第266話 休息
軍に休息をとらせようと考えるロナウドの元へザウス国王から着信が入る。
『ここからは私が指揮を執ろう。ロナウドにも休んでもらいたいがその前に仕事をしてもらう。軍の半数を下がらせるからその穴埋めを頼みたい』
「良いのですかな?」
『戦いたいんだろう? 半日で回復できる程度なら消費しても大丈夫だ。暴れてくるといい』
「ではお言葉に甘えて」
軍の指揮を執るよりも自身が戦いたいロナウドなのだ。
戦って良しと言われれば眠さよりも嬉しさが勝り、獰猛な顔で魔獣群を見つめる。
『夜明けにはサフラも戦ってもらうつもりだ。ある程度は残してやってくれ』
日が登ればハクアも光を放つ必要がなくなり、サフラの護衛も不要となる。
休息前にある程度魔力を消費して、体力と魔力の同時回復をしてもらえば都合がいい。
ザウス国王から全軍に指示を飛ばす。
『ゼス王国聖騎士団、ウェストラル王国聖騎士団、領兵団は一時撤退。六時間の休息とする。代わりに前線には聖騎士長ロナウドが向かう。巻き込まれないよう注意せよ。もう一度言う。ロナウドに巻き込まれないよう注意せよ』
本陣の椅子から立ち上がり、背伸びをして身体の凝りをほぐす聖騎士長ロナウド。
盾を持ち飛行装備を展開して前線へと飛び立った。
ロナウドが前線に出ると聞けばザウス王国の聖騎士団であれば即撤退するのだが、他国の聖騎士団はロナウドの本当の強さを知る者はいない。
それもそのはず、訓練場ではロナウドは全力で戦う事ができないからだ。
しかしロナウドが戦い始めれば軍の半数が撤退しで問題ない事がわかるだろう。
一度ザウス王国の聖騎士長の実力をその目に焼き付けるといいと、ダルクも他国の聖騎士団に何も言うつもりはない。
領兵団はすでに撤退を開始しているが、騎士団も多く残っている為指示に素直に従ったようだ。
上空から巨大な魔獣に狙いを定めて降下するロナウド。
魔剣デュランダルを握り締め、魔獣の脳天に激震を叩き込む。
魔獣の全身に爆発したかのような衝撃が走り、ゆらゆらとふらつきながら頭部が爆砕して崩れ落ちる。
続く斜め前にいた魔獣に歩み寄り、踏み込みと同時に地面に激震を伝えて動きを固定すると周囲の魔獣も同時に影響を及ぼす。
魔獣の顔面に刃を食い込ませて激震を浴びせ、ふらついた直後に爆砕。
その後も同じように魔獣の体を爆砕させていく。
精霊魔法ではない、魔導でもない、デュランダルに組み込まれた激震としての能力を最大限に活かしたロナウドの爆砕魔法だ。
物質の持つ固有の振動数にデュランダルの激震を与え、際限なく増幅した振動が限界を超えて破砕する、全てを破壊する絶対共振魔法がロナウドがたどり着いた激震の最終形。
地面から伝えた激震で一定数まで増幅させた振動数は体を痺れさせ、そこにデュランダルで斬りつける事で振動数をさらに増幅させる。
爆砕する前にそれ以上の魔力を持って払い除ければ防ぐ事はできるものの、知能の低い魔獣であれば爆砕を防ぐ事はほぼ不可能。
二撃必殺とする事で短時間で爆砕する事を可能としている。
激震によるその性能を確認すると、獰猛な笑みを浮かべたロナウドは走り出す。
魔獣に間合いを詰めては激震による固定と斬撃を放ち、すぐに次の獲物へと狙いを定めて駆ける。
一歩一歩が激震による固定である為、魔獣の動きは妨げられ身動き取れずに爆砕されていく。
殲滅魔法ではない為多くを同時に倒す事はできないものの、二撃必殺とした激震に全ての魔獣が抗う事ができない。
ロナウドを前にした魔獣はただ狩り殺される運命にある。
夜明けが近く空が藍色に変化しだした頃、最前線では数多の魔獣が爆砕され続け、連合軍に攻め入る魔獣も残すところ三千程まで減っている。
聖騎士団も騎士団も随分と消耗している事を予想されるが、この後はクリムゾン総隊長サフラに全て任せても問題はないだろうとロナウドは王国へと戻って行った。
「ハクア、疲れただろう。もう光は要らないだろうから消していいよ」
「はい、では解除しますね」
ハクアが光球を霧散させるとまだ辺りは薄暗いが、戦えない程暗いというわけでもない。
「私は残る魔獣の討伐をしてくる。先に戻ってゆっくり休んでくれ」
「いえ、サフラ隊長の戦いを見守らせてください」
「じゃあ終わったら一緒に食事にするか。少し待っててくれ」
笑顔を見せ、食事に誘ってくれたサフラに思わず抱き付きたくなるハクアだが、戦争中という事でぐっと我慢。
サフラが地上へと向かった為、パステルはハクアを囲んで待機する。
すでに空を舞う魔獣はおらず、護衛も必要ないがパステルのメンバーはハクアに甘い。
何かあってはいけないと警戒を強める魔人達だった。
遊撃隊の中央に舞い降りるサフラ。
「メフィ、残り全てを殲滅する」
《うむ。では…… あれが良い。あれを我に食わせろ》
サフラが契約【メフィ】は上級精霊イフリートであり、精霊でありながら契約者と言葉を交わす事ができる。
全身から白緑の炎を放つ戦士の姿をした精霊だ。
「そうか。じゃあいくよ!」
サフラは下級魔法陣を発動し、魔剣ナーゲルリングに豪炎を纏って一体の魔獣に突きを放つ。
胸元を突き刺された魔獣は白緑の炎に包まれ、絶叫しながらその命は燃え尽きるが、その炎の体は倒れる事はない。
魔獣の体が火力を増すと同時にイフリートの姿に変貌する。
《ふむ。悪くは…… ないか》
自身の体を確かめたイフリートは白緑の炎を纏いながら歩みを進め、遊撃隊と戦っていた魔獣へと近寄り、その手を触れると一瞬で炎に包み込む。
炎に苦しみ絶叫する魔獣が橙色のイフリートへと変貌し、最初の白緑のイフリートがまた歩みを進める。
そのまま増殖され続けたイフリートは六体まで増え、橙色のイフリートは炎弾を放って魔獣を次々と焼き殺していく。
炎に包まれた魔獣は長い間燃え続け、増殖したイフリートは魔力が尽きると崩れ去る。
そしてまた白緑のイフリートが魔獣から新たなイフリートを作り出し、その魔力が尽きるまで魔獣の群れを焼き殺す。
魔獣の持つ魔力に自身の炎を侵食させ、その魔力を燃やしながら炎の眷属を作り出すのが上級精霊イフリートの能力だ。
サフラが白緑のイフリートに渡した魔力量からそれ程高い能力をもつ眷属を作り出す事はできないが、魔獣相手であれば充分な強さを持つ。
サフラは豪炎を放って魔獣相手に無双し続け、橙色のイフリートが周囲の魔獣を燃やし広げ、白緑のイフリートがまた新たに橙色のイフリートを作り出す。
白緑のイフリートが食った魔獣の魔力が尽きるまで、炎に包み込む魔獣が尽きるまでこの炎の連鎖は続いていく。
前線となったこの平原は炎の大地となって朝を迎える事となった。
サフラが残る全ての魔獣を倒し終えたのは朝七時前。
前線の広範囲に散らばる魔獣を狩るにはやはり時間が掛かってしまったようだ。
全てを倒し終えたサフラはハクアとパステルメンバーと共に王国へと戻り、しばらくの休憩時間を与えられた。
遊撃隊や聖騎士団、騎士団も一晩続いた戦いに疲れ切りその場に座り込む。
国王の指示によって補給部隊が前線へと送り込まれ、食事や飲み物などが全員に配られてようやく一息つく事ができた。
人数の多い魔術師団は地属性を得意とする部隊が、魔獣を魔石に還して回収を進めている。
ここで集められた魔石は各国で買い取られ、そこから連合軍への褒賞として分配される事となる。
本陣には昨夜出番はないだろうと先に寝る事を許されたアマテラスとヴィンセント、ワイアットが待機。
この日も襲撃があるだろう事を予想して、全員がゆったりと座れるラウンジチェアでその時を待つ。
片手にはトロピカルジュースを持ち、前方には小型モニターを設置して映画を観る事ができ、準備は万端だ。
しかし西の国は連合軍の休息の時を待つ事はなく、偵察隊から新たな連絡が入る。
『再び魔獣群を確認! 進軍を開始しています! その数およそ…… ご、五万以上! 王国から50キロは離れていますが、到着は昼前となりそうな勢いです!』
五万以上ともなれば昨夜の魔獣群よりも数が多い。
今休息をとる連合軍の半数では数が足りず、疲弊した兵を戦わせては被害が拡大する恐れもある。
偵察隊の視界から見る魔獣群は高難易度魔獣の姿が多く、見た事もないような巨大な魔獣も確認できる。
おそらくは超級魔獣であろう個体が少なくとも三体は見える事から、最前線にはこちらの主戦力を投入する必要があるだろう。
『ヴィンセント侯とワイアットは一体受け持ってくれ。もう一体は…… クリムゾン月華部隊に任せる。昼前には起こせばいいだろう。あと一体……』
『ザウス王よ。ノーリスのカルラと我が国のジェイラス爺が向かっておる。超級魔獣を一体預けてやってくれ』
『あの爺さんまだ現役か。ま、任せていいなら助かるがな』
『ウェストラルの化け物ジジィもこの後向かうそうだ。デーモンの相手でもさせてやるといい』
ウェストラルの化け物ジジィとはニコラスの事だ。
ニコラスが来るとすればウルハやエイミーも一緒だろうと、リゼは少し警戒を強める。
ジェイラスはかつてゼス王国歴代最強の聖騎士長であり、魔導の深淵に近づいたとまで言われる人間領最強の一人だ。
ウェストラルから来たニコラスとは遠い昔に戦った事もあり、ニコラスの擬似魔剣とエイミーからも擬似魔剣を受け取って二属性を操る精霊魔導師になっている。
『ゼス王よ。こちらにも魔剣持ちを回してもらう事になるかもしれん。そろそろ我が国にも魔獣群が到着しそうなんだが、偵察からの映像にデーモンらしき個体も見えたのでな』
『ではバルトロとイアンを出そう。戦況によっては増援を送る』
クイースト王国も開戦が近いようだ。
現在向かって来ている魔獣群を殲滅するだけの戦力を保有するクイースト王国だが、今後の戦況がどう動くかもわからずある程度の余力を持ってこの戦争に当たるべきだろう。
もし魔人軍本隊がクイースト王国に攻め込もうとした場合には、今の保有戦力では半日と保たないだろうと予想する。
ここにバルトロとイアンの二人が配備される事で他国からの増援まで耐え凌ぐ事もできるだろう。
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