第150話 映画の日はお祭り
「よーし、魔貴族との話も終わったしお祭り見に行こうよ!」
この日は映画の日初日だ。
クリムゾンで映画の日開催の話を広めた甲斐あり、市民街、貴族街ともに露店が立ち並んでお祭り騒ぎとなっているそうだ。
全員和装でお祭りを見に行くのも悪くはないだろう。
貴族街に着くとそこには溢れんばかりの人集り。
各地の貴族達も使用人達を連れて大勢でやってきているようだ。
貴族街に並ぶ露店は一般市民の店だが、役所に届け出る事で営業する事が可能だ。
役所の信用の元、貴族街に立ち入る事が許可された商人がそれぞれの商品、主に食べ物を販売している。
それに貴族街ではお金の支払いはなく、商品の売れ行きによって役所から代金が支払われる。
貴族側からは寄付という名目の元で役所にお金を渡されてあるので問題はないのだ。
ただし宝石などの高額商品の販売は禁止されており、出店可能なのは食品類のみとなる。
朱王邸からも役所にはすでに寄付がされているので露店の食べ物は何でも食べて良い。
「おっちゃん! じゃがバターを八つ!」
早速朱雀が露店で全員分の注文をする。
朱雀がよく買い食いしているポテッツ屋の店主が、バターを仕入れて販売していた。
乳製品屋の店主もバターを売って儲けが出るし問題ないのだろう。
「じゃがバターですか。どんな味ですかね…… ふおぉぉぉお!! すっごく美味しいです! 皆さんも熱いうち食べた方が良いですよ!」
ミリーは大声で大絶賛。
道行く貴族もじゃがバターに興味を示す。
しかし見た目的には雑多な料理で食欲をそそられない。
「んんん!! 本当に美味しいですね! 王宮でもこんなに美味しいものを食べた事がないですよ!」
ここ最近出店で買い食いがお気に入りのエレクトラ。
外で歩きながら食べるという行儀が良いとは言えない行為だが、普段の一流の料理にはない美味しさに表情も綻ぶ。
そんなエレクトラの姿、しかも王宮でも食べた事がないなどと言われては食べないわけにはいかないだろう。
ポテッツ屋には貴族の長蛇の列が並ぶ事となった。
最初に購入した貴族の男性も大絶賛。
後に並ぶ貴族達もその味に期待し、実際に食べて納得の美味しさに満足そう。
今後はしばらく並ばなければ買えないかもしれない。
その後は魔獣肉の串焼きや果実を絞ったジュース、各地から持ち寄られたお酒を手に貴族街を練り歩く。
「お祭りだから焼きそばが食べたいなー」
やはりお祭りなら焼きそばだろう。
しかしここアースガルドにはソースなどない。
塩焼きそばならいけるか。
麺があればなんとかなりそうだが…… 辺りを見渡すとうどん屋はある。
この国のうどんは基本的にカトブレパス肉の出汁と塩味のうどんだ。
もしかしたらそれらしい物は作れるかもしれない。
「コール…… メルヴィン! 今貴族街にいるんだけど焼きそばが食べたい!」
『焼きそばですか…… お任せください』
とりあえずメルヴィンに任せておけば大丈夫だろう。
いっそお好み焼きも作ってもらえると嬉しいが。
メルヴィンの焼きそばの用意ができるまで貴族街、市民街の出店を見て回る。
貴族街では食品しか売られていなかったが、市民街では景品を当てるくじ引きなどの出店もあった。
くじ引きは一回300リラ。
試しにミリーとエレクトラが引いてみたが、皮製のボールとオモチャの木剣が貰えた。
値段に対してこの商品であればそこそこ当たりではないだろうか。
そして市民街の広場では魔獣を使役した見世物もあり、普段魔獣を見る事のない市民達はその巨大で恐ろしい姿に恐怖する。
また、小型の魔獣も複数使役されており、魔獣使いの女性の合図に従って芸をして見せる。
指示に従う小さな魔獣は可愛らしく、子供達に人気の見世物のようだ。
広場に来たついでにモニターの前で待機するシャルムに頼んで音楽の魔石を再生する。
各地のモニターに送信してノーリス王国中でノリのいい曲が流れ出す。
これまで聴いたこともない音楽に市民達も貴族達も熱狂し、映画上映前から大いに盛り上がりを見せた。
夕方になって貴族街まで戻ると、緋咲宝石店前で出店するメルヴィンの姿があった。
鉄板をヒートの魔石で熱し、油を引くと香ばしいいい香りが辺りに立ち込める。
どこから仕入れたのだろう、ごま油と同じような香りだ。
生姜のような薬味を追加して熱し、少し加熱して薬味を取り除く。
またこれもどこで手に入れたのだろう、ちぢれた中細麺を投入して炒め始める。
その横で野菜や肉を別に炒め、麺に調味料で味付けをしてから具材と混ぜ合わせる。
焼き上がった焼きそばは懐かしいソースの甘辛い香りを漂わせ、道行く人の鼻腔を刺激する。
使い捨ての容器に盛り付けられた焼きそばは見ているだけでも美味しそう。
「朱王様、ご所望の焼きそばです。皆様もどうぞ召し上がってください」
「待ってたよメルヴィン。では早速頂こうか!」
朱王とともに全員で焼きそばを一口。
「「「「「うまい!!」」」」」
「「「美味しい(です)(ですわ)!」」」
和服で目立つ一行が焼きそばを食べて口々に美味いと声を上げるのを見て、じゃがバターの店で並んでいた貴族達がまたメルヴィンの出店の前に並び出した。
「メルヴィンありがとうね! 美味しかったよ、ご馳走様!」
皆んなで「ご馳走様でした」とお礼を言って焼きそば店を後にする。
もちろん宝石店の店員達の分も作ってもらっている。
休憩中にでも食べてもらいたい。
「いやー、久し振りの焼きそばは美味しかったね!」
「祭りと言えば焼きそばだよな」
千尋と蒼真も久し振りに食べた焼きそばに満足そうだ。
ほぼ完璧に再現された焼きそばに、メルヴィンの料理人としての腕が優れている事がよくわかる。
これまで和食ではない和食を食べていた事で、美味しいんだけど何か違うという感覚が抜けなかったせいでメルヴィンの腕がよくわからなかったのだ。
たくさんの出店の料理と焼きそばを食べた事で満足したところで、クリムゾン訓練場へと向かう。
今回の映画上映の送信場所が訓練場の為だ。
時刻は十九時前。
この日の上映前挨拶はノーリス国王と聖騎士長カルラ。
忙しそうなノーリス国王には申し訳ないが簡単に挨拶をしてもらおう。
『ノーリス王国に住まう国民達よ。ノーリス王国国王、イスカリオット=ノーリスである』
王国にあるすべてのモニターに国王の姿が映し出される。
『今夜は我が国でも映画を上映する。我々の知らない世界の物語をこの目で観る事ができる。映画は面白く、感動し、心踊る物語の数々を観る事ができる素晴らしいものだ。皆の普段の働きに感謝し、娯楽として毎週末にこの映画の日を設けようと思う。是非とも楽しんで欲しい』
簡単ではあるがノーリス国王からの挨拶が終わり、次に映し出されたのはカルラ。
『ノーリス王国聖騎士長カルラ=フレッチャーである。今夜から放送される映画は素晴らしい物語が多くある。その全てが我々の知らない世界、迷い人の世界の物語を観る事ができるのだ。しかしこの映画にも限りがある。そこでクリムゾンではテレビ局なるものを立ち上げて、新たに物語や番組を作って放送していこうと考えているそうだ。もし今夜映画を観て、クリムゾンのテレビ局に協力したい、支援したいと考える者は是非とも協力をお願いしたい。より良いノーリス王国の為、より楽しい娯楽の時間を設ける為に国を挙げて協力していって欲しい。まずは映画を観て楽しんでくれ。これまでにない感動が皆の心を埋め尽くすだろう』
カルラの挨拶が終わると映画が始まる。
【◯映】と表示されているがいいのだろうか。
…… いいんです。
アースガルドに地球の著作権は適用されないんです。
およそ二時間の映画に国民達は酔いしれ、心を震わす程の衝撃を受ける事となった。
これまで観たこともない世界。
心を揺さぶるストーリー。
感動と興奮に包まれ、映画の日初日の放映は大成功を収めた。
送信していたクリムゾン訓練場でも物語の結末に盛り上がり、ノーリス王国全土で大盛り上がりを見せた。
この日は朱王にとって楽しい事ばかりだ。
カミン達の魔貴族との接触から映画の日のお祭り騒ぎ、成功を収めて盛り上がる。
千尋や蒼真、リゼにアイリも楽しそう。
エレクトラもミリーと一緒に映画の内容を楽しそうに語り合う。
もうこんな日は飲みに行くしかないな!
よし、飲みに行こう!
綺麗なお姉さんのいる店に飲みに行くべきだ!
「よーっし! 今夜はパーっと飲みに行こうか!!」
「「「やったーーー!!」」」
「警備のみんなには悪いけどここにいる全員で飲みに行くよ!」
「「「「「はい!!」」」」」
綺麗なお姉さんのいる店はミリーによって却下され、クリムゾン隊員とともに貴族街にあるお洒落なバーでお酒を飲んで楽しんだ。
翌日の映画の日二日目も祭りを見に行って買い食いしまくった。
お好み焼きが食べたいと言う朱王の期待に応え、メルヴィンはこの日焼きそばとお好み焼きを同時販売。
焼きそばのみならずお好み焼きも再現度が高く、ソースとマヨネーズが絶妙な極上のお好み焼きを食べる事ができた。
夜は昨夜と同じく映画を上映し、挨拶に登場したのはヴィンセントとワイアット。
剣豪ヴィンセントの人気は高く、国王よりも支持されているのではないかと思う程に国民の歓声があがっていた。
それに続いたワイアット。
ヴィンセントが聖騎士から引き抜いた新たな弟子だと告げると、国民達もさらに盛り上がる。
その後の映画も国民達に驚きと感動を与え、翌朝から物語に引き込まれた者達がクリムゾンへ協力を申し出たのは言うまでもない。
二日間の映画の日は大成功に幕を閉じた。
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