第118話 聖剣改造と飛行装備作り

 千尋とリゼは今日から聖剣の改造をする。


 ゼス国王の身長は195センチとかなり大柄な男で、聖剣を装備すると若干短いように思えた。


 ゼス王国の聖剣は両手直剣で、剣身の長さがおよそ1メートル。

 体の大きさや腕の長さなどを考えるともっと長くしても扱えそうだ。

 そして聖剣の溜め込める魔力量は、これまでの最高のもので2,613ガルド。

 リルフォンで確認したので間違いない。

 刃毀れは所々しているものの、それ程悪い状態ではない為切った貼ったは少し躊躇うところ。

 魔力の方向はやはり曲がっているようなので、この聖剣も呪文を組み込む事にしよう。


 まずは剣の延長だ。

 切った貼ったを躊躇うのはリゼのみで、千尋は容赦なく先端を切り落とした。

 続いて刃も全て削ぎ落とす。

 これまで聖剣だった刀身が、ただのミスリル板に早変わり。

 魔力量も1500ガルドまで減少している始末。

 いつもの事だが慣れないリゼと、全く気にする素振りの見せない千尋。

 刃部分に魔力の溜め込めるミスリルを接着して固定。

 次々と接着していき、剣身部分は幅の広い板になる。

 今度は素材をしっかり選んで先端部分のミスリルを接着。

 長さも四割り増しといったところか。


 全て作り直すのでガードやグリップ、ポンメルは取り外す。


 続いて接着した剣身を削り込んでいく。

 今回作るのは幅広な両手直剣で、装飾は千尋好みのド派手仕様。

 刃の形を整えて午前は終了。


 午後からはガードと装飾のミスリル板作りをする。

 ガードは剣身の幅よりも少し広めに作り、グリップとポンメルも国王の手の大きさに合わせて太く大きく作り直した。

 装飾部は裏面を平らに削り、表面は装飾の彫刻を施す。

 装飾部分はガードと一体型とする為幅も広くとってあり、陰影がはっきりと出るように深めに装飾を彫り込んでいく。

 両面の装飾がある程度形になってきたところでこの日の作業は終えた。




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 この日朱王とミリー、蒼真とアイリは工場の視察に向かった。

 飛行装備の素材が届くかとも思ったのだが、明日以降との事だったので蒼真達も工場について行った。


 朱王の工場では通常のドロップを生産しているのだが、金属は安物の素材を使っているわけではない。

 プレス機でドロップの枠を形作り、いくつかのパーツを組み合わせて溶接。

 研磨をする事で表面を平らにし、表面を特殊な溶剤につける事で着色を行う。

 この着色はメッキのようなもので、金属のフックに吊るされたドロップを溶液につけ、魔石から魔力を送り込むことで色が着くそうだ。

 もちろん表面も鏡面仕上げで傷一つない。


 次に手作業による彫刻が施される。

 ミスリルとは違って彫刻するのもそれ程難しくはないが、一つ一つ丁寧に作り上げる子供達の手つきは熟練の作業者と言っていいだろう。

 着色されたドロップに銀色の彫刻が施される事ではっきりとした模様が浮かびあがり、また着色の溶液につける事で彫刻部分のみに別の色が着色されるそうだ。


 完成したドロップは高級品ではないというが、貴族用ドロップにはない良さがあると思えた。

 制作過程を見ると、ミリーが以前言っていた限定品ドロップへの想いも少し理解できた蒼真だった。




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 翌日も千尋とリゼは聖剣の改造だ。


 まずは昨日の続きの装飾を綺麗に仕上げていく。

 彫刻が終わったところで剣身に当てて位置を確認し、剣身にも模様を描いて加工する位置を決める。

 描いた線を頼りに、剣身にも装飾の彫刻を施していく。

 もちろんこの部分には方向の呪文も組み込んである。

 とうを彫り込んで剣身の装飾は完成。

 次に刃付け作業を行い、薄刃に仕上がったところで午前の作業は終わり。


 午後からは磨き込みを行い、剣身と装飾部の鏡面仕上げが完了したところでこの日の作業を終えた。




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 この日の朝には飛行装備の素材の一部が届けられた。

 素材は難易度10相当の魔獣の翼という事で、品質はそこそこ。

 クイースト王国の鞣し職人の素材に比べれば劣るものの、以前お試しでやった千尋達の強引な素材加工よりも良いレベルの素材だ。

 色は全て鞣し加工がされている為、少し青みのある白い素材。

 朱王とミリー、蒼真とアイリの組み合わせで飛行装備作りをする。

 この際、白しかないので着色はミスリルでやってしまおう。

 今までいろいろと作ってみてわかったが、ミスリルによる着色でも刺青となるのでそれ程悪くはないのだ。

 まずはゼス王国の聖騎士達用の飛行装備から作ろう。


 全員分同じものを作ろうか……

 ゼスの聖騎士は、基本はミスリルの鎧に白と青に金の刺繍が入った耐火服を着ているのだ。

 イアンは朱王の部下なだけあって別の装備だが、そこは別として考えよう。

 それぞれ個性を持たせて違う色で作ってみるのも良いかもしれない。

 しかしクイースト王国では聖騎士達の好みの色で作ったのだが、王国の聖騎士として見た時に統一感がなくなってしまった。

 やはり同じ色で作って装飾の刺青を少しずつ変えていこう。

 着色の魔石を大量に削り、ミスリル粉と混ぜ合わせて必要な色の刺青用ミスリルを大量に用意。

 青白い素材に白いミスリルでブラストし、白い翼素材を大量に作る。

 次に型を当てて切断と折り込み加工。

 そして溶着をして一気に十一枚の翼を作った。

 続いて飛膜にも青いミスリルでブラスト染色をする。

 まずは二枚の飛行装備を完成させ、朱王とミリーが装飾の刺青を担当、蒼真とアイリは飛行装備の接着とベルトとパーツなどの組み込みを担当する。


 蒼真とアイリが十組の飛行装備を作り終え、次に聖騎士長バルトロの分を作ることにする。

 バルトロのものであれば、魔力練度から考えてみてもA級素材でもなんとかなるだろう。

 A級素材の白銀の翼と青色の飛膜を使用して作る。

 やはりA級素材ともなればその強度は高く、蒼真は全力で強化して一気に切断加工をしていく。

 レベルアップによって強化能力も上昇しており、切断面も綺麗に仕上がった。

 折り込みと溶着の加工も終え、聖騎士達の分は作り終わった。


「朱王さん、国王と王妃、王女の飛行装備はどうするんだ? 魔力練度も何もわからないが……」


「国王はS級素材でいいよ。よくサフラと訓練してるみたいだし、国王としては各国最強なんじゃないかな? 王妃と王女は通常素材だね。クイーストから持ってきた残りの素材で足りるでしょ」


 国王の飛行装備は赤翼に黒い飛膜の、ガネットと同じ色で作る事にした。

 王妃の分は緑翼に銀の飛膜、王女は黄色の翼に白い飛膜で作るとの事。

 王族の装飾は金色で入れる予定。

 王妃も王女も装備を持っており、その色に合わせた飛行装備にするそうだ。


 蒼真とアイリはどんどん飛行装備を作っていき、朱王とミリーも次々と装飾を入れていく。


 十四時を過ぎれば蒼真は聖騎士の訓練に向かうのだが、飛行装備作りも捗っているので問題はないだろう。




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 聖剣の改造を始めて三日目。


 剣身にガード、グリップ、ポンメルを組み付け、鏡面磨きの終わった部品を接着する。

 接着の魔石粉を水に溶いて剣身に塗りつけ、位置をしっかりと合わせて接着、そして圧力をかける。

 反対側も同じように接着して、最後は着色だ。


 太陽を思わせるようなデザインとして作ったガード部分には金で着色し、同じ様に装飾部分は全て金。

 樋の部分は深紅にし、剣身の装飾を彫り込んだ部分も同じく着色。

 ガードの太陽の様な装飾の中心には宝石の様なデザインにしてあるので、その中心は朱王から七色魔石をもらって着色。

 七色魔石は魔法の魔石な為、常にキラキラと煌めくのが特徴だ。

 刃の部分とグリップを白銀とし、ポンメルは金と宝石をデザインした部分には深紅とした。

 着色が終わったところで午前は終わり、午後からは鞘作りだ。


 鞘を作りは厚いミスリル板を切り出し、半身分を彫り込んで貼り合わせる。

 両面分用意して聖剣がしっかりと納まるように、そして削り過ぎないように慎重に加工する。

 内部の切削が終わったところで、魔力の流れを遮る素材を接着した。

 接着魔石の水を塗り込んで、位置を合わせて接着、そして圧力を掛ける。

 接着できたところで鞘の表面の加工に移る。

 鞘が重すぎては戦闘に支障をきたす為、なるべく薄く作る方がいいだろう。

 薄過ぎても強度面で心配もあるのでその辺は慎重に。

 厚さをある程度調整しながら形を整えてこの日の作業も終了。






 聖剣改造四日目は鞘の装飾から始めた。

 千尋の拘りの装飾は聖剣であろうとその鞘であろうと変わらず、しっかりと千尋好みに仕上げられていく。

 ところどころに宝石のようなデザインを設け、装飾がない部分は厚さを落として軽量化。

 午前には装飾を終えて、午後からは磨き込みと鏡面仕上げ。

 鏡面仕上げまで終わり、着色は金と深紅。

 宝石の様なデザイン部分は七色魔石で着色し、聖剣の鞘も完成。




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 蒼真達はザウス王国の聖騎士用飛行装備作りをしていた。

 ザウス王国の聖騎士は白い翼に赤い飛膜だ。

 ザウスでは聖騎士達に蒼真も随分とお世話になった為、朱王から習って少しずつ装飾を入れてみた。

 もちろんマールの分も作ってある。

 ロナウドやレオナルド、レミリアの分は千尋やリゼが作った方がいいだろうと、続いてノーリス王国用の飛行装備を作るのだった。

 





 翌日もウェストラル王国用から、クリムゾン隊員用と作り続けた。

 素材は毎日運び込まれているので充分足りているのだが、このままいくと余りそう。

 余った分は各地に運ばせて幹部用とテレビ局員用のを作ろうか。

 千尋の聖剣改造が終わる前には各国聖騎士分は作り終えていた。




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 聖剣改造を終えた翌日は、千尋とリゼがロナウド達の飛行装備作り。


 色はロナウドには一新してもらおうと、真っ黒な装備に赤いラインを入れ、金の装飾を施した。

 S級素材を使用し、シンプルながらカッコいい飛行装備となった。


 レオナルドは真っ青な飛行装備にした。

 ロナウドと同じように銀色のラインを入れて金と銀の装飾を入れてこちらもシンプルに。


 レミリアは全て緑の翼と飛膜で作った。

 レオナルドと同じように装飾を入れ、リゼの要望で天使の翼仕様にした。

 レオナルドもレミリアも素材はC級素材だ。


 ザウス国王用には白銀の翼と飛膜。

 金色の装飾に青い影模様を入れてギラギラとしたザウス国王の好みそうなド派手仕様にしてある。

 なんとなくだが勇飛と気が合いそうだと思った。






 飛行装備を作り終えた朱王は一振りの剣を見つめている。


 以前手に入れた剣。


 魔貴族サディアス=レッディアの持っていた精霊剣だ。

 この精霊剣は、魔族が体内に取り込んだ精霊を自分の魔力に馴染ませる事で精神を食い殺し、精霊の魔法を自分の意思で使用する事で威力を上昇。

 同時に魔族は精霊の精神を食った事で、魔力の増加もしている。

 精神を失った精霊を、魔族の能力である硬質化で体外に取り出し、形状を剣として作り上げた物が精霊剣だ。

 物質化された精霊の生命としての存在値が、硬度、強度を高め、そして魔力保持も可能とする。

 これは朱雀丸と同様魔剣と言えるだろう。

 魔力の溜め込める量はおよそ7,000ガルド。

 火属性としての能力は全て失われ、精霊としての存在値のみが残っているようだ。

 見た目が少し禍々しいのと剣としての切れ味がいまいちなのが問題点。

 朱王は自分好みに改造しようと刃を研ぎ始めるのだった。




 蒼真とアイリ、ミリーは朝から聖騎士訓練場へと向かっている。

 聖騎士達もだいぶ精霊の扱いに慣れてきた為、対人での訓練もできるようになっている。

 聖騎士同士ではまだ魔法陣を発動しての訓練はできないが、蒼真やアイリ相手であれば制御できない精霊魔導でも対人訓練が可能だ。

 嬉しそうに空へと飛び立つ蒼真とアイリ。

 そして体の痛みが完全に抜けて運動がしたいと言うミリーが向かうのだ。

 聖騎士達は覚悟するべきだろう。

 地獄の訓練が今日から始まるのだから。

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