第128話 野営《カミン視点》
夜の見張りとは退屈なものですね。
皆さんゆっくりと寝ているようですし静かな夜です。
テントは男性用と女性用を別々に設置していますのでマーリンとメイサも安心して寝られるでしょう。
とはいえ知らずにあの二人に襲いかかろうものなら命は無いと思いますがね。
「あの……」
「おや? トビーさんは寝付けないのですか?」
「いや、人間族は魔人族の事をどう思ってるのか気になって…… お互いに殺し合うのが種族の為じゃないのか?」
「まぁそうですね。危害を加えようとすれば敵対しますが、そうでなければ戦う必要はないと思います。我らの主人である朱王様は人間族と魔人族が手を取り合い、憎しみ合う事のない世界を望んでいますから」
「それはあんた達の主人がそう思ってるだけだろ?」
「その通りです。しかし人間族の殆どが魔人族の事を知らない、お伽話の中の種族と思っているのですよ。国の上層部や実際に被害に遭った人々が知るのみで、敵という認識はほぼないと考えます」
「そうなのか…… オレ達魔族の伝承では人間族を攻め入った魔人族は勇敢に戦ったけど、人間に懐柔された魔人が四大王を倒して魔王になったって言われてる。だから人間は敵だって子供の頃から教えられてるんだ」
「なるほど。魔人族の上位の者がその様に伝えてきているのでしょうね。ですが私達と知り合った今、トビーさんは人間をどう思いますか?」
「敵ではない…… と思いたい。オレに対する敵意が全くないしな。でもどう信じたらいいのかわからないんだ」
フィディックの話や私の話を聞いても信じきるのは難しいでしょうね。
敵対しないと言う朱王様がこの場にいないのですから。
「ではトビーさん。北の国、ディミトリアス大王についてはどの様に聞いていますか?」
「北の国の大王は人間を敵視していないと噂されている。本当かどうかは知らないけど西の国と南の国の大王達はそれを許さないはずだ」
「ふむ。では東の国の大王の噂などは聞いてますか?」
「東の大王は北の大王に近い考えを持っているそうだけどよくわからない。南と西の大王が北の大王を攻めないところを見るとこの噂は本当かもしれない」
「ただし北の国の大王の噂が間違いである可能性もあるわけですか……」
「そうかもしれない」
フィディックの話とも違いはないですし、どちらだったとしても我々はディミトリアス大王に会いに行くべきでしょう。
魔王のいない今、北の大王の噂が違ったとした場合は人間族を攻めてこない理由がありませんしね。
「明日また北の国に向けて我々は移動を開始します。我々は平和を望む朱王様の為に前に進むのみです。そこでもし良ければ貴方に道案内を頼みたいのですがいかがでしょう。無理強いはしません」
「少し考えさせてくれ」
「はい。ではおやすみなさい」
トビーさんはテントへと戻りましたがまだ少し寝付けないんでしょうね。
ですが人間族が魔人族に歩み寄ろうと考えているのです。
よく考えて答えを出して欲しいですね。
あれから誰も起きてくる事はありませんでしたがそろそろ二時です。
私も眠らないといけませんからフィディックと代わってもらいましょう。
翌朝。
私は七時まで眠らせて頂きました。
レイヒムがまた料理をしているようでとてもいい香りがします。
「おはようございます」
皆さんよく眠れたようですね。
元気に挨拶を返してくれました。
「カミンさん」
「カミン様と呼べ!」
トビーさんが私に声を掛けてきたんですが、フィディックに注意されています。
私としてはどちらでも構いませんがそこはお任せしましょうか。
「カミンさ…… 様! オレも一緒に行ってもいいか?」
「ふむ。私としても案内して頂けると助かります。よろしくお願いしますね。では魔人族であるトビーさんと同行するのですから朱王様にも報告しましょうか」
モニターにリルフォンを魔力接続して朱王様にコールしましょう。
「コール…… 朱王様、おはようございます。ご報告したい事がありましたので今お時間は大丈夫でしょうか?」
『おはようカイン。それとマーリン、メイサ、レイヒム、フィディック、おはよう。んー、そこの彼を報告したいのかな?』
「はい。フィディックの同郷との事でしたので北の国への案内をお願いしました」
ゆったりと椅子に座り込んだ朱王がモニターと脳内視野に映し出され、普段の柔らかい表情で挨拶をする。
「トビー、挨拶をしろ。朱王様は…… 人間でありながら上位魔人様だ……」
「じょう…… !? トトト、トビーです! よろしくお願いします!!」
やはり魔人族は強者には絶対服従するようですね。
挨拶するのに土下座ですか。
フィディックもあまり脅かすような言い方はしなくていいのですがね。
『あははっ。そんなに畏まらなくていいよ。カミンが案内をお願いしたって事はある程度話を聞いたんだろう? うーん、そうだな、一応名乗っておこうか。私は先代魔王ゼルバードの意思を継ぎ、人間族と魔人族の共存を望む人間、緋咲朱王だ』
「朱王様。トビーさんの同行をお許し頂けますか?」
『ああ。カミンが信用する者なら私は構わない。じゃあトビー、カミン達をよろしく頼むよ』
「はっ、はい!! お任せください!!」
リルフォンによる通話を切り、短い時間でしたが朱王様のお顔を拝見できましたので気分も違いますね。
嬉しそうな我々とは違ってトビーは未だに震えていますが大丈夫でしょうか。
「トビーさん、大丈夫ですか?」
「じょ……」
「じょ?」
「上位魔人様ってどういう事なんだぁぁあ!? 人間だろ!? 人間なのに上位魔人様!?」
「煩いぞトビー。朱王様は優しくてとても素晴らしい方だぞ。そしてその強さは本物のバケモノだ」
「それじゃわからない!!」
「何日か前に魔貴族のサディアス=レッディアを倒してた」
「西の国でも指折りの実力者じゃないか!?」
「因みにまだ強くなるそうだ……」
「そんなお方が人間族側に……」
とりあえずフィディックの説明で朱王様を少しわかって頂けましたかね?
主人をバケモノと呼ぶのもどうかと思いますが、実際にバケモノですから否定もできません。
ではやる気も出た事ですし朝食を摂って準備が出来たら出発しましょう。
「レイヒム、朝食にしましょう」
「はい、準備はできています!」
昨夜のラビット肉の残りで朝から肉料理ですが、ボイルしたラビット肉を裂いて野草と和えたサラダです。
少し酸味と香辛料の効いたあっさりとしたサラダで、朝でもたくさん食べられます。
昼食も用意してくれているようでお昼も楽しみですね。
トビーの分も予備の容器がありましたので問題はありません。
さて、六人に増えたパーティーでの旅になりました。
この後どんな冒険が待ち受けている事やら。
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