第83話 聖騎士、大魔導師訓練

 大魔導師達も全員が剣ではない為少し訓練も難しい。

 属性ごとに分かれて訓練するのも良いだろう。


 千尋はやはり地帝のサイファと訓練する。

 ナックルのサイファに対して素手でいけるだろと安易に考える千尋。


 リゼは水帝リアスとの訓練。

 普段氷属性を多用するリゼは、水属性を得意とするリアスに興味があった様子。


 ミリーは炎帝レイヴ。

 爆炎と炎の魔導師なら訓練しやすいだろう。


 アイリは雷帝ネオンとの組み合わせ。

 クイースト王国の雷属性がどれ程の威力を持つか楽しみだ。


 あとは聖騎士も混ぜてしまおう。


 聖騎士ニシブは風帝セイラと訓練だ。

 剣を使った事のないおっとりとした彼女は双剣をまともに振れるか少し心配なところだが。


 聖騎士セレスは氷帝エイジとの訓練だ。

 セレスは近接戦闘を、エイジは氷魔法を教え合えばいいだろう。


 聖騎士レイドと聖騎士ケインは火属性同士で高威力での訓練をするといいだろう。


 同じく聖騎士ロッサと聖騎士ナイルも雷属性同士で訓練。


 残るはやはり朱王と朱雀。

 何故か蒼真も名乗りでない。

 聖騎士長ヴォッヂは傍観を決め込む。

 そして前聖騎士長カミン、前聖騎士マーリン、前大魔導師メイサ。


「ヴォッヂさん、オレと訓練しよう」


 蒼真が狙っていたのは聖騎士長ヴォッヂだった。

 望むところだとヴォッヂも蒼真と場所を移動する。


 朱雀はカミンと相対する。

 カミンの剣術であれば朱雀も学ぶ事は多いだろう。


 朱王はマーリンとメイサを同時に訓練しようと考える。

 朱王の部下となった二人はここ数年で相当な実力をつけてきている。

 そして聖騎士や大魔導師同様に近接戦闘も可能な精霊魔導師として強化済み。

 大魔導師だったメイサも、朱王の部下となってからは近接戦闘を訓練し続けた為今ではマーリンにも引けを取らない程となっている。




 訓練を始めた千尋とサイファ。

 サイファは地属性魔法を得意とするが肉弾戦は初めてだそうだ。

 魔法の使い方はほぼ完璧。

 装備を操り、かなりの速度で動き回ることが可能。

 しかし体捌きが悪い。

 そして少し臆病だ。

 やはり大魔導師は体の使い方がなってない、そして体が異常な程固いサイファだったので、千尋はまずストレッチから始める事にした。




 リゼとリアスは水属性について話し合う。

 リゼもリアスも大気や地面から水を取り出せる事は知っていた。

 しかし、リアスの語る水属性についての知識はリゼが驚く内容だった。

 水属性について自分が何も知らなかった事に少し恥ずかしさを覚えつつも、リアスの話に夢中になるリゼ。

 訓練そっちのけでリアスの水属性論を聞き続けた。




 ミリーと炎帝レイヴ。

 レイヴはミリーがヒーラーである事に驚きつつも、ミリーの丁寧な教え方に感心する。

 ゆっくりとした動作ながらも芯のある動き。

 地属性での強化、物理操作での動作をレイヴに叩き込む。

 大魔導師だけあって魔力の使い方が上手い。

 肉体的にはまだまだこれからとなるだろうが、強化と物理操作で綺麗に動けるように訓練していく。




 アイリは雷帝ネオンに口説かれる。

「嫌です」の一言であっさりと断られるネオンだったが。

 それならばと自分の実力を見せようとするネオン。

 以前よりも強く活発になったヴォルトを下級魔方陣で強化。

 アイリもネオンに合わせてイザナギとイザナミを下級魔方陣で強化。

 明らかにエネルギー量が違うが、今まで以上の精霊魔法に酔いしれて気付かないネオン。


「アイリちゃん。しっかり耐えるんだよ!?」


 ニッと笑いながら駆け出すネオン。

 雷属性もあってそこそこのスピードだが、やはり大魔導師だったからか動きは鈍い。

 ネオンの横薙ぎの一撃にアイリも合わせて受ける。

 バヂンッ!! という音と共に弾き飛ばされたネオン。


「おっ…… おっ…… お? 手加減し過ぎたかな?」


 今度は全力でアイリに向かい、再び弾き飛ばされるネオン。


「雷魔法の使い方は良いですけど、それ以外は全然ダメです。まずは剣術の訓練から始めた方がいいですよ?」


「そ、そんな事をする必要はないだろう! 雷属性は最強最速の魔法! 全ての魔法を上回るはずだ!」


 言い終えた瞬間にバチッ! とネオンの目の前に距離を詰めるアイリ。

 5メートル程離れて立っていたアイリが、今は目の前に立つ。

 ネオンの目には全く動きが見えなかった。


「最速というには私もまだまだですが、これくらいはできないといけませんよ? あと別に雷属性の威力も最強というわけではありません」


 言うと同時に上級魔方陣を発動し、イザナギとイザナミを介して全力の精霊魔法を放つ。

 大気を震わせる雷鳴と稲光。

 これまでに見たこともない程の超威力の雷が目の前で放たれた。


 震え上がったのはネオンだけではない。

 聖騎士、大魔導師共にこの中でアイリが最強の魔導師なんだと思った。




 朱雀とカミンの戦闘訓練。

 アイリの魔法を気にすることなく続けられる剣術による戦闘は、カミンにとっても朱雀にとってもお互いを高め合える程の高レベルな戦闘だった。

 すでに訓練などとは思っていない、相手を叩きのめす為の一撃をお互いにぶつけ合う。

 魔法を放たずに行われる戦闘とはいえ、まともに一撃食らえば命はないだろう。

 そんな状況でこの戦いを楽しむカミンと朱雀。

 遠くから朱王とマーリン、メイサが呆れ顔で見ているのも気付いていないだろう。




 蒼真と向かい合う聖騎士長ヴォッヂ。

 ランが蒼真を風魔法で強化する。

 ヴォッヂはノームと下級魔法陣グランドで強化。

 ノームはヴォッヂの肩に座っている。

 直剣を肩付近に浮かせ、千尋から教わった直剣を物理操作しての三刀流を使う。

 蒼真は一瞬で間合いを詰めて左から横薙ぎに風刃を放つ。

 視界の端に一瞬捉えた蒼真に反応し、左手の巨盾で全身をガードする。

 しかし蒼真の風刃による一撃は重い。

 ヴォッヂは盾ごと弾き飛ばされ、一回転して立ち上がるとそこに蒼真はいない。

 ふと、長年の経験と感で背後からの逆袈裟を巨盾で受けたが、再び弾き飛ばされてしまう。

 このままでは一方的に嬲られる。

 再び一回転して立ち上がった瞬間に戦斧を横薙ぎに払う。

 同時に飛び上がった蒼真が上方から刀を振り下ろす。

 ヴォッヂは直剣を操り、頭上の蒼真に斬り込む。

 しかし風の防壁が直剣の流れを強引に捻じ曲げ、頭部目掛けて振り下ろされる刀。

 ヴォッヂは躊躇うことをやめ、訓練場の石畳を破壊して地面を操る。

 大地の防壁に風刃を放つ。

 威力の弱まった風刃は速度も落ち、ヴォッヂの巨盾によって阻まれた。


「蒼真と言ったか。こんなに強い者に会うのは初めてだ。もう少しこの訓練に付き合ってくれ」


 ヴォッヂは上級魔方陣アースとグラビトンを発動。

 アースは全身と武器の強化、操作に、グラビトンはその威力の強化に当てる。


 再び風の強化をかけ直す蒼真。

 また一瞬で詰め寄り風刃を放つ。

 そこから風刃の連撃を繰り出すも全て防ぎきるヴォッヂ。

 視界の端に映る蒼真の影、戦闘経験からの感を頼りにその全ての風刃を捌ききる。


 蒼真とヴォッヂの戦闘を見るミリーとアイリ。


(蒼真さんのドSの本能が目覚めましたね!)


 思うところは同じようだ。




 マーリンとメイサに向き直り、朱王が刀を抜く。

 いつも通り強化のみの朱王。

 マーリンとメイサも直剣を抜き、強化と同時に属性魔法を付与して更なる強化をする。

 マーリンは火属性。

 サラマンダーを直剣に宿し、下級魔方陣ファイアで火焔を剣から放つ。

 メイサは風属性。

 かつて風帝だったメイサはシルフを顕現して体をフワリと浮かせ、下級魔方陣ウィンドで風の鎧を纏う。

 ニッと笑顔を見せた朱王に駆け寄るマーリンとメイサ。

 メイサの暴風が朱王の体を浮かせ、地の利を失った朱王にマーリンの火焔の刃が右薙ぎに襲いかかる。

 朱王はそれを袈裟に振り下ろした刀で防ぎ、続くメイサの逆袈裟をも刀を返して払い除ける。

 マーリンとメイサの連携した攻撃の連続。

 朱王が思った以上の二人の連携攻撃の巧みさに、受けるだけでは足りずに回避して全てを捌ききる。

 このまま防御に回るわけにもいかず、強化と威力を調節して受けと回避に弾くを組み合わせて、反撃を繰り出していく。

 さらに朱王は先読みを駆使して捌きの中にパターンを限定させ、攻撃を受けると同時に相手の受けづらいであろう反撃を織り交ぜていく。

 するとマーリンとメイサの連携が崩れだす。

 一度崩れた連携は繋ぎ合わせるのが難しい。

 マーリンとメイサは弾かれるようにして距離をとり、態勢を整える事にした。


「二人ともすごく上達しているね。まだ精霊魔導に慣れていないみたいだし全力で来ていいよ」


「お褒めの言葉ありがとうございます…… 全力と言われましても威力が高過ぎて、私もメイサもお互いに傷付けてしまいそうです」


「それもそうだね。じゃあ一旦連携をやめて全力で来てみなよ。下級魔方陣で全力に慣れておかないと上級魔方陣なんか使えないよ?」


 マーリンとメイサは目で会話をする。

 コクリと頷き、先程の連携攻撃のように向かってくる。

 そしてマーリンの火焔による目眩しと同時にメイサの暴風を圧縮した刃、蒼真の風刃に似た風の刃を放つ。

 朱王は逆風に切り上げて風の刃を払い除け、マーリンの右逆袈裟が腕を振り上げた朱王の脇腹を狙う。

 朱王は左手で鞘を掴み、背中側から押し上げる事でマーリンの一撃を受ける。

 そして左脚からの回し蹴りでマーリンを蹴り飛ばす。

 メイサに背を向けた朱王。

 その隙にメイサは唐竹に斬り込むが、半歩体をずらして回避すると共に右薙ぎに刀を振るう。

 咄嗟に体を伏せて回避するメイサ。

 体勢を強引に立て直したマーリンは再び朱王に肉薄する。

 メイサに斬り込んだ朱王に左袈裟から振り下ろす。

 朱王にとって受けづらい角度のはずだが、朱王は左手を伸ばして柄を受け、マーリンをメイサ目掛けて背負い投げ。

 影で判断したメイサは、マーリンの下から朱王の腹部に斬りかかる。

 マーリンの手を放して、後方に飛び退りつつ刀で受ける朱王。

 再び連携攻撃を仕掛けつつ、合間に全力の精霊魔法を織り交ぜるメイサとマーリン。

 ただでさえ高い戦闘能力を誇る二人に、更なる上達が見え始めて嬉しそうな朱王。

 しばらくこの二人との戦闘を続け、魔力が枯渇するまでひたすら続けた。

 訓練が終わる頃には足腰が立たない程に弱り切っていたのは言うまでもない。

 ミリーが体力と切れまくった筋繊維も回復してなんとか動けるようにはなったが。


「朱王様の訓練は最高です!」


 恍惚な表情を見せながら言う二人。

 ややMっ気が感じられるのは気のせいだろうか。

 回復を終えたミリーの顔がなんとも言えない表情だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る