第140話 剣豪
「よし! 今日は剣豪に会いに行くぞ!」
朝からご機嫌な蒼真はよほど楽しみなのだろう。
早起きして精霊剣の手入れをしていた。
精霊剣も剣というよりは形状が刀に近い為、今後は精霊刀と呼び方を改めよう。
「蒼真さんすごく嬉しそうですね! そんなに剣豪さんに会うのが楽しみなんですか?」
「ああ、もちろんだ! どんな戦いをするのか今から楽しみだ!」
こんなにテンションの高い蒼真も珍しい。
「でも今後は精霊契約とかしていろいろ訓練するから蒼真の相手するまでしばらくかかるんじゃないの?」
「まぁそれもそうか。けど剣豪と呼ばれるくらいだしな。ゼス国王並みにすぐ扱えるようになるんじゃないか?」
「まぁ…… ゼス国王は異常よね。竜人化までするなんて驚いたわよ」
「そういえばミリーのとは違うけどなんでかなぁ?」
「なんか私のは竜人化じゃないって朱王が言ってましたよ? ホムラを纏うんだろうって言ってましたけどよくわかりませんでした」
「精霊を纏うか…… もしかしたら精霊魔法もただ発動するだけじゃなく他にも出来るかもねー」
「サラマンダー以外もできるかもしれないしな」
朱王は出掛ける前に少し脳内データを処理している。
ゼス王国からイアンやガネットが他国へ向かった事や、ダンテやデイジーがテレビ局に忙しい為、データの処理を朱王が担当している。
処理したデータを送っておけば書類に起こすのはダンテとデイジーがやってくれるそうだ。
九時前にはデータ処理が終わったらしく、王宮へと向かう事にする。
布で包んだ刀を朱王とミリーで一振りずつ持ち、エレクトラの妖刀は大事そうにミリーが抱えている。
飛行装備で王宮へと向かい、警備兵に挨拶しつつ使用人に連れられて王族用の訓練場へと案内された。
待っていたのはエレクトラ王女と四十代半ばと思しき男性、剣豪と呼ばれるその人だろう。
「エレクトラさんこんにちは! 皆さんと一緒に来てみました!」
「ミリーさんお待ちしてました!」
と仲の良さそうな王女とミリー。
毎日リルフォンで連絡を取り合っているだけあって友人のように接している。
「これ! エレクトラさんに朱王から作ってもらいました! 妖刀…… なんでしたっけ!?」
「妖刀【夜桜】だよミリー。自分で決めておいて忘れないでよ」
「それです! とっても綺麗な刀なんですよ! あと飛行装備も作って来ました!」
「ありがとうございます! 本当に受け取ってもよろしいんですか?」
「早く見てください!」
布を払って刀を手にするエレクトラは、妖刀夜桜を見つめて表情が綻ぶ。
漆黒の鞘にあしらわれた桜の花が、可愛らしくも美しい女性らしい刀だ。
輝くような桜色の下緒や柄巻と、金色の鍔や柄頭には桜の装飾が施されている。
鞘を払えば僅かに桜色に染められた刀身が鏡面となって輝き、桜の花弁を思わせるような白銀の刃紋がまた美しい。
声も出ない程に夜桜に惹き込まれるエレクトラに、作るのを手伝ったミリーも満足そう。
「エレクトラさん。飛行装備は私が作ったんですよ! これも着けてみてください!」
「うわぁ…… 素敵な腰布ですね!」
ミリーがエレクトラの腰に飛行装備を着せて確認する。
今着ている装備に合っていてとても似合う。
「素晴らしい刀だな。あれを貴殿が? あ、いや失礼。私はヴィンセント=ノーリス。国王であるイスカリオットの兄でエレクトラの剣術指南役をしておる」
このヴィンセントが剣豪と呼ばれる男らしい。
「はじめまして、緋咲朱王といいます。ヴィンセント公にもこの刀をお持ちしましたので受け取ってもらえますか?」
もう一振りの布に包まれた刀をヴィンセントに渡すと、刀を掴むだけでもこの男の強さは感じられる。
少し楽しみになる朱王と、嬉しそうに布を払うヴィンセント。
青紫色の鞘に金色の糸が巻かれたようなデザインに、下緒や柄巻は全て金色の刀。
柄は黒く染められるが鍔や柄頭も全て金。
鬼の装飾が施された豪華な一振りだ。
鞘を払えばずっしりとした重みを感じさせる鏡面仕上げの鈍色の刀身。
白銀となる刃はその斬れ味を物語る。
「ふむ。これも素晴らしい刀だが…… 銘は何と言うのだ?」
「妖刀【鬼丸】と名付けていますよ。それと私の勝手なイメージですが、ヴィンセント公にはこちらの装備を着て頂きたいのですが」
「装備まで用意してくれたのか。何のイメージかは知らぬが何やら良い物を持っておるな」
「私は迷い人なんですけど、元いた世界の侍のイメージでこの装備を用意しました。ヴィンセント公が剣豪と聞いてこの装備が似合うかと思いまして」
本当に勝手だなと自分でも思ってしまう朱王だが、ヴィンセントはこの装備にも興味深々だ。
「そうなのか! 実は我が流派の伝承にもサムライが存在するのだ。それと同じような装備という事なのだな?」
侍と聞いて嬉しそうなヴィンセントだが、ノーリス王国にはかつてサムライが転移して来たのだろう。
刀を使っている事からも間違いはなさそうだ。
この場で着替えてもらうわけにもいかないので室内へと移動してもらった。
インナーとして着ているミスリルウェアはそのままに、着物を着てもらい袴を履かせる。
特注で作ってもらったので値段は高いが、全て耐火耐寒素材を使用したノーリス仕様だ。
白い着物に青紫の袴。
紫紺の飛行装備を着けて色味や素材の質感が不自然ではない事を確認。
短めの羽織りは紫紺に金の装飾を入れた事で飛行装備ともよく合う。
「すごく似合いますよ。まさにサムライ!」
「朱王さん完璧だ」
「二人とも結構好き勝手するよねー」
朱王としては首元にファーを付けたいので後で持って来ようと考え中。
四十代のおっさんをコーディネートするのだが、どうせなら自分好みに仕上げたいのだろう。
「おお…… 素晴らしい! これが其方らの世界のサムライの服装か!」
「私の好みで少し変更していますけどね」
妖刀鬼丸を腰に下げると、豪華な金色の刀が紫色に映えて宝刀のように美しく輝く。
高位な雰囲気を持たせつつ、見た目に剣豪としての力強さも引き出せたと思われる。
「ヴィンセントさ…… 公! 高宮蒼真です。オレにも稽古をつけてくれませんか?」
「堅苦しく公などと付けなくてもよい。稽古に参加するのならいつでも来るといい」
「それより先にヴィンセントさんの強化だよねー」
「エレクトラ王女の強化もしないとだね」
また外に出て二人の武器の強化をする事にした。
ヴィンセントの新しい装備を見て女性陣も絶賛。
確かにおっさんなのに雰囲気もあってかっこいい。
「朱王! 私もおサムライさんの服装をしたいです!」
「「私も!!」」
「じゃあ皆んなの分も作ってもらおうか」
結局全員分を注文する事になった。
あとで千尋と蒼真と相談しながら全員の和装を考えればいいだろう。
ヴィンセントとエレクトラの武器の強化をしよう。
千尋がエレクトラ、蒼真がヴィンセントを担当して武器の強化を進める。
エレクトラ王女が選んだ属性は風。
暴風をエンチャントして精霊シルフと契約し、下級魔法陣ウィンドを組み込む。
上級魔法陣を鞘に組み込もうとしたところで千尋が気付いた。
「あれ? 朱王さん。鞘も魔力を溜め込める素材なの?」
「うん、そうだよ。何か面白い事出来ないかなーと二人の鞘は魔力を溜め込める素材で作ったよ」
「じゃあ上級魔法陣はドロップにだねー」
魔力色に桜色を選択し、ドロップに上級魔法陣エアリアルを組み込んでとりあえず完成。
鞘は今後どうするか考えよう。
ヴィンセントは蒼真と相談した結果火属性を選択。
ゼス国王の竜人化の話をしたら興味をもったそうだ。
ミリーと同じ爆炎をエンチャントする事にし、斬れ味よりも威力を優先とした。
「これ程の優れた刀であれば私に斬れぬ物などない」
まだ試し斬りも何もしていないのに言い切るヴィンセントは、やはり自分の剣術に絶対の自信があるのだろう。
そして精霊サラマンダーと契約し、下級魔法陣ファイアを組み込む。
ヴィンセントも貴族用ドロップを愛用しており、ドロップに上級魔法陣エクスプロージョンを組み込んだ。
ついでに飛行装備のバックルにも上級魔法陣インフェルノも追加してある。
「朱王さん、鞘はどうするの?」
「何か考えがあるのか?」
「蒼真君。君は居合斬り、抜刀しながら斬るのをどう思う?」
「あれは普通に刀を振るうよりも速度が遅いからあまり良くないな」
「うん、だからそれをね、目に見えないくらいの抜刀速度にしたら凄くないかな?」
「…… おお! それは良さそうだ!」
「ええ!? オレできないじゃん!!」
「千尋は両手持ちだから抜刀速度はいらないだろ」
「あ、そっか」
とりあえず鞘のエンチャントをが決まったので自分の鞘に【抜刀】を組み込む。
イメージは目にも映らない程の神速の斬撃だ。
鞘に付与された能力だが、鞘の内側には魔力を通さない素材を貼り付けているものの、
左手で鞘に魔力を流し込んで抜刀を発動すれば神速の抜刀が可能となる。
試しに少し離れた位置で蒼真が抜刀を発動すると、本人の体がついていかない程の速度で刀が振り抜かれた。
「危なかった…… 精霊刀がすっぽ抜けるかと思った」
ヴィンセントは蒼真の精霊刀にも興味を示す。
刀の様な作りでありながら刀ではない精霊刀。
まだ眠りから覚めないランだが、いつ目を覚ますのか。
ヴィンセントやエレクトラもこの能力を気に入り、二人も同じく抜刀を付与した。
扱いを失敗ると刀が飛んでいくので注意が必要だが。
その後は少し強化された妖刀の性能を試してもらい、震え上がるほどの悦びと興奮をしていたヴィンセント。
爆炎を放つ神速の斬撃に歓喜し、精霊魔法による火力の増加にその剣気をさらに高める。
下級魔法陣での更なる火力と爆焰の凄まじさに我を忘れた様に刀を振るっている。
蒼真は剣豪ヴィンセントに挑みたい気持ちもあるが、その剣技から一つでも得られるものがないかと様子を伺っているようだ。
エレクトラは恐る恐るといった様子で精霊魔法を発動し、暴風と精霊による制御の効かないその出力に驚いていた。
精霊シルフもエレクトラの思ったような魔法を放ってくれずに苦戦を強いられる。
ヴィンセントのように力強く自分の意思を伝えるように魔力を渡せば精霊も従ってくれるのかもしれない。
ミリーから教えてもらいながらも精霊魔法に悪戦苦闘するエレクトラだった。
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