第241話 逃亡《カミン視点》
目の前に躍り出た魔人を爆破とともに一撃で斬り伏せ、エルザ侯を先頭に大王城から逃亡をはかります。
ただ逃げるだけではすぐに追いつかれてしまいますからね。
私は下級魔法陣を発動して大王城の謁見の間を破壊しました。
これでしばらくは出て来られないでしょう。
城から抜け出した我々を待っていたのは数多くの魔人の方々でした。
私は向かってくる者を容赦なく爆殺し、包囲を突破して飛行装備で空へと飛び立ちましたが……
やはり飛行装備の性能で、我々の速度にアリス王女もエルザ侯もついてくる事ができません。
そしてあちらにも風魔法を得意とする魔人はおりますからあっさりと追いつかれてしまいました。
アリス王女とエルザ侯にはレイヒムを庇いながら逃げてもらい、私とフィディックは魔人数名を相手取って逃げながらの戦闘です。
フィディックが少し心配ですが、彼はもともと私よりも魔力量が豊富ですからなんとか耐えてくれるでしょう。
おそらく城の中の者はまだ追い付いて来てはおりませんが、その周囲の宿にいた魔人の方でしょう、五十を超える魔人が追って来ているようです。
飛行速度の速い者からこちらに追いつきますので、片っ端から始末してしまった方が良いと判断し、私とフィディックは数名を屠り、再び逃亡しました。
アリス王女達が逃げる時間を稼がなければいけませんし、こちらに朱王様が向かっておられるとあれば、私とフィディックは朱王様のお手を少しでも煩わせないよう数を減らす必要がありますね。
飛行装備で距離を取り、追い付いて来た者を斬り伏せる。
一対一で臨めるのであれば私もフィディックも苦戦する事もありません。
一撃の下に葬り去るのみです。
フィディックが振るう氷の剣も素晴らしいの一言に尽きます。
まだ荒々しさは残るものの、斬り結べば相手の腕ごと凍りつかせて次の一振りでとどめを刺す。
またはミスリル剣を氷で巨剣として、氷を破壊して散弾としながら刃を通す。
凍てつく大気で動きを阻害し斬り伏せる。
技に速度の足りないフィディックでも、自分の技を上回る相手に工夫を凝らして対抗しているようですね。
今この時程彼が成長する機会などそうはありません。
私もフィディックに負けていられませんからね。
私は逃げ方に工夫をしてみました。
相手に囲まれそうになった場合にのみ使用したのですが、後方にいる魔人の一人にニトロ球を叩き付けて爆破します。
そこで生じた爆風を飛行装備で受ける事で、後ろ向きにではありますが加速する事を可能としました。
一瞬で距離を取る事ができますから、ある程度数を減らす事にも成功しています。
しばらく逃げ続けていれば彼らも諦めてはくれませんかねぇ。
数時間も逃げ続けていると、ようやく城にいた魔人方が追い付いて来ました。
我々が戦いながら逃げる様を見ながらゆっくりと追って来たのでしょう。
「おいおい。随分と数が減ってるんじゃねぇか!? お前ら魔人だろうが! 人間に舐められるんじゃねぇ!!」
ここまで私とフィディックとで三十人程倒していますからね。
ジャンさんもご立腹のようです。
「おやおやジャンさん。メレディスさんはいらっしゃらないのですか?」
「ああ? メレディスまで来る必要はねぇだろ」
「何か離れられない理由でも?」
「お前には関係ねぇ。オレ達は狩りを楽しむだけだ」
「そう仰らずに。大王様を人質にしているからでしょうか?」
「うるせぇんだよ。関係ねぇだろ」
「毒でも盛りました?」
「大王に毒が効くわけねぇだろ!」
おや?
答えてくれましたね。
「では大王様はお元気ですか?」
「元気なわけねぇだろ!!」
「メレディスさんは大王様のところですか?」
「だからお前には関係ねぇだろ!!」
「大王様は大王城にいないんですか?」
「いるに決まってんだろ!!」
なんだか魔人の方って素直ですよねぇ。
私の質問に対して間違いは正し、合っていれば私には関係がないと。
この方も朱王様の敵でなければ嫌いではないのですがね。
敵となった以上は斬り伏せるまでです。
まあ今は時間稼ぎをしないといけませんが。
「やれ!」との掛け声にまた向かって来た魔人を爆破して距離を取ります。
逃げる事と温存する事が今は最優先。
ただ、もし我々が逃げ切った場合にアリス王女方が見つかっては困りますし……
右翼と左翼の方々が動き出したら全力で逃げる事にして、朱王様が到着なされるまでひたすら時間稼ぎをさせて頂きましょう。
彼らも狩りなどと言っていますから時間が掛かってもそれはそれで楽しめるとでも思っているでしょうし、朱王様が来る事も何とも思っていないかもしれません。
いつ到着なさるかわかりませんが、朱王様であればおそらくは今日中……
おや?
位置情報は間違っていませんよね?
恐ろしく速いような……
出発から三時間程でしょうか、すでに北の国領地を抜けておられますが……
それも朱王様ですから考えられなくもありません。
あと数時間逃げ切れれば私達の勝利です。
あちらは大勢でこちらが二人。
これまで距離が開いたところを狙って独りずつ倒していましたが、残るのは強い方ばかりですので倒すのも難しくなってきました。
精霊化すればあと半数は削れるかとも思うのですが、その頃には私の命もないでしょう。
そろそろ私とフィディック二人で逃げるよりも別々に逃げた方が楽かもしれません。
フィディックにメールを送って別行動を取る事にしました。
私よりもフィディックの方が独りになると都合が良いはずですのであちらは心配ありません。
大気を氷結させながら逃げるはずですからね。
追手も近付く事ができないでしょう。
私の方は……
随分と多くこちらに来てますね。
四…… 五十人程でしょうか。
飛行装備の性能が高い為心配はありませんが、ただ逃げ続けるのでは彼らも何かしら対応をとってくるはず。
こちらから何か仕掛けておけば警戒しながら追って来てくれるでしょう。
「サキル。もう少し削りますよ」
会話はできませんが私の言葉に嬉しそうな笑顔を……
とても邪悪な笑顔に見えるのは気のせいでしょうか。
仮面で目が見えないので口だけ笑っているように見えます。
私は真下から風を受けて急上昇し、太陽へと向かって舞い上がり、そのまま日の光を背に受けながら下降。
さすがに魔人といえども太陽を直視できませんから、私から目を逸らさずにはいられないでしょう。
装いから魔貴族と思われる男性を爆破し、地上に叩き落としました。
続いて魔剣ティルヴィングに集めた水を変質させ、霧状にして放出。
風に乗せて彼らに浴びせたのは毒霧です。
魔力に干渉する毒では彼ら程の実力者であれば効果はないでしょう。
そこで致死性はありませんが刺激のある毒として、植物性の毒を再現して放ちました。
これは肉体的に弱い部分である目や鼻、喉に刺激を与えるだけの毒であり、強化によってすぐに解毒も可能なのですが、体が反応して涙や鼻水が出てしまう非常に厄介な毒魔法なのです。
ただの嫌がらせの魔法のようにも思えますが、戦闘の妨げに非常に効果が高いですからね。
聖騎士として清廉とは言えない魔法ですし、私が開発した魔法の中で誰にも教えていない毒魔法です。
これで少しは時間稼ぎができますね。
その場にいた四十数名の方々がむせ返っている間に、私は地面に叩き落とした魔貴族に向けて降下しました。
全力で爆破を浴びせたつもりでしたがさすがは魔貴族と言っていいでしょう。
埋まっていた地面から抜け出して体の超速回復に魔力を注いでいたようです。
左肩に深い傷を負っていますが魔法を放って受けたのでしょう、致命傷とはならなかったようですが今は戦えそうにはありません。
飛行装備も片翼千切れていますから、戦線復帰もしばらくは無理でしょう。
「にん…… 間がこれ、程…… の、実力を……」
「大丈夫ですか? 少しお話ししたいのですが」
とどめを刺そうか迷うところでしたが、敵と認識している私を前に、この方からはそれ程殺意を感じないのでお話ししてみる事にしました。
「わた、しに…… 何、を?」
「大王様はご無事ですか?」
「あ、あ。その、お命を握られ…… ては、いるが、おそら、くは生き、ておられる、だろう」
やはり大王様は人質とされているようですね。
彼らの中にも従わされている者も多くいるのでしょうか。
「貴方はメレディスさんの部下ですか?」
「いい、や。大王、様に忠誠を…… 誓ってい、る。誰が、あんな、者に」
「では貴方を信用してこれをお渡しします。私達が移動したら耳に付けて下さい」
実は朱王様から予備にとリルフォンを二つ持たされていました。
トビーの件もありましたし予備を持つようにとの事でしたが、今ここで役に立ちそうです。
「では今から貴方を殺したように演技しますので上手く合わせてくださいね。後程連絡します」
「よくわから…… んが、待てばい、いのだな?」
「ええ。では首を斬りますので致命傷にならないようご注意ください」
私は彼に近付いて剣を構えました。
「私はカミンと申します。貴方のお名前をお聞きしても?」
「わた、しは、サニー」
彼の首元を斬り裂き、血を吹き出して倒れたところで飛行装備を広げ、リルフォンを彼の手元に落としました。
「サニーさん、またお会いしましょう」
また多くの魔人を連れて逃亡します。
毒魔法による嫌がらせが効いたのでしょう、先程までよりも強い殺意を持って追いかけて来ているようです。
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