第195話 今後について
◆◇◆◇三人称視点(人間領側)◇◆◇◆
ディミトリアスは城の使用人にヒーラーを連れてくるよう指示を出し、カミンの怪我を回復してくれるとの事だ。
北の国では人間も住んでいる事もあり、人間族の中にはヒーラーも数人存在するそうだ。
また、大王城に入れるヒーラーともなれば人魔種のヒーラーであり、その回復能力も相当なものとの事。
高い魔力強化で戦闘も可能なヒーラーだそうだ。
『カミンが守護者であるスタンリーと戦えたのだ。魔人領北の国は人間領との和平を約束しよう。人間領とはいえ朱王は国の王ではないのだろう? 今後各国の王とも話がしたい』
「ディミトリアス大王、感謝する。こちらの国王達とは近々連絡を取ってまた会談がしたい。追って連絡するがいいだろうか」
『うむ。それと東の国にも案内させよう。行きたい者は…… ふっ、お前達全員か。これは魔人族としても重要な事だからな。大王である私の娘、アリスを使者として同行させる』
大王の娘が使者となれば、東の国でも北の国の意思は伝わるだろう。
カミン達は一旦人間領に戻る事となり、アリスがわがままを言ってカミンと共に人間領に入る事となった。
人魔であるアリスであれば例え人間に見られたとしても、朱王やフィディックと同じ目の色をしている為騒がれる事もない。
それならばとセシールも同行したいとの事で、ディミトリアス大王もアリスの護衛にとそれを了承。
だが今は冬である為、アリスとセシールが同行するのであれば移動に時間がかかる。
ここでメイサから提案があり、メイサはマーリン、レイヒムと共にこの魔人領で待っているとの事。
メイサとマーリンの耐寒装備を二人に貸し出そうと言う。
マーリンとメイサはこの大王領に来てから知り合った人間や人魔に、いろいろと人間領の技術を教えている事もあってそちらの作業を進めたいのだそうだ。
レイヒムも料理の技術を広める為に大王領に残りたいとの事。
マーリンやメイサが着ているメイド服は首元が開いたものの為、魔人領に向かう際に耐火耐寒素材のポンチョを購入している。
それと飛行装備の下には同じ素材の腰布を巻いている為、その両方をアリスに貸せばある程度の寒さには耐えられるだろう。
ポンチョと腰布を貸したとしても、メイド服もニーソックスも耐火耐寒素材となる為それ程寒さは感じられない。
飛行する場合だと剥き出しの首元がとても寒いのだが。
アリスの羽織っている毛皮のコートと交換し、アリスはメイサのポンチョや腰布に大喜び。
何歳かは不明だが、おしゃれが楽しいお年頃なのかもしれない。
毛皮のコートとはいえ、魔獣の毛皮を多少加工して羽織れるようにしただけのようなものだが。
同じようにセシールもマーリンの装備を借りて嬉しそう。
セシールは魔獣の外套を着用していたが、素材に魔力を流した感覚からするとS級素材以上である事がわかる。
アリスとセシールの許可を得て、この毛皮のコートと外套を加工してお洒落なコートに改造するようだ。
私のも頼みたいとエルザも外套を差し出してくる。
外套二枚と魔獣の毛皮が一枚……
今後車で迎えに来る事も考えれば、寝袋を一つ犠牲にしてもいいかもしれない。
四つはカミン達が持って行くだろうが、一つは置いて行くはずだ。
と、思っていたらカミンとフィディックが交互に見張りをするからと、もう一つ不要との事で二つの寝袋を置いて行く事に。
ディミトリアス大王やマーシャル、スタンリーとグレンヴィルの上着も加工出来るだろう。
改造案を相談し合うメイサとマーリンだった。
そしてカミンの装備もスタンリーとの戦闘によってボロボロだ。
袖や裾はズタズタに引き裂かれ、見るも無惨な執事服となってしまっている。
もともと装備には耐刃素材も編み込まれているものの、スタンリーの斬撃はカミンの強化した耐刃素材をも切り裂いてしまう。
耐火耐寒素材でもある為、このボロボロになった執事服でも寒さには耐えられるものの、このままでは見た目によろしくない。
ディミトリアス大王から魔獣素材をもらって装備を作る事にした。
大王から貰えた魔獣素材は驚く事にデヴィル素材。
超級魔獣の素材をもらって装備を作る事になった。
加工は難しいだろうが暫時の装備だし大きめに作ろう。
とりあえず執事服の上に着る事にし、人間領に戻り次第耐火耐寒素材と組み合わせて、朱王が装備を作り直してくれるとの事。
カミンと戦ったスタンリーも装備が穴だらけのボロボロになっているが、魔力を流し続ければいずれ元に戻るだろう。
本来はすぐに元通りになるのだが、装備のダメージが大き過ぎてなかなか再生出来ないようだ。
今後はカミンとフィディック、アリスとセシールが人間領へと向かい、朱王と直接会って車を受け取る。
アリスは人間領を見てみたいと言うのでカミンが住むクイースト王国を案内する事を約束。
朱王としても良好な関係を築けた事が嬉しく、各国の国王達との話もあるのでそれ程急ぐ事もない。
アリスとセシールにはクイースト王国で存分に楽しんでもらい、人間領の良さを知ってもらう事も目的の一つとした。
カミン達と朱王が会う場所をゼス王国の朱王城とし、車に魔力登録をして必要な荷物を積んでまた魔人領に入る。
北の国に到着後、マーリンとメイサ、フィディックとレイヒムを乗せて東の国に向かう事になるが、アリス王女の護衛としてエルザが同行する。
セシールはここでエルザと交代となる。
魔族の使者として北の国から向かうのが人魔二人であるよりも、人魔であるアリス王女と魔人の守護者であるエルザが同行した方がいいだろうとの考えだ。
スタンリーだけでなくグレンヴィルやマーシャルが同行したいと言うものの、スタンリーは無礼を働きかねない事、グレンヴィルは挑発に乗って戦いそうな事を理由にディミトリアス大王は二人の同行は即却下。
マーシャルが同行するとなれば大王領の管理をディミトリアス大王一人で行う事になる為、マーシャルの同行も却下された。
東の国の大王と謁見し、人間領と北の国、東の国の和平を取り付ける事を目的として行動する。
既に北の国の上層部である大王や守護者達としては、人間領に対して好感しかないような状況だ。
東の国は人間は存在しないものの、人魔はごく少数住んでおり、北の国との関係も悪くはない。
またカミンは東の国で戦う事になる可能性もあるが、それは本人も予想しているだろうと特に何も言うつもりはない。
それにカミンのあの強さを見れば心配するだけ無駄というもの。
それよりも今後の人間領との関係を東の国よりも優位にしておく事を考えるディミトリアス大王だった。
朱王は今後各国の国王達に報告し、国王達と共にまたディミトリアス大王とのリルフォン会談がしたいと提案する。
ディミトリアスとしてもそれは願ってもない事だ。
どう考えても魔人領は人間領に比べても技術的に劣っているどころか、文明としてもかなり遅れを取っている。
人間領からは技術提供をしてもらい、魔人領からは資源と労働力を提供する事で、北の国のみならず魔人領全土をも発展させていきたいと考える。
これまで退屈な毎日を過ごすだけの魔人達も、新たな事に挑戦しながら楽しい世界を作っていければ各国の争いやいざこざも無くなるのではないか。
カミンから聞いた現在の人間領の国同士の関係から考えても、発展を遂げていければわざわざ国同士が啀み合う必要はないだろう。
だがしかし……
力が絶対となる魔人領において決めなければならない事。
それは魔王の存在だ。
各国の大王ではなく、その全てを束ねる魔王が君臨してこそ魔人領は争う事なく国が成り立つ。
先代魔王ゼルバードは、魔人領においてただ一人その頂点に立った初代魔王だ。
それまではやはり国同士の争いは絶えず、各地にいた人間達も全て殺される事となってしまった。
人間と魔人が共存する国は北の国では実現したものの、西や南の国では全て虐殺。
その地にいた人間の国や街は滅びている。
魔王亡き今、西の国の魔族は人間領に攻め入ろうと期を伺っているとの噂もある。
今後、人間領と共存していくとなれば、魔人領の各国に命令を下す魔王が必要となるだろう。
『朱王よ。我ら北の国は人間領と和平を結び、今後は東の国にも案内はするが、魔人領は人間と敵対する国と共存する国とで二分される事となる。そうなれば西の国と南の国が黙ってはいないはずだ。そこをどうするつもりだ?』
「とりあえずは話し合いの場を設けるべきだろう。もし攻め入ってくるのであれば迎え討つが、どちらかが滅ぶまで続けるわけにもいかない。やはり話し合って決めるべきだと思う」
朱王の考えは魔人に対して随分と甘い考えだ。
西と南の大王は人間を食いものとしか見ておらず、話し合いをしたところで魔人史上の国では対等には扱ってはくれんだろうとの事。
人魔をも穢れた者として蔑む国らしい。
もし四大王が国を動かして戦争を始めたとしても、現状では誰が勝つかはわからない。
四大王が全て死に、他の上位魔人が魔王になる可能性さえあるだろうとの事だ。
しかし四大王を屈服させていない上位魔人が魔王になったところでそれに従うはずもなく、魔王としては認められず魔人領は無法地帯となるだろうとディミトリアス大王は言う。
それならば先代魔王ゼルバードが魔王になった時はどうだったのか。
ゼルバードは一般の魔人でありながら、その圧倒的な力で全ての大王を一人で倒したそうだ。
それもゼルバード一人で四国を相手に戦争をし、その全てを屈服させている。
大王のみならず上位魔人、魔貴族も全て倒して魔王になったとの事。
さすがに誰もがその指示に従うだろう。
魔人の中でも絶対的強者が魔王ゼルバードだった。
魔族と共存するのであれば、現在の四勢力から五勢力へとその図を変え、力のバランスが崩れる事になる。
これまで均衡を保っていた魔人領も大きく動き出すことが予想される。
朱王としても人間領の国王達を余所に全てを決めるわけにもいかず、近いうちにまた会談を設ける事にした。
人間領での二度の会談を行い、ディミトリアス大王をも交えて再び会談をしようという事で話を終える。
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