第147話 変身
夕食中にワイアットがミリーに話しかける。
「ミリー様。ヴィンセント様がミリー様の爆炎竜を見てみたいと仰ってました。もしお暇がある時にでもお願いしたいとの事です」
「じゃあ明日行きますよ! 明日は私暇ですし!」
明日は蒼真達は勉強会、朱王はドロップ作りの予定だ。
「オレはどうしようかなー。聖騎士の様子でも見てこようかなー」
「それならば我も一緒に行こうかのぉ。聖騎士ともよく遊んでおるのじゃ」
朱雀は市民街に行くだけでなく、聖騎士のところにも
千尋と朱雀は聖騎士訓練場に行く事にした。
翌朝。
ワイアットとミリーは王宮へ、千尋と朱雀は聖騎士訓練場へと向かった。
王宮までは遠くない為歩いて向かう。
「ワイアットさん、妖刀には慣れましたか?」
「それがなかなか扱いが難しくて精霊が言う事を聞いてくれないのです…… 以前の刀では大人しかったのですが獅子王に入った途端に凶暴になりまして」
「では魔力制御をしっかりやった方が良いですよ! 制御が荒いと精霊は言う事聞いてくれないですからね」
「なるほど! 今後制御訓練に励みます!」
真面目なワイアットであれば遠くないうちに精霊の扱いにも慣れるだろう。
これまでは自己流の剣術に割く時間が多かった為、魔力制御は他の聖騎士達と変わらない。
魔剣や妖刀を扱う場合ではそれ以上の魔力制御が必要となる。
今後はヴィンセントから剣術を学ぶ事で、魔力制御の訓練に割く時間も充分に取れるだろう。
王宮内の訓練場に着くとヴィンセントが待っていた。
ミリーの爆炎竜を見せてもらえる件は昨夜のうちにワイアットがリルフォンで連絡済みだ。
「ミリー殿。わざわざ御足労かけてすまぬな」
「暇でしたから大丈夫です! でも私のホムラとヴィンセントさんの精霊は少し違いますよ?」
「違うとはなにが……」
ミリーの左肩にしがみつくホムラ。
確かにヴィンセントのサラマンダーとは違って背中からは翼が生えている。
「私のエンキには翼がないな。背中からは炎が噴き出しているが何故だろう」
「たぶん私がヒーラーだからですかね? でもおかしいですね…… 勇飛さんも普通のサラマンダーでした」
「ヒーラーで戦えるというのも驚いたが爆炎竜…… 楽しみだ。早速見せてもらっても良いか?」
と言うので少し離れて上級魔法陣エクスプロージョンを発動。
肩に掴まっていたホムラが空に舞い、高さ2メートルはあろう巨大な火竜へと変貌する。
尻尾の長さも合わせると4メートル以上はあるだろう。
そしてミリーが飛行装備を広げて浮かび上がるとホムラが重なり、爆炎とともに特大の炎の翼が広がる。
ミリーの頭上に伸びるホムラの頭。
背中から伸びる竜の如き尾。
七色の炎が竜を形取るようにしてミリーを包み込む。
「これが私の爆炎竜ですけど近距離ではミルニルで戦いますよ!」
メイスを手に持ちながら振り回すミリー。
爆破はないものの、ミリーから放たれる熱量は尋常ではない。
この寒いノーリス王国の訓練場が焼かれる程の熱気に包まれる。
「す、素晴らしい。これがミリー殿の爆炎竜か」
「私も見るのは二度目ですが恐ろしいですね……」
そのまま空へと舞い上がり、竜が空を飛翔するという恐ろしい光景を披露する。
数分間の爆炎竜での飛行を楽しんだミリーは訓練場へと降り立ち、炎の渦を巻いて爆炎竜を解除する。
ホムラが再びミリーの左肩に掴まってこちらへ戻ってくる。
「あんな感じです!」
「ふむ。ミリー殿は上級魔法陣を発動するだけで爆炎竜となったのか?」
「違いますよ。私が飛行装備で空を飛べるようになった時に、ホムラも翼があったので私と一緒だなーと思ったんですよ。飛行装備も竜の翼みたいですし、ホムラを着てみたら面白いんじゃないかと思ったのがきっかけです!」
「イメージで自分と精霊を重ねたわけか…… ゼス王も竜人化したと言っていたし、私にも出来そうではあるが同じでは面白くはないしな……」
ブツブツと呟きながら何かを考えるヴィンセント。
ワイアットも獅子王を抜いて何かを考えている様子。
後ろに出ているヴォルトは長毛の猫のような精霊で、ワイアットの意思とは関係なく出てきて自分の尻尾を追いかけている。
しばらくヴィンセントとワイアットが考え込んでいる間、ミリーは飴を食べながらホムラと遊ぶ。
「イメージが定まらんな。どうしたものか……」
「朱王にイメージの魔石を作ってもらうのはどうですか? 朱王はなんでも有りですから無理言っても大丈夫です!」
ミリーは変に朱王に期待し過ぎではないだろうか。
「ふむ。では頼んでくれるか?」
「了解です! …… コール …… 朱王、今いいですか? ヴィンセントさんのイメージの魔石を作って欲しくてですねぇ。はい。はい。では待ってます」
と通話を切るミリー。
「今から来るそうです」
ドロップを作っていたはずの朱王。
仕事中の朱王を呼び出すなどワイアットにとっては畏れおおくて絶対にできない。
背中から嫌な汗が流れるワイアットだった。
空から舞い降りる朱王。
いつも通りの笑顔でワイアットも安心した。
とはいえこの程度で怒る朱王ではないのだが、朱王を神と崇めるクリムゾンの人間にとっては急な呼び出しなどあってはならない。
「お待たせ。ヴィンセントさんこんにちは。イメージってどんなのが良いんですか?」
「朱王殿、無理言ってすまんな。ミリー殿の爆炎竜を見せてもらったのだが私も何かやってみたいと思ってなぁ。ゼス王の竜人化というのも良いが同じでは面白くない。何かないかと考えてみたのだがイメージが固まらなくてな」
「まぁ確かにヴィンセントさんの魔力練度なら竜人化もできそう…… イメージだけ別の姿を盛り込むじゃダメですか? 能力的には火炎と爆炎の違いもありますし」
「別の姿にできるのか?」
「たぶんできますよ。サラマンダーの能力を魔力で固定化するだけですし、イメージさえしっかり作り込めればどんな姿にもできるかと。どんな姿にしたいか希望はありますか?」
「では私は鬼になりたい。この鬼丸を受け取ってからは鬼人となるのを夢に見ておったのだ」
ヴィンセントの精霊にエンキと名前を付けたのは蒼真。
鬼丸とサラマンダーを掛けて炎の鬼、エンキと名付けたのだろう。
そのままヴィンセントには炎鬼となってもらうのも面白い。
朱王は魔石を作り出してイメージを固めていく。
朱王が考える鬼の姿も良いが、サムライであるヴィンセントの姿はそのままで鬼人としたい。
鬼と言えば角だ。
サラマンダーを角と長く伸びた髪としてヴィンセントに融合させるイメージで魔石に組み込む。
「ではこの魔石を額に当てて魔力を流してください。リルフォンが脳内に連続再生してくれるのでイメージも固まりやすいですよ」
朱王から受け取った魔石からイメージを読み込む。
脳内に鬼人となった自分の姿が映し出され、何度も再生、自分が鬼であると思い込める程にイメージがしっかりと固定されていく。
しばらく目を閉じてイメージを固定したヴィンセント。
上級魔法陣エクスプロージョンを発動し、固められたイメージでサラマンダーを体内に取り込む。
すると額からは二本の黒い角、白く長い髪が荒々しく後方に流れる。
全身から放出される炎はサラマンダーの背中から放出される炎の名残だろうか。
紫色の炎の鬼ヴィンセント。
炎鬼としてその姿の固定化に成功した。
先日発動した上級魔法陣の時の比ではない程の力が体を循環しているのがわかる。
「少し試しますか?」
「ああ。頼む」
朱王も上級魔法陣インフェルノを発動し、鞘に納められたままの朱雀丸に業火を込める。
ヴィンセントも魔力を高めた抜刀の構え。
一拍の間を置いて一瞬で間合いを詰める双方。
超火力の剣戟が重なり合い、爆発を起こして訓練場の地面を深く抉り取る。
その熱量が、その爆発力が広がり、このままでは王宮を破壊してしまうのではないかという程の衝撃が走る。
さすがにこのままではまずいと、二人は同時にその威力を上空へと逃した。
30メートル程も抉り取られた地面と周囲に散らばる大量の土。
「今度試す時は何も無いところでやりましょうか」
「そうだな。全て破壊し尽くしてしまいそうだ」
今後は上級魔法陣での戦闘は場所を選ぶべきだろう。
もう使い物にはならないであろう訓練場を見て頭を掻くヴィンセントだが、鬼人の力も確認できて満足そうだ。
あとで国王であるイスカリオットに怒られるのだが。
少しすると爆発を聞きつけた千尋と朱雀、聖騎士達がやって来てこの惨状に驚きつつも納得。
この国最強の剣豪ヴィンセントと朱王がぶつかり合えばこの破壊力も頷けるというもの。
千尋に手伝ってもらって訓練場を修理する事にした。
周りに飛び散った土を下級魔法陣グランドを発動して集め、大きく空いた穴を埋めていく。
遠く飛ばされた土もあるのだろう、足りない分は他の場所から運んで埋める事に。
石畳はヴィンセントが注文するという事で地面を埋めるだけで作業を終えた。
しっかりと圧縮と重力魔法を駆使して地面を固めてあるので平らな地盤になっている。
「ありがとう千尋君」
「ありがとう千尋殿」
破壊した朱王とヴィンセントからお礼が言われ、石畳が届き次第また並べる事となった。
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