第193話 ディミトリアス大王

 聖騎士の武器強化を終えた翌日。


 千尋とリゼは聖剣改造している事になっているので邸から出る事は出来ない。

 朝食を終えて今日は何をしようかと考えていたところでカミンから着信があった。

 朝の定時連絡もあったのだがどうしたのだろう。


「どうしたんだい? 何か急用かな?」


 とりあえず通話する朱王。


『はい、ディミトリアス大王様がこの後九時から話ができないかとの事です。ついにこの時がやってきました。お待たせして申し訳ございません』


「急ぎではないから良いんだけどね。じゃあ九時にまた連絡待ってる」


 通話を切る朱王は少し嬉しそうだ。

 急ぎではないと言いながらもこの日を楽しみにしていたのかもしれない。


「九時にまた通話? 何かあるの?」


「この後ディミトリアス大王とリルフォンで通話するんだよ。君達も一緒にどうだい?」


「もちろんグループで!!」


 というわけで千尋達も含めてリルフォンでテレビ通話をする事にした。

 しかし各国の国王達も無しに話を進めてもいいのか迷うところだが、カミン達がディミトリアス大王に接触した後には既に連絡済みだ。

 今後も慎重に頼むとの言葉ももらっている事だし、今回は朱王とアマテラスメンバーで話をしよう。




 場所は洞窟内ホールのソファに座って飲み物をもらってくつろぎながらその時を待つ。


 九時を回ったところでカミンからの着信を受け、グループ通話に切り替える。

 脳内視野に映し出されていく全員の姿、そしてカミンとマーリン、メイサ、レイヒム、フィディック。

 その後投影されるのはディミトリアス大王達北の国の頂点に立つ者達だろう七人の魔族、と、魔貴族アイザック。


『朱王様、お待たせしました。こちら八人で全員となります』


「そうか。カミンありがとう。では初めに挨拶させてもらおう。人間領の緋咲朱王だ。カミン達の所属するクリムゾンという組織の総帥をしている。こうしてリルフォン越しではあるが目通り叶った事を嬉しく思う」


 敢えて対等な立場からの言葉遣いをする朱王。

 アイザックの時はディミトリアス大王に取り次いでもらおうと頼む事もあり、やや下手に出ていたようだ。


『ふむ。魔人領北の国大王、ディミトリアス=ヘイスティングスだ。其方からの土産物には驚かされたぞ。感謝する』


「朱王で構わない。楽しんでもらえたなら良かった」


『では朱王よ。カミンから聞いているが、この西の国と人間領とで和平を結びたいというのは本当か?』


「ああ。先代魔王ゼルバードが望んだ人間と魔人が共存していく世界を私も望む」


『次代の魔王になっても、だったか?』


「そのつもりだ。私の受けた北の国の印象からするとディミトリアス大王とは戦いたくはないが…… 場合によっては相手をしてもらう事になる」


『確かに朱王は強そうだな。リルフォン越しにもわかる…… そこの二人も強いだろう。名前を聞かせてくれるか?』


 指差されたのは千尋と蒼真。

 リルフォン越しにでも強いとわかるのは魔力の総量と練度のせいだろう。

 魔力同士を繋ぐ為、その実力がある程度知れてしまうのかもしれない。


「高宮蒼真だ。そっちの魔人は全員が強そうでオレは嬉しい」


「姫野千尋だよ。もしかして魔力でアタリを付けてるのかな? でもこっちもみんな強いよー!」


『では全員の名を聞かせてもらいたい』


 魔族であれば強さが最も重視される。

 強ければ一般魔人でさえも魔貴族となれるし、弱ければ魔貴族も一般の魔人へと降格するのだ。

 強くなくとも能力が高ければ魔貴族とはされないものの、ある程度は優遇される立場にはなる事もできる。

 ディミトリアス大王も全員が強いと聞けば名を知りたいと思うものらしい。


 ミリー達も自己紹介をし、同じように上位魔人、魔貴族と名乗っていく。


 王女であるアリスと上位魔人のスタンリーは、人間領に遊びに行ってもいいかなどと言っていたが。

 アリス王女はこの場で唯一の人魔種。

 王妃は人間であるはずだが、この場にいないという事は既に亡くなっているのだろう。




 全員が名乗り、それぞれ好き勝手に会話を始める。


 リルフォンのグループ通話では特定の人物との会話を優先させる事もできる為、通常の会話と同じように話す事ができる。

 スタンリーが千尋や蒼真との会話を始めると、負けじとアリス王女も話し出す。

 アリス王女が興味を示したのはやはり女性。

 その中のアイリの髪色が気に入って話しかけたようだ。

 長く伸ばした茶色の髪の毛を気にしながら、髪をどうしたら色を変えられるか、綺麗な髪型にはどうしたらいいかなど聞いていた。

 髪色はドロップが無いと変えられない為、今後良好な関係が築けるのであればアイリからプレゼントしようと提案。

 髪型に関してはカミン達がヘアカットの技術があるからと、今後切ってもらえばいいだろう。


 すぐ側で会話が始まっては他の魔人達も黙ってはいられない。

 各々興味を持った相手と会話をする。

 上位魔人にとっては綺麗な衣服を着た人間が気になるのだろう。

 そのうえこの寒い時期に薄着で映っているのだ。

 衣服に違いがあり過ぎて気になって仕方がないはずだ。

 魔人の衣服は朱王のヴリトラ装備よりも粗末な作りの魔獣の装備。

 強さを優先した女性魔人もおしゃれな装備が着たいと思うものなのだろう。

 今はまだ寒い時期なのだが、魔人達には耐寒装備がない。

 身動きが取れない時期とも言える。

 それを何事もないかのように動き回るカミン達の衣服にも興味があった。

 主に衣服や装備についての会話となっていた。




 周りで楽しそうに会話をするのを見つめる朱王とディミトリアス大王。

 しばらくその会話に耳を澄ませていた。

 このディミトリアス大王も全員の会話を聞き分ける程に能力が高く、北の国上層部であるこの者達が今こうして関係を築こうとしている事を確認し、考えをまとめて言葉を発する。


『朱王よ。我々北の国は人間領との和平を結ぶ事を約束しよう』


「そうか、ありがとう。今後……」


『ただし!! カミンの実力を確認させてもらいたい。北の国が人間領と和平を結ぶ事となれば他国が黙ってはいないはずだ。人間の実力がどれ程のものか知る必要がある』


「殺し合いではないなら受けても構わないが…… カミン、やれるかい?」


『喜んでお受け致します。実のところ戦ってみたくて仕方がなかったのですよ』


『カミン様!? やはりそんな事を!?』


『ソワソワしてたのはそのせいですか……』


 カミンを呆れ顔で見るマーリン達だが、普段見せない表情なので朱王としては少し面白かった。


『マーリンとメイサ、フィディックはどうする? お前達も戦ってみんか?』


『『お断りします』』


『オレも今はお断りします。いずれ挑ませてください』


 フィディックは挑んでみたい気持ちはあるようだ。

 しかしレベルが上限に達していない事や、マーリンやメイサに勝てる自信もまだ持てない為、今この時点では挑むべきではないと判断した。




『ではカミンの実力が我々に匹敵するものであるとすれば、東の国にも案内しよう。ただ…… 北の国の我々がもらった土産物を、何故自分達にはないのかと言われそうな気もするがな』


「じゃあカミン達には一度戻って来てもらうよ。必要な手土産を持たせて…… 今度は車で行かせようか。千尋君、ゼスに予備のエンジンあるし一緒に車作らない?」


「え!? いいの!? 作る!!」


『くるま…… 車!? あの映画に出てくるあの箱か!? それで来るのか!?』


「うん。この世界には一台しかないけどね。私の車は最大で十人乗れるし、そっちに少し大きめのモニターも欲しくない?」


 飛行装備では持てる荷物もそれ程多くない為、車で向かった方がいい。

 ついでに耐寒装備も持たせれば魔人達も自由に動けるようになるだろう。




『むぅぅぅ…… 魅力的な話ばかりだな…… しかし強さというのは魔族としては最も重視される事だ。人間の強さを知る必要はある!』


『では私のお相手をご用意ください』


「カミン、ヒーラーがいないかもしれないから怪我には気を付けてね」


『はい、朱王様。お気遣い感謝致します』


『では…… カミンと戦いたいものは手を挙げよ』


 ディミトリアス大王が問いかけるとアイザック以外の全員が手を挙げる。

 誰もがカミンを相手に遊んでみたいと思っていたのだろう。

 結局ディミトリアス大王が選ぶ事になった。

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