第239話 東の国《カミン視点》
おっと。
私達が武器について話しているうちに皆さん食べ終えたようです。
「食い物恵んでもらってすまんな。この区域の長をしているボルボルって者だ。こんなに美味い物食った事がねえからみんな驚いてたよ」
「そうですか、喜んでもらえてよかったです。私の名はカミン、我々は人間領から、そしてこちらのお二人は北の国から使者として参りました。よろしければ少しお話ししても?」
先程最初にレイヒムから料理を受け取った方ですね。
この区域という事は区画整理されているという事でしょうか。
民家は点々と不規則に建てられているようにも見えますがね。
まあ今はそれはおいておきまして、大王様方とのお話しの前にボルボルさんから領民の方の暮らしぶりなどを聞かせて頂きましょう。
少し発音が変わっていて少し聞き取りづらくはありますが、言葉自体に違いはありませんので会話に問題ありません。
東の大王領に住む領民はおよそ四百人ほど居られるそうで、区画としては二十にわけられて住んでいるそうです。
どこの区域でもこのような作りの家が建っているとの事で、物作りの得意な方は居られないのかもしれません。
農業などもしておらず、魔獣の肉と野草を食べて暮らしているそうです。
我々は見ていませんが東の大王城も北と同じく石造りの城との事。
ここでエルザ侯からお聞きしたのですが、大王城の周囲の建物はここよりも造りが良く、客人用の宿も大王城に近い位置にあるのではないかと疑問に思ったとの事。
北の国の王女と守護者が使者として東の国大王に会いに来たというのに、このボロ家で待てという扱いは大変失礼であるとお怒りのご様子でした。
私達人間領からの使者も同行しているからではないかとも考えましたが、他国からの客人、招かれざる客、歓迎するつもりがないと考えればわからなくもありません。
ボルボルさんにその事を問うと、一年程前から大王城の周辺に知らない魔人が多く住むようになり、客人用の宿にはその者達が住んでいるだろうとの事でした。
こちらの宿も元は空き家なのだそうですが、その知らない魔人の方々が時折泊まりに来るそうで屋根を頻繁に交換しているとの事。
ただその魔人の方々が泊まりに来た場合、ボルボルさん達住民が食事の用意をする必要があり、その方のお気に召さなかった場合には酷い暴力を受けるそうです。
彼らの傷はその方々から受けたものであり、魔人の為回復能力は高くとも傷が消えるまではしばらくかかるのだそうです。
と、いう事であれば彼らの傷はつい最近付けられたものなのでは?
私から見た彼らの印象は悪いものではありませんし、食事の礼を言えるのですからむしろ好意的に感じられます。
なんだかその魔人達は不快ですね。
もし絡まれたらどうしてくれましょうか。
「カミン様、使者として来ているのですから揉め事は起こさないでくださいね」
「おや? まるで私が問題を起こすような物言いですね。ご安心ください。私は朱王様の部下としてこの任務を完遂するまでです。私情で揉め事など起こしませんよ」
「でも戦うの好きですよね?」
「嫌いではありませんが任務が最優先です」
朱王様の敵とあらば相手が誰とて容赦はしませんがね。
東の国とは良い関係を築くのが我々の目的ですから、その者達の事は今は忘れましょう。
とこれでエルザ侯はお怒りを鎮めて頂けたでしょうか……
と思いお顔を拝見すると、それ程気になさっていないような表情です。
宿泊する場所がこのような場所とはいえ、東の国でもてなされるよりも我々が用意した料理、野営道具の方が優れていると思い至ったとの事。
間違ってはいないかもしれませんが私としては東の国の文化に少し触れてみたかったのですがね。
まあいいでしょう。
大王様との謁見が適えばまたその機会もあるでしょうからね。
東の大王様との謁見を許されたのが二日後でした。
一日暇を持て余しましたので、少しボルボルさんに案内してもらってこの区域の生活を見せてもらいました。
やはり北の国と比べても生活水準は低く、土の壁と葉っぱの屋根の家に住み、部屋数も多くはありません。
家族で住んでいる者もいますが小さなお子さんは二人だけ。
聞いてはおりましたが魔人の方の出生率が低い為、これも仕方のない事でしょう。
北の国の魔人の方は高齢であっても見た目は老いを感じさせる事なく活力ある方々ばかりだったのですが、東の国の高齢の方は人間と同じように、肌には皺が刻まれ腰が曲がったいかにも老人の様相を見せています。
食事は各家に台所があるわけでもなく共同で準備しているとの事で、基本的には肉や野草を焼いたり茹でたりして食べているそうです。
魔獣が獲れない日もよくあるそうで、冬の野草が採れない時期などは木の皮を齧って飢えをしのぐ事もあるのだとか。
とりあえず保存食の作り方をレイヒムに教えてもらえばいいでしょう。
魔人の女性の方々を集めてお料理教室を始めてもらいました。
我々は残った方々に農業をお教えしましょう。
実は朱王様から複数の育てやすい野菜の種をもらってきているのです。
もしかしたら必要になるかもしれないとご用意下さいましたが、本当に農業をしていないとは思いもしませんでした。
皆さん魔人の方々ですから魔力の物質化ができますから爪の形状を変えて頂き、土を掘るのに適した形で作業してもらいます。
家の建っていない空き地でいいでしょう、全員で土を掘り返してもらいました。
肥料などは用意していませんが、芽が出るまで毎日水を与えておけば育つ簡単なものだと聞いていますから問題はないでしょう。
掘り返した土に等間隔に穴を開け、そこに種を撒いてもらって土を被せます。
あとは毎日水やりをするようお願いしておけば大丈夫なはずです。
野草ではなく野菜ですから食べ応えのあるものが育つでしょう。
こんな簡単な事でいいのかと問われましたが、野菜にはとても多くの種類がありその中の最も簡単に育てられるものを植えたのだと説明しておきました。
ただ何の種かは私も知らないのですがね。
朱王様がお渡し下さったのですから良い物なはずです。
大王様との謁見の日。
「カミン。東の国には右翼と左翼と呼ばれる二人の魔人がいるのだが間違っても戦ってはならんぞ。大王様に近い強さを持つという者達だ。実力が知りたいと言われてもこの二人が相手であれば断った方がいい」
「ふむ。断ってもよろしいのですか?」
「右翼と左翼なら断っても問題はないはずだ。カミンなら他の守護者なら受けてもいいとは思うがな」
大王様に近い強さですか。
とても興味深いのですが戦いが目的ではないのでまあいいでしょう。
フィディックの視線が気になりますが私は戦う気はありませんよ?
アリス王女に続いて大王城へと入りました。
薄暗い建物ではありますが、光を取り入れる穴が空いているので中の様子はわかります。
中央の石椅子に座るのは大王様でしょうか。
女性の方のようです。
その両脇には右翼と左翼と称される方々でしょう、とても高い魔力をもっておられるようです。
ついうっかり測定してしまいましたが、どちらも4千ガルドを超えています。
平常時でそれ程強大な魔力を纏っているのですからその実力も相当なものでしょう。
中央の女性よりも高いのは警戒しているから?
わかりませんが。
他にも二十名魔貴族と思われる方々が立っておられます。
リルフォンを十個しか持って来ていませんが、お土産ですし上位の方のみお渡しすればいいでしょう。
アリス[おかしい。クリシュティナ大王ではないぞ]
エルザ[警戒しろ。囲まれてる]
カミン[最悪の場合は私が殿となりますのでレイヒムを連れてお逃げください。フィディック、申し訳ありませんがお付き合いくださいね]
あちらがどう出るかわかりませんが、これも任務ですので慎重にいきましょう。
「私はメレディス。大王の代理を務めている。よく来たな、北の国の王女と守護者よ。まさか人間を連れて来るとは思わなかったが此度は何用だ?」
「大王様の代理の者か。私も名乗っておこう。北の国大王ディミトリアス様の命により使者として来た、アリス=ヘイスティングスである。我ら北の国は人間領と和平を結び、未来永劫良き関係を築きたいと考えている。そして人間領よりの使者、カミン殿は東の国とも和平を結びたいとお考えなのだ。我ら北の国としても異論はない。そこでこの度、人間領と東の国の関係が良好なものとなるよう願い、大王様は私を東の国へと派遣されたのだ」
「そうか。ではカミンとやら。話を聞こうか」
「お初にお目に掛かります。人間領から参りました、カミン=リープスと申します。この度、我が主人、緋咲朱王様の命により東の国へと参りました……」
私は朱王様のお考えを話し、人間と魔人とが共存する世界について、現在の北の国の在り方の素晴らしさにいても語らせて頂きました。
終始笑顔でお聞きくださるメレディス様でしたので、このまま上手く話がまとまるようにも思えます。
「ふむ。なかなかおもしろい話であった。その朱王という其方の主人にも会ってみたいものだな」
「はい。そこで朱王様よりお贈り物を預かって参りました。この贈り物を使用すると遠くの相手と間接的にお会いする事ができ、同時にお話しする事が可能となります」
「なに? そんな事ができるのか?」
「はい。こちらのリルフォンを私共のように耳につける事で使用方法を理解できます。私が朱王様とメレディス様をお繋ぎすればお会いする事ができますので」
「ではそれをこちらに」
カミン[直接お渡ししてもよろしいのでしょうか?]
アリス[構わんだろう。カミンに敵意がない事もわかるだろうし右翼も左翼も警戒している。そのまま持って行っても何も言われないはずだ]
「では失礼致します」
私はメレディス様の前で跪いて全てのリルフォンをお渡ししました。
「ふむ。こんなにもらえるのか。ほほう、綺麗な器に入っておる。美しい宝飾品であるな…… よし、ではブルーノ、デオン、お前達がまず付けろ」
右翼と左翼の方ですね。
どちらかはわかりませんがブルーノさんとデオンさんですか。
お二人共受け取って耳に装着すると同時に叫び声をあげております。
やはりこの叫び声にメレディス様がこちらを睨んでおいでですが……
「ブルーノさん。どうですか?」
「ああ、いや、驚いたが素晴らしい物だ。神器と呼んでいい代物だ」
「デオンさんは如何でしょう」
「俺も驚いただけだ。このような物が人間領にはあるというのか……」
「おい、付けても問題はないのか? おかしな事はないのか?」
「ああ。驚く事にはなるが…… まさに神が創り賜うた神器と呼ぶに相応しい」
「神器リルフォン。ブルーノ、今写真は届いたか?」
「…… ああ。お前の掌の写真がな」
神が創り賜うた神器。
その通り!
朱王様が作り賜うたリルフォンとはそういう物なのです。
少し躊躇いつつもメレディス様も耳にお着けになりました。
やはり驚きのあまり声をあげておられましたが大丈夫でしょう。
「こ、これは…… たしかに驚くべき物だ…… 神器リルフォン、恐るべし……」
さあ、では本題に移りましょう!
「では、早速ではございますが、メレディス様は今、朱王様とお会いしていただく事は可能でしょうか」
「そう、だな。通話機能も試してみたい。頼めるか。その前にあと七つ…… 六つはジャン。お前達が使え」
右側にいた魔人男性がジャンさんですか。
雰囲気からしてメレディス様直属の部下…… リルフォンをお配りしている他の四名も同じような立場にある方々のようですね。
その中でもジャンさんがリーダー格と思われます。
一つ余りましたが、魔力量の高い男性に渡しました。
あちらは守護者の方でしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます