第196話 動きだす

 ディミトリアス大王とのリルフォンでの通話を終えた朱王達。


「ななななななんですか!? カミンさんは朱王様の部下の方なんですよね!? あれ程強い方初めて見ましたよ!? それに魔族が強いとは聞いていましたが人間に勝ち目はないのではありませんか!?」


 ディミトリアス大王との通話中、それもカミン達の戦いが始まってからはずっと固まっていたエレクトラだが、通話を終えた事で驚きの感情そのままに感想を漏らす。


「だよねー。上位魔人と戦えるとかカミンさん羨ましい。でもカミンさんとも戦ってみたいかもー」


「いえ、そうではなくて!!」


 北の国に守護者ともなれば魔人領でも最上位に位置する強さを持つはず。

 朱王が以前戦ったサディアス以上と考えれば、カミンの実力は人間領でも最上位となるだろう。

 千尋や蒼真本人達から見ても勝てるかわからない程にカミンは強い。

 下手をすると朱王にも匹敵するだろう。

 それにカミンは自分の真骨頂である水魔法を使用していない。

 あくまでも爆水を基本とした戦いを繰り広げていた。

 朱王はカミンがまだ隠している力もあるだろうと考える。

 同じく実力を見たいと言うスタンリーにも同じ事が言えるだろう。


「ま、上位魔人の戦いも見れたしオレ達も今後どう強くなるか考えないとな」


「そうですね。スタンリーさんがしていたようにサラマンダー以外にも精霊化ができるようですし、いろいろと試していかないといけませんね」


「私もシズクとリッカでできるのかしら」


「二精霊同時とかできたら面白そうですね!」


 千尋達にとってもカミンとスタンリーの戦いは今後の参考になりそうだ。

 これまで精霊化を可能としたのはゼス国王とヴィンセント。

 ヴィンセントの鬼人化は朱王とミリーしか知らないが、今回のカミンの精霊化…… 悪魔化? と同じように変身できるとあれば少し楽しくなってくる。

 イメージさえ固まればどんな姿にもなれるだろうが、一度決めた後に変更できるという保証はない。

 精霊にイメージを固定してしまえば今後もその姿になる可能性は大いにある。


「カミンさんは何故悪魔の姿をイメージしたのかな…… カミンってもっと明るいイメージだよね? もしかしたら映画の影響かもしれないけど」


 不思議そうな表情でカミンの変身を精霊化を思い返す朱王。

 朱王にとってはカミンのその姿は不思議に思えるかもしれないが、千尋達、他のメンバーにとってはカミンが悪魔化したのは納得のいくものだ。

 千尋達から見ても怒れる朱王は悪魔そのもの。

 カミンの悪魔化はその朱王のイメージにぴったりと当てはまるのだ。

 あの仮面さえも表情を見せずに殺意を放つ朱王と考えれば、疑いようもない程に朱王の姿をイメージしている事がわかる。

 本人が気付かないならとりあえず知らないフリをしよう。




 現在昼を前にした十一時半。

 この後昼食を摂るとして、その後は何をするか。


 千尋とリゼは偽聖剣を改造するという役割がある為動くに動けない。

 しかし武器強化を終え、国王の手元に聖剣が無い今、王子達の派閥争いが加速するとすれば国王が危険なのではないか。

 千尋達も何か出来るのではないかと考える。


「言っておくけど私はこの件に何も手出しはしないよ。国王から依頼されたのであれば、その意思に沿って協力はするけどさ」


「でも聖剣はもう改造したし、今も偽聖剣改造依頼を受けてるんだけど?」


「聖剣改造は元々予定していた事だし、国王が自分の身を守れるようにと先に改造してもらう事にはしたんだけどね」


 既に手出ししているのだが、直接解決に向けて行動を起こすのを朱王は良しとは考えないようだ。

 王国の奴隷や孤児達を救済し、クリムゾンを組織管理はするとしても、王国そのものを操作するような事はしない。

 力による制圧と貴族達を黙らせ、一人の王子を擁護するような事をしては国を操作するのと変わらないだろう。


「まぁシルヴィアがいるから大丈夫だとは思うけどな。とはいえ聖騎士の中にもクリムゾンのハリーがいるけどいいのか?」


「ハリーはあくまでも聖騎士として防衛に当たってもらうからいいよ。遅かれ早かれこの王国では貴族達による反乱があったと思うしね」


 蒼真としてもシルヴィアの実力は充分だと判断する。

 ハリーも朝練での槍術や、前の日の精霊魔導の話などから相当な実力まで達しているだろうと予想。

 昨日精霊魔導師になったばかりの聖騎士では二人の実力には届かないだろう。

 ましてや魔剣を持ったシルヴィアを三日間徹底的に鍛え上げたのだ。

 今のエレクトラに匹敵する力はあるだろう。


「ちょっと参加したかったけどまぁいいかー。じゃあ何しよっかなー」


「私はウルハの魔剣作りしようかな。だからウルハ手伝ってね。エイミーのは今度……」


「オレ作ろっか? エイミーさえ良ければだけど」


 偽聖剣はそのまま放置でいい。

 今後ゼス王国に行けば車作りもできると、気分のいい千尋は、エイミーの分を作ろうかと提案する。


「千尋様に作って頂けるんですか!? 是非ともお願いしたいです!!」


 エイミーとしては願ってもない提案だ。

 朱王に魔剣を作ってもらえる事も期待していたのだが、自分が想いを寄せつつある千尋が作ってくれると言うのだ。

 それが恋であるかは別としても、自分が好意を持つ千尋に作ってもらえるのであれば、エイミーとしても嬉しい限り。


「お? いいの? エイミーも是非って言ってるしお願いしちゃうよ?」


「おっけー! じゃあエイミー、作業小屋で剣のデザイン考えよっか!」


「はい! よろしくお願いします!」


 嬉しそうに千尋について行くエイミー。

 リゼは何も言えず、口を開きながら手を伸ばしてその後ろ姿を見送る。

 千尋は何とも思っていないようだが、リゼとしては気が気ではない。


「すすす朱王さん!! 千尋を守ってくれる!?」


「んん? ああ、うん。見張っておくね」


 リゼの表情からいろいろと察した朱王は、リゼを安心させるべくとりあえず頷いておく。

「だから早く行って!」と言うので朱王もウルハと共に作業小屋へと向かった。


「ねぇ、ミリー。朱王さんとウルハは大丈夫なの?」


「む? 大丈夫ですよ。朱王を信用してますからね」


 意外にも余裕を見せるミリーだった。

 ウルハが妙な事を口走る度に反応してしまうが、その都度何か言われない限りは気にならないのかもしれない。


 残された蒼真達はスキムボードがしたいとまた海へと遊びに向かった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その日の夜。


 王宮の門の前には五百人を超える兵士達が集められ、その中央にはストラク王子と、武装した十三人の貴族達。

 そしてマーカー、イーサン、クイン、イザヤの四人の聖騎士がストラク王子の背後に立つ。


「皆、よく集まってくれた。感謝する。実に悲しい事だが私の兄、ノーラン王子派閥が王権を奪おうと王宮へと攻め入る用意があるとの情報が入った。我々はそれを阻止するべく、本日より王宮の警護に当たる。これは国王様を守る重要な任務だ。その命を賭してでも国王様を守るのだ!!」


「「「「「おお!!」」」」」


 国王が聖剣を持っていない今、そして聖騎士達が聖剣に匹敵する武器を手に入れた今、国を政変すべく闇に潜む貴族達が動き出すはずだ。

 この日の諜報員の報告により、それを指揮するのが国王の長男であるノーラン王子と聞かされた。

 ストラク王子としても信じ難い事だが、国王を守る為にも兵士達を動かす事とした。

 ただノーラン王子もストラク王子も国の騎士を指揮する事はできない。

 自分を支持する貴族達の協力を得て、それぞれが持つ私兵達を集めて王宮の防衛に当たる。


 ストラク王子はシルヴィアにもこの情報を開示し、騎士達は王宮を包囲、残る聖騎士達も国王を守る為に警護に当たるよう頼み込んだ。

 国王もこの事態に玉座に座り、王妃達は安全な邸内地下室へと避難してもらっている。

 王宮の邸内にはコナー、カミラ、クロエが控え、最終防衛として国王を守る事とする。

 シルヴィアは敢えて王宮の入り口に待機し、敵勢力の制圧を担当する。

 本来であれば国王の最終防衛線として玉座の間に待機するべきだが、できるだけ被害を抑える為に制圧に回る事にした。

 ハリーは朱王の部下とはいえ聖騎士の一人。

 王宮の上空から全貌を確認しながらシルヴィアと連絡を取り合う事としている。




 時刻は二十時を過ぎた頃。


『シルヴィア様。北方向から近付く数多くの兵が見えます。暗い為その数は把握しきれませんがおそらく千人を超えるかと思われます』


 空から周囲を確認していたハリーがシルヴィアに連絡。


「そうか。そのまま監視を続けてくれ。もしもの時はハリー、頼んだぞ」


『はい。くれぐれも気をつけてください』

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