第64話 聖剣を手にする

 王宮から遅れて戻って来たロナウド。

 少し困った顔をしている。


「予想通りじゃが国王様がお呼びじゃ。全員儂についてこい。聖騎士は各々訓練するが良い」


「ん? 全員?」


 千尋が疑問に思う。


「うむ。全員じゃ。朱王は毎度呼ばれるのじゃが、今日は皆にも会いたいとのことじゃ」


 頬を掻きながら言うロナウドは、困ったなといった表情をしている。


「ふーん。まぁ行こうか。王様の呼び出しを無視するわけにはいかないしねー」


「千尋を合わせるのが何となく不安だがな」


「ロナウド様。何か不都合がおありですか?」


 リゼは一応聞いてみる。


「国王様にも仕事があるからのぉ。お主らと話す時間を設けてちとサボろうと考えておるのじゃろう。困ったお方じゃ」


「父上いえ、ロナウド様。今日は諦めましょう。ロナウド様が王宮に入るのであれば私はここに残りますよ」


「レオナルド…… 魔法陣を試したいだけじゃろ。ズルいのぉ。儂も試したいのぉ。じゃがまぁ仕方がないかの」


 レオナルドとレミリアは聖騎士に混じって魔法陣を試すようだ。

 朱王とアイリはバギーからお土産を持って来て、ロナウドに続いて王宮へと入っていく。




 王宮の謁見の間へと通された千尋達。


 広い空間の玉座に座った王。

 その後ろに聖騎士の剣が飾られている。

 あれが聖剣なのだろう。

 王の横には先程連れてこられた聖騎士四人が護衛として配されている。


 ロナウドが王に跪き、リゼも同様に跪くのを見て千尋達も同じ様に振る舞う。

 なんでも器用に熟す千尋はロナウドの真似をして完璧な所作だ。

 アイリも完璧だ。

 蒼真もそれなりの動作で跪き、ミリーはあわわと慌てながら跪く。

 朱王は立ったまま一礼し、朱雀は王宮を歩き回る。


「王よ。お連れ致しました」


「うむ。そう固くなるなロナウド。皆が畏まってしまうだろう。それと朱王は久しぶりだな。元気にしておったか?」


「ザウス王。お久しぶりです…… なんだかご機嫌のようですね」


「ふふ。少し楽しみでな。其方らには来てもらって感謝する。頭をあげて少し余の話し相手になってくれ」


 後ろから近付いてくる一人の男性。


「国王様。客室の用意ができました」


「うむ。皆すまんな。形式だけでもこの謁見の間で会う必要があるのだ。固くならなくていい。余とも気兼ねなく普段通りに話しをしてくれ。まずは客室へ向かおうか」


 玉座から降りて聖剣を腰に下げる。

 歩き出した王の隣を朱王も歩く。

 ロナウドは手配せして四人の聖騎士を訓練所に戻るように指示を出す。


「ザウス王は変わりませんね。バランから聞きましたよ? 聖騎士に混ざって聖剣で訓練しているとか…… まったく、王が何をしているんですか?」


 ザウス王と友人のように振る舞う朱王。

 ロナウドやアイリは構わずついて行く。

 それに続く千尋達はどう接していいかわからない。


「オレも王とは名乗ってはいるが聖騎士あがりだからな。強くなる事を常に考えている。それよりその子供はなんだ? 朱王に似てるな」


 玉座を降りてからは一人称をオレに変えたザウス王。


「私の契約した精霊ですよ」


「朱雀じゃ。よろしくの」


 朱王も一応は言葉使いを変えているようだが朱雀はいつも通りだ。


「よろしく朱雀。ところで千尋という者は来ているのか? 会ってみたいと思っていたのだが……」


 振り向きながら全員を見回す。


「ん? オレ? 王様がオレに何か用?」


 本当に普段通りに答える千尋。

 頭を抱える蒼真とリゼ。

 ミリーはまじか! っと千尋の顔を見る。

 ロナウドや朱王、アイリは苦笑いしている。


「ふむ。其方が千尋か。確かに聞いていた通りお…… 男前だな」


 千尋が睨んだので、女と言われるのを嫌うのだと察した王は言葉を変えた。


「ほんと!? 思ったより良い王様だね!」


 初めて言われた男前という言葉に喜ぶ千尋。

「千尋は単純じゃの」と朱雀が呟く。


「千尋。言葉使いに気をつけろ」


 さすがに蒼真が注意する。


「…… 思ったより良い王様ですね?」


 訂正してみるが何か違う。


「ふははっ。んん、構わんさ。これが千尋なのだろう。ついたぞ、ここが客室だ。好きな席に座ってくれ」




 王が上座に座り、王の右側にロナウド、リゼ、ミリー、アイリの順に座る。

 左側には朱王、朱雀、千尋、蒼真が座る。

 あまり席順は気にしていないが、男女に分かれてみた。


 使用人がお茶とお菓子などを運んでくる。


 アイリは使用人に持ってきたお土産を渡し、それを見た朱雀が持って行かないで! とばかりに手を伸ばしている。


「朱雀はあのお土産が欲しいのか?」


 王が問うと激しく頷く朱雀。


「恥ずかしながら私の手作りお菓子ですよ。お口に合えばいいんですけどね」


 少し恥ずかしそうに言う朱王。


「とても美味しいのだぞ! 其方も食えばわかる!」


 言葉使いがなっていないが、格としては人間より上とされる精霊なら許してくれるだろう。


「ではオレも食べてみよう。そのお土産を切り分けて持ってきてくれ」


 お土産を持った使用人に指示を出す。


  一口食べたザウス王に、朱雀は自慢気に美味しいだろうと言っていた。

 作ったのは朱王なのだが。

 王も美味いと絶賛していた。




「レオナルドとレミリアからはいろいろと聞いていてな。お前達の冒険の話しを聞かせてほしい」


 王に問われて千尋と蒼真が話し出す。


 この世界に来た時の事。

 魔法を練習した事。

 武器を作った事。

 冒険に出てミリーと出会った事。

 精霊と契約した事。

 聖騎士と戦った事。

 朱王と出会った事。

 アイリが朱王について来た事。


 順を追って話していく。

 思い出しながら話していくと、リゼやミリーも話し出す。


 話しを聞きながら、王は物語のようだと嬉しそうに頷いていた。


 朱王やアイリも千尋達の過去の話しを聞きながら、このパーティーの良さを改めて実感する。

 朱雀も聞いているかもしれないがお菓子に夢中のようだ。


 そんな話の中で、王は精霊の話に身を乗り出して聞き入っていた。

 また魔法陣の話や、全員が精霊魔導士である事に驚きと歓喜の表情を見せている。

 もしかして…… と聞いてみる事にする。


「王様は精霊魔導士になりたいの?」


「ああ、もちろんさ! それと千尋に会いたかったのはこの聖剣の装飾を依頼したかったんだ!」


「んなっ!? 国王様!? 何を言うておられるのですか!!」


 さすがにロナウドも大声を出す。

 聖剣とは国そのものとされ、触れられるのはごく一部の人間のみ。

 ロナウドでさえ前国王の気まぐれで手にした事があるだけだ。


「まぁ落ち着けロナウド。本来ならばこの様な事はしてはならんのだろうが、お前のその魔剣はなんだ? 聖剣があまりにもショボく見えるだろう? それに他の聖騎士達の剣も見たがとんでもない作りじゃないか! オレだってカッコいい剣が欲しい!!」


 王がとんでもないわがままを言う。


「こぉんのバカタレが!! 国王ともなったのになんじゃそのいい加減な理由は!!」


 ブチギレるロナウドはかつての上司モードだ。


「ま、まぁまぁ、少し落ち着こうよロナウドさん。いざという時の為に聖剣を強くするって事なら問題はないんでしょ?」


「そ、そうだぞロナウド。強くしないといけないんだ!」


「じゃが本来であれば聖剣に触れるなど許されん事なんじゃぞ!」


「レオナルドとレミリアも触れているぞ。レオナルドの魔剣を借りる時にな!ははっ!」


「ぐぬぬ…… レオナルドの奴め。怒られると思って儂に言わなかったな!?」


「ロナウドさん。諦めたら?」


 苦笑いしながら言う朱王。

 ロナウドは朱王を見つめて肩を落とす。

 仕方ないか…… と。




「じゃあ王様、聖剣を見せてくれる?」


 ザウス王から聖剣を受け取る千尋。


 聖剣は八百年も昔の剣。

 修理しながら大事に使ってきたのだろう、年季が入っている。

 簡単に言うとボロボロだった。

 ところどころ刃こぼれもあり、そろそろ買い替えたら? と思ってしまう千尋。


「で? どうなんだ? 聖剣はカッコよくできるのか?」


「うん、そろそろ買い替えたら?」


 思っただけでなく言ってしまった。


「え、いや、聖剣だし買い替るわけにはいかないだろ……」


「それならオレに全部任せてくれるならカッコよくもするし今より魔力量もあげるよー」


 聖剣の溜め込める魔力量は2,000ガルド以下。


 刃こぼれした部分は削り落としていき、接着の魔石で溜め込める部分を接着しようと考える。

 接着の魔石は反応するわずかな時間のみミスリルの表面を溶かす。

 その間にミスリルを接触させる事で溶着する事が可能だ。

 剣先にミスリルの溜め込める部分がある為、同じ溜め込める部分を両面から挟み込む形で魔力量を増やそうと考える。


「どれくらいまで魔力量は増えるんだ?」


「エンチャントに1,500、精霊の器として最低でも1,000、下級魔法陣に500必要だから魔力量3,000ガルド以上にはしたいよねー」


「…… 今の聖剣の魔力量はいくつなんだ?」


「2,000以下。聖騎士の武器より弱いよね」


「是非頼む!」


 というわけで聖剣の改造計画を依頼された。


 


 旅に出る前に完成させるとしてもまだ二週間ほどある。なんとかなるだろう。


 その後は王が武器を見せてくれと言うので全員の武器を見せた。

 王は羨ましそうにしているが、聖剣も綺麗にカッコよくなると思えば期待が膨らむ。


 聖剣を預かる間に、アイリの両手片刃直剣ジェイドがバギーに積んであるので代替えとして置いていく。

 とりあえずこれを器にして精霊と契約してもらう事にした。


 ザウス王が契約したのは意外にもフラウだった。

 以前蒼真の特別講習をこっそり見に来た時に、氷魔法の講義だった。

 それ以来練習して出来るようになり、今では最も得意とする魔法となっていた。

 下級魔法陣はアイスを組み込む。


 そして実はこのジェイド、朱王が手を加えて黒地に刃が紫色の鏡面仕上げになっている。

 装飾は黒地に金。

 元々埋め込まれていた宝石は赤紫色なので違和感はない。

 ジェイドも魔力の色が染まる特別仕様だ。


 魔法を放って驚くザウス王は、この代替えのジェイドにも満足していた。

 現在の聖剣以上の性能なのだし満足するのも当然なのだが。



 旅に出る前にもう一度ザウス王国に来なくてはならなくなった為、この日はこれで帰ることにした。

 帰る前にロナウドのデュランダルにも魔力色の魔石を組み込んで赤い魔力とした。

 蒼真は聖騎士と訓練出来なかったと嘆いていたが、精霊と契約したばかりで戦いにならないだろうと言うと諦めてくれた。






 ザウス王国からの帰り道。

 バイクを走らせる一行。


「朱王さん。今度の旅は何に乗って行くの?」


「バイクやバギーは置いて車で行こうと思うけどどうかな? 魔力鍵は全員分を登録して交代で運転しようかなと考えてるよ」


 朱王の車はオフロード車。

 軍用のような大きくて頑強な車だ。

 後ろには多くの荷物が積めるうえ、前三人と後ろ四人が乗れる。三列目のシートを起こせば十人まで乗車可能だが、荷物を積むので普段は前三人乗りとしている。


 車はバイクに比べて多少燃費が悪いが、時速60キロで平地を走ったとして魔力の消費量は時間あたり5,000ガルド。

 質量を軽くする魔石が組み込まれている為、大きさの割にそれほど多くはない。


「車運転していいの?」


「運転し続けるのも疲れるからね。皆んなで交代で運転してくれると助かるよ」


 喜ぶ千尋と蒼真。

 地球では未成年であるが故に車の運転をした事がない。

 一応バイクは友人のに乗った事があった。

 異世界では道路がない為ウインカーなども付けていないが、車を運転できる。

 それだけで楽しみな二人だった。




 アルテリアに着いたのが十七時。

 聖剣の改造は明日からにしようと決め、エイルへと帰って行く。


 朱王は自宅へ帰る。

 ミリーが不満を漏らしていたが、旅に出る前にやる事がたくさんあるらしい。

 他国の聖騎士長用の魔剣作りもあるので、明日からミリーは手伝いをしに朱王の家に行く事になった。

 蒼真とアイリはクエストを受ける。

 朱雀も暇なので蒼真達について行く事にした。


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