第201話 リゼの水渦

 夕方訓練から帰って来た国王達と千尋達。


 十六時半前に王宮へとたどり着くと、執務室で使用人達に囲まれて楽しそうに会話をする朱王がいた。

 政務はいったいどうしたのか。


「ん? 仕事はさっき終わりましたよ? だからみんなとお茶してたんだけど何か問題あるかな?」


「…… いや、おかしくないか? 朱王に任せてからまだ半日だぞ? 今朝からやる分の仕事もあったはずなんだが……」


「説明受けた分は全部終わってますよ。全部やるのが面倒だったし、大公や公爵の人達を集めてリルフォン配ってパパッと済ませてもらってます。仕事内容を見直しましたのでデータ送りますね」


 朱王は王宮に一人ポツンと残され、国王から与えられた仕事をよく考えてみた。

 謀反を起こした貴族達の仕事をある程度は割り振ったとはいえ、相当量を国王や王子達が受け持つ事となっている。

 国の内政にも関わる事も多く、本来であれば自分が手を出してはいけないような事も多くある。

 頑張れば終わらなくもない仕事量だが、なにより面倒だと感じた朱王。

 クリムゾンからミューランとハリーを呼び寄せ、大公や公爵、それも国の重要な人物を限定して王宮に来るよう邸へとクリムゾン隊員を向かわせた。

 そしてリルフォンを配る事で全員の作業効率アップを図り、全員の仕事の内容を見直し、国王や王子達が受け持つ仕事量を減らす事に成功した。

 大公や公爵達は仕事が増やされたとはいえ、リルフォンがもらえるとあっては何も文句などない。

 たとえ仕事が増えたとしても、自動計算プログラムによってこれまでよりも早く仕事が片付くのなら何も問題はないだろう。


「ふむ。皆の負担は増える事にはなるが、確かにこの方が効率が良いな」


「全ての決定権は国王にありますから、国王は承認するだけでいいと思いますよ」


 国王の仕事は本来の仕事だけになるように全てを割り振った朱王。

 普段から好き勝手するとは思うが、国が絡んでもお構い無しなところは朱王らしい。

 たった一日で今回の騒動による問題が解決してしまった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 翌日からは朝から訓練に向かう国王達。

 もう朱王に任せておけば、王子達の仕事分さえも午前中には終わるだろうと丸投げした。

 文句を言う朱王だが、実際に午前中には全ての仕事を終え、邸に帰ってウルハと魔剣作りの続きをしていたが。






 場所は変わっていつもの訓練場所。


 千尋とエイラ王女の訓練は、基本的には剣術だ。

 ノーラン王子達のように剣術訓練をしていなかった王女達は、後衛としての魔法をある程度使える為魔力練度はなかなかに高い。

 そのおかげもあって精霊魔法は狙い通りの魔法を放つ事が可能だった。

 しかし剣術が全く出来ないのであれば一から学ぶしかない。

 千尋の四刀流は一旦封印して、両手剣での剣術を訓練する。

 昨日千尋が持つのは片手剣という事で、しっかりと教える事は出来なかった為、この日は騎士用の両手直剣を持ってきてある。

 これまで騎士達の訓練を見て学んだ剣術を再現しながらエイラ王女に指導していく。




 ルイン王女も同じく剣術が出来ない為、エレクトラがしっかりと教え込む。

 刀と直剣の違いはあるが、基本的な動作はそれ程違いはないだろう。

 武器による違いあるものの、蒼真の訓練を思い返しながらルイン王女の剣術にもしっかりと指導していく。

 とはいえ友人となった女性二人の剣の訓練だ。

 真剣な表情を見せつつも休憩には笑いがあって楽しそうな訓練だ。




 エイラ王女もルイン王女も慣れてきたところで、実際に剣を打ち付けあって訓練した方が実戦的で覚えも早いだろう。

 王女同士で訓練させるのもいいが、余裕がなければ怪我をさせてしまう場合もあるだろう。

 千尋とエレクトラが王女達の相手をし、学ぶ事があればいいだろうと合間に千尋とエレクトラの訓練も見てもらった。

 剣術を学び、自分の上達が見えるのは王女達も楽しいだろう。

 ミリーの回復を受けながらひたすら訓練に汗を流していた。




 一方、蒼真とアイリの訓練を受ける王子達。

 精霊魔導による実戦訓練は熾烈を極め、魂を削られるのではないかと思う程にひたすらに追い込まれていた。

 死を感じる斬撃が常に振るわれるのだし、二人の王子も成長しないはずがない。

 ミリーの回復によるデスパレードな訓練が二日目の朝から始まり、休憩となればミリーの回復が施される時間のみという過酷なもの。

 蒼真とアイリが入れ替わりながら、慣れをなくすよう実戦訓練を続けていく。

 徹底的に防御を叩き込まれるノーラン王子とストラク王子だった。




 そして朱雀とルファ王子のお子ちゃま訓練。

 剣術を習い出していた事もありそこそこに剣は振るえるのだが、まだまだ剣術と呼べる程でもない。

 そして魔力練度もまだ発展途上という事で、精霊が一切言う事を聞いてくれないという状況だがそこそこ楽しそうに訓練している。

 言う事を聞かない、ルファ王子の意思に従いたくないという事は、精霊自身が放ちたい魔法があるのだろう。

 それを分析しながら与える魔力量と精霊魔法のパターンを見ながら剣術に乗せて技を作っていく。

 自分の技を作る訓練と思えばやはりルファ王子も楽しくて仕方がないだろう。

 朱雀がとるおやつの時間も技を考え、休憩が終わればそれを試しながら少しずつ実力を身に付けていく。

 遊びと訓練を組み合わせた朱雀は、子供の扱いが上手いのか、それとも自分も子供の姿をしている為か。

 根をあげやすい子供には効果的な訓練と言えるだろう。




 そして国王とリゼの実戦訓練。

 二日目にしてリゼの精霊魔導も進化していた。

 国王の振るう精霊魔導は、精霊そのものが水の化け物としての魔法となり、攻撃に、防御にと様々な利用が可能だった。

 リゼも水魔法に限定して訓練を積み、シズクの全身から水渦を放出しながらルシファーに乗せて様々な精霊魔導を放てるようになった。

 リゼは剣尖を放つと、先端から水刃渦巻く水渦の剣尖とした事で遠距離にいながら範囲攻撃を可能とする。

 ルシファーによる乱舞も水渦の舞として、ルシファーの刃を覆いこむ全範囲殲滅魔法、全範囲防御魔法として振るう事ができる。

 そしてルシファーを弾かれる事が覆いリゼだが、水の質量を乗せる事で一撃の重さを産み出し、弱点となりそうな部分を埋める事に成功した。


 リゼの成長によって苦労する事になったのは国王だ。

 ひたすら防御に徹した国王だが、リゼが新たに精霊魔導の実験として振るってくるので堪ったものではない。

 本人もどれだけの出力となるかわからないうえ、どれだけの範囲に広がるかさえわからない。

 本来であれば一人で試さなければならないような精霊魔導実験を国王相手に行った。

 だがこの訓練とは言えない実験行為は国王の実戦への感を鋭くし、ダメージを負いながらも自己の能力を高めていく。

 国王の経験不足、コーアンの経験不足をリゼの精霊魔導を直に受ける事によって、その経験を埋めるよう精霊魔導の精度を引き上げる。


 全身から血を流しながらも集中してリゼの攻撃を捌ききる国王は、未だに反撃の糸口が見えない状況だ。

 それもそのはず、攻撃特化のリゼが一つ壁を乗り越えたのだ。

 そう簡単に反撃など出来るはずもないだろう。


 だが返せるとすれば範囲の広いリゼの技に対し、密度の高い直接攻撃だろうと国王も自分の技を新たに産み出そうと思考中だ。

 魔獣のようなコーアンの密度を高めようと考えるが、なかなか上手くはいかない。

 本来であれば水には圧力を掛けてもそう簡単に圧縮するする事はない。

 超高圧ともなれば結晶化する事もあるが、それらは想像する事が出来ない限りは不可能だろう。

 水の刃を圧力を掛けて精製する場合も、表面から水圧をかけるイメージを組み込む事で刃としての形状を成しているに過ぎないのだ。


 もしリゼの水渦の乱舞に立ち向かうとすれば、水魔法を新たに作り出すのではなく、高魔力での水魔法で挑めば打ち破る事も出来るだろう。

 ただイメージよりも高魔力である魔法の場合、通常の倍ともなる魔力が必要となるだろう。

 放出できる魔力の幅が大きな鍵となる。

 または朱王のように防御、強化に割く魔力量を減らす事で魔法の魔力量を増やす事も出来るが、自分が受けるダメージも大きくなる為諸刃の剣となる事は間違いない。

 相手の動作を予測と操作、確定してから放つ事でダメージを無くしている朱王も、それ以外からの攻撃では防ぎようもない。

 致命傷を負ってしまう為そう易々と出来る事ではないのだが。


 これまで下級魔法陣による精霊魔導としていたが、上級魔法陣アクアを発動すればリゼの水渦の乱舞をも突き破る事はできるだろう。

 しかし上級魔法陣は魔力の放出量が激しく、威力も尋常ではない為訓練に使うには不向きな魔法陣だ。

 この日の訓練最後に発動するとすればいいのかもしれないが、明日の訓練に響きそうで使用を躊躇うというもの。


 その後もリゼの水渦を突破する新たな技を思案するハロルド国王だった。




 しかしまだ国王は知らない。

 リゼが水魔法の性質変化を多少は学んでいる事を。

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