第153話 見送り

 リルフォン会談の後。


「ワイアット、ザウス王国行きを勝手に決めてしまったが良いか? 明日にでも経つつもりだが」


 それ程急ぎでもないのだが、ヴィンセントは早々にザウス王国へと向かうつもりらしい。


「私はヴィンセント様の弟子ですので構いません。ついて行きます…… が、朱王様よろしいですか!?」


「うん、構わないよ。もしノーリス王国内で何かあれば国王がオルネスの介入を許可してくれるでしょ」


「まあそれは構わん。兄上にはザウス王に恩を売り付けて来てもらうしな。ワイアットも励め!」


 ノーリス国王としては聖騎士達の強化によって、以前とは比べ物にならないほどの戦力増強がされている。

 今のカルラであれば強化前のヴィンセントでは勝ち目はないだろう。

 その事からも国の戦力としては充分保たれていると言っていいだろう。




 とりあえず今日の予定はもう特にはない。

 朱王邸に戻ってまた寛ぐかと王宮から帰る事にした。


 リゼはロナウド達とリルフォンで通話してくると部屋に戻り、ミリーもエレクトラを引き連れてハクアと通話しに部屋に走って行った。


 朱王はサフラやゼス王国の幹部達、区隊長達に指示を出す為部屋へと向かう。


 アイリもテイラーに連絡を取りに行く。

 もしかしたら訓練かもしれないが、その時は今夜また掛け直そう。

 と、この後部屋で通話したアイリは、ロナウド達がミリーと通話していた事もあって聖騎士達全員とグループ通話をした。

 美人で人当たりのいいアイリだし、聖騎士達のみならず王国騎士達からもその人気は高いのだ。


 朱雀はいつものように市民街へと遊びに行った。

 今日も買い食い三昧か。


 暇になった千尋と蒼真は聖騎士訓練場へと向かい、蒼真は何日か振りの戦闘訓練を楽しんだ。

 聖騎士達の成長もなかなかのもので、下級魔法陣までであれば精霊魔導の制御も実戦訓練で使用できるまでになっていた。

 千尋や蒼真のように下限側の精緻な制御はまだ不可能だが、戦闘においてそこまでは必要もないだろう。


 身体能力の元々高いノーリスの聖騎士達は、蒼真のヴィンセントを見て学んだ動きを試すのに丁度いい。

 サムナミ、フレツ、カルラと順に体力が尽きる度に交代してもらう。

 ランの風魔法によって羽毛のように軽く感じる体は、蒼真の体力を温存させる事が可能だ。


 さすがに千尋の四刀流には聖騎士達も捌ききれずに苦戦していたが。

 千尋の四刀流に対抗するにはただ受けては絶対に捌くことは不可能だ。

 千尋の動きを阻害し、ある程度攻撃の軌道を変えつつ回避と防御で耐えるしかない。

 複数を相手に戦う訓練をしたい千尋はクガウエとライゼン、キラヒミを相手取って剣を振るう。

 まだ魔族の軍団長クラスには届かないであろう聖騎士達だが、様々な精霊魔導で攻撃する事によって千尋も簡単には捌けない。

 強化のみの剣で三人を相手に全てを捌ききる千尋に、恐怖さえ覚える聖騎士達だった。






 翌朝、王宮にて。


「じゃあワイアット、ザウス王国でも頑張ってね」


「はい朱王様。ザウス王国でも自分を高める為努力致します!」


 幹部達、聖騎士達にも挨拶する。

 騎士団もワイアットの旅立ちの見送りに来てくれたようだ。




「兄上、達者でな」


「イスカリオット、私に言われるまでもないだろうがノーリスを頼んだぞ。息子達も母、イーディスをよろしく頼む。元気でな、イーディス」


「貴方、道中お気をつけて。くれぐれもご無理はなさらないでくださいね」


「父上、行ってらっしゃいませ。私も王国の為尽力を尽くしますので安心して行ってください」


「お帰りになったら旅のお話しをお聞かせください。楽しみにしております」


 ヴィンセントもノーリス国王や妻、息子達に挨拶をしている。

 奥さんはついて行かないのかと首を傾げるリゼ達女性陣。

 目元に涙を浮かべているイーディスを見て、自分だったらついて行きたいなと思ってしまう。


「あの! ヴィンセントさん! 奥様も一緒に連れて行かれてはいかがですか!?」


 思わず口に出してしまったリゼ。


「私も連れて行きたいのは山々だが空を行くのでな。渓谷の雨季が過ぎて橋が渡れるようになってから、騎士達を護衛につけて来てもらう予定なのだ。しばらくの辛抱だが仕方あるまい」


「…… 私だったら一緒に行きたいです! もしイーディス様が良ければ私の飛行装備をお渡しします!」


 リゼの飛行装備はC級素材。

 扱いはそれ程難しくはない為、ある程度魔力練度があれば使用する事が可能だろう。


「よ、よろしいのですか!?」


 と嬉しそうにリゼを見るイーディス。

 準備も何もしていないだろうが飛行装備があるならヴィンセントと共に向かう事は可能だ。

 それに空の旅である以上荷物も少なくしなければならない。

 装備と飛行装備、邪魔にならない程度の小さなバッグと中に入る程度のわずかな荷物だけ。

 ドレスや着替えなどは現地で買えばいいだろう。


「いっそリゼの今の装備全部あげちゃえば? また新しく和服装備も注文すればいいし飛行装備もまた作ればいいよねー」


「元の装備もあるし良いわ。和装はまた千尋がデザイン考えてくれるでしょ? イーディス様、如何ですか?」


「その綺麗な装備を譲って頂けるという事かしら。嬉しいわ」


 という事で別室に行ってリゼの装備とイーディスのドレスを交換する。

 一緒に行けると嬉しそうなイーディスに、リゼも言い出して良かったなと思う。


 着替えを済ませて戻って来たが、濃いめの紫色の髪をしたイーディスに装備の色味が合わない。

 イーディスも貴族用ドロップを使用しているので、朱王が魔石を交換してさらに煌きの魔石を追加。

 元の髪色の魔法を解除してドロップをまた付けると、髪が光を発して魔法が発動。

 赤茶色の髪色となり、眼も濃いめの赤。

 装備の色とも合っていてとても似合う。

 千尋がデザインしたかっこいい和装だったが、落ち着いた雰囲気のイーディスが着ればまた違った様相に見えるから不思議だ。

 若干派手かとも思ったが、このアースガルドであればこれくらい派手でも丁度良いくらいだ。


 あとは武器が無ければ道中危険もあるだろうと、ワイアットが予備に差している白木風の日本刀を持ってもらう事に。

 獅子王を持つワイアットも喜んで譲ってくれた。

 急遽精霊シルフと契約してもらい、下級魔法陣ウィンドとドロップに上級魔法陣エアリアルを組み込んだ。

 さすが剣豪ヴィンセントの妻イーディス。

 高い魔力と練度を持ち、精霊とも問題なく契約する事ができた。


「何から何までありがとうございます。これでヴィンセントと一緒にザウス王国へ行けますわ」


「リゼ殿、感謝する。この恩は……」


「あぁぁ! いいです! 私が勝手に言い出した事ですから!」


 胸元を抑えて、隠して言うリゼはドレスのサイズが合わないのだろう。

 しかしブロンドヘアで綺麗なリゼにはドレス姿がよく似合う。

 千尋が見つめているのを恥ずかしそうにするリゼだった。




「では行ってくる。皆の者、達者でな」


「ではわたくしも行って来ますね」


「行って来ます! 皆様お元気で!」


 ヴィンセントに続いてイーディス、ワイアットと空へと飛び立って行った。






 その後またフィアの元でリゼの和服装備を注文。

 千尋に任せて大丈夫なのだろうか。

 フィアはまた自分を指名してくれる事を嬉しく思いつつ千尋とデザインについて語り合う。

 可愛らしい装備が良いなと期待するリゼだった。




 朱王邸に戻ってリゼは即着替えに戻り、以前の装備を来て戻って来た。

 飛行装備作りはC級素材もほとんど残っていない為、A級素材で作る事にした。

 扱い辛い素材だが、毎日訓練しているリゼであればそれ程苦労する事なく飛ぶ事も出来るだろう。

 今回の飛行装備の色は真っ白な飛行装備を作り、濃いめのピンク色で装飾の刺青を入れていく。

 わずかに金の装飾を入れて、シンプルながら可愛らしい飛行装備となった。


 以前の装備には若干白すぎる気もするが、またミスリルウェアを買う予定なので問題ないだろう。

 純白の飛行装備は千尋の物と似ている為、リゼはそれだけでも嬉しそうにしていた。

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