第138話 幹部強化とお仕事

 さて、幹部達も強化をしようか。


 ワイアットはすでに雷属性で強化済みなので残りの四人をパパッと済ませよう。

 ここノーリス王国の幹部達全員の武器を強化する。

 ゼスは兎も角としてノーリスの幹部達の魔力練度は思いの外高いのだ。

 過酷な環境下で奴隷をしていたのが原因なのか、身体強化系は通常時から高い能力を発揮する。

 飛行装備は今日この後作る事にして、とりあえず現在の装備のみの強化だ。




 クリムゾンノーリス支部隊長のオルネスは赤紫色の髪をしており、幅のない削り両手直剣を持った逞しい体をした男だ。

 得意とする魔法はこの国では珍しい水魔法で、魔法のみで水刃を放てる程の強者だ。

 それならばと聖騎士のサムナミ達と同じように氷属性の精霊魔導師にしてしまおう。

 両手直剣には精霊ウィンディーネと下級魔法陣ウォーター。

 そして貴族用ドロップには精霊フラウと下級魔法陣アイスを組み込んだ。

 上級魔法陣アクアは、飛行装備のバックルに組み込む事にしてとりあえずは明日にしよう。




 次にクリムゾンノーリス支部社長のルシェ。

 両手に鉤爪が彼女の武器で、獣耳との組み合わせがとても似合っている。

 得意な魔法は特に無いという事で、風の精霊シルフと契約してもらった。

 両手にシルフと下級魔法陣ウィンド。

 ドロップにエアリアルを組み込んで終了。

 高い身体能力にさらなる身体強化。

 そこに風魔法が組み合わさったとなれば相当な実力者となる可能性がある。




 今度はクリムゾンノーリス支部マネージャーのシャルム。

 これまでで初かもしれない打撃系武器、戦鎚をその手に持つ。

 ここはやはり同じ打撃系武器を持つミリーと同じ爆発系の魔法を使ってもらいたい。

 それならばと戦鎚には精霊サラマンダーと下級魔法陣ファイアを、ドロップには精霊シルフと下級魔法陣ウィンドを組み込んだ。

 オルネス同様上級魔法陣は今夜飛行装備のバックルに組み込む事にした。




 そしてクリムゾンノーリス支部施設長ターニャ。

 こちらもあまり見ないミスリル製の弓矢持ちで、近距離用にミスリル製のナイフも持っている。

 ミスリルの矢に魔法を乗せて放つ事が可能らしいが、それだとなんだかつまらないと感じた千尋。

 またおかしな事を考えているようだ。


「ターニャは今後地属性ねー! 他の属性魔法とか必要ないから!」


 と自信満々に強化を進める。

 まずはミスリルナイフに下級魔法陣グランドを組み込んだ。

 そしてミスリル弓に上級魔法陣アース、貴族用ドロップには上級魔法陣インプロージョンを組み込む。

 あとは飛行装備のバックルに上級魔法陣グラビトンを組み込む予定らしい。

 そして十本の矢に魔力量2,000ガルドでエンチャントし、全部のミスリル矢にノームを契約しろとの事。

 いったい何が狙いなのだろう。

 言われるがままにミスリル矢で魔法陣を描いては精霊契約し、全ての矢が終わったところでノームだらけとなった。

 ターニャのイメージのノームは白髭のおっさんではなく、長毛な猿みたいな精霊だった。

 猿みたいな精霊に囲まれたターニャだが、千尋の狙いは何なのか。


「たくさん精霊契約してもらったけどねー、ノームを矢に乗せて放てば面白いと思わない?」


 ノームを矢に乗せて放った場合どうなるか…… 避けられてもホーミングするだろうし、当たった後は戻って来る。

 それにノームが地属性魔法で浮かせた石や岩なども追従するだろうと考える。

 単純に千尋のミスリル弾の弓矢バージョンといった方法なのだが。

 そして聖騎士のクガウエに教えたような魔法の相殺も可能となる。

 火や風魔法のような派手さはないものの、様々な状況に対応できる属性魔法と言えるだろう。

 これをターニャはどこまで使えるようになるかが問題だが、この多くの精霊達と仲良くやれれば相当強いんじゃないかと思われる。




 クリムゾン幹部の強化を終えて、四人は仕事があるので出勤してもらった。

 精霊魔法を試す事は出来なかったが、ノーリス王国にはまだしばらくいるので休みの日にでも練習に付き合ってやればいいだろう。

 では今日は何をするか。

 千尋とリゼは聖剣の改造があるし、蒼真とアイリ、朱王とミリーは幹部達と国王達の飛行装備作りをしよう。


 全員で作業部屋へと向かい、各々自分の仕事にあたる事にする。




 作業部屋は邸のバルコニーのすぐ側にあり、それ程広い部屋ではないが六人で作業するには問題ないだろう。


 千尋とリゼは早速聖剣を分解し、刃毀れした部分というより刃として加工した部分は全て切り落としていく。

 ノーリスの聖剣も刃毀れが多く魔力量は1,264ガルドとやや低め。

 しかし魔力の流れる方向は悪くはないので呪文の加工は必要ないか?

 だが、今後ミスリルの切り貼りをするので方向はおかしくなるのでやはり必要だろう。

 切り落とした刃部分に必要分だけ魔力の溜め込める素材を接着し、刃の形を削り込んで元の聖剣よりも幅が広くなった部分に膨らみを持たせる事で剣身を流麗なデザインとした。

 依頼された改造案から予想するとそれ程魔力量は上がりそうにない為、ガードも魔力を溜め込める素材で作る事にする。

 翼獣とも悪魔ともとれるようなデザインでガードを作り込み、剣身に重なり合うように形をしっかりと整えていく。

 聖剣の表面を彫り込んで装飾を施し、ガードと重なり合う部分は深く掘る事でデザインとしつつ、丁寧に削って隙間なく嵌め込むように作り込んだ。


 合間に昼休憩も挟んだのだが、千尋の地属性強化が上昇したのが影響して加工も以前より遥かに早くなった。

 刃を整えれば既に聖剣として使えるのだからその加工速度は朱王に届きそうな程だ。




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 ゼス王国でもそうだったように蒼真とアイリが飛行装備作り、朱王とミリーが装飾を担当して飛行装備を作る。

 ゼス王国から受け取った素材は大量にあるのだが、クイーストで作った素材はだいぶ減ってきた。

 ウェストラルでは少し足りなくなるだろうが、また素材集めをすれば問題ないだろう。

 なんといってもウェストラルは超級魔獣が多いらしく、難易度10のクエストも沢山あるとか。

 今後もっといい素材が手に入れば自分達の装備も作り替えるのもいいかもしれない。

 まあ素材の量を気にする必要もないだろうと素材を決めて使っていこう。


 まずオルネスの飛行装備はA級素材で作る。

 相当な練習は必要だとは思うが、本人には頑張ってもらおうか。

 オルネスの装備は濃いめの紫に銀の装飾が入った耐火耐寒装備だ。

 腰布も巻いているので同じ色味で作ろうか。

 とは言っても同じ色味の素材はないのでミスリル粉の着色ブラストで似たような色味を再現。




 ワイアットは深緑色の髪をした何というかサムライみたいなイメージだ。

 彫りの深い顔なので日本人には見えないが、白木造りの刀を使っていて髪を頭頂部で結うとか、もう完全にサムライのイメージだ。

 着物や袴を履かせたら似合いそう。

 よし、ワイアットの装備は一新してもらおうと、蒼真と朱王で勝手に決めた。

 素材はオルネスと同じくA級素材。

 飛行装備は白で作って装飾を緑色と金色で入れた。

 バックルはあるが艶消しにして目立たなくし、ベルトを長くして紐に見えるように工夫する。

 装備はムルシエに仕立て屋を呼ばせて作らせる事にした。

 白木造りの刀は後で借りて改造すれば問題ない。

 本人の意思を無視している時点で問題はあるが気にしたら負けだ。

 気にせず勝手にイメージを押し付けよう。




 ルシェは獣耳の金髪な女の子。

 装備は黒地に黄色の物なのでそのまま飛行装備も作ってしまおう。

 素材はルシェも他の二人もA級素材は無理そうなのでC級素材でいいか。

 通常素材の方が扱いやすいとは思うが少し頑張ってもらおう。




 シャルムは青い髪をツインテールにし、真っ黒な装備を着ているので飛行装備も真っ黒に。

 ベルトと装備の裾側に装飾を青で入れて完成。




 ターニャは淡い黄緑色の髪を長く伸ばし、白地に緑色の差し色が入った装備を着ている。

 こちらもそのまま白い飛行装備に、ベルトと装飾を緑色で入れて完成。


 ノーリス王国にはしばらく滞在する予定だし、全員の装備を鏡面仕上げにして着色し直そうと考える朱王だった。




 続いて国王と王妃、王女の飛行装備作りに移る。


 ノーリス王国では誰もが身体能力が高く、王族も貴族も戦う力を持っている。

 魔力練度もある程度高い為、三人ともC級素材でいいだろう。


 国王は白銀の翼に緑色の飛膜とし、金の縁取りと装飾を入れて装備に合わせた仕様に。


 王妃と王女はドレス姿だったのだが、ミリーがエレクトラ王女と仲良くなったらしく装備の色を聞いていた。

 王妃は橙色に銀色の装飾が入った装備らしく、国王に合わせて銀の縁取りと装飾を入れてみた。


 エレクトラ王女は意外にも真っ赤な装備なのだとか。

 ミリーの要望に応えて真っ赤な翼に白の装飾を入れて綺麗で可愛らしい飛行装備になった。

 もちろん国王達に合わせてピンクの縁取りも施した。




 仕事から帰ってきたオルネス達に飛行装備を渡し、足りていない強化はバックルに組み込んで完成させた。

 蒼真にサムライになれと言われたワイアットは戸惑っていたが、似合いそうな装備を注文中だと朱王が告げるとなんだか嬉しそう。

 これで蒼真も朱王も満足だ。




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 翌日も千尋とリゼは聖剣の改造の続きだ。


 グリップを作って装飾を入れ、ポンメルは大きな宝石に王冠を重ねたような装飾で作り込んだ。

 刃付けをして鏡面仕上げを全面に施したらあとは着色のみ。

 既に十五時を回っているがこのまま完成させてしまおう。

 刃は白銀にして剣身には灰色を入れることで刃の輝きを強調し、浮き彫りにした方向の呪文は金で着色。

 ガードの接合部の彫り込みには緑色で着色し、ガードは七色に着色した上からまた緑色を乗せて、緑色の中にまた違った輝きを持たせる。

 ポンメルの宝石部分にも同じように七色緑で美しく。

 グリップは剣身同様灰色を入れた。

 今回鞘は依頼されていないが、ここまで作ったのなら鞘まで作って統一しよう。

 明日は鞘作りをしようと決める千尋とリゼだった。




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 聖剣改造二日目は蒼真とアイリは聖騎士訓練場に遊びに…… 訓練しに行った。

 暇を持て余した朱雀ももちろんついて行った。


 そして朱王はミリーの要望でエレクトラ王女の魔剣作りをする事になった。

 ミリーは夜になるとリルフォンで王女と通話しているらしく、聖剣の話の流れからエレクトラ王女の魔剣を作りたいと思ったそうだ。

 王妃は装備を持っていても戦闘に参加する事はもうないらしく、訓練も特に行なっていないという事で王女だけ。

 王女は毎日稽古の時間がある為、剣術指南役から指導を受けているとの事。

 そしてもちろんテレビ通話しているので武器も見せてもらっている。


「なんかですねぇ、エレクトラさんが使っているのは刀みたいでしたよ」


「刀を使う王女に剣術指南役がいるのって違和感あるよね。その指南役も刀を使うって事かな?」


「はい。なんでもノーリス王国の最強の剣豪と言われた方に教えてもらっているそうですよ」


「なるほど。蒼真君とか喜びそうだね。とりあえずその剣豪の人の分と二振り作ろうか。その剣豪の人の刀はどれくらいの長さなのかな?」


「えーと…… 今そろそろ稽古の時間のはずなのでコールしてみますね…… コール」


 丁度稽古を始める前の支度をしていたらしく、テレビ通話で剣豪を写してもらった。

 朱王もグループで剣豪の姿を確認し、刀の説明をしてもらって長さや反り他寸法をメモしていく。

 出力の高い魔剣、妖刀を作る為と告げると是非お願いしたいとの事だった。

 今後蒼真との稽古もお願いしたいのでいい手土産になるだろう。


 さて刀を作ろうか。

 実はミスリルの刀であればそれ程作るのは難しくない。

 良さそうなミスリル板から刀身を切り出して削っていくだけ。

 本物の日本刀のように鍛えたりする必要もないので簡単に作れてしまうのだ。

 と、いうのは朱王の感覚なのだが。

 沢山あるミスリル板から魔力の溜め込める部分を長く使えそうな素材を選び出し、二振り取れそうな物を選択。

 ミスリル工具を片手に一気に加工を始める。

 午前中には二振りの刀身を切り出して整形、そして刃付けまで終わらせてしまい、午後からは鏡面仕上げを一時間程で終わらせてしまう。

 鏡面仕上げも面だけなので簡単なのが理由だ。

 そして拵え作りだが、全て魔力の溜め込める部分で作った。

 刀身だけでは魔力量が2,300ガルド程と低かったのが原因だ。

 エレクトラの目貫めぬきかしらふちつばには桜の花を装飾し、柄巻は以前注文したミスリル帯の細めの物を黒とピンク色に着色ブラストして巻いた。

 剣豪用のは特に意味はないが鬼を思わせるようなデザインの彫刻を入れて金に着色し、柄巻は黄金色とした。

 鞘もミスリルで作るが、こちらも拘った装飾もない為簡単だ。

 薄く切り出したミスリルの板を、刀の収まる部分を彫り込んで魔力の流れない素材を貼り付ける。

 それを両面作って貼り合わせ、表面を鞘の形状に削り込んで栗型とこじりを別に作って接着すれば形は完成だ。

 あとは鏡面仕上げにして朱王好みに着色を入れるだけ。

 剣豪の鞘は青紫色に着色して金色で線模様を描き、最後に黄金色の下緒を巻いて完成。

 エレクトラの鞘は黒で着色し、小さな桜の花と花弁を描く事で美しい鞘に仕上げた。




 最後に剣豪の分の飛行装備を作り、色を紫紺にして金の装飾を入れる事で和風にアレンジ。

 ベルトも帯の様にする事で和のイメージにした。

 そしてムルシエにまた仕立て屋を呼んでもらい、剣豪の分の装備も一新してしまおうと勝手に注文する。

 上衣を白地に襟を青紫と紫紺の二色で作る事とし、羽織を紫紺で作ってもらう。

 下衣は当然のように袴とし、色は飛行装備と重ねても合うようにと青紫で作ってもらう。

 羽織は飛行装備を展開した際に邪魔にならないように短めで背中が開くようなものにした。

 なるべく早く作るようにお願いすると、明後日までには完成させてくれるそうだ。

 

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