第139話 聖剣完成
聖剣改造を始めて三日目の朝。
千尋とリゼは聖剣の鞘作りの為、蒼真達はまた暇を持て余す。
「ねぇ、明日は剣豪とエレクトラ王女に会いに行くんだけど皆んなも行くかな?」
「んん? 朱王さん、剣豪って何の事だ?」
「この国最強と謳われる剣豪らしいんだけど、エレクトラ王女の剣術指南役なんだって」
「まじか! オレも行く!!」
普段見ない程に嬉しそうにはしゃぐ蒼真。
今後剣豪の元で訓練すれば蒼真や朱王も参考になるし、また違った戦いを見る事ができる。
しかも最強と謳われる剣豪だ。
どれ程強いのかと楽しみで仕方がない。
とりあえずこの日は千尋達は作業がある事だし、暇つぶしに役所のクエストを見に行く事にする。
ついでにノーリス王国の街を見ながら軽めの観光を楽しんで来よう。
千尋達の鞘作りが終わったらリルフォンで連絡を取り、また一緒に国王に会いに行く事にした。
千尋とリゼは聖剣の鞘作り。
ミスリル板を切り出して剣身に合わせて彫り込み、二枚同じ物を作って魔力の流れない素材を貼り付ける。
位置をあわせて二枚のミスリル板を貼り合わせ、圧力を掛けてしっかりと接着。
形を整えながら彫り込んでいき、装飾を入れる部分を残して鞘の厚みを落としていく。
厚みを落とした部分の面を整え、装飾の彫刻を丁寧に入れていく。
聖剣のガード部分から剣身に繋がる膨らみを逃すように鞘も彫り込んで、その周囲に装飾を入れた。
鞘の先端側にも装飾を入れ、最後に表面の鏡面加工。
ミスリル工具に魔力を込めて磨き込んでいく。
全て鏡面仕上げが済んだら着色をする。
装飾のない部分は黒と緑色でラップ塗装ならぬラップ着色をして複雑な色味に仕上げた。
同じように装飾の底部も同じように着色してある。
装飾の凸部分は全て金で着色して完成。
聖剣の魔力量は3,600ガルドとそれ程高くはならなかったが、エンチャントと精霊、下級魔法陣を組み込んでも魔力量は足りるので問題ないだろう。
そして今回は敢えて鞘も魔力の溜まる素材を使って作ってある。
魔力量は2,000ガルド程と高くはないものの、エンチャントをして能力付与しようと考える。
鞘が完成したのが十四時を回ったところ。
昼食はムルシエが持ってきてくれたサンドイッチで済ませたので問題ない。
きっと蒼真達もどこかのお店で昼食を摂っただろう。
「コール…… 蒼真、やっと完成したから王宮行こー」
『わかった。でもその前にノーリス国王にアポ取っておいた方がいいんじゃないか? リルフォン渡してあったよな?』
「あ、そうだねー。じゃあ連絡してみる」
通話を切って国王にもコールすると、十五時に時間を作ってくれるとの事。
暇じゃないはずの国王が一時間以内に予定を空けてくれるとは…… 余程聖剣の完成が待ち遠しかったのだろうと思われる。
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王宮にやって来た千尋とリゼはすでに待っていた蒼真達と合流。
朱雀がバックからお土産のお菓子を出して手渡してきたが、やはり焼き餅のような和菓子だった。
警備兵に案内され応接室へと通されて国王を待つ。
使用人からお茶やお菓子をもらってくつろぎながら待っていると、しばらくしてノーリス国王がやって来た。
「王様ー。聖剣できたから持ってきたよー」
と軽いノリで手を振る千尋。
「ふぅ…… 何とか時間が出来た。それで? その布に包まれておるのが私の聖剣か?」
「うん。ついでに鞘も作ったから良かったら使ってね。いちおー聖剣にはフラガラッハって名前を付けたよー」
「そうか。聖剣フラガラッハ。良いではないか」
千尋から手渡されたノーリス国王は、布を払ってその改造された聖剣を見つめる。
鞘に納められた聖剣は、見るままに国の宝と思える程の素晴らしい出来だった。
ノーリス王国の色である緑色を基調とした鞘と聖剣のガード部分。
金色の装飾と緑色の色調がなんとも言えない高貴な印象を与えてくれる。
鞘から聖剣を抜いてみるだけでわかるその精巧さ。
これまでジャラリと抜き出していた聖剣が甲高い音を立てて鞘から抜き放たれる。
顔がはっきりと映り込む程に磨かれた聖剣に魅入るノーリス国王。
聖剣のあまりの美しさに息をするのも忘れそうな程に惹き込まれてしまう。
あらゆる角度から聖剣を眺め、鞘に納めて再び見つめ、千尋やリゼがいる事すら忘れてひたすらに見入ってしまう国王だった。
これ程嬉しそうに聖剣に見惚れている国王を見て、改造した千尋やリゼも気に入ってくれて良かったと満足だ。
しばらくして我に返った国王。
「…… 素晴らしい。これ程までになるとは私も思いもよらなかった。其方らには近いうちに充分な報酬を支払いたいと思うのでな、それまで待っておってくれ」
その後は預けてあった代替えの片手直剣から精霊を移し、魔力の色を決めてもらって聖剣の受け渡しは終わった。
ちなみにノーリス国王は雷の精霊ヴォルトと契約しており、聖剣には迅雷をエンチャントして下級魔法陣サンダーも組み込んである。
そして鞘には上級魔法陣ボルテクスを組み込んで、魔力色はやはり緑色とした。
「国王。飛行装備も作って来ましたのでこちらもどうぞ。王妃様の分もありますので渡してください」
朱王からは飛行装備を渡す。
エレクトラ王女とは明日会う予定なので国王と王妃の分だけだ。
「朱王が作ってくれたのか! 空を飛べる装備なのだろう? 素材の質も装飾も素晴らしい!」
「作ったのは蒼真君とアイリですよ。私とミリーは装飾を担当しましたので」
「なるほど。では皆に礼をせねばならんな。しかし私も仕事があるのでな、今すぐに用意する事も出来んし後程でも良いか?」
特に何も貰わなくてもいいのだが、王族の面子に関わるとかいう理由で結局は断る事が出来ない。
何を貰えるかはわからないがとりあえず頷いておく千尋。
ノーリス国王は飛行装備を腰に巻いて聖剣を装備し、この後も政務が残っているとの事で仕事に戻って行った。
やはり国王ともなれば毎日忙しいのかもしれない。
そう考えるとザウス国王はいつも暇そうにしてたなと思い出す。
国によって国王の仕事量も違うのだろうか。
国王が仕事に戻ったので十六時まで聖騎士の訓練を見に行った。
全員思いの外精霊魔法の上達が早く、すでに実戦的な訓練を始めている程だ。
それでもまだ出力が安定しないようなので怪我をしないよう注意してもらいたいものだ。
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朱王邸に歩きながらの帰り道。
「役所のクエストはどんなのあった?」
「なかなか良いのがあったぞ。難易度10のが二つと難易度9が七つもあった」
「そのうち五つは他の貴族領のクエストだから泊まりがけになる事もありそうだね」
「楽しみですねー」
と、今後はクエストも受けながらノーリス王国を堪能していこう。
明日は剣豪に会いに行くのも楽しみだし、久し振りのクエストも高難易度。
あとは映画の日が開催されれば仕事は終わり。
その映画の日もクリムゾンが組織内で何とかしてくれるだろう。
これからは毎日楽しい観光を楽しもう!
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