第240話 代理《カミン視点》
では朱王様にお繋ぎしましょうか。
「コール…… 皆様、着信をお受けください」
こちらにいる東の国の方々九名と我々側の四名、朱王様とマーリン、メイサ、北の国大王様と守護者三名、とマーシャル侯、アイザック侯もお繋ぎします。
お話しするのは朱王様とディミトリアス大王様となりますが、皆さんご一緒したいでしょうからね。
メレディス様、ブルーノさん、デオンさん、ジャンさん、他の方々と脳内視界に映し出されていき、皆様その映像に驚きの声をあげておられます。
アリス王女とエルザ侯はなにやら自慢しているような、誇らしそうな顔をしてますが、これがドヤ顔というものなのでしょうね。
ふふふ、気持ちはわからなくもありません。
朱王様方が映し出され、今ここにいない皆様が視界に映る事にまた皆様驚かれています。
『やあ、カミン。ドヤ顔だね。連絡を待ってたよ』
まさかの私もドヤ顔でしたか。
「お待たせして申し訳ございません。東の国の大王様がご不在ですが、代理の方が居られますのでご了承ください。では朱王様、北の国側のご挨拶からお願いします」
『じゃあ私から。人間領のクリムゾンという組織の総帥をしている緋咲朱王だ。今は訳あって北の国大王領に厄介になっていてディミトリアス大王に良くしてもらっている。今後は東の国とも良い関係を築きたいと思っているがまずは挨拶だけ。後程語らせてもらおう」
『北の国大王ディミトリアス=ヘイスティングスだ。朱王殿は私の良き友人であり、我ら魔人領に変革をもたらす素晴らしい人物だ。もちろん良い意味でな。この度は良い話が聞ける事を期待している』
「変革か。おもしろい。私はメレディス。東の国大王代理としてこの場にいる。右翼のブルーノ、左翼のデオンは北の国でも知られていよう。私はこの二人を従えて今この東の国を統治している。カミンから話を聞いてはいるが、まずはそちらの話を聞かせてもらおうか」
私もお話しをさせて頂きましたが、朱王様が語る言葉は人間領の総意であり、言葉一つ一つの重みがまるで違います。
人間領と魔人領が手を取り合い、共存していく世界。
今は亡き魔王ゼルバード様の望んだ世界を朱王様も望んでいると仰いました。
その為には魔王になる覚悟もあるとした時、メレディス様は笑っておられました。
何がおかしいのかはわかりませんが、朱王様はお話しを続けられました。
東の国にもたらされる人間領の技術は魅力的なものばかりでしょうし、悪い話ではないはずですからね。
メレディス様としても朱王様のお話は興味の引く事が多いはずです。
しばらく朱王様がご自分の考えをお話しし、ディミトリアス大王もその話にご賛同くださる。
お二人のやりとりから人間領と北の国はとても良い関係を築けている事を物語っていますね。
ここ最近では銭湯を完成させ、その風呂の気持ち良さにディミトリアス大王も感激したと熱く語っておられましたし、今はハナビを作っているとの事でしたがそれが何かはわかりません。
人間領でもやっていない事を北の国で新たに作ろうとしている朱王様。
我々の敬愛する朱王様は本当に自由で偉大なお方です。
「ふん。人間領とは良いところなのだな。その技術や美味い物を我が国にももたらしたいものだが……」
メレディス様のお言葉は代理にしては尊大な物言いと言いますか、東の国をご自分のもののように語る方ですね。
『メレディス殿。私は人間領とのこれから先の事を考えると毎日が楽しくて仕方がないくらいだ。よく考えて答えを出されるがよい』
ディミトリアス大王は私がお会いした頃よりもさらによく笑うようになりましたからね。
朱王様と共に過ごす事でまた一段と楽しい日々を過ごせている事でしょう。
「しかしな…… 実は私は魔王という座にそれ程興味はない。今この東の国大王領を統治できているだけで満足なのだ」
『先程から気にはなっていたが、メレディス殿は代理どころか大王であるかのような物言いだな。無礼を承知で問おう。クリシュティナ大王はどこにいる?』
「ふふ。あの者は今病床に伏せている。いつ治るともわからん者に国は任せておけまい。この東の国は私のものと考えるのは当然だろう?」
『病気? ディミトリアス大王、魔人も病気になるの?』
『無い事もないが大王ともなればそれは考え難い。何か外的要因があればわからんが』
何やら不穏な空気になってきましたね。
このメレディス様は危険な人物のように思われます。
アリス王女もエルザ侯も警戒を強めているようですし、我々もいざとなれば逃亡をはかるべきでしょう。
『メレディスさん。私は貴女ではなくクリシュティナ大王とお話しがしたい。大王が病床に伏せているというのに貴女はその…… おかしくて堪らないといった表情をしている。はっきり言って貴女は信用ならない』
「はっはっはっ。お前おもしろいな。口のきき方も知らんようだ。人間が我ら魔人と対等な立場にあると思うな」
『クリシュティナ大王は無事ですか?』
「病床に伏せていると言っただろう」
『貴女、何かしてませんか?』
もう朱王様は完全にお疑いのようです。
「はっはっはっ。私が何かしたとしてお前に何の関係があるんだ? これは東の国の問題だぞ? 人間如きが口を挟んでいい問題ではない」
『私は私がしたいようにする。当然、東の国の問題にも口を挟ませてもらう』
さすがは朱王様です。
他国の問題でも間違いがあると思えば迷う事なく介入する。
これは完全に敵対コースではないでしょうか。
「ディミトリアス大王よ。その男を黙らせる気はないか? このままでは北と東の国とで戦争になるかもしれん」
『朱王殿。今は東と事を構えると今後動けなくなるぞ』
『いや、これは北の国との話ではなく私個人と東の国との問題だ。むしろ私とメレディスさんの問題としたいところだけどね』
『ぶははっ。だ、そうだぞ』
「ふう。わからん男だな。私は人間というものが嫌いなんだよ。弱小種族がのうのうと我々と同じ地に住んでいる事さえ腹立たしい」
『同じ地に住んでいる?』
「ああ、落ち人をこの国に住まわせたりなどするからクリシュティナは…… ふふ、病になどかかるのだ」
メレディス様が何かしたのは間違いはなさそうです。
病と言いますが本当に病なのでしょうか……
魔力の高い者はそうそう病にかかる事などありませんし、もし仮に大王様が病にかかったとするのであればその座を退くはず。
メレディス様が大王様の代理というお立場から考えると、大王様が退く事でその座に就くのがメレディス様ではないのでは?
右翼と左翼のお二方は確実にメレディス様よりもお強いようですし…… 毒を盛って人質としているとか?
わかりませんがその可能性が高いですね。
『落ち人?』
『他の世界から来た人間の事だ。朱王殿も落ち人ではなかったのか?』
人間領では迷い人と呼ばれるのだが、魔人領では呼び方が違うようだ。
『ふぅん。で? その落ち人は?』
「この国にいた落ち人はジャンに始末させた。クリシュティナが病に倒れてすぐにな」
「ルディの奴が抵抗するんで苦労しましたがね」
「ああ、そうだ。守護者であったルディの妻だったか。あの愚か者も大人しくあの人間を殺していれば囚われずに済んだものを」
『その落ち人は何か罪でも犯したのか?』
「罪か。では弱き人間である事が罪だろうな。ルディも愚かだがそれを許したクリシュティナも同じ。死んだ魔王も人間を殺してはならんなどと…… あんなもの魔人の恥でしかない」
メレディス様、いや、このメレディスは朱王様の敵と認識しても構いませんね。
『そうか。貴女が代理である以上、東の国との和平は結べそうにない。残念だが交渉は決裂だ』
「ふっ。私は最初から人間と交渉する気などない。北の者がどれ程のものか確認したかっただけだ」
『じゃあカミン、撤退してくれ。アリスさんとエルザさんは同行してくれてありがとう。帰って来たらお礼をさせてもらうよ』
「はい、朱王様。ご期待に添えず申し訳……」
『いや、私が交渉できないと判断した。このまま何もなければそれでいい。帰って来るんだ』
「はい。アリス王女、エルザ侯、帰りましょうか」
このまま帰れるでしょうか……
朱王様のお言葉に添えば、何もなければ敵対はしない。
もし邪魔をするようであれば……
「帰すと思うか? 言っただろう北の者がどれ程のものか確認したいと。王女と守護者。狩りの獲物として丁度いいのではないか?」
『アリス、エルザ、命令だ。生きて帰れ』
『カミン。メレディスは私の敵となったようだ。今からそちらに向かう。全員を守ってくれ』
「はっ。仰せのままに」
朱王様がいらっしゃるという事は我々クリムゾンと東の国との戦争ですか。
「殺せ」
メレディスさんの命令により魔人数名が向かって来ます。
「人間に守り切れるわけねっ……」
《爆発音》
まずは一人。
私の爆水の餌食とさせて頂きました。
「フフフ…… 血湧き肉躍るとはこの事ですかねぇ。サキルも嬉しいでしょう? ここに居るのは私の敵、朱王様の敵なのです。容赦する必要もないでしょう」
精霊ウィンディーネのサキル。
今日はいつになく嬉しそうに笑いますねぇ。
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