第249話 今後の話
朱王の強さの秘密が明らかとなり、また酒を飲みながら今後について話を進める。
人間領、北の国、東の国とで和平を結び、今後は西と南の国に対して行動に移らなければならない。
両国ともこちら側とは敵対関係にあると考えられ、西の国は人間領を、南の国は北の国に用意がある事を予想している。
今回のメレディスが起こした東の国の問題も、南の国の大王の指示と考えていいだろう。
現在、東の国を抑えて北の国への用意があるとしても、その後は西の国とも事を構えるつもりであれば、相当な余力を残して北の国を制圧しなければならない。
魔王ゼルバードに施した魔術だけではなく、完全制圧できるだけの戦力があると考えていいだろう。
「この戦には東の国も参戦しよう。国民を総動員すれば一万程の兵を集める事ができる」
「助かります、クリシュティナ大王。ですが私は民をこの戦争に連れて行くつもりはありません。移動にも時間がかかりますし、被害を出来る限り最小に抑えたいですからね」
「しかし南はおそらく総戦力で挑んでくるのではないか? 二万近い兵を相手にどう対処する」
「魔人領は広いですから無視します。北の国に潜伏されても困りますから北の兵には待機してもらいますが、戦わせるつもりはありません」
戦が始まるとすればそこは魔王領となるはずだ。
北の国との国境に北の兵を待機させ、南の侵入を防ぐつもりだろう。
「南の民も殺したくないと言うのか?」
「出来る限り死なせたくはありません。強者が正しいとされる魔人達が相手ですから、上位の者達を圧倒できれば戦意を削ぐ事もできるでしょう」
「ふむ。たしかにその通りだ。上位の者…… 魔貴族や軍団長あたりをこちらも用意するとしても北の民をまとめる者がいなくなるな」
「軍団長クラスには残ってもらいましょう。それとクリシュティナ大王にも東に待機してもらって……」
「嫌だ! 私も北の国に行きたい!」
人間領への思いが膨らむクリシュティナは、東よりも発展し始めているであろう北の国には是非とも行ってみたい。
戦力としてはこれ以上ない人物だが、また東の国が乗っ取られてもいいのだろうか。
「ええ…… いざとなったら呼びますし、今度人間領に案内しますから我慢してくださいよ」
「嫌だ! 人間領にも行くが北の国にも行く!」
どうやら我慢する気はないらしい。
「では東の国は放っておいていいんですか?」
「代理を立てよう!」
「また乗っ取られますよ?」
「信用のできる者を…… よし、サニーだ! あの者の地位を大王の側近に! そして不在時には代理とする事にしよう!」
自分の都合のいいようにサニーの立場を決めてしまった。
しかしサニーにはリルフォンを渡してあるし、大王にもリルフォンを渡して連絡を取り合えばなんとかなるだろう。
「まあ大王がいいならいいですけどね。リルフォンは明日作るとしても、素材とか北の国に置いてきたから今作れても一つか」
クリシュティナに作った一つを渡せばいいとして、あとはカミンが一つ予備を持っているのでステラに渡せばいいだろう。
「リルフォン! すごいな、それは! 遠くの者と話ができるなどこれ程便利な物はない!」
「大王様。それ以外にも驚くべき能力が備わっていますよ」
「写真に動画にメール。便利などという物ではないな。神器とはこれ程までに便利なものか」
「私も朱王様から作って頂きましたが、神器…… 朱王様は人間でも精霊でもなく、神という事ですか?」
ルディの思考もクリムゾンの者達同様に間違った方向に進み始めているようだ。
「うーん…… 私は人間を辞めたつもりはないんだけど? 精霊の力を使える人間ってだけで、リルフォンも神器ではなく、私と友人とで開発した魔道具なんだよ」
「なるほど。魔道具リルフォンという事だな。しかしそれ程便利な物が作れる物とあればいくつかあると助かるが」
「メレディスと配下の者達が受け取ったものが全部で七つあるはずです。死体から全て回収しましょう」
ブルーノの提案にデオンも頷いている。
朱王としては死体から回収して使用するのもどうかと思うが、冒険者も野党や犯罪者紛いの者を討伐した際には戦利品として物品を奪う事もある為、この世界においてはそうおかしな事ではないのだろう。
「では明日、死体の処理も兼ねて上位の者に回収に向かわせよう」
メレディスから一つと部下六人から回収するようだ。
少し話が逸れてしまったが、朱王は咳払いをして今後の南の国に向けた話に戻す。
「まだディミトリアス大王とも話を詰めてないんですけど、私は飛行装備の性能で戦闘を優位に運びたいと考えてます。東の魔人と戦ってみてわかったんですが私の装備どころか北の国の飛行装備よりも性能が低いですね」
「そうなのか? 我らにも速い者もいるのだがな」
「風魔法が得意であれば速度は出ると思いますけど、飛行戦闘においては機動力が最も重要になります。私の戦いを見てもらえばわかると思いますけど、ブルーノさんとデオンさんの二人を相手にも戦う事ができますからね」
たしかに今日見た朱王の戦いは強さ以上に速さが際立つものだった。
二体一とはいえあまりに凄まじい戦いだった為、朱王の能力が二人を圧倒する程のものとして見えていた。
「速度は威力を増大させる事も相手の出力を抑える事もできますから簡単に戦力強化を図れます。魔石が用意できないので性能は私のより劣りますが、今よりは格段に使いやすくなるはずですよ」
重力の魔石と風の魔石、物理操作の魔石は千尋達が持っている。
現在用意できるとすれば朱王の魔石のみだが、イメージを組み替えれば多少の魔法再現はできるはずだ。
朱王の飛行装備に比べると魔力の消費が高く性能も劣るが、現在魔人達が使用している装備よりはだいぶいい。
「ふむ。南が総力戦で臨むところをこちらは敢えて空中戦、上位の者だけでの決戦を挑むうえ、装備の性能で上回れば戦闘も優位に運ぶ事ができそうだ。飛行装備を持つ者もそれ程用意できるものでもないだろうし、いい策だと思う」
南との総力戦であれば国の被害としては甚大であり、北と東の兵を集めても南の総数には満たない。
そこを無視して上位の者だけで戦うとするなら被害も最小であるうえに勝機も高く、さらにはこちらは二国での共闘であり南一国を相手に負ける可能性は限りなく低いのだ。
仮に自分と対等の強さを持つ相手だとしても装備の性能で上回れば戦闘が優位に運べ、上位の者と相対した場合は逃げる事も可能。
南が余力を残して北の国に勝てるという見込みを、こちらは被害を最小に抑えての勝利を目指す。
今後は北の国でディミトリアス大王を交えて話を煮詰めればいいだろうと、真面目な話はここまでにして宴会を楽しむ事にした。
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