第152話 リルフォン会談

「さて、挨拶も済んだところで本題に入ります。我々クリムゾンではクイースト王国で捕まえた魔族、魔人の一人を私の部下として迎え入れました」


 騒めく脳内会場。

 朱王がリルフォンにまた一手間加えて全員が同じ会場にいるように脳内視野に映像を重ねている。

 まだ魔人族を確認していないウェストラルではよくわからないといった表情をしているが。


『朱王よ。ゼス王国領内にいた魔族十六人をサフラ達が連れて来た。すでにボロボロで戦った後のようだが何故か懐柔されておったな。魔人共がハクアの命令は絶対とか言っておったぞ』


 朱王からすでに話を聞いているゼス国王は、カラカラと笑いながら領内の魔族を捕まえている事を明かした。


「末端の魔族はただ従わせられているだけでしょうからね。簡単に靡いてくれると思いましたよ」


『ちょっと待て朱王! 魔族が危険な存在であると皆に訴えたのは其方ではないか! それを部下にするとは一体何を考えているんだ!?』


「ウェストラル国王。私の目的は魔族との全面戦争ではありません。理性や知性を持つ人間族も魔人族も敵対せず、共存していく世界を作る事を目的としています」


『そんなのは夢物語だろう!?』


「いいえ、魔人族北の国では魔人族と人間族が共存している事をすでに確認済みです」


『んなっ!? 魔族領に入ったというのか!?』


 朱王は魔人族に関する内容を順を追って説明する。

 クイースト王国でフィディックを部下として迎え入れてから、魔人族北の国では人間族に敵対する意思がないという噂を聞いた事。

 そして東の国でも北の国同様の考えがある事。

 西と南の国では人間族に攻め込もうという考えがある事も説明した。

 そして魔人領の現在わかっている位置関係、北の国がクイースト王国から西方向にある事、危険性のある西の国がザウス王国より西方向にある事を話すと、ザウスとロナウドは自国が最初に襲撃を受けた事も納得したようだ。




 そしてフィディックについても説明する。

 まだ知られていない魔族の人間性ならぬ魔人性。

 単純にして純粋、そして素直なものの考え方や正直な物言い。

 感情表現が豊かで感動するとすぐ泣く事を嬉しそうに語ったのはリゼだ。

 ザウス王国やクイースト王国で絶大な強さを見せつけたリゼ。

 そして魔族を親の仇として恨みを抱いていたリゼが、大切な仲間を語るようにフィディックについて話をする様はザウスやロナウドにとっては真実と捉えるのに充分な内容だった。

 他国ではそれ程知られていないリゼだが、ザウスやロナウドが信じる様子を見せる事で静かに頷いていた。

 実は普段は軽薄そうな態度のザウスだが、相当な切れ者として他国では知られている。

 国王でありながら全く忙しそうに見せないザウスは部下の采配が上手いのか、それとも自分の仕事も部下にやらせているのかは定かではない。




 そしてクイースト王国での魔貴族と接触についても説明。

 超級魔獣デーモン討伐の際に襲われ、魔貴族と魔人の軍団長十人を倒した事を話す。

 その実力は軍団長一人一人が精霊魔導師となった聖騎士をも上回る事、魔貴族は自分達と同等の強さを持つと説明した。

 各国の王や聖騎士長達は底の見えない程の朱王の強さをよく知っている。

 その朱王が自分と同等と言うのであれば魔貴族が攻めて来た場合には勝ち目がない事を悟る。

 しかし自分達。

 それは朱王と共にいる千尋達の事だろう。

 実際に蒼真と戦ったロナウドやヴォッヂ、ゼス王とヴィンセントも魔貴族のその強さを想像し、さらにその魔貴族が各国に数十人いるだろうと聞けばその脅威は計り知れない。

 千尋達の強さを知らないウェストラル王とシルヴィアには、現在の各国強化された聖騎士達が一人でウェストラルの聖騎士を全員相手取る事も可能だと説明。

 たった一人の聖騎士に日々鍛錬している自国の聖騎士達が翻弄されると聞いては面白くはない。

 不機嫌そうな表情を見せるがこれが事実である以上そう説明するしかないだろう。

 戦闘を好むゼス王が事実だと告げると、ウェストラル王とシルヴィアも信じるしかないのだが。




 続いてカミン達の任務について説明する。

 カミンとマーリン、メイサ、レイヒムに魔人フィディックを含めた五人で魔族領入り。

 そして魔人族北の国、ディミトリアス大王に謁見して朱王の考えを話し、和平交渉をする事を目的としていると説明した。


 そして現在のカミン達の状況についても語る。

 魔人族西の国領内で魔人と接触。

 かつてのフィディックの知り合いで、北の国への案内をしてもらった事。

 そして西の領地と北の領地は幅数キロもある大きな川で分けられている事を説明した。

 そしてその川にいた超級魔獣ヒュドラを討伐して北の国に入ったと言うと、さすがに誰もが驚いた。

 超級魔獣を倒せる者などこれまで朱王以外知られていなかったのだから無理もない。

 それ程の強さを持つ者が朱王の部下としているのだ。

 クリムゾンの戦力が想像もつかないほど強大になっているのは間違いないだろう。


 ヒュドラを討伐した後にその様子を見に現れた魔貴族を尾行し、先日その魔貴族と接触した事も話す。

 その魔貴族の領地では魔人と人間が共存していた事、そして魔人と人間の混血種が多くいた事も話した。


 魔人と人間の混血種は何と呼べばいいのだろうか。

 魔人間まにんげんか?

 まともな人の様な呼び方なのがどうかと思う。

 あえて人魔と逆に読む事にしよう。

 人魔種は長命な魔人と短命な人間との混血の為、純粋な魔人よりも寿命は短い。

 それでも人間よりは寿命が長く、およそ三百年程となるそうだ。

 アースガルドの人間族の寿命はおよそ七十年。

 そして魔人族の寿命は十倍の七百年程だ。

 強大な魔力を誇る上位魔人に限っては一千年を超えて生きる者もいるが、寿命を延ばす為に魔力を削って命を繋ぐ必要があるらしい。

 話が逸れたので戻す。


 魔貴族領内にいたのは魔人と人間と人魔の三種。

 その種族による生活の違いもなく、誰もが手を取り合って生活しているとカミンから報告を受けている。

 やはり魔人や人魔は戦闘能力が高く、食料の魔獣調達には人間は行かないそうだ。

 その代わりに魔人達よりも器用な人間は料理をしたり建物を建てたりと、生活の基盤を支えるよう安全に暮らしているとの事。

 しかし国王達や聖騎士達はこの人間達はどこから来たのかという疑問が浮かんだようだ。

 これが全く知られていなかった事なのだが、自分達は西の人間族であり、人間族は他にも複数の地に存在していたのだと魔貴族からの情報を得ている。

 誰もが驚き、そして他の地の人間族が北の国以外は全て滅んでいると説明するとその事実に言葉を失った。

 魔族領内にいた人間族、そして南の地に住んでいた人間族は全て八百年前に魔王が誕生する前に滅ぼされてしまったのだとの事だ。


 今現在のカミン達だが、ディミトリアス大王領を目指して魔貴族のアイザックと共に向かっている途中だ。

 近々大王に謁見次第、今後の魔族との関係が動き出すだろうとして朱王は説明と報告を終える。




 一頻り朱王の話を咀嚼して考え込む王と聖騎士達。


『はっきり言って我々人間族では魔人族と戦争になった場合に勝ち目はない。魔人族一国が我々人間族五国をも上回る戦力を持つだろう』


 ゼス王が人間族の戦力を考えて、言いにくい事をまずは最初に切り出した。


「戦争になればな。だがこの任務が成功すれば魔人族の一国が敵ではなくなる。そして今のところ感触としては悪くはない」


 ノーリス王は朱王の考えに賛成派だ。

 まだ見ぬ魔人族だが、良い関係が築けるのであれば敵対する必要はないと考える。


『位置関係から考えて危険なのはクイーストだと思っていたのだがな。最も危険なのはザウス王国か。そっちは大丈夫なのか?』


 クイースト王は魔族に関して最も警戒していたはずだ。

 安心はできないものの朱王が敵対するつもりはない事を知っていた事もあり冷静だ。


『我が国は魔族領から最も遠いがそれ程までに強い魔族が多くいるとなると、攻め込まれた場合こちらもすぐに滅ぼされてしまうだろうな……』


 ウェストラル王は自国の戦力が強化されていない事もあり俯きながら考え込んでいる。

 シルヴィアも絶対の不利を悟って頭を悩ませる。


『朱王。クリムゾンの隊員をもう少しザウス王国に回してくれないか? 他国に比べて市民も少ない我が国では対抗できん』


 最も危険な位置にあるザウス王国に戦力をある程度寄せる必要があるだろうと判断したザウス王。

 クリムゾンへの協力を要請する。


「ゼス王国からサフラとハクアを回しましょう。二人で一国と戦えるだけの戦力があるでしょうからどうですか? クリムゾンの管理はイアンに任せます」


『サフラとハクアか。私の訓練相手はダンテにしてもらえばいいしな。ザウス、安心しろ。サフラとハクアはどちらも上級精霊と契約した化け物だ』


 朱王が回すと言ったのはたった二人だが、その戦力はゼス王国でも最大級。

 千尋達にも匹敵する強さを持つ二人だ。

 魔貴族が相手となる可能性もあるので数よりも質を優先した。


「イスカリオット。私もワイアットを連れてザウス王国に行っても良いか? カルラも相当な実力を身に付けておるしノーリスは魔族領から遠い。襲われるとしても最後だろう」


「そうだな。ザウス王、我が兄ヴィンセントを派遣するぞ」


 ヴィンセントは少し他国の騎士を見てみたいという気持ちもあって進言したのだが、ノーリス王も事の重要性を考えれば協力も厭わない。


『ノーリス王、朱王、感謝する。ゼス王は戦力を抱え過ぎだからいいだろう。ヴィンセント大公とワイアット君には邸を用意させてもらう。よろしく頼む』


 ザウス王が頭を下げ、ロナウドも続いて頭を下げる。

 思い掛けない最強の剣豪、ヴィンセントが応援に来てくれると言うのだ。

 ロナウドはヴィンセントが来てくれると言うので感謝よりも単純に嬉しそうだが。




 その後はもし襲撃にあった場合の各国の対応について話を詰める。

 襲撃に備えてザウスやクイーストではこれまで以上に調査や監視を増やし、もし動きがあった場合は即聖騎士長へと連絡が入る。

 聖騎士長から国王へと連絡し、国王から各国国王と聖騎士に同時に発信。

 大規模な戦闘となる可能性があった場合は、各国から聖騎士の半数が飛行装備で応援に向かう事とした。


 今後も飛行装備が必要になる。

 クイースト国王からの進言で、また飛行装備用の魔石を百個ずつ手配してもらえる事になった。

 その金額も大きい事から、各国で代金は負担。

 朱王達がまた飛行装備を作る事になるが、その作業工賃は別途支払ってくれるそうだ。


 その他リゼとアイリから各国の聖騎士達を属性ごとに勉強させる意味を込めて留学させてはどうだろうと提案し、それはいい考えだと聖騎士長達もその提案に乗る事にした。

 まずはウェストラルの聖騎士達の強化をしてからとなるが、今後留学してその実力を高めてもらいたい。




「皆様、今日の会談の時間を設けて戴きありがとうございました。また進展がありましたらメールにて連絡させて頂きます。では残りの時間は雑談としましょう」


 朱王が会談について話を占め、雑談の時間を設けた。

 するとこちら側の料理が美味そうだと質問責めにあったのは言うまでもない。

 メルヴィンが作ったメニュー。

 焼きそばに始まり、お好み焼き、高級魔獣肉のステーキと続き、もんじゃ焼きも楽しんだ。

 その後はデザートとして薄く焼かれたパンケーキに生クリームとフルーツを包み込んだクレープを食べる。

「うんまっ!」と頬にクリームをつけて頬張るミリーと、誰もが美味しそうにクレープに齧り付く。

 国王達も聖騎士長達も美味しそうな見た事もない料理に視線は釘付けだ。


「メルヴィンさん、チョコレートパフェも作れるか?」


 材料を見ながら言う蒼真と、もちろん作れると頷くメルヴィン。


 蒼真の前にチョコレートパフェが置かれ、また美味しそうに口に運ぶ。


「私にも特大のをください!」


「「「「私も(我も)!!」」」」


「じゃあオレはクリームソーダ飲みたい」


 蒼真のよりも大きなチョコレートパフェが女性達と朱雀の前に置かれ、嬉しそうにスプーンで掬って食べる。

「美味しい」と絶賛する女性陣。

 朱雀もすごく嬉しそう。

 千尋にも氷の入った緑色のメロンソーダにソフトクリームとチェリーが乗ったクリームソーダが置かれる。

 スプーンでソフトクリームを食べつつメロンソーダを飲む。

 半分までそのままの味を楽しんだら混ぜて飲むのが千尋の飲み方だ。

 ノーリス王やヴィンセント、ワイアットも同じようにパフェやクリームソーダを貰って美味しそうに食べていた。


 各国国王も聖騎士長も羨ましくて仕方がない。

 最後まで自分にも作ってくれと騒いでいたが、場所が違うのでそれは不可能だ。

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