第218話 人間領魔人領リルフォン会談

 カミン達が朱王城へと到着して二日目。


 彼等の今後の予定としては、ゼス国王への謁見とリルフォン会談。

 アリス達の要望として、朱王の工場や教育施設、建築現場の見学などが予定されている。


 千尋達は車作りがある為、国王への謁見はカミンとフィディック、アリスとセシールの四人のみで向かっている。

 この日は挨拶程度の謁見だが、ゼス国王は実際に会ってその力を少しでも読み取りたいとでも考えていたのだろう。


 今後のリルフォン会談は王宮でと約束して簡単ながら謁見を終えている。

 おそらく前回のリルフォン会談でのノーリス国王達が羨ましかったのだろう。

 アルフレッドに王宮の調理を依頼してくれとの伝言も受けている。


 そのリルフォン会談については各国国王の予定もあるだろうと、朱王からメールにて開催日を検討中だ。

 どの国王達も魔人領北の国大王に都合を合わせると回答をもらっている。

 これは以前作った自動計算プログラムのおかげで、どの王国でも国王達の仕事の時間が短縮されている為だ。

 毎日時間を設けようと思えば都合をつけるだけの余裕がある。


 そしてゼス王国の重要な仕事をしている貴族達の分のリルフォンを国王から発注されており、すでに五十個程を納品済みだ。

 代金も冒険者業ではそう簡単には稼げない程に振り込まれている。




 午前中には謁見を終えて朱王城へと戻るカミン達だが、この日も計算の勉強をと食事をしてから帰るようだ。




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 午後からはアリス達が見たいという事で、千尋達の車作りの見学だ。


 部品作りの蒼真とリゼの作業を見ては驚き、アイリとエレクトラの雷魔法にも驚愕する。

 おそらく魔人領では雷魔法の使い手がいないのだろう。

 そして完成した部品を組み付けるミリーと朱雀の作業を見て、車がこれ程までに作るのが大変なのかと感嘆の表情だ。

 千尋と朱王のエンジン作りには首を傾げるしかない。

 昨日の試験がある程度良かったのか、魔石の組み合わせや大きさの検討などをしているようだ。

 エンジンのヘッドを外されたシリンダーや細かなパーツ類を見て、あまりの部品の多さに目眩がする思いだろう。

 目をぐるぐるとさせているようだ。


 すでに車のフレームやボディパーツは完成し、足回りやブレーキパーツなどはバリウスパーツの予備を利用している。

 現在は内装部品の細かなパーツを作りながら、エンジン以外の駆動系パーツも仮組みしているところだ。

 バリウスパーツの流用だが、新しい車に合わせて足りない部分は作り替えなども行なっている。


 一度仮組みが終われば新型エンジンを組み込んでテスト運転。

 問題がないようであればまたフレームとボディだけになるよう分解して塗装作業に入る。


 一通りの説明をする朱王と、興味深く話を聞くアリスとセシールだが内容はほとんどわかってはいないだろう。

 それでも車の構造という未知の話に、興味と楽しさでいっぱいだ。

 それはカミンとフィディックも気持ちは同じ。

 さらには朱王の話という事で全て録画中だ。

 いつでも朱王の話を見聞き出来るのだし、朱王信者としては当然の行いだろう。


 朱王が説明を終えて作業に戻ると、またバリウスでドライブを楽しもうとゲートへと向かうのだった。




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 リルフォン会談の開催日としたのがそれから三日後。


 理由としてはアルフレッドが国王への料理を考える為にと少し時間を要した事と、車のテスト運転と分解から塗装作業と自己都合で忙しかった為だ。

 今後パーツの組み込み作業を終えたとしても、まだ内装パーツの製作がある為完成まではあと半分といったところか。


 この三日間に工場と教育施設の見学は済ませ、建設現場、工事現場なども王国聖騎士の案内で見学する事ができている。

 朱王とて王国の工事などは把握しておらず、国王に依頼して聖騎士に案内させたようだ。




 リルフォン会談という事で王宮へと向かう。


 すでに王宮で準備を進めるアルフレッドは、王宮の料理人達からも絶大な人気がある。


 各国の朱王邸料理人と連絡を取り、一つの料理に対してその国ならではの味付けや香り付けを行う事で五つの味を作り出す。

 同じ調味料でさえ、土地によっては育った土の特色があらわれる為、全ての国が協力する事で無限の味を表現できるだろうと常に新たな味に挑戦しているのだ。

 その味への飽くなき探究心は、自分の料理こそが最高と考えていた王宮お抱えの料理人達にも衝撃を与えた程だ。


 的確な指示を出しながら手際良く準備を整えていく。




 王宮の食堂にはゼス国王と聖騎士長バルトロ、そして千尋達アマテラスメンバーとカミン一行。

 朱王はこの日人間領の一組織、クリムゾンの総帥としてこの場に着く。




 テーブルの上にはたくさんの料理が並び、十二時になったところでリルフォン会談を開催する。


「コール……」


 朱王がリルフォンから選択した人物全てに発信。

 次々と着信を受けて脳内会場へとその姿を映し出していく。


 予定されていた全員が揃い、司会の挨拶から始まる。


「各国の皆様、魔人領北の国の皆様、お待たせしました。本日司会を務めさせて頂く高宮蒼真です。若輩者故、失礼あるかとも思いますがご容赦願います。まずは会談の前に簡単な自己紹介をして頂きたく、クリムゾン総帥よりお願い致します」


 今日の司会は蒼真が担当する。

 千尋にとも考えたが、蒼真が言うように失礼がある…… 失礼しかなさそうなので必然的に蒼真に決定した。


 朱王が挨拶をし、人間領の国王、聖騎士長達が名乗り、続いて千尋達も挨拶をする。

 そしてこの日はウェストラル王国の朱王の部下、ニコラスとウルハ、エイミーも参加している。

 続いて魔人領と人間領を繋ぐきっかけを作ったカミン達が名乗り、続いて魔人領側へと挨拶が流れる。


『魔人領北の国大王、ディミトリアス=ヘイスティングスだ。我が国では人間と魔人の共存する国を確立した、魔人領唯一の国である。人間領の国王達よ。我等北の国では東の人間領と良き関係を築きたいと考えている。今日こうして出会えた事を嬉しく思う。人間領よりの使者、カミン達に感謝を』


 簡単な挨拶ではあるが、敵対意思がない事ははっきりと伝わっただろう。

 そして友好関係を築こうという考えを持つ大王に、朱王のこれまでの話が真実である事が証明された。


 魔人領側の守護者達も挨拶を終え、最後に魔人領の使者としてアリスとセシールが立ち上がる。


「魔人領北の国の使者、アリス=ヘイスティングスだ。私共を受け入れてくれたクイースト王国国王、ゼス王国国王には感謝をしている。ありがとう。おかげで私達は人間領の素晴らしさ、美しさを知る事ができた。未だ発展のない我等魔人領は多くの事で協力をお願いする事になるだろう。こちらから何か提示するものがあればいいのだが……」


「ご心配は要りませんよ、アリス王女。豊富な資源と広大な大地、力強い魔人の方々がいるではないですか。どちらにも利のある協力関係が築けると思いますよ」


 とはカミンのフォローだ。

 カミンにありがとうと告げるアリス王女は、髪色も変わっていて、とても可愛らしい女の子に見える。


「同じく使者として遣わされたセシール=ローゼンです。皆様にお会い出来た事とても嬉しく思います。人間領に来てからは驚く事ばかりで、毎日が楽しくて仕方がありません。ディミトリアス大王様、しばらく人間領にいたいのですが構いませんか!?」


 挨拶が途中から感想と願望に切り替わるセシール。


『いや、ダメだろ』


「「そんなぁ……」」


 と落ち込んで見せるセシールとアリスだが、何故許可がもらえると思ったのだろう。

 そしてそんな二人を見て黙っているスタンリー侯爵ではない。

 国王や大王が並ぶ会談とは思えないような自由な発言が繰り広げられ、人間領での魔人の認識が少しずつ崩れていく結果となった。

 しかしそれもすでに朱王からは説明済みで、どの国の国王達も驚く事はないのだが。




 しばらく魔人と人魔の自由な会話が続き、ディミトリアス大王の視線で自分達がした失態に気付いた守護者、魔貴族達。

 冷や汗を流しながら黙り込んだ。


『すまない。魔人の国とは強者の下にあるならず者の集まりの様なものなのだ。数々の失態を晒してしまった事を恥ずかしく思う』


 ディミトリアス大王の言葉にさらに小さくなる魔人達だったが、ここでゼス国王からアリスに助け舟を出す。


「ディミトリアス大王よ。そう気にしなくても良いぞ。我等人間領の認識では魔族とは人間と敵対する恐ろしい存在となっておる。だが実際に会ってみればどうだ。このように可愛らしい女子に、感情豊かで面白い者達ばかりではないか。確かにこの場では相応しくない会話であったかもしれんが、其方らを知る事ができて良かったと思っておる。そうだろう? 千尋」


 アリス達をフォローしつつ千尋に話を振るゼス国王。


「うんっ! いいんじゃない? 魔族の皆んなも楽しそうでいいよね!」


「千尋……」


 最も相応しくない発言をするのは、国王相手でもタメ口で答えるこの男だろう。

 司会の蒼真も頭を抱える程に素の千尋だ。


「蒼真どした? ねぇそれより王様! あ、皆んな王様か。んーとウェストラルの王様! 今それ何食べてんの? なんか美味しそうだよね!」


『これは魚介類のしゃぶしゃぶらしいがとても美味しいぞ。シルヴィアも遠慮せずどんどん食べた方がいいぞ!』


『はい! このカニしゃぶも最高ですよ!』


「えー! ズルーい!! ん? ノーリスの王様のそれは!? トンカツに見えるけど……」


『うむ。初めて食べるがこのタレが物凄く美味いぞ!』


『カツ丼にしてもらってもまた美味しいですよ』


 どちらも朱王邸から料理人を呼び寄せたのだろう。

 美味そうに食事をする国王と聖騎士長。


「いいなー! オレも食べたーい!! でもこっちのチーズ三昧だって美味いんだよ! 見てよこのピザ! グラタンだって…… うっまぁ!!」


 拡大していく自由発言に、千尋に話を振った事に軽く後悔するゼス国王だった。

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