第65話 聖剣カスタム

 翌日から聖剣の改造を始める。


 長く幅の広い直剣の為、刃こぼれの部分は全て削ってしまう事にする。

 魔力の溜まる部分も少なからず削ることになる為、溜め込める魔力量が減ってしまう。

 魔力量の不足分は、千尋の所有している魔力の溜まる素材を使用。

 朱王の刀を作る際に余った素材がまだたくさんある。


 これらの事を踏まえて図面を書き出す。


 図面が完成したところで聖剣の刃こぼれ部分を全て削り落とした。


 次に面の研磨を行う。

 完全に平らになるまで磨き込み、素材の方も同じように平らに削る。

 素材側の平らになった面は聖剣に接着する事になるので、反対側が表になる。


 表面側を加工研磨し、装飾を施す。


 両面が完成したところで魔力量を確認する。

 聖剣と加工した二枚の板を合わせると4,000ガルドを超える程はありそう。

 充分な魔力量と言えるだろう。


 聖剣の刃と加工した二枚の装飾板を鏡面になるまで磨き込む。


 装飾の膨らみのある部分を金色に着色し、平らな面とした部分には灰色とする。

 装飾板は厚みはそれほど無いが幅は広く、付け根に近くなるほど聖剣の装飾部分が大きくなるよう設計してある。

 

 接着の魔石を粉末にし、水に溶いて聖剣に塗りつける。

 魔石が反応を始めたところで素材の研磨した面を押し付けて接着。

 重りを乗せて隙間ができないようにしっかりと接着させる。

 位置がずれないよう反対側にも同様に接着した。


 ガードは厚みのある素材が通常のミスリルの端材しかない為、魔力の溜まらない部分を使用した。

 装飾を派手にする為ガードを大きく作り、鏡面仕上げの金色にした事で存在感が半端ではない。

 ガードの中央に差し色の青を宝石のようにデザインする。


 グリップやポンメルは通常ミスリルを使用して新たに作り直し、ここも装飾を入れて金と灰で塗り分けた。




 こうして完成した聖剣カスタム。


 魔力量はおよそ4,000ガルド。

 魔力の流れの方向は曲がっているが、そこは千尋の工夫が施されるので問題はない。

 エンチャントは暴水。

 精霊はフラウを移す予定だ。

 元の聖剣は騎士の剣である為、一定の厚みを持った角張った両手直剣だった。

 改造後は若干細くなり、丸みを帯びた剣になる。

 そこに千尋の装飾したミスリル板で挟み込み、剣先側の中央から付け根まで繋がる。

 剣の付け根とガードが重なり、鏡面の金が強烈な存在感を放つ。

 その見た目はファンタジー世界の聖剣と言える豪華な作り。

 三日かけて千尋も満足の出来となった。




 完成した聖剣を見る蒼真とミリー。


 ミリーはカッコいいと大騒ぎしているが、蒼真にとっては千尋の趣味をこれでもかと言うほど注ぎ込んでいるように見える。

 リゼとしては面影のなくなった聖剣に、ここまで手を加えて良かったのだろうかと不安になる。

 千尋にこんなに変えてしまって大丈夫かと問うと、全てオレに任せるって言ったじゃん! との事。




 あとは鞘だけだが、型を取ってもらうだけでも聖剣を他の人に渡すわけにはいかない。


 鞘もミスリルで作ることにする。

 剣に合わせてミスリルの板に溝を掘る。

 二枚の板に同じように溝を掘り、接着の魔石で魔力が流れない素材を貼り付ける。

 二枚の板の溝側を合わせて接着する。

 接着した板の表面を削っていき、鞘の形が出来てきたところで装飾を彫り込んでいく。


 鞘の装飾は聖剣よりは控えめにした。

 鏡面仕上げの灰地に金だが、金の割合が半分を占める。

 もちろんこの金の部分にもしっかりと装飾が施されている為充分派手な鞘だが、千尋にとっては控えめらしい。


 鞘作りに二日ほどかかり、完成した鞘には魔力2,000ガルドを溜め込むでエンチャント。


 鞘に聖剣を収めて朱王の家に向かう。




 朱王の家で魔法陣をエンチャントしてもらう。

 聖剣には下級魔法陣アイスを、鞘には上級魔法陣ブリザードをエンチャント。


 聖剣のポンメルを外すと小さな穴が空いている。

 千尋に朱王が頼んであった穴だ。

 その穴に朱王の魔石を詰め込むことで魔力に色をつける事が出来る。

 ザウス王は紫色を選択。

 紫の氷塊をカッコいいと気に入ったようだ。


 全て完成したので明日はザウス王国に行く事になった。






 王国に着いた六人と一精霊は別行動をとる事にした。


 千尋とリゼは王宮へ、蒼真と朱雀は聖騎士の訓練場へ、朱王、ミリー、アイリスは朱王の店へとそれぞれ向かった。

 



 王宮の謁見の間にて。


「国王様。聖剣が完成したとの事でお連れしました」


 ロナウドに連れられた千尋とリゼ。


 レオナルドとレミリアが王の横に立つ。


 ロナウドは豪華な布に包まれた聖剣を受け取り、王の元へと運ぶ。


 手渡される聖剣。


 王もゴクリと唾を飲む。

 余程期待しているのだろう、表情が先日とは違う。


 布を払って出てきた聖剣は、鞘も含めて光り輝く見事な作りだった。

 千尋に手渡す前とは全くの別物となった聖剣。


 震える王。


 鞘を払って聖剣を見つめる。


 もしかしたら怒られるんでは? と思うリゼ。

 王の言葉を待つ。


「あれ程傷がつき、この国の歴史を物語る聖剣が…… この様な姿に……」


 俯きながら震える王。


 これはやばい! リゼは焦りの表情を浮かべる。


「カッッッコいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!! なんだこれは! これがあの聖剣か!? 全くの別物ではないか! 最高だ!! もう聖剣でなくジェイドでも良いかもしれんと思いもしたが、そんな気持ちも吹き飛んだ! この聖剣は実に素晴らしい!」


 叫ぶザウス国王。

 問題発言もあるが喜んでいるのでツッコまないでおこう。

 ロナウドはそんな王を見て頭を抱えている。

 レミリアは苦笑いし、レオナルドは笑いを堪えている。


「千尋! この聖剣見違えたぞ! 素晴らしい剣だ! 名前はなんだ? この聖剣の名前は!」


 突然聖剣の名前を問う王。


「え? 聖剣に名前つけるの? とゆか聖剣に名前はないの?」


 聖剣を国そのものとさえ言うくらいだから名前も付いていると思っていた。


「聖剣も元は騎士の剣だからな。名前などなかったのだ」


 名前を期待しているのかソワソワしている。


「うーん…… じゃあ聖剣バルムンクで!」


 またも地球産の名前を付ける千尋。


「聖剣バルムンクか! 良い響きだ! ところでこの装飾部の文字のようなのはなんだ? 古代文字のように見えるが……」


 両面の装飾した板の灰色の面。

 浮き彫りされた金色の文字がある。

 千尋が付け加えた細工で、古代文字の呪文を装飾に盛り込んだのだ。

 呪文は属性の魔法ごとに違いはあるが、呪文の後半が全て同じ言葉となっている。

 魔法に方向をつける為の呪文だ。

 この呪文がないとあらぬ方向へと飛んでしまうらしい。

 魔術書には呪文の省略はできないと記載がされており、理由も様々書かれていたが方向を省略するなという意味合いだろう。


 千尋が説明すると王も驚き、聖剣の見た目や魔力もさる事ながら、問題点を呪文を入れるという工夫を凝らす事で解決した事に感動さえ覚えた。




 玉座を降りて外へ出たザウス王。

 それに全員続く。




 魔力を流すと紫色に輝く事や、魔法陣を剣と鞘にエンチャント済みである事、千尋の暴水がエンチャント済みである事も説明する。


 王はジェイドに宿った精霊フラウを呼び出し、バルムンクへと移した。

 リゼがジェイドを受け取り、王は良い剣だったと告げる。


「しかしあのボロかった聖剣がこれ程までになるとはな。それにオレだけでなく我が国の聖騎士達も以前とは比べ物にならない程の強さを手にしていた。ザウス王国国王として其方らに礼を言う。ありがとう」


 国王が頭を下げると、さすがに全員焦った。

 すぐさま頭をあげてもらったが。




「千尋。まさか聖剣を溶かしてはおらんじゃろうな?」


 聖剣はロナウドもさすがに疑ってしまう程の変わり様だった。


「そんなわけないじゃん! そんなことしたら怒られるでしょ!?」


 溶かさなくてもあれだけ改造したら怒られそうなものだが。




 訓練場にたどり着いたザウス王。


 聖騎士や蒼真、朱雀も見守る中、ザウス王はバルムンクを振るってみる。

 重さやバランスに違和感はない。


 普段通りの火属性魔法を発動し、その能力を確かめる。

 これまで以上の魔法の威力。

 そして発する魔法の密度の高さ。

 各属性魔法を試すがどれも以前の聖剣よりもはるかに優れている。

 そして水属性の魔法はこれまでの水量の比ではない程集められた。

 エンチャントされた暴水は、水の圧力をも変化させる事が可能で、水の刃を伸ばして使用する事ができた。


 次に精霊フラウを呼び出して氷魔法を試す。

 ジェイドを器とした時よりも活発なフラウ。

 暴水による水とフラウの冷気は、剣の一薙ぎで氷柱を乱立させる。


 楽しくなってくるザウス王。

 下級魔法陣を発動し、同じように氷柱を乱立させてみる。

 高まった氷の魔力をフラウがアレンジしたのだろう。氷が棘のように乱立する。


 ここに聖剣(魔剣)と擬似魔剣の差がある。

 精霊が自ら考え、氷柱を氷棘ひょうきょくとして発動。

 広がっていく氷柱と、水の突き上げる氷棘。

 対象が魔獣モンスターであった場合に氷柱は氷に覆われ、氷棘は突き刺さる。

 そして冷気の質が違う。

 両方の氷を砕いてみると、魔法陣を発動した氷棘は硬度が高く、足で蹴っても砕けることはない。

 強化した剣でなら切り落とせた。

 一方、魔法陣なしでの氷柱は足で蹴るとパラパラと表面が砕けるようだ。


 最後に上級魔法陣を発動して氷柱を乱立させる。

 フラウの容量を超えてしまうのが原因だろうか、範囲の狭まった氷棘となる。

 範囲が狭まったのに氷棘の大きさが変わらないのは密度が高まった為だろう。

 高強度の氷柱はやはり蹴っても砕けない。

 強化のみの剣で切りつけるが、途中で止まってしまう程の強度だ。

 さらに水刃を放つと高強度な氷槍が三本放たれた。

 氷の強度を考えれば避けるか方向を変えるしか防ぐ手段はないだろう。




 ザウス王が氷魔法でいろいろ試すものだから訓練所はとんでもなく冷えていた。

 見学する聖騎士や千尋達も震えている。


「寒くなってきたようだしそろそろやめるか。これを誰か溶かしてくれ」


 氷柱の乱立する地面を指差して指示を出す。


「我がやろうか?」


 前に出た朱雀が氷柱の中央に炎の渦を生み出し、熱風が氷を溶かしていく。




 からりと乾いた訓練場。

 地面が燻るような事もなく、火力と熱気を調整したようだ。

 蒼真が飴を差し出し、受け取る朱雀。

 口に含んで満足そうだ。

 

「千尋には褒美をやらんとな。何がいいか……」


 千尋を見つめるザウス王。


「別にいらないけどね? オレも好きに改造したから楽しかったし」


 お金もあるし良いよね? とリゼの方を見ている。


「聖剣をこれ程の物にしてもらったんだ。礼はせねばならん…… そうだ! 爵位とやしきをやろう!」


 良い事思いついた! みたいに手鎚を打って言うザウス王。

 何故かロナウドも反対しない。

 むしろ望んでいるようにも見える。


「んーん。オレは爵位も邸も要らない。王様がこの国を守ってくれたらそれで良いよ」


 なんとも千尋らしい答えだった。


「ロナウドからも何とか言ってくれ。礼ができないのは国王として恥でもあるとな!」


「まぁ国王様。千尋達が困った事があればザウス王国が協力する、という事で今は良しとしてくれませぬか? 来月より旅に出るとも申しておりますし」


「ほぉ、旅か。そうだな、礼はいずれするという事で良いか? 千尋、必ず受け取れよ?」


「いらないのに。王様もなかなか強情だな」


 本当に口の利き方がなってない千尋だった。


 その後、ザウス王は職務へ戻る。

 自分の仕事を早々に片付ければまた剣を振れると考えたようだ。




 蒼真はダルクと訓練をしている。

 ダルクは魔法陣を発動して精霊魔法を使用。

 蒼真はランが上級精霊であるため魔法陣は発動しない。

 ダルクも精霊魔法には慣れていないが、蒼真もジンに進化したランに慣れていない。

 お互いに様子を見ながら攻撃。

 剣と刀の打ち合いの合間に放たれる魔法は、以前とは比べものにならない程威力が高い。

 一歩間違えば致命傷となる程の威力だ。




 蒼真から少し離れて、バランから剣を習う朱雀。

 手にはリゼから受け取ったジェイドを握りしめ、小さな身体で必死に振るっている。

 朱雀は異常な程飲み込みが早く、その理由は朱王の魔力を受け取り体を模した事。

 バランの一振りを完璧に再現し、自分の体に合わせるよう修正していく。

 恐ろしい程の上達の早さに、バランも苦笑いしている。

 斬撃について一通り教え終わると、朱雀は魔力を練って剣から炎を放つ。

 朱王の魔石で紫色に光る炎だ。

 炎を乗せて先程教わった斬撃を連続して放つ。

 その炎の斬撃にご満悦の様子だった。




 ザウス王が王宮に戻った後。

 千尋は朱王と決めた話をロナウドにする。


「ロナウドさん。上位騎士達の剣に魔力300ガルドをエンチャントしていい?」


 予想外の提案に驚くロナウド。


「良いのか? 全員分支払いはできるが千尋の魔石は足りるのか?」


 もちろん足りるだけ用意してきた。

 およそ二百個作ったので問題ないはずだ。

 毎日魔力300の魔石を五十個ずつ作った。


 千尋は言う。


「がんばった!」


 らしい。




 ロナウドが聖騎士に指示を出し、上位騎士全員百二十名を訓練所へ集める。


 聖騎士の下に各部隊ごとに整列する。


 部隊ごとに集まった上位騎士達の剣を【魔力を溜め込む】でエンチャント。

  盾を持つ騎士には盾も同じようにエンチャントする。

 

 エンチャントを施すのは千尋と蒼真とリゼ。

 ルーファスとハイドの部隊はリゼを怖がって千尋と蒼真の元に並んでいた。


 三十分もかからずに全員分終了した。


 


 そして朱王からの伝言を伝える。


「クリムゾンのメンバーも今後は訓練に参加させてくれって朱王さんが言ってたよー」


 ロナウドは快く了承してくれた。

 他の訓練所の隊長用にと残った300ガルドの魔石はロナウドに渡した。


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