第84話 クイースト王国国王
訓練場へ行ったその日のうちに、朱王邸に王宮の使者がやって来た。
朱王だけでなく全員で王宮に来るようにとの事。
聖騎士から千尋達の話を聞いての事だろう。
そんなわけで今日は王宮に向かう。
使者からの説明では聖騎士長と共に王宮へ来るようにとの事だったので、聖騎士長ヴォッヂを待つ。
ヴォッヂの邸は朱王の邸よりも王宮から少し離れた位置にあり、爵位としてはそれ程高くない家柄だそうだ。
しばらくしてやって来たヴォッヂは、昨日と同じくフル装備でロビーに立つ。
背景にプールが見える豪華な建物に、全身ミスリルの鎧に双剣と戦斧。背中には巨盾を背負った男。
かなり背景に合わない。
「ヴォッヂはその装備が一番戦いやすいの? 私が君の武器を作ろうと思うんだけど、何を作ろうか悩むんだよね」
「え、朱王様に武器を作ってもらえるんすか? 特にこの装備にこだわりがあるわけではないんすけどー、地属性ならやっぱ最強の矛より最強の盾かな? って事で防御特化なんすよー」
一旦武器や盾を置いて少し話し込む。
昨日戦った蒼真の意見や千尋の戦闘方法などを踏まえて、ヴォッヂの要望と擦り合わせて考える。
朱王の中でヴォッヂに作る魔剣のイメージがある程度固まったようだ。
ヴォッヂと共に王宮へと向かう。
電磁移送もできるそうだが千尋達がそれをできないので歩いて向かう。
朱王の邸から歩きで二十分程で王宮へとたどり着き、衛兵が敬礼して門を開く。
ヴォッヂに続いて王宮の謁見の間へと通されると、ザウス王国同様に玉座に座る国王と、背後には十字になるように聖剣と騎士の剣が飾られていた。
遠目に見ても聖剣はボロいなと感じられる。
「お待たせしました国王様」
ヴォッヂが跪いて頭を下げる。
同じように千尋達も跪くが、相変わらず朱王は一礼、朱雀はキョロキョロしながら見回している。
「よく来たな、朱王とその部下達よ。私はクイースト王国国王シダー・クイーストだ。今日其方らを呼び立てたのは聖騎士や大魔導師達からとんでもない報告を受けたからだ。全員が精霊魔導師でありながら近接戦闘を可能になったとな。それどころか誰もがヴォッヂを遥かに凌ぐ強さを持つと聞いている。朱王だけならまだわかるが、全員が同等の力を持つとは…… 驚くべき事だ」
国王のシダーは女性だった。
長い銀髪をオールバックにした美しい女性。
優しそうな薔薇色の目をし、濃紺のドレスローブを身に纏っている。
玉座に肘掛けて頬杖をしてこちらを見下ろす。
「お久しぶりですね、シダー国王。あいにく彼らは私の部下ではなく友人達ですよ」
朱王が答えるとアイリは自分の顔に指差しながら口をパクパクとしている。
「私部下じゃないんですか!?」とでも言いたいのだろうが国王の前なので発言しない。
シダーが皆の名前を聞きたいと言うので、全員簡単に自己紹介した。
相変わらず千尋と朱雀はタメ口だったが。
「ふむ、実は其方らの武器に興味がある。昨日聖騎士共の剣を確認したが…… 聖剣を上回る性能だった…… 聖剣以上の力を
「うん。オレ達の武器は魔剣と呼んでるよー」
千尋がいつもの口調で答える。
微妙な表情で千尋を見つめる蒼真達だが、武器に力を付与できるのは千尋の魔石。
下手に口を挟まないでおく。
「では千尋。其方の剣を見せてはくれぬか?」
「いいけど…… そこに行っていいの?」
玉座を指差して問う千尋。
無礼すぎる態度だがシダーは気にせず頷く。
玉座へと進む千尋。
さすがに聖騎士長ヴォッヂも気が気ではない。
リクとシンがスラリとエクスカリバー、カラドボルグを抜いてシダーに渡す。
まさか精霊から渡されるとは思っていなかったのだろう、シダーも驚いていたが。
シダーが手に取ったのはエクスカリバー。
まぁ色味的に青いエクスカリバーの方がシダーには似合うが。
そしてエクスカリバーからはリクが出ているので魔力は溜まっていない。
シダーは魔力を流し込んでその性能を知る。
聖剣の比ではない程の性能を持つ事を。
そして剣の美しさに魅入っているようだ。
全てを鏡面まで磨き込んだ宝飾品のような魔剣は、ミスリルの剣とは思えない程に光輝いている。
カラドボルグも手に取ってまた見つめ、その美しさに見惚れている。
しばらく魔剣を愛でたあとは大きく息を吐いて千尋を見る。
「素晴らしい剣だ。これ程の物を見たのは私も初めてだ。その剣はどこで手に入れられるのか聞いてもいいか?」
「え? これはねぇ、こっちが朱王さんでー、こっちはリゼが作ったんだよー。蒼真とミリー、朱王さんのはオレが作ったんだけどね」
「千尋も作れるのか!? 朱王はこのドロップを作っているくらいだから作れるかもしれんが……」
ふーむ、と千尋と魔剣を見比べている。
「シダーさんも聖剣を改造したい?」
「んなっ!? 其方はいったい何を言ってるんだ!? 聖剣だぞ!? そんな事を許されるわけがないだろう!」
少し怒ったような口調だがちょっと期待してるような微妙な表情だ。
「ザウス国王の聖剣は改造済みだよー。イメージ見る?」
と言って魔石を差し出す千尋。
魔石の使い方の説明を受けてイメージ映像を見るシダー。
「な…… なんという…… あれが本当に聖剣か!? ザウス王国の聖剣も私の聖剣と同様にボロだったというのに!? しかもなんだあの威力は!?」
自分でボロとか言ってしまうシダー国王。
千尋が見せたイメージはザウス国王の聖剣を改造したところどころの映像から完成、ザウス国王の魔法発動までの映像だ。
連続して発動する超魔法映像を見せられては驚かないはずはない。
「ザウス王国の聖剣カッコいいでしょ! 好きに改造していいって言うから改造してて楽しかったー」
嬉しそうに語る千尋。
こんな女の子のように見える男が、これ程の改造ができるのか? と少し疑ってしまうシダー国王。
千尋の腰に下がる残りの二振りの剣が気になるシダー。
インヴィとエンヴィも見せてもらう。
もちろん店売りの一級品を改造したものだと付け加える。
「千尋…… これは本っっっ当にいけない事なんだが…… 聖剣を改造…… してくれたりするのか?」
千尋を手招きして耳元で囁くシダー。
「オレの好きに改造していいならやるよー」
千尋も同じように耳元で囁く。
「私は双剣を使うのだ。ついでにもう一振りの直剣も似たようなデザインに改造して欲しいんだが」
ヒソヒソと千尋とシダーの勝手な取り引きが行われ、謁見の間は異様な雰囲気となっていた。
その間リゼはずっとソワソワしていたが。
シダーは嬉しそうに千尋に聖剣と直剣を鞘に収めて渡す。
だが困った事に代替えがない。
「シダー国王。代替えにこれを置いていきますね」
朱王が手渡したのはカミンから受け取った片手直剣。
鏡面に仕上げて着色した宝飾品のような直剣だ。
もちろん魔力量2,000ガルド仕様。
「おー! さすが朱王さん!」
「魔石は組み込んであるから自分の好きな色に魔力の色を変えれますよ」
直剣を受け取ったシダーはこの直剣にも満足そうだ。
魔石に色のイメージを込めて、魔力に色が付くと嬉しそうに剣を眺めていた。
これから聖剣が綺麗にカッコよく改造されると思うと期待も膨らむ。
その後も千尋とシダーは聖剣のデザインについて語り合い、あっという間に国王に許された時間が過ぎてしまう。
「仕事の時間です」と連れ去られるシダー。
「私はまだ話したいのだ!」などと声を大きくしているが、自分の足で歩いて行くあたりは仕事をする気もあるのだろう。
これで聖剣と直剣の改造をする事になった千尋。
朱王はヴォッヂの魔剣作りがある。
マーリンとメイサにも手伝ってもらう事にし、蒼真達は聖騎士と大魔導師の訓練に付き合う事にした。
ちなみに大魔導師達。
今後は全員が聖騎士を名乗る事になるそうだ。
千尋と朱王は邸へ戻り、蒼真達はヴォッヂと共に訓練場へと向かう。
リゼとミリーは少し不満そうだったが。
リゼは昨日と同じようにリアスから水魔法について教えてもらう。
リアスの訓練は大丈夫なのだろうか。
双剣の大魔導師達はアイリから近接戦闘の訓練を受ける。
高速戦闘の攻防訓練となるので、レイヴとエイジでダガー同士、ネオンとセイラで双剣同士、物理操作のみでの訓練を開始した。
ニシブも両手ダガーとなる為アイリと組んで訓練する。
ミリーはヴォッヂと聖騎士の訓練。
両手直剣の聖騎士達を精霊魔法込みで訓練をする。
ヴォッヂは片手直剣だがミリーとの訓練だ。
以前とは比べものにならない威力となる精霊魔法での訓練ははっきり言って命がけ。
剣術が互角であれば魔法は慣れていけばいい。
出力を調整しながら相殺しての訓練は体力を削る。
疲れたらミリーが即回復。
デスパレードな特別訓練はまだ始まったばかりだ。
蒼真は刀を使わず、素手での戦闘をサイファ相手に教え込む。
サイファはナックルなので当然の肉弾戦。
ミリーやアイリは素手での戦闘はできない為、蒼真が担当する事にした。
今日も訓練前にストレッチをしていたようだ。
この日の上位騎士の訓練は自由訓練とした。
聖騎士の訓練を観るも良し、自主練をするも良し。
あまりに激しいデスパレード訓練だった為か、途中からは全員が聖騎士の訓練を見学としたのだが。
訓練が終わった後に聖騎士は思う。
(このパーティーの女達は怖い)
超威力を放つアイリとスパルタ教育のミリー。
ヴォッヂさえも足腰が立たない程に疲弊し、回復されて訓練を繰り返している。
リゼの訓練は見た事がないが、長大な武器を持つ彼女だけが緩いはずはない。
そう考えると鳥肌が立つ聖騎士達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます