第157話 エルフとのお話

 お土産をエルフ族に運んでもらってヴァイス城へと入って行く。


 石で作られた城は光があまり入らない為薄暗く、ゴツゴツとした石の壁や床など、お世辞にも綺麗な城と言える物ではない。

 吹き抜けとなった高い天井だが二階があるわけではないらしい。

 入って扉を一つ抜ければ女王の間となっていた。


「クラウディア様。朱王様が訪問なされましたのでご案内させて頂きました。沢山のお土産も頂戴しております」


「んん。エーベルハルトは守護者全員呼んでくれ。朱王よ、久し振りであるな。以前の其方の働きによって我が同胞が奪われる事がなくなった。それに拐われたうちの数名はこの地に戻って今は元気に暮らしておる。感謝しておるぞ」


 エーベルハルトは守護者を呼びに出て行った。

 以前エルフ族は人間族によって拐われていたらしく、人間族の侵入を防ぐ為、また侵入されても連れ去られる事をなくす為にこの地を隔離したようだ。


「お久し振りです、クラウディア女王。今日は私の友人達と共にこの地に来てみましたよ」


「うむ。エルフ族女王、クラウディア=ヴァイスだ。朱王の友人達であれば歓迎させてもらおう。皆の名を聞かせてもらっても良いか?」


 朱王の友人達という事で笑顔を見せてくれるが、人間族に対する不信感は今もまだあるのだろう。


「姫野千尋、迷い人だよ! 女王様もめっちゃ美人だね!」


「高宮蒼真、同じく迷い人だ」


「リゼ=フィオレンティーノです。私も迷い人です」


「ミリー=アルヴレヒツベルガーです! エルフ族の皆さんがとっても綺麗で驚きました!」


「アイリ=ミアと申します。お会いできて光栄です」


「お初にお目にかかります。ノーリス王国第一王女、エレクトラ=ノーリスです」


 全員簡単に挨拶を済ませて本題に入る。


「人間領の全ての王国で奴隷制度を撤廃しました。これによりエルフ族の売買などの心配はありません。今後は安心して人間領へと足を運んでください」


「朱王がこの地を訪れてから三年、この短期間でもう奴隷制度を撤廃したとは……」


「実は二年前には奴隷制度は無くなってるんですけどね。私の部下が各地で安全を確保できるまではと時間を要しました」


「朱王の部下が各地に…… 確かに朱王の部下であれば信頼できるが実際に安全は保証できるのか? 我々エルフ族の血を欲する人間は少なくはないだろう?」


「まあそうでしょうね。しかし奴隷制度が無くなってしまえばエルフ族の人々を購入する事ができなくなる。拐って監禁するなどの犯罪を犯す者も無いとは限りません。しかし我々クリムゾンの暗部、そして各王国の暗部がそれを許さないでしょう」


「ねえ朱王さん。エルフの血を欲するってなんで?」


「私から話そう」


 話すべきか迷う素振りを見せた朱王だったが、クラウディアが自分から話すとした。

 エルフ族の血は人間や他の種族にとっては若さの維持と長寿の効果があるそうだ。

 人間族の寿命は平均七十歳と短く、欲深い人間達であればもっと長生きがしたい、若くありたいと思うのは当然の事。

 エルフ族も多種族に多少の血を与える事は問題はないとの事だが、エルフ族の弱点とも言えるべき部分が血を出す事を良しとしない。

 そのエルフ族の弱点とは傷が癒えない事。

 わずかな切り傷を負ったとしても数ヶ月から数年は完治しないそうだ。

 もし仮に血を出す為に傷を付け、血を流してしまえば何年もの間傷が癒える事はない。

 また、血を抜く為に血管を傷つけようものなら、手当てをしたとしても血が止まらずそのまま出欠多量で命を落とす可能性は大いにある。

 魔力の高いエルフ族はそう簡単に傷を負う事はないが、捕まって強引に血を手に入れようとした者がいれば塞がる事のない傷を負う事になるだろう。

 血を分け与える事は自分の死の可能性が高まる為、そう易々と血を出すわけにはいかない。

 そしてエルフ族は長命種である事から子供が産まれにくい。

 人型でありながら発情期があり、その僅かな期間に子供をもうけて子孫を残すのだと言う。

 長命でありながらなかなか新たな命は誕生せず、人間族によって血を奪われる事でその数を減らしていけば、いずれは種族が滅亡する日も訪れる。

 それを防ぐ為にも朱王にこの地を隔離してもらったのだそうだ


「エルフ族にヒーラーはいないんですか?」


 ミリーからは最もな質問。


「エルフ族はエルフ族特有の魔力である為ヒーラーはいないのだ。かと言って人間族を招き入れる事など出来ないからな。数年に一度産まれる赤子にヒーラーの魔力を目覚めさせる事ができればそれも可能だが……」


「私ヒーラーですよ? もうこの地に来ちゃってますけど?」


「そうなのか!? フローリアン! 現在赤子が産まれそうな者はおるか!?」


 部下の男性フローリアンに問いかける女王。


「あと三月もすれば出産を予定する者がおります」


「そうか。その頃にまた来てもらえれば我々エルフ族にも念願のヒーラーが誕生するわけか……」


「じゃあその頃にまた来ますよ。多分ゼス王国にいるでしょうから一日と掛からず来れますし」


「では頼めるか? ミリーにも世話になるな」


「女王陛下。発言よろしいですか?」


 フローリアンから何かあるらしい。

 女王が頷き話を始める。


「エルフ族に現在怪我を負った者が多くおります。客人であるミリー様にこのような事をお願いするのは失礼とは存じますが、そのお力を貸してはもらえないでしょうか」


「すまぬミリー。私からも頼めないだろうか」


「全然構いませんよ! 怪我人であれば治すのが私達ヒーラーです! 全員集めてください!」


「感謝する」


 急遽エルフ族の怪我人を全員集めて回復する事となった。




 エルフ族の怪我人を集める間、女王の間から客室へと移動して話をする。

 まずは今後はエルフ族にも人間領へと入れるようにクリムゾンが護衛につく事とした。

 金銭のないエルフ族だが、この地でしか採れない野菜や果物があるし商売も出来るだろう。


 それに朱王としてはこの美形なエルフ達には是非ともテレビに出てもらいたい。

 クリムゾンからは給料も払うしどうだろうと問うと、テレビとはなんぞやと言う当然の質問。

 とりあえず一から説明を始め、城から見える位置にモニター設置の許可をもらう。

 クラウディアにリルフォンを渡して時刻設定をしてもらい、使用方法を覚えてもらってから朱王がデータを転送。

 クラウディアの脳内視野にノーリス王国での映画の日の映像が映し出された。

 リルフォンを付けて脳内視野に画像が出てきたり、通話したりと驚きの連続だったが、動画として映像が映し出されるとまたそれ以上に驚いた。


 そこに集まって来たエルフ族の守護者達四名。

 エルフ族の中でも四人しかいない最強の精霊魔導師だという。

 エーベルハルトもそのうちの一人で、精霊魔導を使っていたので当然といえば当然だろう。

 そしてエルフ族の頭脳となるフローリアン他五名の、女王直属の部下達も呼ぶ。

 その十人にリルフォンを渡して時刻設定と使用方法の確認等してもらい、やはり驚いていたがあとで女王と通話だなんだとしてもらえばいいだろう。

 まずは女王と話した内容を説明し、守護者達や部下達も戸惑ってはいたが、この閉鎖的なエルフ族に未来が見えてきた事に希望を持ち始める。


 しかし世界を知らないエルフ族はお金の事も何も全く知らない。

 教養がないのなら勉強すればいいだろうと、クリムゾンの教員から数名をエルフ族の地に派遣する事を決めた。

 すぐに人間族の中に出て行く事は出来ないだろうし、教員達と触れ合う事で人間族に少しずつ慣れてもらえば問題ないだろう。


 守護者達には武器を用意する事を約束した。

 全員が魔木で作られた魔杖を武器としており、怪我を負う事ができないエルフ族の守護者達には弓矢が良いだろう。

 今使っている魔杖を熱で加工して、そこに魔力の溜まるミスリルを組み込んで魔弓を作ればいい。

 カインの魔弓を真似するわけだが、魔力の溜まるミスリルを使えばさらに威力も高くなるだろう。

 女王も同じように魔杖を持っているが、特別大きな魔杖のようだ。

 やはり王達用の武器は千尋に手掛けてもらおうかと朱王は勝手に考える。




 一頻り話し終えた頃に怪我を負ったエルフ達がヴァイス城へと運び込まれた。


 その数驚きの百人超え。


 怪我を治してくれると言って集めたところ、大きな怪我から小さな怪我まで多くの怪我人が集まって来たそうだ。

 僅かな怪我でも数ヶ月から数年治らないエルフ達ならばわからなくもないが。


 さすがに百人を超える怪我人をちまちま治しているわけにもいかない。

 大きな怪我を負った者は何年この傷に苦しんでいるかもわからないので、まずは手分けして全員の怪我を見て回り、怪我の小さな患者を集めて範囲の回復魔法をかける。

 およそ八十人ほどが小さな怪我だったので、十人ずつ八回に分けて回復を行った。

 一回の回復に五秒とかからないのであっという間に終わるのだが。


「小さな傷でも長い間痛みを感じていたはずです。痛みが引くまでは無理はしないでくださいね!」


 一応忠告して怪我人達には帰ってもらった。

 小さな怪我を治しただけだというのに、とても感謝されてミリーも照れていた。


 続いて骨折や自分で動ける程度だが大きな傷を負った者達を回復する。

 やはり長年治らない傷の為か、範囲魔法ではミリーの回復でさえも治りが悪い。


 仕方なく一人一人回復魔法を施す事にする。

 まずは骨折している人達の回復だ。

 触診と朱王のカスタムによるリルフォンのレントゲン機能を活用して骨のズレがない事を確認しつつ、骨折部分の結合を行う。

 治りが悪いが一人ずつであれば三分もあればくっ付くし、さらに回復魔法をかける事で完全に結合させた。

 八人が骨折患者で、治ると飛び跳ねるように喜んでミリーにお礼を告げて帰って行く。


 傷を負った患者は治りかけな者から回復する。

 傷口に魔力を流し込んで傷を消すようにイメージしながら回復すると、最後には瘡蓋のようになった傷口がポロリと落ちて塞がっていた。

 まだ傷を負って間もない者の方が回復は早く、状態は多少酷くてもすぐに治る。

 十人の怪我を治して次の患者へとむかう。


 自分では動けない程の怪我を負った者達だ。

 その中には足を折ったエルフもいるのでそちらから確認する。

 長い事くっ付かないというエルフの男性は、自分で動こうとしてしまったのだろう。

 レントゲン画像を見て回復が困難である事がわかった。

 これは外科手術が必要となりそうに見える。

 回復術師ではあるが、医師ではない為ミリーも外科手術は不可能だ。

 しかし回復の遅いエルフ族であればもうくっ付かないという事はないだろう。

 ミリーは集中力を高め、復元魔法としてのイメージを固めていく。

 綺麗に整った骨の状態を復元する為、一度くっ付こうとした骨の部分を分解。

 その分解した組織を利用して骨の結合を行い、およそ三十分をかけて骨折を治した。


 続く深い傷を負った数名を診る。

 怪我の状態から魔獣に襲われた傷だろう。

 最も酷い者は何年、十数年、何十年と長い年月を苦しみ続けていたのかもしれない。

 そう簡単には治せそうもない。

 まずは傷口の治りが進んでいない者から始める。

 長く苦しんでいる者達は時間がかかる事や、命の危険性がまだないと判断ができる為、まずは傷口の新しい者から。

 深い傷を負った者達の回復はやはり時間がかかる。




 ミリーが全力で回復魔法をかけている間、他のメンバーはヴァイス城とエマ城の中間位置、広場となっている場所にモニター設置を始める。

 守護者達や女王が見守る中、どんどん組み立てていく朱王達。

 地面にそのまま設置するのでは後方にいる人達が見えなくなるので、最初に千尋がその辺の岩場から巨大な岩をくり抜いて地面に固定。

 蒼真が風刃で真っ平らに整え、その上にモニターを設置した。

 スピーカーの設置と受信機を取り付け、魔力抽出用のボックスを設置。

 大量にある使い道のあまりない魔石を投入して完成だ。

 映画の魔石を持ってきていないので、ノーリス王国の映画の日の信号を拾って映像を映す予定だ。

 設置後の確認には千尋がリルフォンで受信機に繋いで自分の顔を映し出す。

 音声もしっかり出る事も確認して完成だ。




 しばらくしてミリーの回復作業も終了。

 重症だった患者達は、感謝と嬉しさのあまり涙を流していた程だ。

 何年もの間苦しみ続けていたのだ、涙を流すのも頷けるというものだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る