第117話 ゼス王国国王
ゼス王国に来て六日目のこの日、ついに国王に会う事になった。
王宮の玉座の間にて。
王の護衛の他に聖騎士長バルトロも立っている。
「よく来たな、アマテラスよ。それと朱王は久し振りだな。私はゼス王国国王ウィリアム=ゼスだ。今日来てもらったのは他でもない、其方らの作る武器についてだ。ザウス王のやつ聖剣を自慢してきおって…… そしてバルトロの剣を見せてもらったが、あれは朱王が作ったのか? ザウス王は千尋という者に改造してもらったと言っておったが」
茜色をした髪に髭を蓄えた男、ゼス王国国王。
玉座に座っていてもわかるほどに大きな体躯をしており、背後には聖剣と思われる巨大な両手直剣が飾られている。
ザウス王は聖剣改造の内容を千尋から魔石として貰っており、それを持たせた使者に自慢に来させたようだ。
「久し振りですね、ゼス国王。お元気そうで何よりです。バルトロさんの剣は確かに私が作った物ですが、ザウス王の聖剣を改造したのはこの千尋君ですよ」
そう言って千尋を指す朱王。
「えーと…… ゼスの王様も聖剣改造する? デザインの相談はするけど他は任せてくれたらカッコよくするよー」
相変わらずタメ口な千尋だが、ザウス王の記憶の魔石で知っていたらしく嫌な表情はしない。
護衛は武器を握り締めるが踏み出す事は出来ない。
過去に朱の裁きを見てきた彼等は、朱王に近付く勇気がないのだろう。
「おお! 改造してくれるのか!? あれ程の聖剣となるのであればそれ相応の対価を支払う。頼めるか?」
「いいよー! デザイン決めたいんだけどそこに行っていい?」
了承を得て、ゼス国王の側まで行った千尋は護衛に紙やペン、机と椅子を持って来させ、聖剣のデザインを相談し始めた。
国王はお茶やお菓子も持って来させて盛り上がりながら聖剣改造案を煮詰めていく。
お前ら友達か? と思える程に砕けた感じに話し合っているが、まぁ千尋だし仕方がない。
ある程度聖剣改造の方向性が決まったところで、ゼス国王にも全員の武器を見せる事なった。
最も興味を示したのはリゼの魔剣ルシファー。
玉座の間ではあるが、少しルシファーを振るって欲しいという事で、リゼも期待に応えて横薙ぎからの乱舞を見せる。
ピンクに輝く二十もの刃が舞い、冷気を放ってキラキラと輝く乱舞はとても美しい。
「見た目といい性能といい素晴らしい剣だな…… んん、剣で合ってるよな?」
と、疑問に思う程にはよくわからない武器だ。
国王の聖剣改造のデザインも決まり、リルフォンもプレゼント。
ゼス国王は結婚して子供もいるという事で三人分を渡した。
「国王様! あの件をお願いして頂きたいのですが!」
と、バルトロが国王を通して頼みたい事があるらしい。
「うむ、其方らの飛行装備とは空を飛ぶ事ができると聞いておる。それを私と聖騎士達にも作ってはくれぬか? こちらについても充分な報酬を支払う」
「作るのは構いませんが素材が足りませんね。最低でも難易度10以上の魔獣の翼が必要なんですけど」
「国中から素材を買い集めて朱王の邸に届けさせる。それで良いか?」
「素材があれば作りますよ。それと報酬を先に要求してもいいですか?」
珍しく朱王から報酬を要求し、頷く国王。
「テレビ局を立ち上げる事は聞いてますよね? クイーストではすでに先行して始めていますが、ゼス王国でも映画の日をまずは設けるつもりです」
「バルトロから映画の事を聞いておる。驚く程の面白さと感動を得られる娯楽であるとな。ここ王宮にもミスリルが運ばれているが、あれはその為の道具なのだな?」
ゼス王国国王ともなれば仕事は多忙を極める。
聖騎士訓練場の確認にもまだ行っていないのだろう。
「はい、今日この後設置させてもらいます。国王も気に入ってくれると思いますよ」
「ふむ、期待しよう」
「それと同じくノーリス、ザウス、ウェストラルにもモニターを設置したいと考えています。今後クリムゾンの隊員達を他国へと派遣しますので、ミスリルの調達をお願いしたいのですが構いませんか?」
朱王はこのままではモニター設置の旅になってしまう事を懸念して、今回のこの提案をしたようだ。
まだゼス王国でも設置するモニターがあるので、隊員達にはしっかりと覚えてもらいたい。
「構わぬ。我が国の分も支払うので後で請求してくれ」
これでモニター設置の旅にはならなくて済むだろう。
あとは飛行装備の素材がどれだけ集まるか、それ次第では四カ国分の聖騎士の飛行装備を作って隊員達に運ばせてしまえばノーリスからは遊んでいられる。
千尋達も朱王の意図に気付いているらしく何も言う事はない。
千尋とリゼは聖剣の改造。
蒼真とアイリは飛行装備作り。
朱王とミリーは工場、施設の視察など。
ここゼス王国滞在中はひたすら仕事に専念しようと考える千尋達だった。
「千尋よ、聖剣の改造にはどれくらいの日数が掛かるのだ?」
「んーとね、今回鞘もミスリルで作るから四日くらいは掛かりそー」
「そうか、では余裕をみて一週間後。七日後に宴を催す事にしよう」
どうやら宴を催す為の仕事日程を調整をするようだ。
しかし国王が言う宴であれば貴族も多く集まる事だろう。
冒険者の装備や普段の私服ではいけない気がするのだが…… クイースト王国で仕立てた服がある。
クイーストでは着る事はなかったが、ここに来て着る機会が訪れた。
国王は仕事があるので退席し、モニターが完成したら一度確認に来るとの事。
王宮にも舞台付きのホールがあり、そちらにモニターと音響設備を設置する事になる。
朱王城と同じ規模の室内だが、訓練場のモニターの十倍以上もの大きさだ。
ちなみに市民街に設置したモニターはさらに一回り大きい。
使用人達が見守る中、各々分担して作業を進め、一時間程で映画館の完成だ。
映像を映し出すと使用人達は叫ぶ程に驚き、数名が国王を呼びに駆け出していた。
モニターに映し出される映像を確認した国王は、映画に見入って仕事に戻りたくないと騒ぐ始末。
まぁ初めて映画を観ればその気持ちもわからなくもないのだが。
歯を食いしばって映画鑑賞を諦めた国王は、これまで以上に仕事を早く熟すようになったのは言うまでもない。
王宮の食堂に案内され、一流料理人による豪華な食事を振舞われて堪能する。
コースメニューのように一品ずつ皿が運ばれ、アルコール度数の低めのお酒も出されたが味は格別だった。
食事を終えたのが十四時。
さすがは王宮の食事という事もあってゆっくりとした食事の時間だった。
国王は七日後の宴の為に、午後からは仕事詰めらしく退出。
蒼真が訓練に行くと言うので、全員王宮を後にした。
朱王とミリーは施設の視察。
クイースト王国同様転移装置があるので移動は楽だが、中区が東西南北に、外区が東西南北とその間に一つずつの十二箇所に施設がある。
各地ともにクイーストを上回る大きさの施設と学校で、各施設に施設長と副施設長がおり、それを総括するのがガネットという事だ。
全ての施設に土地の名前がないらしく、呼び方としては例えば外区東南施設、中区北施設などとなるそうだ。
副施設長とは校長の事を指すらしい。
クイースト王国では施設長と校長だったが、朱王が決めた事ではなく各国の施設長に呼び方などは任せているとの事。
各施設ごとの施設長にほとんどの事を任せてはいるのだが、普段の視察は幹部施設長であるガネットが行う。
普段はあれでいて、仕事はしっかりと熟す有能な人材なのだ。
朱王が視察するのはそのうちの一箇所。
その時々で変更する為抜き打ちのような視察となるが、これまで指摘するような問題は一度もなかった。
この日視察したのは外区北西施設だったが、やはり問題なく運営できている様子。
子供達も楽しそうに校庭で運動をしている様子が見えた。
「あのボール遊びは楽しそうですねー!」
「スポーツはするのも見るのも楽しいよね! そうだガネット、子供達もいろいろとスポーツをしているだろ? それぞれの競技で他の施設と競わせてみないか? 競わせる事でその実力も上がるだろうし、プロとして職業もできる。観戦する側は娯楽になるしどうかな?」
「子供達の中にもスポーツが好きで[これが仕事だったら最高なのに!]なんて言う子もいましたのでいいかもしれません!」
「運営に関してはダンテと相談すればいいし、今後は子供達もクラブとしてスポーツを分けてさせるといいよ」
元いた地球でもスポーツは職業でもあり娯楽でもあった。
魔法のあるこの世界であれば地球以上の面白いスポーツになるだろうと朱王は考える。
今後子供達がどんな成長を遂げるのかが楽しみだ。
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