第135話 獣耳聖騎士強化

 千尋が担当するのは地属性のクガウエ。

 勝手に決めてしまったが、どの属性でも極めれば強くなるのはわかっているので問題ないだろう。


 クガウエはジャマダハルを両手に持つ大男。

 全部盛りをしたい千尋だがミスリルの装備が足りないな。


「クガウエさん、他にミスリルの武器持ってないの? それじゃ全然足りないよ」


「両手に武器を持ってて足りないと言うのはおかしくはないか? だがまぁ自宅に帰れば他にも一組あるにはある」


 普通に考えればそれで足りないわけはないのだが、千尋的はミスリル装備を五つは欲しいところ。


「他にはミスリル装備ない?」


「我等ノーリスの騎士は身体能力が高いのでな。鎧や防具は耐刃服を着る以外は装備せぬのだ」


「じゃあクリムゾンから飛行装備届いてない?」


「今朝クリムゾンから荷物が届いたが腰布だったな。ヒコウ装備だと言っていたがあれはなんだ?」


「届いてるならそのバックルでいいや。飛行装備っていうのは空を飛べる装備だよ」


「なんと!? あれがそのような装備であったとは! すぐに持ってくる!」


「全員分持って来てねー!」


 とクガウエは飛行装備を取りに走って行った。




 飛行装備の入った箱を持ってきたクガウエ。

 全員を集めて自分好みの装飾の物を選んでもらった。

 残念ながら朱王の部下であるワイアットの分はまだ用意していない。

 ガッカリするワイアットだったが、幹部は幹部用として作るからと納得してもらった。

 ノーリス王国の聖騎士装備は深緑の上衣に白い下衣で、上下ともに耐火耐寒装備との事。

 インナーには千尋達と同じようにミスリルが編み込まれた装備を着込んでいるそうだ。

 深緑の腰紐を巻いているだけなのでその上から飛行装備を付ければいいだろう。

 飛行装備もノーリスのイメージに合わせて深緑色に金の装飾で作ってあるので似合うだろう。

 ちなみに飛行装備を作ったのは蒼真とアイリで、二人はノーリスの聖騎士が六人しかいない事を知っていた。


 飛行装備を配ってすぐに空を飛ぶ練習を簡単にしてもらい、クガウエには家に武器を取りに行ってもらった。

 ただしカルラはA級素材の飛行装備だった為、翼を広げる事すらまともに出来なかったが。




 さて、武器強化の聖騎士長カルラ担当は朱王だ。


「カルラにはこれを作って来たよ」


 と言って渡したのは以前作った魔剣だ。

 片手直剣だが柄部を金剛杵こんごうしょのようなデザインとした諸刃の剣だ。

 金剛杵の部分は金と白銀で着色し、剣身は黒地に刃が白銀、彫り込んだ樋の部分は金に着色としてある。


「朱王様がお作りに!?」


「うん、魔剣クリカラだ。受け取ってくれ。もう火炎と下級魔法陣ファイアを組み込んであるからあとは精霊契約だけだよ」


「ほ、宝剣ではありませぬか!? こ、これを私に…… 有り難く、頂戴いたします」


 次に魔剣にサラマンダーを契約して、飛行装備のバックルには上級魔法陣インフェルノを組み込んだ。

 魔剣に組み込んだ魔力色の魔石にはは黄色を選択。

 カルラは黄金色をした炎の魔導師となった。




 蒼真はフレツの強化だ。

 フレツは片刃の両手剣を持っており、灰色の髪に碧眼の美丈夫といった男だ。

 魔力量2,000ガルドで強化して精霊シルフと契約し、下級魔法陣ウィンドを組み込む。

 カルラ同様に上級魔法陣はバックルに。


 強化を早々に済ませて訓練を始める蒼真はご機嫌だ。

 ここノーリスにいる間は魔法無しでも楽しい訓練が毎日できると嬉しくて堪らないようだ。




 リゼが強化するのはサムナミとキラヒミ。

 サムナミは青い髪の毛をした小柄な男で、髪の色は貴族用ドロップによるものだ。

 パルチザンを持っており、幅が広く大きな穂先の先端に刀身が付き、しっかりと装飾の施された槍となる。

 キラヒミは目が細く釣り上がり、獣耳のある狐の様な見た目の男で髪色は明るめの茶色に耳裏は焦茶色。

 黒い刀身に装飾の多いククリ刀を両手に持っており、見た目からして二人とも若い聖騎士なのだろうと思われる。


「二人とも水魔法では戦えるのかしら?」


「戦えぬ」


「生活魔法くらいしか使えぬな」


「氷魔法は?」


「そのような魔法を使える者はこの国には居らぬな」


「水魔法など我等としては望まぬ」


「…… じゃあ私の魔法を見てから同じ事を言ってもらえるかしら」


 水魔法を馬鹿にされて少し頭にきたリゼ。

 ジャラリと抜き放つルシファーを右に薙いで水魔法を錬成する。

 舞うように流れるルシファーの刃はそれだけでも驚異的な武器だ。

 そしてリゼがルシファーを振るうと同時に水魔法を発動する。

 水を高圧縮した水刃が放たれ、サムナミとキラヒミの真横を通過して地面に深い傷跡を残した。

 そしてさらにもう一振りするとルシファーから舞い散る氷の散弾。

 サムナミとキラヒミ二人の避けて地面に大量に突き刺さる。

 リゼの完璧な魔法コントロールが二人の合間を縫って撃ち出され、動く事ができなくなるサムナミとキラヒミだった。


「どお? 水魔法も氷魔法もこれだけじゃないけど力の一端は見る事ができたかしら?」


「「は、はい!!」」


 このパーティーは女の方が怖いんだと理解した二人。

 アイリも間違いなく怖ろしい程の力を有していると確信してしまう。


「じゃあ二人には氷属性の精霊魔導師になってもらうわ。サムナミは水量による氷属性魔導師、キラヒミは氷の強度を重視した氷属性魔導師になってもらうけど言う事はある?」


「「ありません!!」」


 という事で早速強化を開始する。

 サムナミはパルチザンに精霊ウィンディーネと下級魔法陣ウォーター、ドロップには精霊フラウと下級魔法陣アイスを組み込んだ。

 そした飛行装備のバックルには上級魔法陣アクアを組んで完成。

 キラヒミは右のククリ刀にウィンディーネとウォーター、左にはフラウとアイス、そしてバックルに上級魔法陣ブリザードを組み込んだ。


 最初水属性を馬鹿にしていた二人だが、実際に精霊魔法による水魔法を発動するとその多様性に驚いた。

 元々イメージが足りない為攻撃に使うような事はなかったのだが、水弾として発射することも可能だった事に驚いていた。

 さらに放った水弾を着弾とともに凍りつかせるなど、様々な戦い方ができる事に喜んでいた。

 水属性と氷属性の組み合わせは攻守ともに優れている。

 相性の悪い魔法がなく、知識を身につければ様々な魔法として発動できる。

 水質変化を使えば毒魔法や酸やアルカリなど様々な魔法としても発動でき、クイーストのカミンは爆破魔法として使用しているくらいだ。

 弱いはずがない。

 サムナミもキラヒミも魔法に満足したようで、リゼもとりあえずは一安心。




 アイリが担当するのはライゼンとワイアットだ。

 千尋が名前に因んで属性を選んだ事には少し呆れもしたのだが、全員火属性と風属性というのも釈然としない。

 自分の使用する雷属性の良さも知ってもらいたいものだと二人の強化に当たる。


 ライゼンが持つのは三又の槍だ。

 装飾された槍は美しく、一級品ミスリル槍である事は間違いない。

 勇ましい顔に、見るからに剛毛な赤く長めの髪の毛。

 逞しい身体つきをした猛獣のような男だ。

 ワイアットは深緑色の長い髪を頭頂部で結っており、男らしい強くて大きな身体つきをしている。


「ではお二人には雷属性の精霊と契約して頂きます。何か雷属性について質問はありますか?」


「雷属性とは言うが雲から振るあの雷だろう? あんなものを人間が放てるというのか?」


「俄かには信じ難い事だけどアイリはできるのか?」


「もちろんできますよ。見たければお見せしますけどご自分で試した方が楽しくないですか?」


「ふむ…… ではその言葉を信じよう」


 ライゼンとワイアットの武器に魔力2,000ガルドをエンチャントし、精霊ヴォルトと下級魔法陣サンダーを組み込む。

 ライゼンはバックルに、ワイアットはドロップに上級魔法陣ボルテクスを組み込んだ。


 精霊を顕現させての雷属性魔法を放つ二人。

 空から落ちる雷程の威力はないものの、精霊魔法のみでのその出力に満足そう。

 今後は下級魔法陣、そして上級魔法陣と使用すればその威力は自分達の想像を超える程となるだろうと予想する。




 全員の強化が終わった頃に戻ってきたクガウエ。

 千尋の全部盛りで左右のジャマダハルに精霊ノームと下級魔法陣グランドを。

 バックルには上級魔法陣アース、そして家から持ってきた二振りの直剣には上級魔法陣グラビトンとインプロージョンを組み込んだ。

 そして千尋同様四刀流の使い方を教える。

 精霊ノームに直剣を握らせ、戦闘のイメージをしっかりと教育する事で自由自在な攻撃を可能にする方法だ。

 クガウエもこの発想には驚き、今後の自分の戦闘方法に夢を見る。

 しかしそれだけでは先程見たミリーの爆炎竜には遠く及ばないのでは? とも思ってしまう。


「千尋殿。地属性では火属性など他の魔法に比べて強い魔法は放てないのではありませぬか?」


「えー、強化だけでも結構戦えるんだよ? それに一撃の重さだって重力操作で何倍にもできるしさぁ。他の魔法だって高圧縮かければ相殺できたりもするんだよー?」


「…… そんな事が可能なのですかな?」


「見ればわかるよね。朱王さーーーん!! ちょっと大きめの火球をこっちに放ってーーー!!」


 と千尋が頼むと、朱王は朱雀丸を抜いて切っ先に魔力を練り上げる。

 直径1メートル程の火焔球が千尋目掛けて放たれ、千尋もカラドボルグを抜いて叩きつけると同時に高圧縮魔法を発動。

 火焔がその圧力に潰されて相殺されてしまった。

 この魔法はエンのブレスを元に編み出した千尋の防御魔法だ。

 エンのブレスは超重力と超高圧縮によってその空間ごと削り取り、虚空へと消し去ってしまう。

 千尋の高圧縮魔法はその劣化版で、他人の魔法空間を圧縮して相殺するのだ。

 広範囲には不可能だが、ある程度の範囲内であれば全て打ち消す事ができる。

 もともと地属性強化のみでも高い防御力を誇る千尋なのだが、魔法を相殺する事で全ての魔法を防ぐ予定だ。

 そう、あくまでも予定だが。

 上級魔法陣を発動すればその範囲や能力も、どれだけ引き上げられるかは今後試してみなければわからないのだが。


「まぁ蒼真がここに頻繁に来るだろうしオレも訓練に付き合うからさぁ。地属性の良さを感じてもらいたいなー」


 千尋の使う地属性魔法が特殊な事に本人は気付いていないが、クガウエがどこまで使えるようになるかは本人次第だ。




 全員の強化を終えてリルフォンを配り、獣耳に付けても機能する事がわかったのだがみんな普通の耳の方につける事にした。

 やはり男らしく反り返った耳というのが重要らしく、リルフォンを付けると少し邪魔になるのだそうだ。


 その後もしばらく訓練に付き合って、帰りには役所に立ち寄る事にする。

 役所は他の国同様、貴族街から市民街へ出てすぐの場所にあった。

 クエストを見れば行きたくなってしまうだろうと、この日は朱王邸への滞在を報告だけして帰る事にした。

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