第217話 番組

 アリス王女達と買い物に向かう、リゼ達アマテラスの女性メンバーと朱雀。


 まずは貴族街にある緋咲宝石店でドロップ選びだ。

 店員達の完璧な接客を受けつつ、アリス王女とセシール侯爵は自分好みのドロップを探す。

 さすがは貴族街店だけあってミスリル製のものがほとんどで、元々使用しているリゼ達でさえあれもこれも良いなと目移りしてしまう。

 ただし、リゼとミリーが持つのは今期伝説の逸品となる世界に唯一無二のドロップだ。

 買い替えなど考える事はないのだが。


「色付きもいいけど素材の持つこの輝きは堪らないなぁ…… どれも選び難いけど…… セシールどうする!?」


「私も選べないんですよね…… どれを見てもそれが一番良く見えてしまいますから」


 やはり王女、侯爵共に選べずにいるようだ。

 まだ時刻は十四時半と夕飯までは時間があるので、よく考えて選んでもらおう。


「私達は人間領に来られなかったエルザ侯爵のを選びましょう! エレクトラさん手伝ってください!」


「可愛らしい物より大人の女性向けな物が似合いそうな方でしたね」


 エルザ侯爵とも話をしていた二人。

 どんな髪色が似合いそうか、どんなデザインが似合うかを二人で考えながらドロップを選ぶ。




 その後しばらく考えても選びきれない王女と侯爵は、服選びをしている間にもよく考えてもらおうと店を後にする。

 ミリーとエレクトラはエルザ侯爵用のドロップを購入し、色の魔石は髪色だけ購入して目の色は朱王に新しく作ってもらう事とした。




 十五時を過ぎているのでお菓子購入ついでにスイーツを楽しみに喫茶店に入る。

 ゼス特産のチョコレートを使った甘味と、飲み物にもホットチョコレートを注文した。

 甘さでおかしくなりそうなものだが、添えられたフルーツが甘さを抑えて口の中をスッキリとさせてくれる。

 王女と侯爵も初めて食べるチョコレートに表情を綻ばせながら、一口一口大事そうに味わっているようだ。


「美味しいよぉぉぉ…… 口の中がトロけるよぉぉぉ」


「もう幸せですねぇ…… チョコレート最高っ」


「お二人共王女と侯爵なんですから、その表情はダメですよー。ねぇ、エレクトラさん」


「そうですね。わたくしの場合お父様に怒られてしまいます」


 という言葉を疑問に思って質問するアリス王女。

 エレクトラも自分がノーリス王国の王女だと告げるとこんな言葉を口にした。


「私の事を王女と呼ぶのはやめてくれ。アイリ達のように名前だけで呼ばれたい」


「私も侯爵侯爵と呼ばれるのはあまり好ましくない。セシールと呼んでくれないか?」


「そうね! アリス、セシール、立場は気にせず友達になりましょう!」


「うむ(ああ)!」


 という事で女性陣は名前で呼び合う事にしたようだ。

 朱雀は最初から呼び捨てをし、「アリスー。ちょっとそれを味見させてくれんかー? 我のも食うていいからのぉ」と誰よりもフレンドリーに接していたが。


 甘味を楽しんだら喫茶店で売られているチョコレート菓子を大量購入して店を出る。




 喫茶店を出て服屋へ向かう途中で広場となる。

 そこにはやはり巨大モニターが設置されており、クイースト王国と同等のサイズはあるだろう。

 しかしここは貴族街である為、市民街へと行けばこれよりもさらに大きなモニターがあるのだがまだアリス達は知らない。


 そして映画の日でもないのにモニター前にはメモを持った観客が大勢いる。

 何か映し出されるのだろうか、女性やどこかの店の店主と思われる人々が多く集まっていた。


「映画の日は昨日だったはずでは? ま、まさかこの王国では毎日映画が見れるのか!?」


「違いますよ。この後映し出されるのはゼス王国テレビ局独自の番組なんです。今日は映画の日の翌日ですからお邸の料理人、アルフレッドさんの料理番組ですね」


 朱王城の料理人アルフレッドの【異世界クッキング】が先月から放送され、女性達や料理人達から絶大な人気を誇る番組となっている。


 まだ出回っていない調味料の調合方法や採取、処理の仕方まで丁寧に説明している為、新たな味への挑戦として行商人や農家にまで人気がある。


 また、本題の料理も下処理から完成までの工程を全て説明している為わかりやすく、各家庭で作ってもとても美味しい為奥様方が多く集まっている。


 また、この番組が放送されると露店や出店の店主達はその料理を研究、独自のアレンジを加える事でオリジナルの新商品を次の映画の日までに完成させて出品している。

 この新しい料理は飛ぶように売れる為、この日の番組を見逃すまいと目を輝かせながら放送を今か今かと待ちわびているようだ。




 その番組が気になるという事でしばらく待っているとモニターが起動してアルフレッドが映し出される。


『ゼス王国の皆様こんにちは! 今日もアルフレッドの異世界クッキング! メモを忘れずにとって下さいね!』


 と始まった番組だが、アルフレッドがこんな性格だったかと首を傾げる一行。

 もっと落ち着きのある紳士的な料理人というイメージが崩れ去る瞬間だ。

 先週もこの番組を見ているが、違和感を覚えてしまった事を本人には言っていない。

 もしかしたらこれが本当の彼なのかもしれないと、自分が慣れるのを待つだけだ。




 番組が終わると拍手喝采。

 各家庭の奥様方や店主、料理人や行商人、農家の人々までが美味しそうだなんだと語り合いながら去って行く。

 それはアリスやセシールも同じ事で、巨大モニターに映るアルフレッドの料理に涎が止まらない。

 この日の夕食が楽しみだと顔を綻ばせながら衣料品店へと歩き出す。




 服屋さんへと到着したものの、服選びは二人とも苦手なようだ。

 ファッションなど考える事もない魔人領ではいつも同じ装備を着ているだけ。


 あれもこれもと可愛らしい物を選んでいるが、可愛いと可愛いを合わせてもすごく可愛いにはならないのがファッションだ。

 自分が可愛いと思った物と、少し控えめなデザインの物を合わせると綺麗に纏まる事が多いと説明するが、やはりその理由もよくわからないだろう。


 気に入った服を複数選んでもらい、それに合わせて四人でコーディネート。

 王女と侯爵の着せ替えごっこが始まった。

 やはり美人な二人の着せ替えは楽しく、リゼが嬉しそうにポーズを決めさせる。

 基本的に素直な魔人は言われるがままにポーズをとるが、やはり恥ずかしそうに頬を赤くする。


 自分の服を買いに来たわけでもないのに、誰よりも買い物を楽しむリゼだった。




 服を購入して再び宝石店を訪れ、迷いに迷った末に欲しい中でも自分に似合いそうなドロップを購入。


 髪色と目の色の魔石も購入し、アリス王女はアイリよりも少し濃い目の鮮やかな紫髪にアメジストのような目の色を選択。

 セシール侯爵はショッキングピンクの髪と目の色としたようだ。


 購入したドロップを鏡の前に立って首から下げると、光を発しながら魔法が発動。

 二人の髪と目の色が変化する。


「ふわぁぁぁっ!! すっすごい!!」


「ほわわわわっ!? 本当に色が変わった!?」


 と二人とも色の変化に驚きが隠せない。

 お互い変化した姿に赤面しながら、あらゆる角度から見回している。

 髪色や目の色の変化でこれ程までにイメージが変わるのかと驚きだけでなく感動しているようだ。


 今は魔獣装備を着ているが、染色した装備と合わせても違和感なく似合っている。

 鏡をしばらく見つめ、満足そうに振り返るアリスとセシール。


「買ってもらってすまない。こんな時何と言えばいいのか……」


「ふふ。ありがとうって言うんですよ。表情や態度で気持ちも伝わりますからね。お礼を言う時は笑顔で言うといいかもしれません」


「そうなのか。で、では…… ありがとう、アイリ」


「どういたしまして!」


 アリスに続いてセシールもお礼を言う。

 いつもであれば「感謝する」などの言葉を使うアリスだったが、アイリ達と触れ合う事で心境に変化があらわれたのかもしれない。


 店を出てガラスに映る自分の姿にも満足しながら朱王城へと帰っていくのだった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 一方、車の魔力登録をしにゲートへと向かう男性陣。


 朱王は魔石を作り出してカミンとフィディックに魔力を込めてもらい、ハンドル内の魔石ホルダーへと挿入。

 これで二人も運転が可能になる。


「じゃあこの車はバリウスだ。今名前を付けたんだけど大事に乗ってね」


「はい。お預かりさせて頂きます」


 カミンもフィディックも車に乗る事はあっても運転した事はない。

 朱王の前では畏っては見せているものの、運転できるとあっては嬉しくて仕方がない。

 そんな二人の心中を察したのか、朱王はこの後ドライブしてくるといいよと送り出す事にした。


 千尋と蒼真は今まで乗って来た車を確認し、今作っている車の完成にまた期待が高まる。

 いずれは自分達の車も作ろうと考えているのだ。

 街道が舗装路であればまた作る車も変わってくるだろうし、どんな車にしようかと夢が膨らむ想いだろう。


 千尋達が車を見終えると、カミンとフィディックは車に乗り込んでドライブだ。

 やはり街を走るわけにもいかず、ゲートから地下へと降りて田畑地帯へと向かうようだ。




 カミン達が朱王城を訪れた事で後回しとなっていたエンジンの試運転。

 実験用車両へとエンジンを乗せて出力の確認を行うようだ。

 やはりエンジンの確認は楽しみだったようで、足早に開発室へと向かう三人だった。






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 その日の夜。


 いつものように大浴場でお風呂を楽しみ、コーヒー牛乳を飲んだらブロー魔法。

 クイースト王国でも同じ事をしていたとしても女性なら艶髪になればいつでも嬉しいものだ。

 せっかく貴族用ドロップを購入した事だし、朱王と千尋で追加口して煌きの魔石を挿入。

 アリスもセシールも煌く仕様になり、嬉しさのあまり千尋と朱王に抱きついていた。

 もちろんリゼとミリーに怒られるのだが、何故か怒られるのは男性陣。

 理不尽である。




 そして夕食。

 楽しみにしていたアルフレッドの料理は番組とは違う料理だった為、アリスもセシールも落胆する。


 だが食事を始めてしまえば信じられない程に美味しい食事に涙する二人。

 美味しい食事に飲みやすいお酒。

 大勢での楽しい食事は二人の心もお腹も満たしてくれた事だろう。




 毎日の〆はやはり映画の時間だ。


 室内最大の朱王城のモニターは、貴族街にあるモニターよりもさらに大きい映画館仕様だ。

 室内だと言うのにも関わらず、そのあまりの大きさに目を疑って擦り続けるアリス達。


 そして今日の映画のお供もやはりポップコーンとフライドポテッツ、そして好みのジュースやお酒だ。

 ポップコーンはクイースト王国でも食べていたが、フライドポテッツを口に含んで大満足。

 夕食でお腹いっぱいなのにも関わらず、どちらを食べても手が止まらない。

 映画とオヤツに大満足の二人だった。

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