第119話 王宮でのパーティー

 この日王宮に招かれた千尋達。


 千尋と蒼真、朱王は宮廷貴族服を着用し、普段見る事のない正装だ。


 千尋は前面にギャザーが多く入ったアウターに黒いパンツ。

 千尋にしては珍しく深緑色のアウターを着ている。

 パンツの側面は全て編み込みになったパンクなものを選んだようだ。


 蒼真はワインレッドのロングジャケットに、黒いインナーとパンツ。

 幾何学模様のパンツとロングジャケットの刺繍が、落ち着いた印象ながらも綺麗に纏まっている。


 朱王は真っ黒なケープ付きのコートだ。

 やはり正装ながらも朱王の好みに仕上げられており、ジャラジャラとした金属でパンクな感じに仕上げられている。

 仕立て屋さんも朱王の要望に応えるのも大変だなと思う。


 全員グローブを着けているのは、地球のイメージがそうさせただけ。

 貴族のパーティー=グローブ必須なイメージ。

 この世界ではグローブをしなくても良いのだろうが。

 念の為、男三人は武器を所持して王宮に来たのだが、会場に入る際に使用人に預けてある。

 聖剣は手放すわけにはいかない為、布に包んで千尋が持っている。




 リゼは淡い黄色のドレスだ。

 白いフリルとピンクの花柄の模様がリゼのイメージにもぴったり。

 長い髪は波ウェーブにしてツイスト編みをし、ふんわりと可愛らしく仕上げた。


 ミリーは真っ赤なドレス。

 ピンクのフリルが多く使われていて綺麗で可愛らしいドレスだ。

 髪型は編み込みをアレンジして薔薇の花を髪の毛で作ってみた。

 エクステを使って赤を入れる事で花の髪を綺麗に見せる。


 アイリは紫色に金の花の刺繍が多く入った豪華なドレスだ。

 フリルではなく紫色のギャザーがあしらわれ、美人なアイリによく似合う。

 髪型は三つ編みシニヨンで綺麗に纏めてみた。


 三人の髪型をアップスタイルにしたのはもちろん朱王。

 本業なので腕の見せ所といったところか。




 貴族の人々を掻き分けてこちらへ進んでくるのは聖騎士長バルトロだ。

 警備の為に来ているのだろう、鎧を着て魔剣を腰に下げている。


「皆様、ようこそお出下さいました。ごゆっくりとお食事を楽しんでください」


 こちら側が客である為、最初だけでも丁寧な挨拶をするバルトロ。


「ねぇバルトロさん、聖剣はどうするの?」


「少し待ってくれ。貴族の者達が全員揃い次第呼ばせてもらう。千尋は少し所作に気をつけてくれ」


 バルトロの忠告は確かに重要だ。

 千尋のいつもの態度で国王に聖剣を渡そうものなら反感を買い兼ねない。

 一度会場を出て使用人から一室を借り、蒼真を国王と仮定して朱王が千尋に教育する。

 蒼真は国王様気分でノリノリだがまぁ気にしない。

 器用な千尋が朱王の教えをすぐに覚えたのは当然の事。

 あとは本番でやらかさない事を祈るだけだ。




 会場に戻って食事を摂る。

 立食式のパーティーだが、朱王は貴族の女性達に囲まれていろいろと話しをしている。

 それを見て不機嫌そうなミリーだが、料理を食べる手と口は止まる事はないようだ。

 料理を食べ始めると朱雀も参加した。

 朱王の後ろからヒョイと出てきたがどこに隠れていたのだろう。

 服装は朱王と似たコートを着ていて、ケープは付いていない。

 たぶん邪魔だったのだろうと思われる。


 リゼとアイリは他の男性貴族に囲まれている。

 どうやら二人とお近付きになりたい貴族達であろう、二人の容姿を褒め、自分のお家柄について語り出しているようだ。

 美人な二人だしモテるのは当然といえば当然だろう。


 千尋は大きな荷物を持っているし、見た目が女の子のようでいて男装をしているせいか、男装ではないのだが男装しているせいか、男性貴族も女性貴族も話しかけ辛そうにしている。

 だが千尋の容姿だ、話しかけたい者は多そうだ。


 蒼真は当然のように女性貴族に囲まれている。

 朱王と共に来た時点で貴族ではない事は知れている筈だが、立ち居振る舞い、見た目、雰囲気、その他含めて蒼真は魅力的に映るようだ。


 しかしミリーを口説きに来るような男性貴族はいない。

 側に朱雀がいるので親子とでも思われているのか、視線は向けられるのに話しかけられる事はない。

 その視線も好意の視線や不快そうな視線、様々な感情が向けられている気がするミリー。


「ミリー、こっちへ!」


 朱王に呼ばれ、ミリーはそちらへと歩いていく。

 若干不機嫌そうなのは置いておこう。


「私の婚約者のミリーです。来年あたり結婚すると思うので祝福して欲しいですね。ミリー、ご挨拶を」


 急に婚約者として発表され、一気に恥ずかしくなるミリーだが、朱王の妻となるのであればこの程度で怯んではいられない。

 覚悟を決めて前に出る。


「ザウス王国北区城下町、回復術師ロイ=アルブレヒツベルガーが娘、ミリーと申します。皆様よろしくお願いします」


 ミリーらしからぬ挨拶に朱王も驚いたが、ミリーの迫力に息を呑む貴族の女性達。

 魔力を発していないにもかかわらず、痛い程に空気が震えるような錯覚にとらわれる。

 そして朱王の側にいた貴族の老人が納得したかのように頷き、挨拶をする。


「貴族を代表して挨拶をさせて頂きます。ゼス王国の公爵であるジェイラス=アルベルジェッティと申します。朱王様の婚約者、ミリー様。失礼とは思いましたがその強いご意思を確認させて頂きました…… できる事であれば朱王様の妻として我等貴族の娘をと考えてはおりましたが…… 尋常ならざる覚悟をお持ちのお方だ。認めざるを得ないでしょう。我等ゼス王国貴族は、朱王様とミリー様を祝福させて頂きます」


 深く礼をするジェイラスと、続いて拍手が巻き起こる。

 ゼス王国でミリーを認められたという事だろう。

 このジェイラスという男は、人を見る目に関して誰よりも信用を得ている。

 それもそのはず、ゼス王国で過去最強の聖騎士長であり、魔導の深淵へと近づいたと言われる程の実力者。

 国王でさえジェイラスの言葉を信じて疑う事はない。


 同じように朱王とミリーも礼をして、拍手の中でミリーは嬉しさを噛み締めた。




 しばらくして国王が王妃と王女を連れて会場へとやって来る。

 国王が席へと着くとともに会場は静まり返る。


「皆の者、今日は集まってくれて感謝する。実は今日のこの宴で披露したい物があってな。我が国の聖剣をある者に修繕を依頼したのだ」


 修繕!? と思ったのは千尋達。

 全然修繕とは程遠い作業をしてきたのだが……


「…… 修繕だけでなく、さらなる強化が可能という事だったのでな。改造も施してもらったので皆に見てもらいたい。千尋よ、こちらへ」


 国王は表情を察してフォローしてくれたようだ。


「はっ!」


 国王の元へ布に包まれた聖剣を運ぶ千尋。

 片膝をつき、頭を下げて両手で聖剣を持ち上げる。

 朱王が教えたようにしっかりとした所作だ。


「ふむ」


 立ち上がった国王が聖剣を握りしめて、布を払って聖剣を見つめる。

 布は千尋が受け取って少し待つ。

 鞘に納められた聖剣はそれだけでも宝剣と呼べる美しさ。

 貴族達の方に歩み寄り、その鞘に納まった聖剣を表、裏と返しながらその出来を見せつけるようにして戻ってくる。

 千尋は受け取った布を足元に広げ、国王が布の上に立って聖剣を抜き放つ。

 そして布に聖剣を突き立てたところで千尋が呪文を唱え、千尋の呪文に合わせて国王も詠唱する。

 布に描かれているのは精霊召喚魔法陣だ。

 魔法陣から炎が立ち上り、そこに浮かび上がるように現れたのはサラマンダー。

 聖剣を前に出して魔力を放出するの国王。


「其方の名はファーレンだ」


 魔力をサラマンダーに渡し、背中から炎を噴き出して聖剣へと飛び込むファーレン。

 炎を払って再び貴族達の方へと聖剣を見せるよう、魅せるように歩み寄る。

 白銀の刃に金と深紅の装飾、そして七色に輝く太陽の宝石風デザイン。


 これまで誰も見た事がない程に美しいその剣に、全ての者が息を呑んだ。

 ポンメル内に組み込まれた魔石は、魔力を赤く染める。

 炎を放たなくても国王の体から放たれる赤いオーラが、その聖剣の性能の高さを物語らせている。

 実際はただ色が着いただけなのだけれど。


「千尋よ、この聖剣に名をくれぬか」


「では聖剣ガラティーンと名を付けたいかと」


「ふむ、聖剣ガラティーン。良い名だ。ありがたく使わせてもらおう」


 相変わらず地球産の名前だが。




 騒めきも収まり、朱王からも国王に渡す物が。


「国王様、ご依頼のあった飛行装備です。こちらもお受け取りください。王妃様、王女様にもどうぞ」


 朱王も国王へと近付き、布に包んだ飛行装備を渡す。


「まぁ! 私にも頂けるのですか!?」


「わたくしにもですか!?」


 と嬉しそうに朱王を見る王妃と王女。

 コクリと頷き笑顔で手渡す朱王だが、二人ともドレスの為装備はできない。

 使用人に言って装備を準備させるようだ。


 国王に飛行装備を着用してもらってマントを取り外し、朱王の説明に国王は頷いて魔力を練る。

 国王は飛行装備の翼を広げて拡大し、千尋から聖剣を受け取って腰に下げる。

 風を操作して空中浮遊して見せる国王と、驚愕の表情を浮かべる貴族達。

 会場で飛び回るわけにもいかずすぐに着地した。


「千尋、朱王、素晴らしい贈り物に感謝する。この礼は必ずするのでな、受け取ってくれ」


「「ありがたく頂戴させて頂きます」」


 形式的ではあるがしっかりと挨拶を済ませ、聖剣の返却と飛行装備の贈呈は終わった。


「皆の者! 驚くのはまだ早いぞ! 貴族街、市民街に大きなミスリルが設置されているのは知っていると思う。全てクリムゾンが設置しているのだがこれが凄い! 皆、度肝を抜かれるぞ」


 そう言って国王は舞台ホール兼映画館へ来客を案内する。




 貴族達がホール内に配された椅子にそれぞれ座り、舞台に上がった国王はリルフォンをスピーカーに繋いで話し出す。


「今から我々の知らない世界がこのモニターという物に映し出される! これからクリムゾンではいろいろな娯楽をこのモニターに映し出す事によって、世界中に広めようと考えているのだ! 我が国の貴族達よ! 皆にも協力してもらいたいのだ! これは我が国だけではない、全ての国で良きものをつくる為に協力していくべきだと思う! まずは一つ映画の世界に酔いしれてくれ!」


 そして始まる映画は、貴族達の心を満たすに充分な内容となった。

 これまで見た事もない世界というだけでなく、その物語の面白さ、感情を揺さぶられる程の驚きと感動に、涙を流す者も多くいたようだ。


 支援や協力してくれるという貴族はほぼ全員。

 これから作る番組があるとすれば自分も出演したい、物語を考えたい、自分もクリムゾンに入りたいなど、様々な意見が飛び交った。

 さすがにクリムゾンに入りたいと言った数名は親にお叱りを受けていたが、元奴隷と蔑むような貴族は少なくなっているのかもしれない。

 それを思わせる意見は他にもあったのだ。

 サフラやイアン、ダンテなどは貴族の間でも人気が高い。

 その強さ、頭の良さ、そして人間性と全てにおいて貴族の男達よりも優れている。

 身分を気にするはずの貴族の親達世代でさえ幹部や有能な者であれば婿養子に迎えたいと考えているようだ。

 朱王の信用する者であればさらにいいのだろうとは思うが、クリムゾンの者が幸せになれるのであれば朱王としても構わない。

 貴族、市民、そして元奴隷であるクリムゾンメンバーが手を取りあって、より良い世界になっていけばいいと思う朱王だった。




 実はこの国王との諸々の内容は、口裏を合わせるよう言われていた。

 飛行装備は完成してすぐに渡しに行ったのだが、聖剣と一緒に受け取るとし、念の為夜中に練習をしてもらったくらいだ。

 そして聖剣の精霊契約もそうだ。

 国王が浅く刻んだ魔法陣を王族用の布に縫い付けてあったのだ。

 貴族の目の前で精霊契約をし、その性能と美しさを見せ付ける事によって、この聖剣の素晴らしさを伝えようという国王の意思だった。

 国王としてはこれにより千尋に与える褒美がどんな物でも、異を唱える者はいないだろうという勝手な考えだったのだが。

 千尋達はそんな国王の考えなど知る由もなかった。

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