如何に魔貴族といえども意識がない状態では命はないだろう。
朱王の意思にそえば魔族との殺し合いではなく、共存する為に力を示す事がこの戦いの目的である。
「随分と甘いな、人間は。負けた者が生きるか死ぬかはその者次第。生きようとする意志が強ければ生き残るだろう」
声を掛けてきたのは守護者のケレン。
最初の戦闘位置から離れたこの場にいるという事はミリーを追って来たという事だろう。
「んん? んー、ああっ! なるほど! 自己回復ができるならそうかもしれませんね!」
「意識のない者が死ぬのも仕方のない事だ」
「ダメですよ〜。ちゃんと回復してあげれば大丈夫ですからね!」
ミリーは回復術師として怪我人がいればその傷を癒すのは当然の行いと考える。
「ふむ。人間には回復魔法というのがあるんだったな。確かに助かるかもしれんが我らは敵だ。敵国の敗者に情けをかけるべきではない」
「なぜ情けをかけたらダメなんですか?」
「戦士は誇りを持って戦っている。情けをかけられては誇りを踏みにじられるようなものだ」
「それは魔人の考え方でしょう。私は人間ですし回復術師です。困ってる人がいたら助けますし怪我をしている人がいれば治します。誇りだと言うなら怪我人を放っておく事は私の誇りを汚す事になりますね!」
「自分の手で怪我をさせ、他の者に回復させてもか?」
「私も回復術師ですが主力部隊に数えられちゃってますからね。仲間に回復をお願いするのも仕方がありません」
自分が戦闘員でなければ今すぐにでも回復しに向かうつもりのミリーだ。
「ふむ。其方も良いな。守護者を倒せるだけの実力があるうえ、なかなかにおもしろい。どうだ、私の部下にならぬか?」
「えー。やですよ。お友達ならイイですけどねー。ん? もしかしてそれ新手のナンパですか?」
「なんぱとは何だ?」
「異性を誘う口実に部下に誘ってるのかと……」
「先程の騎士は男だったと思うが?」
「ケレンさんはどっちもイケるのかと……」
「そんなわけないだろう。其方は私を何だと思ってるのだ。私は優秀な部下が欲しいだけだ」
「人間も魔人も関係なくですか?」
「うむ。人間にも強い者がいる事はこの戦いで充分にわかったのでな。魔人よりも人間が劣るという事もないだろう」
「もしかしてケレンさん人間が好きなんですか?」
「優れた技術や知識を持つ人間を嫌う理由はない。だが我らは戦いに身を寄せる魔人なのだ。戦いに勝って手に入れようとするのは当然ではないか?」
「えー、話し合えばいいじゃないですか!」
「我ら魔人を恐れる人間が話し合いの場を設けると思うか?」
「朱王なら喜んで話し合いますよ。最初から襲って来るようだと話し合いは無理ですけどね。サディアスさんとか最初から殺しに来ましたし」
「サディアスか…… デーモンの捕獲に向かって戻らなかったのだが其方と戦ったのだな?」
「戦いましたよー、負けましたけどね!」
「ではあの…… デーモン二体を引き連れて行った男が倒したのか?」
「ん? 誰ですかデーモン二体相手とかバカな人ですね!? 死んじゃいますよ!? 助けに行かないと!」
「最初にデーモンをくれとか言っていた青い風の精霊魔法を使う男だな。相当な実力者のようだが無謀だな」
「あー、蒼真さんなら…… 何とかなりそうな気もしますね。放っておきましょう。サディアスさん倒したのは朱王ですけど蒼真さんもめちゃくちゃ強いんです。私の師匠でもありますからね!」
「何とかなるのか…… 人間がそこまで強くなれるのか? ふむ、まぁいい。朱王とはどの者かは知らぬが守護者に匹敵するとみていいのだろうな」
「今は魔王領にいますよ。さっきゼルバードさんのお墓を作るって言ってました」
「南と戦っているのは北ではないのか? それに人間が魔王の墓を? わからんことばかりだな」
「南の国との戦争は終わったみたいですよ。南の大王さんは北の大王さんが倒したそうです。朱王はゼルバードさんの最後のお友達ですからね。お墓を作って弔いたいって魔王領に行ったんです」
「そう、なのか…… では我らが次に戦う事になるのは北か……」
「私達が勝ちますから次の戦いはありませんけどね」
「いや、我々西が勝つとも。勝って其方らを部下に加えれば北に勝機はない」
「部下にはなりませんってば」
「私の部下になれば美味いものをいくらでも食わせてやるぞ?」
「え、じゃあ私の部下になれば飴ちゃんあげますよ?」
「あめちゃんとは何だ?」
「これです。こうして包みを取るとー、ほら! これが美味しい飴ちゃんです!」
「ふむ。綺麗な宝玉のようだが食えるのか。しかし私の持つユニパスの燻製肉には敵わんだろう。ユニパスの
「トロけるというのなら私だってチョコ持ってますよ。こーんな美味しい食べ物、魔人領にはないはずです!」
「私の乾酪にも勝てると?」
「勝負しますか?」
「いいだろう」
紙に包まれたチョコと茶色の葉で包まれた乾酪を交換する二人。
包みを取って互いの誇る食べ物を確認。
視線を交錯させてから口に含む。
「「美味である!!(うんまっ!!)」」
「何なのだこれはぁぁぁあ!!」
「何っという旨味ですかぁ!!」
互いの想像を超える味に驚愕する。
口いっぱいに広がる甘さと苦味に魔法のような口どけがケレンの味覚と心を捕らえて離さない。
たった一粒のチョコが破壊的な衝撃を与える。
食欲そそる香りに表面のほど良い弾力、中からは熟成された滑らかで風味豊かなチーズが流れ出る。
その濃厚な味わいに乾酪ってチーズなんだという驚きでいっぱいだ。
しばらくその味の余韻に浸った二人は視線を交わし、喉を鳴らして言葉を交わす。
「なかなかやりますね…… 引き分けと言っていいでしょう」
「うむ。このチョコには驚かされたぞ。さぞかしそのあめちゃんとやらも美味い事だろうな」
「燻製肉も相当な実力がありそうですね」
沈黙。
「試してみるか?」
燻製肉がつつまれているであろう茶色の葉包みを出すケレン。
「臨むところです」
飴ちゃんを袋ごと取り出すミリー。
お互いの切り札を右手に持って近付き、視線をぶつけ合いながら交換する。
わずかに距離を取って受け取った品を見定める。
包み紙を剥がして、その煌く飴ちゃんをしばらく見つめたケレンはそっと口に含む。
歯を当てると充分な固さがある事から舌の上を転がして楽しむものであろう事はすぐにわかった。
口に広がる甘さとフレッシュな果実のような風味。
ツルツルとした舌触りはいつまでも舌の上を転がしていたくなる。
領地の管理や戦いなどを忘れてこの味を楽しみ続けたい。
幸せがケレンを包み込む。
しかしケレンの幸せの時間はそう長くは続かなかった。
クイクイと袖を引くミリーが悲しそうな表情でケレンを見つめる。
「どうしたのだ?」
「これ、このまま齧ったら勿体ないじゃないですか。今食べれないなぁと思いまして……」
「それもそうか。では陣営に戻って食して来るといい。その間は待っていてやろう」
「でも私お腹も空いてるんですよ。これ食べたらご飯も食べてデザートも食べますけど待っていてくれますか?」
「デザートとはなんだ?」
「チョコや飴ちゃんは持ち運べるお菓子ですけど、デザートは食後に楽しむ甘味です。持ち運べない分その美味しさは格別ですよ」
「これより美味いものがある…… と?」
「一緒に食べますか? 今アルフレッドさんがザウス王国来てるのですごい美味しいのが食べられますよ」
「それは是非とも挑戦せねばならんな。人間と魔人との食の戦いにも決着をつけねばなるまい」
「こちらは最高の料理ですからね。ケレンさんも出し惜しみをせず全部出した方がいいですよ」
「まずはその実力を確かめてからだ」
対峙してから一度もミルニルを振るう事なく、食事をしに敵国の代表を連れて本陣に戻るミリー。
恋人である朱王に劣らない自由さを持つミリーなのだ。
今現在本陣には誰もいないものの、ミリーはアルフレッドに連絡をとって食事の準備をするよう指示を出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます