第151話 リルフォン会談挨拶
映画の日の翌日の朝食中。
「一昨日と昨日はウェストラルとザウスでも映画の日を開催してどちらも大成功に終わったって連絡があったよ」
「そっかー。良かったね!」
「映画は最高ですからね!」
「で、だ。どちらの国王からもリルフォンで連絡を取れたんだけど、今日のお昼に電話会談ならぬリルフォン会談をする事になったんだ。各国の国王と聖騎士長に参加してもらうんだけど、君達も参加するべきだと思ってね」
朱王は北の魔族の話をするのだろう。
そして千尋達も各国の戦力増強などについて大きく貢献している。
敵対する可能性もある魔族の話であれば参加するべきだろう。
もし北の国の大王と和平が成立したとしても、他の国の大王達が黙っているとは思えない。
フィディックの話では西と南の大王は人間族の敵となり得る可能性は大いにあるのだ。
「でもなんで昼なの?」
「王達は忙しいから昼に食事をしながら会談しようという事になったんだよ。ザウス王だけはいつでもいいと言ってたけどね。私達は何を食べようかな……」
「またお好み焼き食いたい!」
「オレも焼きそばとか焼うどん食いたい」
「私は朱王が言ってたくれーぷが食べたいです!」
「焼きそばもお好み焼きも美味しかったですものね」
「くれーぷとは何でしょうか?」
「甘いクリームやフルーツを薄いパンケーキで包んだ甘味よ。すっごく美味しいから私も食べたいわ」
「じゃあ鉄板焼きにしようか。メルヴィン、用意できる?」
「お任せください朱王様。満足できる品をご用意いたします」
好き勝手言うメンバーだが、朱王の魔石から様々な料理を学んだメルヴィンは、調味料と具材さえあればどんな料理でもある程度再現できる自信がある。
自分の料理の腕をさらに磨くためにも、作って欲しいと頼まれれば喜んで作ってくれるだろう。
会談は朱王邸でもいいのだが、ノーリス王宮で会談すれば国王も一緒にメルヴィンの料理が楽しめる。
ヴィンセントとワイアットも参加させて、一緒に食事をしながら会談する事にした。
十一時には王宮へと足を運び、ヴィンセントと挨拶をしつつ会場の用意ができるまで応接室で待つ。
会場と言っても王宮内にある食堂なのだが。
ヴィンセントからワイアットの話を聞いたが、才能豊かで性格も素直。
教えた事は体に染み込ませるまで訓練を続ける努力家だと絶賛していた。
これは成長が期待できると蒼真も嬉しそう。
近いうちに遊びに行くのは確実だろう。
蒼真からもエレクトラの勉強について話をする。
するとヴィンセントも知り得ない知識を身に付けているエレクトラを羨んでいた。
メルヴィンは王宮の料理人に指示を出しながら鉄板焼きの準備を進めている。
王宮に仕える料理人も初めての料理に興味津々だ。
今後彼らにも朱王の魔石を貸し出せば王宮でも様々な料理が楽しめるようになるだろう。
十二時前にはノーリス国王も応接室にやって来て待機。
その後すぐにメルヴィンが食事の準備ができたと呼びに来たので食堂へと向かう。
横一列に並べられた鉄板と複数の料理人が待っており、それぞれ席に着いてリルフォン会談の時間を待つ。
メルヴィンとともに料理人達が鉄板に油を引いて調理を始める。
まずは千尋の要望にあった焼きそばが作られる。
手際のいい料理人達が目の前で焼きそばを作ってくれるので、美味しそうな香りが食欲をそそる。
時刻は十二時。
「コール……」
朱王は千尋達と各国の国王、聖騎士長達に同時に発信。
全員の応答を待つ。
応答したノーリス王国鉄板焼き待機メンバーに続いて、ゼス国王、バルトロの姿が脳内視野に映し出され、次々に各国国王と聖騎士長達の姿も映し出されていく。
脳内視野に映し出された全員が昼食を前にして椅子に座っている。
「各国国王様、聖騎士長の皆様、ご無沙汰しています。クリムゾン総帥、緋咲朱王です。本日は貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます。まずは初めてお会いになる方もいらっしゃると思いますので、簡単な挨拶から始めたいと思います。ではノーリス国王から」
「ん? 私からか? 私はイスカリオット=ノーリスだ。各国国王達は久しいな。今日はよろしく頼む」
「本当に簡単でしたね…… もっと言う事あるでしょう?」
「うるさい。早く次に行け!」
「ではクイースト国王」
『んん。シダー=クイーストだ。国王達が一堂に会するなど初めてだな。今日は良い話が聞ける事を期待している』
「次はゼス国王」
『うむ。ウィリアム=ゼスである。皆がこうして顔を合わせる事ができた事を嬉しく思う。それとまず最初に言いたい事がある。見ろザウス。これが私の聖剣、ガラティーンだ。其方の聖剣に負けぬ美しさだろう?』
『なに!? むぅぅぅぅぅん…… 悔しいがさすがは千尋の改造した聖剣だな! 素晴らしい出来だ!』
「じゃあそのままザウス国王」
『ザウスだ。ザウス王国国王は名前を継承するのでな。名前はザウスだけだ。オレからもゼス王に言わせてもらう。オレのバルムンクの方がカッコいい!』
『ふっ。相変わらずだな』
「まぁどっちも放っておいてウェストラル国王」
『私はハロルド=ウェストラルだ。ザウス王め…… 聖剣を改造したと自慢して来たと思ったらゼス王もか! 其方らは聖剣をなんだと思っておるのだ!? 国そのものとも言える聖剣を改造するなどあってはならん事だろう!!』
『何を言っているんだウェストラル王。私は聖剣アスカロンと魔剣アロンダイトの二振りを持っておるぞ。今は国王は聖剣を改造して美しくする時代なのだ』
「ウェストラル王。私も千尋に改造してもらったぞ。聖剣フラガラッハ。私の聖剣こそ最高の剣と言えよう」
私の聖剣こそ最高の剣だと言い争いを始める国王達。
若干呆れつつも次の挨拶に移る。
「どの聖剣も素晴らしいですからとりあえず落ち着いてくださいね。次は聖騎士長達に挨拶してもらいましょうか。先程の国の順にお願いします」
「ノーリス王国聖騎士長、カルラ=フレッチャーと申します。朱王様より魔剣クリカラを頂きました」
と言って見せつけるカルラ。
国王達の聖剣自慢に触発されたのだろう。
他の聖剣や魔剣にはない作りのクリカラに、皆んな興味深そうに見つめていた。
『クイースト王国聖騎士長、ヴォッヂ=ヘイスティングスっス。魔剣エッケザクス。たぶん最大の魔剣っスね!』
ヴォッヂも同じように魔剣を見せつける。
幅の広い長大な魔剣に誰もが驚きの表情だ。
片手で軽々と魔剣を見せつけるように翻すヴォッヂは、相当な実力をつけたであろう事がわかる。
『ゼス王国聖騎士長、バルトロ=レイノルズです! 魔剣リジルを朱王様より承りました!』
魔剣リジルはそれ程特徴のある剣ではない。
純粋な片手直剣ながら、ギラつく程に輝く金色のガードの装飾に刀身の青が映え、刃の空色とその境目に入った金のラインがまた美しい。
特徴的ではない装飾剣でありながら、目を惹く作りとなっている。
『儂はザウス王国聖騎士長、ロナウド=アイゼンハワーじゃ。リゼの作った魔剣デュランダルは儂の宝じゃ』
デュランダルを高らかに上げて見せつける。
真っ黒な刀身に赤いラインと悪魔の翼を模したガード。
魔剣と呼ぶに相応しいだろう。
『…… ウェストラル王国聖騎士長、シルヴィア=ガルブレイズです。魔剣…… 私も欲しい!』
唯一の女性聖騎士長シルヴィア。
魔剣を自慢する他国の聖騎士長が羨ましくて堪らないようだ。
「シルヴィアには私が魔剣を作ってあるから今度渡すね。気に入ってくれるといいけど」
『本当ですか朱王様!? 感激です!!』
『なっ!? シルヴィアもあのような剣を受け取るというのか!? ズルいだろう!!』
やっぱりウェストラル国王も羨ましかったらしい。
「じゃあ次はヴィンセントさん」
「ふむ。ヴィンセント=ノーリスだ。国王のイスカリオットとは違って剣術が好きでな。政務は他の者達に任せっきりだが腕には自信がある。イスカリオット共々よろしく頼む」
国王や聖騎士長達も騒めく。
音に聞こえた剣豪ヴィンセント。
その実力はノーリス最強とも、人類最強とも囁かれる程。
「次ワイアット」
「え!? 私もですか!? ワイアット=クリムゾンです! 朱王様の部下であり、ヴィンセント様の弟子として修行中の剣士です!」
またも騒めく事となった。
剣豪ヴィンセントの弟子ともなれば、その実力は相当なものだろうと予想されているようだ。
クリムゾンを名乗るワイアットだが、市民にはラストネームの無い者も少なくない。
その為ラストネームの無い隊員達はクリムゾンを名乗る事としている。
一通り挨拶を終え、最後に国とは直接関係のない千尋達の挨拶だ。
「姫野千尋。冒険者だよー。なんかザウス王だけ王様っぽくないね!」
『なんだと!? 立派に王様してるっつの!!』
『ぶはははっ! 千尋、もっと言ってやれ!』
ザウス王とゼス王は仲が良いんだか悪いんだかわからない。
「むぐ…… 高宮蒼真だ。メルヴィンさん、もっとソース塗ってくれ」
蒼真はお好み焼きを食べていた。
『蒼真久し振り! 美味そうだな何食ってんだ?』
「これはお好み焼きって言うんだ。今度ヴォッヂにも食わせてやりたいくらい美味いぞ」
『蒼真よ、私もまた一段と強くなったぞ。今度会う時は前回のようにはいかんぞ』
「それは楽しみですねゼス国王。期待してますよ」
また戦おうと言ってくれるゼス国王に嬉しそうに返す蒼真。
そしてお好み焼きを頬張る。
「次は私! リゼ=フィオレンティーナよ。ロナウド様、今夜レミリア達と一緒にお話の時間を設けてくれませんか?」
『おお、リゼ。久し振りに見れて嬉しいわい。では今夜みんなで話をしよう』
「ひゃあわたひのわんうぇふえ!」
「ミリーさんは食べ終わってからお願いします。皆様こんにちは。アイリ=ミアと申します。現在は冒険者をしております」
『アイリ久し振り。テイラーが会いたがっていたぞ』
「ザウス国王様お久し振りです。では私からテイラーさんに連絡してみますね」
アイリはザウス王国を出る前に、聖騎士達やクリムゾン隊員達と共に訓練をした。
その際にテイラーと仲良くなって蒼真の授業の復習などを一緒にやっていたのだ。
「今度こそ私の番ですね! ミリー=アルブレヒツベルガーです! 朱王の、こ、恋人です!」
『今思い出してもミリーの訓練は死ぬかと思う程キツかったっスねー。まぁそのおかげで今のオレがあるんスけど、シダー国王様も今度やってみるといいっスよ」
『ヴォッヂが死ぬかと思う程だろ? 絶対にやりたくないな』
「何を言ってるんですか! 疲れてきたら回復してあげたじゃないですか!!」
『そのおかげで死ぬかと思う程訓練させられたっス』
ミリーの訓練は回復し続ける事で休みの一切ないエンドレスな訓練だ。
肉体が限界を迎えて悲鳴をあげ、即回復する事によって体力は回復するものの、すり減った心までも回復される事はない。
もう限界だと思ってから始まるデスパレードな訓練は、受けた相手に限界の先の先のずっと先を見せてくれる。
それはもう走馬灯のように過去を振り返る事さえ可能なレベルで、多少の辛さは全く感じる事が無くなるほどだ。
ミリーの訓練を受け続けたヴォッヂは、死の先の何かを見つけてきたのかもしれない。
「では最後はわたくしが。エレクトラ=ノーリス第一王女です。現在はわがままを言ってミリーさん達のパーティーに加えて頂いております」
『んなっ!? 汚いぞノーリス! このパーティーに娘を送り込むとは! 朱王! 私の娘……』
「子供はダメですよ!! そもそもエレクトラさんはミリーの友人としてパーティーに入ったんです。これ以上パーティーが増えても移動も何もできなくなりますからね!」
ゼス国王から娘を送り込まれそうになったので、言い切る前に阻止する朱王。
五歳児をパーティーに同行させるなど以ての外だ。
「む? 我も名乗るべきか? 我は朱雀じゃ。朱王の精霊として契約しておる」
再びお好み焼きを頬張る朱雀。
側から見ても美味しそうなお好み焼きに、他の国王達も羨ましそうに見ているのだった。
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