第63話 一旦整理

 聖騎士に精霊契約をしてもらう為、千尋達は属性ごとに担当を決める。


 地属性は千尋。

 風属性は蒼真。

 水や氷属性はリゼ。

 雷属性はアイリ。


 それぞれ担当する事にして聖騎士に並んでもらった。

 千尋の元に立ったのはマール。

 ツインダガーとして千尋が作った金地に銀の装飾の【ヘリオブライト】と、銀地に金の装飾の【ヘリオブライド】を購入していた。

 マールは元々精霊魔導師という事で精霊を移すだけ。

 魔杖からヘリオブライトに精霊を移すとやはり活発な精霊になった。

 そしてもう一本のヘリオブライドにも新しくノームを契約するそうだ。

 以前ダルクと戦った千尋の戦闘方法を見て、精霊に剣を持たせて戦う方法を思いついたとの事。


 聖騎士何人かが余っており、どうやら火属性を希望するようだ。

 精霊魔導師であるマールは自分でできるので千尋が残りの聖騎士達を担当する事にした。


 ダルクはもちろん風の精霊シルフ。

 テイラーやルーファスもシルフ。

 蒼真の影響もあってか風魔法が一番人気が高かった。




 全員が精霊との契約が済んだ頃にエンジン音が聞こえてくる。

 朱王とミリーが来たようだ。


 迎えに行くのはバラン。

「朱王様ー!」と叫びながら走り出した。




「やぁやぁ。お待たせしてしまったかな? ロナウドさんや聖騎士の皆さんも元気そうでなによりだよ」


「皆さんお久しぶりです。怪我人は…… いますね」


 聖騎士の中心へ近付き、範囲の回復魔法をかけるミリー。


「朱王。ところでその子供はなんじゃ? お主の子か?」


「ん? あぁ、この子は……」


「我は朱雀じゃ。朱王の姿を模した精霊じゃがよろしくの」


「ふむ。精霊じゃったか…… 精霊には見えぬがまぁ良いか。あとで美味いものを食わせてやろう」


「ほんとか? 其方もいい奴じゃのぉ!」


 食い物に釣られてしまう精霊だった。


「魔法陣の事は説明してくれた?」


 頷く千尋達。


「じゃあ武器を持って並んでね。組み込みたい属性を言ってくれればエンチャントするから」


 ロナウドやマールを含めた十三人分の魔法陣のエンチャントはそれほど時間もかからずに終わった。

 



 エンチャントが済んだ聖騎士は少し離れたところで試し撃ちをするのだが、その聖騎士の放つ魔法の威力を見てロナウドも目を見開いた。

 元からいる王国の精霊魔術士や精霊魔導士でさえこれ程の威力の魔法を放つ者はいない。

 常識で考えれば精霊魔術士や精霊魔導士は後衛に配置する。




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  一度ここで整理する。


  【魔法】


 魔法を誰もが使えるこの世界に、魔法使いという言葉はない。

 属性に対する魔法の仕組みを理解せずに使う者がこれにあたる。

 しかしここには練度がある。

 魔力を制御次第で全てが変わってくる。

 これには魔力の精密さ(質)や、制御できる大きさ(幅)なども含まれる。

 魔力の質を高めれば燃費が良くなり、小さな魔力で大きな魔法を放てる。

 魔力の幅は一度に放出できる魔力の大きさだ。

 魔力制御は全ての元となる為、魔法を強くするには最も重要と言える。

 千尋と蒼真の場合、千尋の方が燃費が良い。

 千尋達と朱王の力量差は制御できる魔力の幅の違いとなる。




【魔術士】


 属性に対する魔法の知識を持つ者、または呪文により魔法を読み解く者、訓み解く者がこれにあたる。

 千尋や蒼真は知識を持つ者。

 呪文を読み解く者は魔術書を手に、魔法イメージの固まらない魔力を、呪文によって最適化する者。

 魔法をイメージすると同時に呪文も重ねてイメージするのが訓み解く者。

 以前蒼真の特別講習を受けた者達は知識を得た事により、訓み解く者から知識を持つ者となる。

 それ以前の聖騎士達は訓み解く者だった。

 聖騎士は訓み解く者として魔法のイメージの中に呪文を組み込んでいた。


 ※この後の説明は魔法の威力、魔力の消費量を全力で放つ事を一倍とする。




【魔導士】


 魔法陣を用いる魔術士をそう呼ぶ。

 魔道具を使用して魔法陣を描き、呪文を詠唱する事で発動させる。

 下級魔法陣と上級魔法陣では呪文の詠唱時間、魔力の消費量に大きな違いがある。

 威力は下級魔法陣で一・五倍となる。

 上級魔法陣であれば三倍まで上昇する。

 魔法陣の使用は、魔力の消費が下級魔法陣で三倍、上級魔法陣で九倍となる。


 朱王の魔石によるエンチャント(魔法陣)は精霊同様に器が必要となる。

 下級魔法陣で500ガルド。

 上級魔法陣で2,000ガルドの器が必要となる。

 器を魔力で満たし、使用者の意思で視覚化とともに発動する。

 発動後は使用者の意思による解除、または魔力の供給が途切れる事で解除される。




【精霊魔術士】


 魔力を練り込み器を介して精霊に魔力を渡す事で、高威力の魔法を放つ事ができる。


 一般的な魔杖では魔力の流量が少ない為、精霊に魔力を渡すまでに時間を要してしまう。

 魔法発動までの時間が長い事から後衛職となってしまう。

 また、魔術と比べると威力が一・三倍となり、魔力消費量一・五倍となる。


 対して、ミスリルを器とした精霊魔法はすぐに発動できる。

 こちらは精霊が活発になる為、威力が一・五倍、魔力消費量は威力に比例する。


 召喚魔法による精霊召喚には魔力を1,000ガルドほど要する。

 精霊の姿はある程度属性によって定められているが、召喚者のイメージが反映される事で違いが出る。

 精霊は使用者の魔力によって成長する。


 上級精霊の召喚呪文はない。




【精霊魔導士】


 精霊魔法に魔法陣を組み込む精霊魔導士は、魔道具で地面に魔法陣を描き、魔法陣を発動させる為に呪文を唱える。

 属性の魔力を高めて精霊に与え、高威力の魔法を放つ。

 魔杖を器とした場合、精霊魔術士と同様に魔法の発動が遅く、さらには呪文の詠唱が長い為魔法の発動までに数分を要する。

 こちらも当然後衛職となる。

 威力は下級精霊と下級魔法陣の組み合わせ一・五倍。上級魔法陣で三・五倍となる。


 ミスリルを器とした場合。

 下級精霊と下級魔法陣の組み合わせでは、威力が二倍。上級魔法陣との組み合わせは、威力が四倍となる。


 上級精霊への進化、力の行使には上級魔法陣が必要となる。

 魔法陣を発動せずに上級精霊が魔法を使用した場合、威力は三倍、魔力消費量も威力に比例する。


 上級精霊は下級精霊からの進化や召喚によって成る。

 下級精霊の進化は滅多な事では起こらない。

 ランは風の精霊であるにもかかわらず、朱王の風魔法に劣っている事に気がついた。

 純粋な下級精霊は自身への怒りによって上級精霊への進化を…… ではなく、ランは精霊の中でも感情が豊かだった。

 悔しくて悔しくて堪らなかったランは心から進化を望んだ。

 するとランの頭に進化の条件が浮かび、条件を満たす事でジンヘと進化した。

 例え他の精霊がこの条件を満たしても、進化はしない。

 精霊が進化を望む事こそ重要となる。


 上級精霊と下級魔法陣の組み合わせは威力四倍。

 上級魔法陣の組み合わせでは威力は十倍となる。


※この威力に関してはあくまでも目安となる。

 全く同じ魔法であればそれ程の威力の差となる。

 精霊は魔力の量により使用する魔法の形状や性質を変化させる為、必ずしも威力が数倍という表現にはならない。

 



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 



 聖騎士達は魔法陣を発動し、精霊魔導を全員が何でもないかのように連続して放っている。

 蒼真達は全員を離れて練習するように指示を出し、それぞれ見て回る。


 つい先程までは魔術士だった聖騎士達。

 千尋と朱王のエンチャントにより、魔法威力の最高位である精霊魔導士となってしまった。

 精霊と魔法陣が下位であるとしても、その威力は王国の精霊魔導士を凌駕する。


「普段通りの魔力で放つとあーなるよね。ところでミスリルの盾を持つ聖騎士はいないの? 上級魔法陣を組めばもっと強いのに」


 千尋はさらっと言ってみる。


「んなっ!? 盾にも組めるのか!? ま、まぁ同じミスリルであれば不可能ではないのか」


 また驚くロナウド。


「いっそ盾職だけじゃなく全員に上級魔法陣を組み込もうよ。千尋君から昨日もらった魔石を使っていいし」


 全員にと言い出す朱王。


「むぅ…… よ、良いのかのぉ」


「この後話すつもりだったんだけどさぁ、しばらくオレ達旅に出るつもりなんだ」


「ふむ、旅か。良いのぉ。どれくらいの旅なんじゃ?」


「各国を観光しながら回るから、半年くらいの旅になる予定だよー」


 ロナウドはリゼを心配して反対するかとも思っていたが、楽しんでこいと笑顔で言う。


 理由は簡単。

 パーティーが強過ぎる。

 全員がロナウドと同等の強さを持ち、そのうえ、まだ武器の強化を提案してくるあたり今のロナウドよりも強いだろうと判断した。


「ではスマンが盾や防具にも頼もうかの」


 考えた結果頼む事にしたロナウド。

 どうやら聖騎士の盾や鎧はミスリル製らしい。

 自身の身体を守る物に金の出し惜しみをしないあたりは貴族だなと。

 バランは貴族ではないが、以前朱王から買ってもらった鎧だ。

 当然のようにミスリル製だった。




「盾職は盾に。それ以外は鎧か手甲にエンチャントするからね」


 再び集められた聖騎士達は驚きと歓喜、呆れといろいろな感情が渦巻いていた。


 全員の防具の魔力量2,000ガルドと上級魔法陣をエンチャント。

 ロナウドも同じようにエンチャントした。

 増やそうと思えば他の部分もできるが、魔力の消費量が尋常ではなくなる。

 魔力を込めた瞬間に力が抜けては元も子もないだろう。

 千尋は大量に所持しているが、武器である為使用する時だけ魔力を流す。

 両手の魔剣では体外の魔力球を利用する事でカバーする。

 さすがに防具を魔力強化をしないわけにはいかない為、エンチャントするなら一つだけとするべきだろう。


 魔術師団団長マールはローブを着ているが両腕にミスリルの腕輪と貴族用ドロップを身に付けている。

 地属性のマールに気分を良くした千尋は自分と同じ全部盛りをしようと提案し、腕輪とドロップに魔力量2,000でエンチャント。

 上級魔方陣もアース、グラビトン、インプロージョンを組み込む。

 エンチャントをする前に、朱王がマールの許可を得てペンダントと腕輪の改造を始めた。

 まずはドロップに煌き魔石を追加する穴を加工し、その穴に作り出した魔石をセットする。

 首にドロップを下げると光を放つマール。

 キラキラと煌く髪色に嬉しそうに笑顔を見せていた。

 腕輪には球状の宝石も組み込まれているので、朱王の魔石と同じサイズの宝石を丁寧に外す。

 魔石を嵌め込み、魔力の色をどうするか考えてもらった。

 マールがイメージしたのは橙色。自分の髪色に合わせたのだろうが、ノームも鮮やかなオレンジ色の服装になった。


 不思議そうに見ていた他の聖騎士達。

 自分達にも同じ加工をしてほしいとの事で、それぞれの武器を加工していった。




 加工が済んで魔法を発動させる聖騎士達。

 自分好みの色に変化した魔力に嬉しそうだ。

 そして上級魔法陣を発動させた精霊魔導は、下級魔法陣の威力を倍にした。

 本来の上級魔法陣はそれ以上の威力を発揮できるが、下級精霊の能力を超えてしまう為これが限界だ。

 これまでにない威力に、聖騎士一同自分の魔法に震え上がった。

 まずは精霊魔術から慣らしていこうとロナウドが指示を出し、全員コクコクと頷いていた。




 聖騎士達が精霊魔法を訓練している間にリゼとミリー、アイリがガトーショコラを切り分けに行く。


 ワゴンも借りて戻って来てティータイムとした。


 朱雀も絶賛。


 食べ終わると「おいしーーー!!」と叫んで炎の翼を広げていた。

 熱いし死人が出るかもしれないからほんとやめて頂きたい。

 朱王に怒られる精霊だった。




 その後ロナウドは聖騎士四人を連れて王宮に向かう。

 レオナルドとレミリアを連れてくるとの事だ。

 レオナルド達が王宮を離れる間の王の護衛として、聖騎士を四人連れて行った。




 レオナルドはレーヴァテインに下級魔法陣サンダーと、盾には上級魔法陣のボルテクス。

 レーヴァテインのポンメルを外して穴を加工。朱王の魔石を組み込み、淡い青の魔力色にしたようだ。




 レミリアはケリュケイオンに下級魔法陣ウィンドをエンチャントし、装飾部を加工して魔力色の魔石を組み込んで淡い緑色を選択する。

 そして以前は付けてなかったがドロップの貴族用を付けており、それに上級魔法陣エアリアルをエンチャント。

 久しぶりに会ったレミリアは薄緑の髪色と眼をしていた。 

 朱王はレミリアの許可を得てドロップに追加工。

 リゼ達同様に髪が煌めくようになった。


 レミリアは薄緑の髪色に煌き効果。

 そして獣耳。

 レミリアを見つめるミリーやアイリが羨ましそうに獣耳を見ていた。

 ちなみにこの獣耳は耳としての機能を持たず、耳のような柔らかさを持つが人間の耳が普通にある。

 かつて存在したヴォルフ族が進化の過程で耳の形だけが残ったのだとか。


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