第148話 日本人っぽく

 その日の夕方。

 邸のロビーでくつろいでいると。


「朱王様。仕立て屋のフィアがお着物が出来たとの事で来ております」


「そうか。通してくれ」


 ムルシエがフィアを呼びに向かい、戻って来ると多くの荷物が運び込まれる。

 全員分の和服装備だ。


「では皆様の分お名前をお呼びしますので順番に受け取ってください」


 フィアに注文した順番に名前が呼ばれ、それぞれ和服を受け取っていく。

 エレクトラの分も注文してあったが本人はそんな事とはつゆ知らず、名前を呼ばれて驚きつつも嬉しそうに受け取った。




 さて、それぞれの和服装備を紹介しよう。


 千尋は黒いの着物に白い麻の葉模様の羽織を重ね、袴は黒と消炭色の矢絣やがすり模様。

 羽織は右袖のみ黒とし、左の脇下に一筋の黒を入れてある。

 袖口と襟元に赤を入れる事で飛行装備の色に合わせている。

 短めの羽織は背中部分が開くよう作られており、飛行装備を使用しても支障はない。




 続いて蒼真。

 濃紺の着物に同色の羽織を重ね、亀甲柄の袴は白から黒のグラデーション。

 亀甲柄のみ銀色となる。

 いかにも蒼真の選ぶ和服といった姿だが、本人が選ぶだけあってとても似合う。




 リゼは紅梅色の着物に飛行装備に合わせた桜色の羽織。

 真っ赤な袴には銀色の菱文様。

 千尋がデザインしたちょっとかっこいい和服スタイルだ。




 アイリは桔梗色の着物に濃藍の袴を履く。

 淡い紫色の羽織は飛行装備の色と合わせており、紫陽花模様が女性らしく、可愛くも美しい表情を見せる。




 ミリーは白い着物に黒の袴で白黒で統一した。

 袴の裾には白い波模様を入れ、羽織は黒に襟元を白とした。

 羽織の背中と肩には菊文様を入れ、女性ながらに勇ましい装いに。

 それに合わせて髪も頭頂部で結んでサムライ風にする。

 ただし獣耳だが。




 朱王は黒い着物に黒の羽織と黒の袴。

 羽織は氷模様を銀色で入れ、袴の雪輪模様は銀色と所々に天色や菖蒲色を配す。

 全部が黒の装備だが、模様のおかげで見た目は派手な印象だ。




 エレクトラの見た目は巫女さん。

 白い着物に赤い袴を履き、白い羽織には赤い紐が通されており見た目にとても美しい。

 シンプルながらグッとくる装備だ。




 朱雀の装備は今回朱王とは変えてある。

 真っ黒な着物に黒地に金色の波模様の袴を履き、真っ赤な膝丈まである羽織には朱雀の本来の姿を金色で入れてある。

 なんとも歌舞いた装いとなった。




 全員の試着が終わり、その出来に満足した一行はフィアにお礼を告げた。

 ムルシエからは代金が支払われたが、千尋達は出さなくてもいいのだろうかと毎回ながらに思う。

 代金を受け取ったフィアは、またのご利用お待ちしていますと邸を後にした。


「ふおぉぉぉお!! 私の和服はなんかかっこよくないですか!? これ絶対朱王が決めましたよね!?」


「当然! また黒で悪いんだけどかっこいいミリーも見てみたいと思って決めたんだよ」


「黒でも全然構いません! 朱王は相変わらず真っ黒ですけど何故か派手ですね!? それ以上に朱雀はなんですか!? ド派手でかっこ可愛いですねー!!」


「なんか今回のは朱王と違うのぉ。背中には我の姿も描かれておるし何だか自分大好きな人みたいじゃ。じゃがこれはこれでかっこよいのぉ」


 和服姿に大興奮のミリー。

 朱王や朱雀も新しく着る和服にちょっと嬉しい。


「これ千尋が決めたんでしょ!! なんか千尋っぽいもの!!」


「うん、そうだよ! オレ好みのかっこいい和服にしてみたー!」


「確かにかっこいいけどできれば可愛いのにして欲しかったわ…… 千尋のを」


「オレのかよ!?」


 リゼは自分の装備を千尋が決めた事は全然構わないのだが、千尋が男らしい和服だった事にちょっとだけ、結構、かなりがっかりした様子。

 似合っているとは思うが納得はいかないようだ。


「私のは蒼真さんが選んでくれたんですか? この配色や花のあしらい方とかすっごく私好みです!」


「気に入ってくれたのなら良かった。アイリに似合うと思って考えたんだ」


「ぅぅ嬉しいです!」


 顔を紅潮させて喜ぶアイリは相変わらず綺麗だと思ってしまう蒼真だった。


「わたくしのは一体誰が……」


 エレクトラもミリー達のように誰が考えたのか知りたいようだ。


「エレクトラのは蒼真が言い出したんだよ。巫女さんとか似合いそうって。オレも朱王さんもすっげー納得しちゃったもん」


「蒼真さんが決めてくれたのですか。ありがとうございます。とても気に入りました」


 笑顔を見せて言うエレクトラはやはりとんでもなく美人だ。

 千尋や蒼真も見とれてしまう程にその仕草や所作、振る舞いも美しい。

 それ程の美人が巫女さんの服装をして微笑んでいる。


「ふおぉぉぉぉお!! 我慢ができません!! エレクトラさぁん!!」


 と抱きつくミリー。

 かっこいい和装をしたミリーと巫女さんの服装をしたエレクトラが抱き合う光景はとても目の保養になる。

 千尋と蒼真、朱王も一緒になって見つめていた。


 そんな千尋達に気付いたリゼ。


「アイリ! 私達もやるわよ!」


「ええ!? 何をですか!?」


 アイリに抱き着くリゼ。

 すると千尋達の視線もこちらを向く。

 男性達にとってはどちらも捨てがたい光景だ。

 交互に視線を向ける男性陣と、視線を向けたいがために自らアイリに抱きついたリゼ。

 リゼは恥ずかしさを覚えつつ、身動きが取れなくなる。


「お主はアホじゃの」


 と朱雀に言われてしまう程度にはアホな行動だと自覚したリゼ。


「どうせなら千尋に抱き付けばいいじゃろ」


 さすがにそれはできないと顔を赤くするリゼだった。

 アイリはリゼに抱き着かれながらも何かを考え中のようだ。


 エレクトラに抱き付いて満足したミリー。


「ミリーよくやった」


「でかしたミリー」


「ミリーはいい仕事したよ」


「ほえ?」


 よくわからないミリーだが褒められたと思って嬉しそうな表情をしている。




 その後全員でファッションショーの真似事をしつつ、自分達の和装を披露。

 どの和装もとても良かったが、朱雀を見て誰もが思う。

 あれくらい派手でも良かったなと。

 どうせこの異世界だしド派手でなんぼ、目立ってなんぼ、DQNと言われても全然問題ない。


 それでも和装装備も似合っている事だし、今後しばらくはこの装備でいいだろう。






 その後帰って来た幹部達にも和装を披露。

 朱王達と同じワイアットの装備を羨ましそうに見つめていた。




 風呂ではワイアットからあの後ヴィンセントがノーリス国王に怒られていた話を聞いて笑いつつ、朱王はちょっと悪い事をしたと後悔。

 あとでお詫びを持って行こうと考える。

 似合うと思った首元のファーをだが……


 千尋と朱雀も聖騎士の訓練状況を説明した。

 ここ最近では朝練もしているらしく、すでに精霊魔導を使っての訓練を行っているそうだ。

 近々遊びに行こうかと考える蒼真だった。


 そしてワイアットの抜けた聖騎士の席は、現在上位騎士の中から選出中との事。

 クリムゾンの聖騎士は考えていないそうだ。




 お風呂の後は美味しい夕食だ。

 和装に合わせて日本酒に近い酒を飲む。

 千尋達は日本酒を飲んだ事はない為わからないだろうが、やや甘口な日本酒のような酒で飲み口も良くすっきりとした味わい。

 料理はノーリス王国のものを用意してもらい、和食のような和食でない料理と日本酒ではない日本酒のような酒を飲みながら夕食を楽しんだ。




 そしていつもの映画鑑賞会。

 好評だったフライドポテトもポップコーンとともに配られ、夕食後だと言うのに全員完食。

 今後はフライドポテトも定番メニューとなるだろう。

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