第126話 いざ魔族領へ《カミン視点》
うーん、風が気持ち良いですね。
私達は今大きく広げた飛行装備で空を飛びながら魔族領へと向かっているところ。
地属性魔法で翼の変形と維持、重力魔法で体を軽くしつつ風魔法で揚力を得る。
そして翼を羽ばたかせたり角度を変える事で加減速。
この全てを自分の魔法で発動しようと思ったら頭がいくつあっても足りないですねぇ。
それを能力の魔石と、朱王様のプログラムの魔石という物で全てを制御しているそうですから驚きです。
我が主人ながら誇らしく思いますよ。
先程見た空からのクイースト王国も美しく、目にしっかりと焼き付けてから思い出しました。
リルフォンによる写真機能があったんですよね。
意識するだけで視界に映る景色が切り取れるのですからこちらも驚くべきものです。
さらには遠く離れた相手とも会話ができる優れもの。
こんな素晴らしいアイテムをただで貰ってしまいましたが本当に良かったんでしょうか。
因みにこのリルフォンは十個受け取っています。
今後人間族と魔人族北の国との非戦争を確約できれば魔貴族達の分を作ってお渡しすると言っていました。
これ程の性能、機能のアイテムですから、和睦を申し出るのにこの贈り物は大変喜んでくれるのではないでしょうか。
今はまだ人間族も魔人族も争いは起こっていませんが、争いが起こる前に和解し、共存していく為に歩み寄る事が朱王様の望みですし、我々の目的でもあります。
まぁそれも目的地に着いてからの話となりますので、まずは魔族領へと向かいましょうか。
飛行装備は普段飛んで移動する分にはそれ程魔力は必要としないようです。
ほとんど強化と操作だけですからね。
重力操作も飛翔する時に使うだけで巡行するだけなら必要ありません。
速度はどれくらいでしょうか。
以前調査で行った場所までなら距離もわかりますし、時間から算出してみましょうか…… と、思ってたんですがそれも出来なくなりそうです。
「右手方向から複数の魔獣が接近しています」
こちらに近付いて来ているのはグリフォンのようですが荷物が邪魔で戦い難いですね……
「メイサとマーリンの二人で迎撃してください。荷物は私とフィディックで持ちます」
まぁ今のこの二人なら難易度10の魔獣の六体くらい大丈夫でしょう。
以前の私達なら全員でも苦戦する魔獣なんですけどね。
それ程までに精霊魔導の威力は物凄いのです。
二人から荷物を受け取ってしばらく待ちましょうか。
メイサは翼を羽ばたかせてグリフォンへと向かって行きましたが、シルフを顕現しての飛翔は驚く程速いですね。
反応する間も無く一体目が落ちていきました。
どうやら下級魔法陣も発動しているようです。
マーリンは精霊サラマンダーと契約していますが…… なんでしょう、何かしようとしてますね。
火球を作って飛行装備の風魔法を混ぜ合わせて爆風からの加速を狙っているようですが…… あ、失敗しましたねぇ。
発想はいいんですが実戦で試すのはどうかと思います。
そうこうしている間にメイサが三体倒してますね。
蒼真様の風刃を真似しているようですがグリフォン相手だと刃は通り難いはず……
千尋様から組み込んで戴いた暴風のおかげでしょうか。
蒼真様の普段の風刃よりも出力が高いようです。
やっとマーリンが戻って来ましたが残りは二体しかいませんよ。
下級魔法陣はすでに発動済みでサラマンダーは剣にしがみ付いていますが、マーリンはどのように戦うのでしょう。
サラマンダーの炎で目眩しをしつつ背後に回り込んでの炎の斬撃ですか。
おお…… 凄いですね、あれも付与された火炎のおかげでしょうか。
グリフォンの全身から炎が上がりましたよ。
メイサは最後の一体も苦もなく倒してますね。
二人とも素晴らしい上達振りです。
グリフォン…… できればあの翼素材を切り取って朱王様にお送りしたいところですが、今は任務中ですし諦めましょう。
魔石に還しても持ち運ぶのにまた荷物になりますからどうしましょうかね。
今回は埋めてしまいますか。
「ではマーリンとメイサは魔石に還して土に埋めて来て下さい」
「グリフォンは食料にしませんか?」
「まだ王国から出て間もないですから必要はないです。魔石も持ち運ぶわけにいきませんので土に埋めて自然に還しましょう」
指示に従ってマーリンとメイサは地上へと向かってくれました。
「カミン様、魔石は埋めると無くなるんですか?」
フィディックは魔族ですから地属性魔法で魔石に還せないんでしたか。
「そうです。魔石は数日で自然に還りますよ。ただ死骸も十日程で自然に還りますが、もしかしたらゴーストになる可能性もありますからね。魔石に還して土に埋めた方がいいのですよ」
「そうか…… そのせいでゴーストが生まれるのか」
何か納得したように呟いてますね。
まぁ魔人族が魔獣を魔石に還せないとなれば倒した死骸はそのままでしょうからね。
もしかしたら食用の魔獣の骨などを積み重ねてたりしてたのかもしれません。
骨だけでも複数体分をまとめておけばゴーストが生まれたりするそうですから、骨も全て埋めるべきでしょうね。
空気中に魔力として還るよりも土の中の方が早く還りますから。
マーリンとメイサも戻って来ましたので、魔族領へと向かいましょう。
ようやく以前の調査場所までたどり着きました。
リルフォンで確認して現在十一時三十五分。
出発したのが九時二十分頃でしたから、王国上空からの撮影やグリフォンとの戦闘なども考えて、二時間掛からずに到着したとすれば時速50キロ以上は出ているのでしょう。
それ程魔力を消費せずにこの速度は素晴らしいですね。
ここは隠れられるので安全ですから一旦早めの昼食にしました。
いつも美味しいレイヒムの料理ですが冷めたお弁当でも美味しさが保てるよう工夫がされており、今から今夜の食事が楽しみになります。
さて、以前ここから双眼鏡で調査しましたし今日も念の為確認しましょう。
うーん、見た限りでは魔族は見当たりませんね。
「フィディック。この辺りに魔族の集落などはあるんですか?」
「この辺に村なんかはありません。以前この辺で魔人族を見たとすれば私が住んでいた村の者だと思います。それでもここから随分と距離があるはずですが」
「なるほど。少し慎重に行きましょう」
ここからは歩いて進む事にしましょうか。
しばらくは魔獣もいないようですし空を飛んで行ってもいいんですが、何が起こるかわかりませんからね。
双眼鏡ではわからなかったのですが、ゴーストが所々にいるようです。
日中に出るゴーストは見えづらくて困りますね。
しかしゴーストですか。
物理攻撃は通らないんですが、強力な魔力が込められた一撃であれば容易く倒せます。
ただゴーストもそこそこに強力な魔法を使ってきますから厄介ですね。
魔力消費が大きいのであまり相手にはしたくないですが、フィディックやレイヒムの訓練としてはいいかもしれません。
「ではフィディックとレイヒムでゴーストを倒してください。魔力を高めて攻撃すれば簡単に倒せます。ただし、反撃には注意してくださいね」
まずはフィディックから行くようです。
直剣に冷気を纏わせて走り出し、ゴーストの放った火球を弾いて正中から叩き斬りましたね。
訓練とは違って緊張したんでしょうか。
少し滑らかさに欠ける感じがしましたがそのうち慣れるでしょう。
次はレイヒムに戦ってもらいましょう。
魔獣との戦いは初めてなんでしょうけど、彼もフィディックと同じように訓練していますからね。
技術的にはまだまだですが、強化された装備を使用すれば苦戦する事はないでしょう。
レイヒムの強化した装備というのは、袖を捲り上げる為の腕輪二つとドロップ、バックルの合計四つです。
右手の腕輪には風の精霊と下級魔法陣ウィンド。
ナイフで調理するのが利き手の右手だからですね。
左の腕輪には炎の精霊と下級魔法陣ファイアで、鍋やフライパンを熱するのに左手を使うからだそうです。
ドロップには水の精霊と下級魔法陣ウォーター。
水を集めるのに使用する為だそうです。
そして氷も欲しいとの事でしたので千尋様も困っていましたが飛行装備のバックルがミスリルでしたね。
こちらに氷の精霊と下級魔法陣アイスを組み込んでおりました。
さて、レイヒムは右手に…… 大きさや形からしてスライスナイフでしょうか、握りしめてシルフに魔力を渡しました。
駆け出しましたがなかなかに速く、左右にフェイントを入れる事でゴーストも反応しきれません。
火球もあらぬ方向へと放たれましたしチャンスです。
右手を引き絞って風魔法を放ちました…… 何故千切りの風魔法を放つんでしょうか。
ゴーストは部分的に切り刻まれて再生しようとしていますが、レイヒムは精霊に何か説明してますね。
それより早く倒すべきだと思いますけど。
……
そうこうしているうちにゴーストも再生し終わりましたよ。
レイヒムも精霊に説明が終わったようですので仕切り直しです。
ゴーストの放った火球を躱して走り出し、今度は振り被っての風魔法を放ちました。
ゴーストも両断されて地面に横たわりましたし倒せたようです。
素晴らしい一撃でした。
その後も近くを通るゴーストを倒して行く事で二人のレベルアップを図りたいと思います。
マーリンやメイサはすでにレベル10ですから必要ないですからね。
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