第47話 妖刀 朱雀丸
王国から帰ってきた翌朝からは魔剣作りを始める千尋とリゼ。
朱王から受け取ったミスリルを作業台に置く。
今まで加工してきたミスリルの板とは違う、分厚いミスリルの塊。
はっきり言ってバカでかい塊だ。
サイズにして長さが150センチ、幅と高さが太い部分で50センチ程の歪な円錐型。
強化して二人掛かりでやっと運べる重さだ。
その中心部に魔力の溜まる部分がある。
やはり板とは違い、魔力の溜まる部分にも厚みがある。
朱王と話して決めた図面を見ながら切り出す部分を選んでいく。
魔力を流しながら慎重に位置を決める。
その辺の技術はリゼにはない為、千尋の説明を聞きながらサポートする。
判断が難しかった為、魔力の溜まらない部分に線を引き、ミスリルに書き込んだ余分な部分を切り落としていく。
朱王の要望は全て魔力を溜め込める部分で最高のものを作る事。
魔力の流れやすい部分は全て最初に切り落とす。
今の状態が魔力を溜められる最大量。
ここから加工を進めていくとどんどん減少する事になる。
今の状態で、推定40,000ガルド。
ここから刀を切り出すだけなら五本は取れる。
一本につき魔力量4,000の刀を五本だ。
しかし朱王はこの塊から一本だけの刀を求めている。
千尋は魔力の流れを再度確認する。
集中して調べ続けるとある部分に魔力の方向のない部分がある。
しかも魔力の溜まる量が多いように感じられる。
この部分を使用した場合どんな性能になるかわからなかったが、魔力の方向のない部分だけを切り出す事にする。
朱王が選んで渡してきた素材だ。
意味もなくこんな素材を渡したりはしないだろうとの思いからだ。
再びミスリルに切り出す部分を書き込んで、余分な部分を切り分けていく。
切り分けた部分も魔剣を作る事ができる素材となる為、慎重に作業を進める。
ある程度素材を切り分けたところで削り込みを始め、何度も調べながら慎重に加工を進める。
出来る限り厚めに削り出していく。
まだ太くて反りのないミスリルの棒。
ここまでは問題なく加工できたが、刀の向きや長さ、厚さなどどれだけ削り込むかで悩む。
手をつけれずに夕方まで考えたあと、朱王の力であれば重さや長さも関係ないと結論を出した千尋。
図面を無視して自分の好きなように作ろうと決めた。
次の日はしっかりと成型していく。
刃の厚さも均一に整え、ある程度形になった所でバランスの確認。
重量を見極めながら厚さの調整をしていく。
ここまでで魔力量の確認。
およそ8,000ガルドオーバー。
尋常ではない魔力保持量だ。
千尋が全力で振るった場合、すぐに魔力が枯渇するだろう。
成型が終わり、刃を研ぐ。
刀身を鏡面まで磨き込んだ上で研ぎ出しで波紋を再現する。
この日は久し振りに雨が降った為、蒼真とミリーは工房で勉強をする。
蒼真先生の丁寧な授業が行われ、火の仕組みやこの世界では使われる事のない火薬の話から始め、他の属性についても簡単に説明していく。
火属性の話はコクコクと頷きながら真面目に聞いていたミリー。
他属性の話になった途端に、ミリーは頷くように船を漕いでいた。
ちなみに、以前から雨の日のには冒険をお休みとしている。
アルテリアでは雨の日限定のクエストなどはなく、緊急を要するクエストもない。
雨の日は蒼真が汚れる事を嫌って、基本的には休みを取る事にしていた。
千尋とリゼの刀作りは、刀身が完成するまでにおよそ五日かかった。
理由は刀身全てが魔力の方向のない部分という事だ。
これはただ魔力の流れる方向がないだけでなく、恐ろしいまでの魔力の吸収力を持っていた。
魔力の寄せが異常なほどに難しく、油断するとリゼの魔力が刀に奪われてしまう。
すると強度の上がった刀身は全く歯が立たなくなるのだ。
リゼが魔力を体内に引き戻して加工をするのだが、一度奪われた魔力を引き戻すのが大変だった。
加工する千尋よりも、魔力を寄せるリゼの方が苦労した事を朱王は知らない。
刀身が完成した後はハバキをつくる。
呑み込みを削り、表面を磨き込んで着色し、金色の鏡面仕上げのハバキとなった。
ザラリとした手触りになったところで表面を慣らす。
柄の着色は赤にした。
その後は
鐔は細工を施す為、朱王の得意分野でもある。
千尋の拘り抜いた細工は今までのどの細工よりも真剣に作り込んだ。
磨き込みと着色も行い、黒地に金の鳳凰を彫り込んだデザインとなった。
黒い
どちらも耐火紐で防具屋に注文したものだ。
最後に
武器屋の隣に鞘を作ってくれる工房があるが、あえてミスリルで作ることにした。
最初に切り分けた、魔力の流れの方向がある部分を使う。
二枚のミスリル板を刀身に合わせて削る。
削り込んだ部分には魔力を通さない素材を貼り付けるが、ミスリル用の接着の魔石で貼り付ける為剥がれることはない。
削った二枚の板を合わせて接着する。
表面を削り込んでいき、鞘の形を成型する。
全て鏡面まで磨き込み、千尋の思いつきで着色。
黒の魔石を水に溶き、クシャクシャにしたラップにつけて鞘に色を乗せる。
実はこの世界にもラップがあり、地球から以前に来た者が伝えたのだろう。
鏡面の黒と銀の斑模様になった鞘に、赤を着色していく。
深くて濃い赤に着色し、赤黒い鞘が完成。
鞘だけでも魔力量5,000ガルドを超えそうだ。
完成した朱王の刀。
大太刀【
刀身の長さが1メートルを優に超え、幅の広い長大な刀だ。
「ねぇ千尋。途中から言おうと思ってたけど図面と全然違うんじゃない?」
「うん。好きなように作った! 朱王さんならこのくらい大きくても問題ないでしょ! 魔力量は8,000ガルド! 鞘でも5,000! 魔力をどこまでも吸い上げる刀だし普通の人には使えない!」
「さすがに朱王さんもこんな規格外なのは予想してないんじゃない?」
「全部オレに任せた朱王さんが悪い!」
「まぁそれでもあの人なら喜びそうな気もするけど……」
あとは朱王の帰りを待つだけだ。
「ただいま戻りました!」
ミリーと蒼真がクエストを終えて戻って来た。
「あら、まだお昼前なのに終わって来たの? そうそう、ミリー。朱王さんの刀完成したわよ」
「本当ですか!? 見せてください!」
鞘から抜いて確認するミリー。
「ふぉぉぉ…… 長い…… 重い…… でもすっごく綺麗ですね! 刀身は着色してないせいかキラキラというかギラギラしてます!」
「さすが千尋だな。図面や寸法付きで日本刀頼まれておいて大太刀を作るあたりは期待を裏切らない」
「褒められてるのか何なのかわからないよ!?」
「あれ? でも魔力が流れませんね?」
「ああ、それ今は千尋の魔力で満たされてるから流せないわよ」
「オレの魔力半分吸われたから倒れるかと思った」
「吸われる? どういうことだ?」
「この刀は蒼真の兼元とは違って、本人の意思とは関係なく魔力を吸い上げられるんだよね」
「扱いにくそうだな……」
「朱王さんも困るんじゃないですか?」
「その時はその時だよ!」
「じゃあまだ帰って来ないと思うからご飯食べに行きましょう!」
「デザートも食べましょう!」
昼食後はデザートも食べ、再び工房に戻ってコーヒーを飲む。
「ミリーは今日はどうするの?」
リゼがニヤケながら問いかけてくる。
「何がですか?」
質問の意図が全くわからないミリー。
「今日は朱王さん帰って来るでしょう?」
「はい! 楽しみです!」
嬉しそうに言うミリー。
「お泊まりして来ても良いのよ!」
ミリーに耳打ちするリゼ。
「…… ふぇえっ!? 何言ってるんですかリゼさん!?」
顔を真っ赤にして立ち上がるミリー。
「今ちょっと考えたでしょ。ミリーったらイヤらしいわね! あははっ!」
「むぅ…… リゼさんだっていつもそんな事考えてるじゃないですか!」
「ちょっ!? そんなわけないでしょ!!」
ミリーを揶揄おうとして反撃にあうリゼ。
お互い赤面して言い争っている。
「そういや蒼真って向こうで付き合ってた子いたよね?」
「ああ、美春な。元気にしてるといいがな」
外を見ている蒼真は少し寂しげに見える。
リゼとミリーも言い争いをやめて蒼真を見る。
「美春ちゃんは綺麗な子だったよねー。蒼真の好みはああいう子か!」
「うーん、まぁそうだな。性格良かったし趣味も合ったからな」
「こう言っちゃなんだけどさ、オレ達もう戻れないみたいだよ?」
「まぁな。戻りたい気持ちもあるにはあるが…… 今ではここでの生活が当たり前になったよな」
「オレは今ここに生きてるからね。今はこの世界の住人だ! だから精一杯楽しんで暮らすよ!」
「ああ。同感だ」
蒼真を見るリゼとミリー。
「蒼真は彼女いたのね」
「綺麗な人が好きみたいですね!」
ヒソヒソと話すが丸聞こえだ。
「リゼもミリーも可愛いとは思うがな。オレの好みとは違うんだ」
「何故かフラれたわ!?」
「でも褒められましたよ!?」
丸聞こえのヒソヒソ話は続くようだ。
十五時を回ったところで遠くからエンジン音が聞こえてくる。
「来たみたいね」
「うわっ! 来ました! どうしましょう!」
焦ったように外に出て西側を向くミリー。
手にはメイスを握り、魔力を放出して構える。
ミリーは相当動揺しているのだろう、何故か戦闘態勢だ。
リゼもミリーと一緒に外で待つ。
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