第263話 魔獣群

 午前九時。


 山に作った要塞には魔術師団が待機し、聖騎士団を中心とした全ての戦士達も予定する陣形で待機。

 多くの魔獣群を相手取る為の殲滅用の陣形だ。

 左右に配した魔術師団と陣の先頭には冒険者達。

 その背後には聖騎士団と左右を囲むように騎士団と領兵団が集う。


 左右からの遠距離魔法による攻撃を浴びせ、陣形の中央へと流れ込んだ魔獣群を冒険者が対応。

 高難易度の魔獣が攻め込んできた場合には冒険者に代わって聖騎士団が前に出る。

 また、冒険者達が討ち漏らし、聖騎士団の横を掻い潜ってきた魔獣を騎士団と領兵団とで数によって掃討。

 魔獣の群勢を全て討ち漏らす事なく殲滅する予定だ。


 偵察部隊からはあと一時間程で魔獣の群勢と接触するだろうとの連絡を受けている。

 やはり魔獣の群勢とはいえ脚の速さに差がある為、先頭を進むのは五百程の速度の速い高難易度の魔獣との事。

 冒険者からすれば強敵であり、ランクの高い者でなければ一瞬で命を失う事となるだろう。

 その背後にはゴブリンやワーウルフ、リザードマンといった低難易度の魔獣に混じり、コボルトやケンタウルスなどの中難易度の魔獣も多いという。

 およそ一万体ともなる魔獣群との事だが、冒険者達でも戦える魔獣である為それ程の脅威とはならない。

 しかしその後ろには異形の魔獣、他の魔石を取り込んだであろう魔獣群が約五千……

 最高難易度10に届くかもしれない魔獣群が押し寄せて来ると考えれば、覚悟を決めていた冒険者達もその情報に震えだす。

 難易度から考えれば最初から聖騎士団が対応するべきだが、その後も続く戦いを考えれば負担は少しでも減らすべきだろう。


「コール…… ロナウド様。先に到着する魔獣群の殲滅をオレ達アルテリアに任せてくれませんか」


『ふむ、頼めるかハウザー。魔術師団にもお主らの助けとなるよう指示を出そう』


「任せてください! よし、じゃあルーンは半数を連れてこっから南側を頼む! 残りはオレ達【ハーベリ】が蹴散らした魔獣にとどめを刺してくれ! その後の魔獣群一万はここにいる冒険者全員の獲物だ! 容赦なく狩りつくせ!!」


「ハウザー。オレ達はどうする?」


 ハウザーに問いかけるのはヨルグの街のゴールドランク冒険者であるクリムだ。

 国王から魔族との戦争を伝えられた後にザウス王国入りし、ゴールドランク冒険者という事で聖騎士と共に訓練を受け、そこでハウザー達と知り合う事となった。


「悪いがクリム達は温存してくんねーかな。異形の魔獣群と聖騎士団が戦ってる間、オレ達アルテリア部隊は引っ込むからもしもの時にすぐに動けるようにしてた方がいいな」


「わかった。それなら上空待機してた方が良さそうだ。こっちは頼んだぞハウザー」


 冒険者の先頭に立つ事となったハウザーのパーティーであるハーベリ。

 南側の先頭にはルーンパーティーが先頭に立ち、その背後にはアルテリアの冒険者達。

 一級品を超えるミスリル武器を持った冒険者達の中でも最強の部隊だ。

 この戦いではパーティーメンバーでは行動せず、得意魔法によって部隊を編成している。




 それから三十分程して魔獣群の先頭集団が見えてきた頃、魔術師団の要塞では大量の魔石が組み込まれたバリスタが発射準備を整える。

 射程範囲に入り次第広がる魔獣群を中央へと向ける為に発射するつもりだ。




 射程範囲に入った魔獣群目掛けて用意されたバリスタを一斉掃射。

 横に広がった魔獣群を吹き飛ばし、大量の魔獣群が中央へと向けて攻め込んで来る。

 ハウザー達は上級魔法陣を展開し、精霊魔法を錬成して迎え討つ。


「行くぞぉぉぉ!!!」


「「「「「おおぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


 一斉に駆け出したアルテリア部隊。


 ハウザーは魔術師団が作り出した砂塵を巻き込んで大量の風の刃の竜巻を作り出す。

 飲み込まれた多くの魔獣は体表を砂塵に削られ、斬り刻まれて空へと巻き上げられた。


 アニーは槍から放つ炎の矢で複数の魔獣を一気に貫く。

 サラマンダーからの一点放射ブレスとも思える一撃は威力が高く、高い防御力を持つ魔獣相手にも通用する高出力魔法だ。


 魔術師団が作り出した水球を操るのはベンダーだ。

 魔獣群が通るルートを水浸しにしていき、大量の魔獣群がその水溜りへと踏み込んだところへリンゼが超強力な雷撃を放つ。

 感電して動きを止める魔獣群は体内も焼かれて瀕死の状態だ。

 そこにアルテリア部隊が踏み込んで次々ととどめを刺していく。


 ルーンとカールは巨大に広げた炎の刃で無双する。

 傷口ごと体表を焼かれて倒れていく魔獣は燃え広がり、後から続く魔獣群にも引火してその場に倒れ込む。

 多くのアルテリア部隊がルーンとカールに続き、次々と魔獣の命を刈り取っていく。


 チュリもハウザーから教えられた暴風を操って風の刃の竜巻を作り出す。

 砂塵を巻き込んでの合成魔法まではできないものの、高く吹き飛ばす事で魔獣を質量弾として魔獣群の中央へと落としていく。

 魔獣が如何に強力といえども体表に深い傷を受けた状態で上空から落とされてはひとたまりもない。


 千尋達と出会った頃からすれば一番成長をしたのはアザレアだろう。

 強化以外の魔法を使えなかったアザレアが今では精霊魔導師としてこの場で戦うのだから。

 両手のミスリル製のナックルと、両足にもミスリルレガースを装備して魔獣群相手に無双する。

 一撃の下に魔獣を叩き潰し、血に塗れながらも次々と魔獣を屠るアザレアはアルテリア部隊から見ても恐ろしい存在だ。


 各国から集まった冒険者達もこのアルテリア部隊の強さに驚き、羨望の眼差しを向けると共に、恐怖に震えていた体が熱く燃え滾るのを感じはじめた。


 魔術師団からも大量の質量弾が降り注ぎ、怯み動きの鈍った魔獣はアルテリア部隊によって討ち取られていく。




 五百を超えた魔獣群も一時間と経たないうちに倒し終え、倒し終えた魔獣群は魔術師団の地属性部隊によって魔石へと還され運ばれていく。

 その背後から迫り来るのは一万を超える低難易度魔獣の群れ。

 ハウザー達は魔法陣を解除してこの物量戦に臨む。


「みんな聞け! こっからはオレ達冒険者の本業だ! 大量の魔獣を狩って荒稼ぎ! 仕事の後には美味いもん食って酒を飲む! 最高じゃねーか!」


「「「「「おお!!!」」」」」


「たとえ一万の魔獣が来ようが恐れるな! こっちも同じ一万の冒険者がいるんだ! 一人一殺、余裕だろ! 」


「「「「「おお!!!」」」」」


「この戦いに負けはねぇ! オレ達冒険者の狩りの時間だ! いくぞテメーら!!」


「「「「「うおぉぉぉ!!!」」」」」


 駆け出したハウザーに続いて負けじと追いかける冒険者達。

 ここで戦えなければここに来た意味がない。

 一人一殺となれば早い者勝ちだと全員が獲物を求めて魔獣群へと向かって走っていく。


 冒険者が走り出せば魔獣群も同じく走り出す。


 多くの冒険者と先行していたワーウルフ群とがぶつかり合い、戦いだした集団を追い抜きながら冒険者達はさらに先へと進んでいく。


 数キロの範囲に広がる戦いも低難易度魔獣が相手ではそう時間はかからない。

 ある程度倒し終えた冒険者達は撤退していく。

 中難易度魔獣を相手取る冒険者達も複数で対応にあたる事で苦戦する事なく討伐する事ができている。

 魔獣の群勢一万も三十分と待たずに倒し終え、続く異形の魔獣群に備えて後方に退がる。




 冒険者達を後方に退げて聖騎士団が要塞のある位置まで前進。

 一万の魔獣群討伐が早かった為、余裕をもって配置につく事ができる。

 西の国も人間領がこれ程までに準備を整えているとは思っていなかったのだろう。


『ダルクよ。ここまで順調に事が進んでいるのだ。全てを聖騎士団で討伐する必要はない。消耗を抑えて騎士、領兵団へとある程度回してやれ。それと魔人が複数含まれていると報告が入っている。聖騎士団で対処せよ』


「はっ。聖騎士団は中央を抑えて左右騎士団、領兵団へと数を抑えて流せ! ルーファス、ハイドは後方へ回って魔獣の数を調整! クリムは上空から騎士、領兵団の補助を頼む!」


 すでに目視できる位置まで進んで来た異形の魔獣群に臨む聖騎士団。

 高難易度魔獣とはいえこちらはそれを上回る数となればそれ程不安はない。


 バリスタの射程範囲に入ったところで再び一斉掃射し、三度目の魔獣戦が開始される。

 バリスタによる爆撃で中央へと寄せられた異形の魔獣群は聖騎士団とぶつかり、魔力の溜められる直剣を持つ騎士達が威力の高い魔法の斬撃で斬りかかる。

 進路を狭められた魔獣群はその速度を緩め、接敵した聖騎士団に次々と斬り倒されていく。

 聖騎士団の左右に流れ込んだ魔獣は王国側へと突き進むものの、待ち構えた騎士、領兵団に囲まれてその体を串刺しにされて倒れていく。

 いかに強力な魔獣が来ようと数による集中攻撃を受けては耐えられるものではないだろう。


 五千体もの異形の魔獣だが、迎え討つ人間の数はその十倍以上。

 聖騎士団だけでも対応可能な魔獣に、この物量戦で臨めば結果は見えている。

 被害を最小に抑えてこの戦に勝利する事ができるだろう。


 異形の魔獣群に紛れて数十人ともなる魔人が攻め込むも、戦争であるが故に聖騎士団が複数で対処する。

 魔獣を上回る魔人といえどひとたまりもない。




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 本陣で待機するアマテラスのメンバーと月華部隊。


「ついに始まったねー」


「ああ。ここから長い戦いになるだろうな」


 聞いていた魔獣の群勢に比べて巨大な魔獣がおらず、まだほとんど西の国の戦力を削る事はできていないと考えられる。


「たぶんデーモンも複数いますからね。どれだけいるかわかりませんけど油断は禁物です!」


「西の魔人よりデーモンの方が怖いわね……」


 デーモンが相手ともなればアマテラスのメンバーでさえ一対一で戦えるような魔獣ではない。

 もし複数体同時に攻めて来られれば、人間領側はその時点で壊滅的な被害を受ける事になるだろう。


「デーモンはオレがやる。時間稼ぎさえしてくれれば何体来ようが始末してみせる」


 以前デヴィルと戦って敗北を喫した蒼真だが、今なら勝てるという自信がある。

 上達した自分の剣術に成長した精霊ランの力が加われば一撃で斬り伏せる事も可能だろう。


「蒼真さん! 私もお手伝いさせて下さい!」


「ああ。頼りにしてる」


 アイリは蒼真がデヴィルに勝てなかったのは自分のせいだと感じている。

 今度は足手まといにならないように、蒼真の力になろうと心に誓う。

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