第187話 派閥

 お風呂とブロー魔法を終えた後はベイロンの作る美味しい夕食とお酒を楽しみながらシルヴィアの話を聞く。


 話は主に聖騎士の派閥についてだ。

 ここウェストラル王国は、以前内乱が多い王国だった為、貴族同士でも派閥がある。

 その貴族同士というのも問題があり、王族の血を引く公爵家同士の派閥の為、その下に着く聖騎士達も表立ったものではないが裏では分裂している。


 聖騎士長ともなればさすがに現王派であり、シルヴィアもハロルド=ウェストラル国王に忠誠を誓う。

 その為国王の代が変われば聖騎士長も変わる。

 聖騎士長とは現王に忠誠を誓う為、ニコラスも三代前のローザン=ウェストラル国王に忠誠を誓っていた。

 ローザン国王が我が子から次代の国王を任命し、前王となった事によりニコラスも聖騎士長の座を降りたとの事。

 次代の聖騎士長は新国王が任命するそうだ。

 また、国王が死去した場合にも国王は代を変えるのは当然だ。

 国王の子から次代の国王となるのだが、その国王は貴族達の支持によって選出される事となる。

 貴族を多く抱えた王子、王女こそが次代の国王となるとすれば派閥も自ずとできてくる。


 現王の子は五人。

 嫡男は正室の子でノーラン王子。

 年齢は二十六歳となり、ハロルド国王の十六歳の時の子供だ。

 性格は豪胆でやや短気。

 時折貴族とも揉め事を起こす、シルヴィアとしても頭の痛くなる王子だ。

 次男は側室の子でストラク王子。

 年齢二十三歳の穏やかな王子で、貴族や市民からも人気が高い好感の持てる王子との事。

 次に正室の子でルイン王女。

 年齢は二十一歳のとても美しい女性。

 ハロルド国王が朱王の嫁にと考えている王女だそうだ。

 四番目には側室の子でエイラ王女。

 十七歳でノーラン王子と似たように気が短く、ミスを犯した執事や使用人を拷問に掛ける事もあるとか。

 五番目には側室の子でルファ王子。

 まだ十歳と幼いが、頭も良く王族としての役割をしっかりと果たし、将来期待のできる王子との事。


 この五人のうち、次代の国王となるのが一人。

 最も可能性が高いのはストラク王子とシルヴィアは語るが、ノーラン王子の性格から考えればそれを阻止する為に何かしら行動に出ると噂されているそうだ。


 王子が三人いるので王女が女王となる事は考えにくいが、ハロルド国王は朱王がルイン王女と結婚するのであれば朱王を国王にすると言い切ったそうだ。

 商人から国王…… 出世もいいところだが朱王は興味がなさそう。

 ミリーが興味本位でルイン王女、エイラ王女について尋ねると、ルイン王女は可愛らしさのある絶世の美女、エイラ王女はその性格からか少しきつめの表情だが、やや童顔でルイン王女にも負けない美しさがあるそうだ。

 それを聞いて、私には獣耳が生えているとブツブツと呟くミリーは少し怖い。




 貴族達の支持する王子は不確かではあるがストラク王子が四割。

 二割ずつノーラン王子とルファ王子。

 残り二割は不明との事だが、現状ではストラク王子が最も優勢である事に変わりはない。


 そして聖騎士達の派閥がシルヴィアにとっての問題と考えるところ。

 聖騎士のうち四人がノーラン王子派閥であり、ストラク王子に四人、三人は現王に忠誠を誓うと派閥には属していないそうだ。

 ハリーは朱王以外誰に忠誠を誓うつもりもないので派閥は一切関係ない。


 そして今回のこの強化にはノーラン王子とストラク王子が、自分の分もお願いしたいと頼み込んで来たそうだ。

 シルヴィアとしてはノーラン王子の武器は断るべきかとも思ったそうだが、自分が強化するわけでもないので朱王にお願いしてみると一応は了承したそうだ。


 聖騎士に派閥があるとしても実力の程はどうなのか。

 シルヴィアが聖騎士長として最も強い事には変わりはないのだが、オリバーとフィンリーの二人が群を抜いて実力が高いという。

 どちらもノーラン王子派閥である事がシルヴィアにとっての最大の問題なのだと語る。




 また、この問題の裏にもまだある。

 過去の聖騎士達の派閥だ。

 現王であるハロルド国王は前王が任命した為、派閥による争いなどはなかった。

 しかしてハロルド国王派閥ではなかった貴族達はどうするか。

 次代の国王となるべく王子達へと派閥を別け、陰ながらその派閥を拡大、または縮小しながら複雑に形を変えているという。

 聖騎士達のうち数名は前王の退任と共に聖騎士の座を降り、新たな聖騎士を選出している。

 他にも家督を継ぐと聖騎士を降りる者もいる為、聖騎士は基本的にどの国でも若い者が多い。

 この時に降りた聖騎士達、戦闘において実力のある貴族が陰に潜む事になる。

 かつて内乱が多かった王国だ。

 密かに実力者を集め、反旗を翻して国王を倒そうと考えている可能性もある。

 今は密かにその時を狙っているとしたら。

 もしそこに新たな力が手に入れば行動を起こさないはずがない。

 千尋達の強化は、王国としては喜ばしい事である反面、危険を伴っているのだという。




 ニコラスも顎に手を当てて、シルヴィアの言葉と自分の把握している情報と擦り合わせをしている。


「なるほど。じゃあ明日強化に行こうか」


「ええ!? 聞いてましたか!? あっ、し、失礼しました…… しかし危険が伴うのですよ!?」


「別にシルヴィアがいるなら平気だろ。朱王さんの魔剣を受け取るんだからな」


 蒼真も強化しても問題ないという考えだ。


「少し聞きたい事があるんだけど……」


 千尋が視線を向ける先にはウルハとエイミー。


「ウルハとエイミーはどこの派閥かな?」


 当然の質問だろう。

 ウルハとエイミーは王族の血筋を引きながら朱王の邸にいる。

 かつての王権争いで敗北した王族の子孫であるはずだ。

 答えないかもしれないがこちらには朱王の記憶を漁るという能力がある。

 朱王は望まないかもしれないが、いざとなれば調べる必要も出てくる。


「私は朱王様派閥ですよ?」


「私はニコラス様派閥です」


「私は朱王様に忠誠を誓っておりますぞ」


 あっさり王国よりも朱王を選ぶ三人。

 自分の家柄はどうしたのだとツッこみたくもなるが、その表情は嘘など微塵も感じられない。


「朱王さん国王になれば?」


「やだ。めんどくさい」


 クリムゾンなどという超巨大組織を運営管理しておきながら、国王を面倒くさいの一言で切り捨てる朱王。

 朱王の能力であれば、国王をしながら遊んでいられそうな気がしてしまうのは千尋達の感覚が間違っているのだろうか。




 話し合った結果、聖騎士は全員強化し、ノーラン王子とストラク王子の武器強化もする事に。

 ついでに聖剣改造もしてハロルド国王には自分の身も守ってもらえば問題ない。

 予定していた順番とは変わってしまうが、まずは聖騎士長であるシルヴィアに魔剣の譲渡と、明日からは蒼真とミリーによるスパルタ訓練、もといデスパレード訓練を実施。

 シルヴィアは強制的に休暇を取得させられ、地獄の三日間を生き残ってもらおう。

 ハリーには聖騎士長代理として明日から三日間頑張ってもらう事にする。


 国王との謁見は明々後日の予定だが、朱王がちょっと会いに行くと言って聖剣の偽物を置いてくる事にし、聖剣は二日で改造してしまおう。

 予定していた謁見の情報は他に漏れている可能性もあるので、それまでには間に合わせる必要がある。

 とはいえ、擬似魔剣化したミスリル剣は現状の聖剣より強いはずなので問題ないのだが。


 聖騎士の強化は国王との謁見の後にすれば問題はないはずだ。


朱王[ハロルド国王、夜分すみません。今から其方にお伺いします。説明は誰かに聞かれても困るのでメールでさせてもらいますね。では後程]


「よし、メール送ったし行こうか」


「早速聖剣を受け取りに向かうのですか!?」


「ああ。ニコラスは騎士のミスリル剣を、ウルハは工具を持ってきてくれ。エイミーは二人分の黒装束を頼む」


「「「はっ!」」」


 すぐに行動に移るニコラス達。


「千尋君と私とで国王に会って来るから、みんなは映画でも楽しんでてよ」


「オレも行っていいの!?」


「うん、国王の邸に潜入しよう!」


「わーい、楽しみ!」


「ズルいな千尋。オレも行きたい」


 蒼真は常に強い相手との戦闘訓練をしているので、千尋がズルいと言われる筋合いはない。

 他にも行きたそうな目を向けて来るが、遊びに行くわけではないので諦めてもらおう。




 蒼真達はシルヴィアも巻き込んで映画鑑賞の準備に移る。

 早速訓練だと、少量のコーンで風と火を操ってポップコーンを作らせる。

 蒼真のように精霊魔法で作るよりも簡単なはずだが、やれと言われておいそれと出来るものではない。

 蒼真がどんどんポップコーンを作る横で必死に訓練をするシルヴィアだった。

 精緻な魔力制御をする為の訓練なので、是非とも覚えてもらいたいと思うのは蒼真だけ。

 言わなきゃ単なる手品師の訓練のようなものだ。

 あとはシルヴィアが気付くかどうかだが。

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