第215話 楽しんで頂きましょう《カミン視点》

 アリス王女方を人間領にお連れして三日。


 目に映るもの全てが真新しく映るのでしょう。

 毎日遊び呆けております。


 いろいろとお教えしない事がいけなかったのですが、やはり素直な魔人領の方々ですからね。

 しっかりと私がお伝えしたルールを守ってくれているようです。

 人間領と魔人領とで使う文字が違った事は朱王様が解決してくれましたので問題はありません。

 文字変換プログラムをリルフォンに転送して下さいましたのでお二方とも人間領の文字であっても読む事が可能です。


 ただ少し教えるのに手間取っているのがお金の事ですね。

 魔人領で使用される数字の桁が少ない事と、計算が全くできない事です。

 時間は何時何分と漠然と理解しているようですが、何故六十分が一時間なのか。

 二時間が百二十分なのは何故なのかなど全くわからないようです。

 ここは小さなお子さんに教えるようしっかりと教育していきたいと思います。

 今後魔人領全体にも必要な事でしょうからね。




 この日もお昼は外食としました。

 料理名を見てもわからないのでしょうが、文字を読む事ができるので注文ができます。

 そして注文が終わって料理が出てくるまでの時間で計算の勉強としましょう。

 もちろんノートとペンは持ってきていますよ。


「私は620リラのランチと200リラのジュース、それと340リラのデザートでせ、せん? 1160リラだな!」


「えーと、私は680リラのプレートと200リラのジュースに350リラのケーキで…… 1130リ、ラ?」


「ふむ。アイリ王女はよくできましたね。セシール侯は少し難しかったですか。百の位を足して千の位になったところまでは良かったのですが、その後の足し算ができてませんね。もう一度計算してみて答えを出してみて下さい。アリス王女もです」


「私は答えがわかってるぞ!」


 勉強はやはりアリス王女の方が覚えがいいようです。

 守護者の方々は頭を使うよりも強くある事が大事でしょうからね。

 それでも今後必要となるのですから、しっかりと学んで頂かないと。


 それに机に向かって勉強をしようとすると飽きてしまうセシール侯も、食事の代金の計算となれば興味を持って勉強します。

 いずれは自分達だけで食べに来てみたいという気持ちがあるのでしょう。

 本当は朱王様の自動計算プログラムをインストールすれば簡単にできるのですが、それにも本人の知能が影響するとの事ですので基礎知識は必要です。

 お二人共頑張って下さいね。


 食事を終えれば店員さんが代金の計算をしてくれるものの、お金の支払いもしなくてはなりません。

 少額ですがお渡ししていますのでお二人に支払って頂きます。

 もちろん個別にですけどね。




 衣類はクリムゾン幹部女性陣に協力頂いて複数購入してあります。

 毎日違う服を着る事がとても嬉しいようで、毎朝着ている服をお披露目しています。

 装備ではないのですが、おしゃれで可愛らしい服装は女性らしい楽しみ方だと思います。


 お二人の装備はマーリン達に改造してもらっていますが、やはり染色していない為地味ですからね。

 現在は職人の方にお願いして染色と仕立て直しをしてもらっています。


 ちなみにボロボロになってしまった私の執事服兼ミスリル装備も修復に出しています。

 ディミトリアス大王からもらったデーモン素材は加工できる職人さんがおりませんので、今後朱王様にお願いして新たな装備を作って頂く予定です。




 王国に来てから四日目、五日目には映画の日となります。


 毎週行われるとはいえお祭り騒ぎは今も健在で、商売も繁盛するし仕事にも意欲が持てると今後も続けていくそうです。


 アリス王女もセシール侯もこの騒ぎにまた驚き、出店での買い食いに余興の見物、街全体に流れる音楽には体を揺らしと存分に楽しんでおられましたね。

 そして巨大モニターに映る映画にまた驚愕の表情です。

 お邸のモニターにさえその巨大さに驚愕しておりましたが、街の中央広場にあるモニターはそれを遥かに凌ぐ大きさですのでその気持ちもわかります。

 大王領に持ち込んだモニターは横幅にしておよそ60センチ程ですからね。




 映画の日にもご満足頂けたようですが、お邸に帰るとお二人は膝から崩れ落ちてしまいました。


「私達はいったい…… 生まれてこの百年以上もの間、何をしていたのだろう…… ただ食事をし…… 寝て…… 起きたらまた食う…… 食う物が無くなれば獲りに行き…… 食って寝る…… たまに訓練をし…… 食って寝る…… 散歩に行き…… 食って寝る……」


「アリス王女…… 我々がしてきた事は魔獣とそれ程変わらないのではないでしょうか……」


 何やら落ち込んでおられます。

 お二方の言う内容だけであれば確かに魔獣と変わらないかもしれませんが、魔人領もそれだけではないでしょう。

 ただこのまま落ち込んでいても困りますね。


「明日はまた映画の日を楽しんで頂きますが、そうですね、三日後には遊園地に遊びに行きましょうか」


「我々魔族は…… ん? ゆうえんち? 何だそれは!?」


「人間領唯一の遊戯場がここクイースト王国にはあるのですよ。様々な楽しい乗り物がありますのでお喜び頂けると思いますよ」


 と、パンフレットをお渡ししました。


「「ふわぁっ…… いく!!」」


 はい、元気になりましたね。

 では三日後にフィディックも連れて遊びに行きましょう。




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 映画の日を終えた翌日は国王様との謁見、そして会食の時間も設けて頂いていました。

 魔人領の現状と、北の国が人間領とどうありたいかと簡単なお話し程度ですが。

 まずは人間領の良さを知ってもらえただろうと言う国王様に対し、やはりお二人共あれもこれもと楽しかったと思い出話をしておられました。

 魔人領とはどんなところかと問われるとお二人共少し元気が無くなってしまいます。

 しかし実際のところを話して頂かないと人間領からの協力を得られません。

 私がそのようにお話しすると、渋々ながらも北の国の説明を始めておりました。


「ふむ。技術的に発展していないようだな」と国王様もハッキリと言ってしまう方ですからね。

 アリス王女も小さくなってしまいます。


 しかし一般的な技術や知識は提供しようと国王様はお考えのようで、労働力を魔人領側で捻出すれば独自に発展していけるだろうとの言葉を頂くと大変喜んでおられました。

 技術や知識の提供をどのように行うのかは話し合ってはおりませんでしたがね。


 今後人間領全王国と魔人領北の国の会談で細かい部分は話し合う事として会食を終えました。


 その夜朱王様に確認をとりましたが、次の映画の日以降、私達がゼス王国に到着後にしようとの事。

 来週には朱王様にお会いできると考えれば…… 今すぐ来いと言って下されば夜中でも飛び立つのですけど……




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 クイースト王国遊園地。


 実は私も初めて来たのですが、このような楽しい場所だとは思いもしませんでした。

 子供も大人も楽しめるとありますので、ご家族連れが来て楽しい場所なのだと思っていましたからね。

 まさかあれ程激しく勢いのある遊具だとは思ってもみませんでした。


 アリス王女とセシール侯、そしてフィディックも飛行装備で空を飛ぶ事ができるのですが、最初に乗ったジェットコースターという物で涙を流しておりました。

 これも感動しての涙かとも思ったのですが、単純に怖かったのだそうです。

 それでも一度乗ってしまえば二度目からは平気なようで、何度も繰り返し乗って楽しんでおられました。

 家族で来ているお子様が泣いているのを見て笑っていましたが、あなた方も泣いてますからね。


 この遊園地も楽しんで頂けましたし、私も楽しめましたので今後また遊びに来ようと思います。




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 クイースト王国での生活も十三日になりました。

 魔人領からアリス王女、セシール侯爵をお連れしてすでに十八日にもなるのです。

 時間が経つのは早いですね。


 昨日映画の日を終えてこの日ゼス王国へとまた出発する事となります。

 朱王様がお待ちですから一刻も早く向かいところですが、私だけ先に行くわけにもいきませんので皆さんに合わせますがね。


 三日前にはお二人の装備の染色と仕立て直しが終えて戻ってきています。

 デザインは変わりませんが、色の変わった魔獣装備にお二人共嬉しそうにしておられましたね。

 衣服はまたゼスで購入すればいいですからお邸にそのまま置いていきましょう。


 出発前に国王様にご挨拶をと向かったのですが、セシール侯がどうしても不思議で堪らないといった様子で国王様に問いかけておりました。


「人間は最も強い者が王になるのではないのですか?」


 さすがに私も戸惑いましたが、国王様は気になさる様子もなくお答えしてくださいます。


「人間領では聖剣を扱う者がその国の王となる。元々は聖剣を持つ私が最も強かったのだがな…… いつの間にか魔剣を持つヴォッヂに追い抜かれてしまったようだ」


 聖騎士長であるヴォッヂは随分と強くなっているようですね。

 以前よりもさらに魔力の総量を引き上げたようですし、強化そのものが力強く、以前の彼とは別人のようです。


「恐縮っすー」


 話し方や態度は一切変わりませんがね。

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