第46話 王宮を守れ
「まさか王宮内にまで魔族に入られるとはね」
レーヴァテインを手に、魔族の爪による斬撃を受けるレオナルド。
王宮に入った魔族は男三体。
レミリアは魔力を練り込むが王宮内である為魔法を射ち放つ事はできない。
「レオナルドは王宮を破壊してはダメよ?」
「あはは。気をつけるよ」
レオナルドも魔力を練り上げ、魔族の爪を弾き飛ばす。
体勢を崩した魔族に雷の斬撃。
魔力の溜め込まれたレーヴァテインの斬撃は、爪で防いだとしても高圧の電流が流れる。
体が麻痺して動けなくなった魔族にとどめの一振り。
一体目を倒したレオナルドの攻撃に合わせて襲いかかる魔族。
レミリアは風魔法を発動してレオナルドに向かう魔族を包み込む。
球状に包み込まれた空間内は圧縮された風の奔流、風の刃によるミキサーだ。
ズタズタに切り裂かれた魔族は見るも無惨な肉片と化す。
今度は魔法を放ったレミリアに襲いかかる魔族に、レオナルドの魔力を込めた刺突。
切っ先から撃ち出されたプラズマ弾は魔族に直撃。
直撃と同時にレーヴァテインと魔族を繋ぐように雷が放たれる。
高圧の電流が魔族を体内から焼く。
プスプスと煙をあげながら魔族は崩れ落ちた。
「周りを気にすると私達は戦い難いね」
「斬撃を飛ばすのがお好きですねぇ」
言って王に跪く。
「ふはは。レオナルドもレミリアも凄いな。魔族をものともしないその強さ。聖騎士長をも超えたのではないか?」
「いいえ、聖騎士長の強さはさらに高みに至っております」
「そうか。では外を任せても問題はなさそうだな」
王宮の外には四体の魔族。
騎士は待機し、聖騎士が魔族と対峙している。
聖騎士長ロナウドと魔術師長マールは王宮の前に立ち、聖騎士の戦いを見守る。
聖騎士ルーファスは槍を構えて魔族と向き合う。
一対一の戦いを挑むが勝機は薄い。
魔力を練って風を纏うルーファス。
上体を低く構え、魔族の動きを見据える。
爪を剣のように伸ばした魔族は、魔力を練ってルーファスに向かって駆け出す。
ボッ! という音と共に魔族へ向かうルーファス。
魔力を乗せた渾身の突き。
炎の刺突は爪を弾き、魔族の右胸に突き刺さる。
悲鳴と共に弾き飛ばされる魔族は地面を転がって倒れ込む。
追い討ちをかけるべくルーファスは間合いを詰め、倒れた魔族の背中を切り上げる。
間一髪躱した魔族は膝をつきながらルーファスに向かう。
振り上げられた槍を力一杯振り下ろし左の爪で防ぐ魔族だが耐えきれずに押し切られる。
左肩に切り込まれた槍。
堪らず後ろへ飛び退る魔族に、再び加速して炎の突きを放つ。
腹部から突き刺さった槍は内臓を燃やす。
意識が飛ぶ寸前の魔族から槍を抜き、体を回転させて逆袈裟に切り上げる。
仰向けに倒れ込んだ魔族に息はなかった。
ルーファスは息を切らせ、汗を流しながらも魔族を倒した。
安堵と嬉しさから笑みが漏れる。
少し離れたところで魔族と対峙していたのは聖騎士ワット。
大剣を持つ大柄な男。
短い茶色の髪にギラギラとした鋭い目、装備は全身を覆うプレートアーマーを着込んでいる。
魔力を練り上げ魔族に向かって駆け出す。
魔族は肉体強化を施して拳に魔力を集める。
表面が黒く変色し、ゴツゴツとした岩のような拳に変化する。
炎を纏った大剣を叩き込むも魔族の拳で相殺される。
大柄な魔族はワットよりもさらに一回り大きい。
左右の拳から打ち出される攻撃を、ワットは大剣で受け続ける。
高い強度に加えて物凄いパワー。
地属性で大剣を操り炎も乗せる。
さらに
魔族の攻撃にも対応できるうえに威力が跳ね上がり、攻勢に出る。
防御に回った魔族も拳を弾かれ、ダメージを蓄積させていく。
パワーに物言わせてひたすら攻めまくるワット。
魔族の腕に深い切り傷を負わせたところでほぼ勝負は決まり、腕が上がらなくなった魔族の脳天をかち割る。
息も絶え絶えに膝から崩れ落ちるワット。
なんとか勝負を決めることができた。
残りは二体。
ダルクを相手にするのは小柄な魔族。
ダルクは魔力を練り風を纏う。
直後姿を消す魔族。
ダルクの後ろから爪の刺突が放たれる。
素早さに特化した魔族の攻撃に、回避と同時に斬撃を繰り出すダルク。
蒼真に負けて以降日々鍛錬した魔法、リゼの作ったブルゾディアに乗せる魔法の威力。
全てが掛け合わされて、スピード、威力共に以前の比ではない程の実力を身に付けたダルク。
魔族の爪を切り落とし、そのまま繰り出した複数の斬撃によって魔族を細切れにする。
強い。
聖騎士の中でも飛び抜けた上達を見せたダルクだった。
「ダルク圧勝じゃん!」
背後からよく知る声が聞こえる。
千尋達が城内にいた。
バランもいる事からダライオ邸が片付いたと見える。
「あとは儂がやろう」
ロナウドが魔族に向かい合う。
残っている魔族は人型でありながら異形の様相をしている。
大型の魔族。
左右の腕は太く地面に付くほど長い。
やや前傾姿勢を保ち、動物に例えるなら大きなゴリラのような体型だ。
歩き方までナックルウォーク。
魔力の質は魔族そのもの。
「オレの部下を全て倒すとはな。人間とは言え高い魔力をもつだけはある」
「貴様の相手は儂じゃ。かかってこい」
魔力を練り、デュランダルを手にして歩み寄る。
魔族も魔力を練って待ち受ける。
拳から肩までかけて黒く変色するとともに硬質化し、左右の腕がさらに太くなる。
魔族の右手がロナウドの頭上から振り下ろされる。
剣を振りかざして拳を受けると同時に激震。
魔力を込めて打ち込むだけで発動するデュランダルの付与魔法。
魔族の拳に尋常ではない振動が発生し弾き飛ばされる。
振動であるはずの魔法が爆発と言えるほどの威力を持つ。
魔族は再び魔力を練り上げ、ロナウドに拳を向ける。
最大限の魔力強化をした拳で打ち込んでも振動が返ってくる。
相殺しきれないが耐えられないほどではない。
両手の拳でロナウドに打撃を見舞うも全て剣で防がれ、振動が手に蓄積される。
このままではやばい。
そう思った直後、ロナウドから攻撃が仕掛けられる。
振り抜かれた剣は魔族の拳と交錯するが、その振動は防御の時の比ではなかった。
雷に撃たれたのではないかと思うほどの衝撃。
打ち合うだけで全身を貫かれるような痛みに悲鳴をあげて距離をとる魔族。
「メテラ」
ロナウドは精霊魔法で、デュランダルから炎を放つ。
青い炎は吹き出すように放出されている。
ロナウドの一太刀。
袈裟斬りに振り下ろされた剣はガードした魔族の左腕ごとぶった切る。
同時に振動と炎が全身を襲う。
焼け焦げた肉片が爆散して勝負は決した。
「デュランダルは怖いよね」
「あれは戦い難いな……」
「ロナウド様! ご無事ですか!?」
「私、聖騎士さん達回復してきますね」
ルーファスとワットを回復しに向かうミリーと、ロナウドに駆け寄るリゼ。
「とりあえず片付いたようじゃな。リゼ達も無事でなによりじゃ。王に報告してくるからお主らはちと待っとれ」
王宮に入っていくロナウド。
「ダルク。随分腕を上げたな」
「まだまだだ。魔力練度を上げればまだ強くなれる」
王宮から戻ってきたロナウド。
「千尋。ダルクの成長は眼を見張るものがある。ダルクならもう良いと思うのじゃがどうかのぉ?」
「ロナウドさんが認めるなら良いんじゃない?」
「うむ。ただでとは言わん。頼めるか?」
「あいおー」
「ロナウド様? なんの事ですか?」
「ダルク。千尋に剣を貸せ。強化してくれる」
「さらに強化できるのですか!?」
「うん。今のよりだいぶ強くなるよー」
「是非頼みたい!」
千尋にブルゾディアを渡すダルク。
2,000ガルドの魔石を当ててエンチャントを施す。
眩い光を放ちながら魔石が吸い込まれるように消える。
剣をダルクに渡す千尋。
「少し試そうか!」
「望むところだ!」
お互いに魔力を練り向かい合う。
ダルクは剣を抜いて構え、千尋は地属性魔法で双剣を両肩付近に浮かせる。
風を纏って疾走するダルクの逆袈裟切り。
風の刃が伸び上がり千尋を襲い、千尋は左のインヴィで受けて相殺する。
ダルクの目にも留まらぬ連撃を千尋は左右の剣で受け続ける。
ダルクの横薙ぎに合わせて右手を伸ばした千尋は、柄頭に手を当てて爆破。
蹌踉めいたダルクに左から切り上げる。
紙一重で躱したダルクは体を反転させて袈裟斬りに剣を振り下ろす。
右のエンヴィで受け流した千尋の前蹴りをもろに食らうダルク。
「っく…… 千尋はやはり戦い難いな」
歯を噛み締めて全力で駆け出すダルク。
逆袈裟に切り上げられるブルゾディア。
風の刃と共に炎が舞い、エンヴィもろとも千尋を吹っ飛ばす。
左右の剣で受けた千尋は弾き飛ばされるも、着地と同時に走り出してダルクに向かって剣を振るう。
「っぐぅぅ!!」
「もっと剣に魔力を溜め込んで!」
立ち上がったダルクは魔力を練り、言われたように剣に魔力を溜め込む。
今までの剣に溜まった魔力を魔法にするのではなく、自ら剣に魔力を流し込んで魔法にする。
風の刃のみのブルゾディア。
千尋も同じく風の刃のみ。
お互いに打ち合い相殺し、三度切り結んで距離を取る。
「もういいじゃろう」
止めに入るロナウド。
「これほど魔力を溜め込めるとは……」
驚きながらブルゾディアを見つめるダルク。
「儂から見てもダルクは充分な魔力練度じゃったからのぉ。今後はそれで訓練するといい」
「はっ! 精進します!」
「一応、聖騎士全員分は用意してあるけど?」
「皆はまだこのままじゃ。精進せい。お主らはまだまだ強くなれる…… ところで千尋は今日も武器を卸しに来たのか?」
「うんっ! 剣や槍を十本ほどね!」
ザワッ…… と複数の聖騎士が反応する。
「千尋! 槍もあるんだな!?」
ルーファスの問いに千尋は頷く。
「ロナウド様! 見に行ってもよろしいですか!?」
ロナウドが許可を出すと聖騎士八名と魔術師長マールが走り出した。
「んなっ!? ちょっと待てぇい!! 先に騎士団を撤退させよ!」
慌てて戻って来た聖騎士達は、騎士団を城内から撤退させる。
先頭をきって城から出て行く聖騎士達は、必要以上に速足だった。
「なんでルーファス達は武器屋に行ったの?」
「前回買ったオレ達の剣を見て羨ましかったそうだ」
ダルクの剣はリゼが造ったブルゾディア。
見た目も美しく、一級品以上の輝きを放つ。
「安い買い物だったわよね! 」
テイラーも嬉しそうに語る。
一億リラを安い買い物というあたりは貴族故か。
「スマンが儂はこれから一仕事じゃ。リゼ、また家に遊びに来るんじゃぞ?」
「はい、ロナウド様!」
ロナウドはダライオの尋問を行い、他にも魔族と通じる者をあぶり出すつもりのようだ。
「オレ達もロズのところに行こうか」
「そうですね。バランさんも行きましょう」
バランも連れてロナウド邸に戻る。
ロズも待っている事だろう。
「バラン! どうだった!?」
部屋に入ってきたバランに詰め寄るロズ。
「ああ、全部片付いた」
「早過ぎやしないか?」
「ダライオのところが二十分程で片付いたからな。王宮も攻め込まれたが全て倒す事ができた」
「王宮はロナウド様達がいるからわかるが、ダライオのところの十体の魔族をどうやって……」
「魔族はほぼ瞬殺だ。こいつら強過ぎて笑えるぞ」
溜め息を漏らしながら言うバラン。
「朱王様に報告しなくてはな…… それほど強いのであれば組織に勧誘…… いや、しかし……」
ブツブツ言い始めるロズ。
「ところでさぁ、朱王様はどこにいるか知ってるか?」
「ゼスに行くって今朝出発しましたよ?」
「そうか。ゼスならすぐに戻って来るだろうし報告も後だな」
「じゃあ魔族も片付いた事だし帰るか」
「そうね、武器屋にも卸したし用は済んだし」
魔族を倒したので満足した蒼真とリゼ。
バイクに乗ってアルテリアに帰る事にした。
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