第32話 ミノタウロス討伐

 イーリル洞窟は相変わらず暗い。

 蒼真とミリーは木の棒を拾い、光の魔石で洞窟を照らす。


 以前来ているのである程度把握している洞窟内。

 ハウザー、ベンダー、アニー、リンゼの順に戦闘を行う事にして進んでいく。


 広い部屋に到着したところでハウザーは魔力を練る。

 部屋の奥にはミノタウロス。

 ハウザーを見据え、石柱を振り上げて向かってくる。

 振り下ろされる石柱を左に回避したが、ミノタウロスは石柱を右に薙ぐ。

 両手のダガーで受けるものの、その威力に弾き飛ばされたハウザーは壁に当たって息を漏らす。

 苦痛に顔を歪めるも、さらにミノタウロスは追い討ちとばかりに駆け寄ってくる。

 息を強く吸ってミノタウロスに向かう。


「ハウザー! 相手がデカいと追撃がくる! 回避で懐へ飛び込め!」


 再び頭上から振り下ろされる石柱に向かって駆け出すハウザー。

 その恐怖に、並みの神経では飛び込む事などできないと思うがそこは冒険者。

 石柱が地面に叩きつけられた時にはミノタウロスの懐へ潜り込んでいた。

 ダガーを突き立て、練った魔力を炎として放つ。

 絶叫するミノタウロスは倒れ込み、身体を弛緩させて絶命した。


「おお! ハウザーすごいじゃん!」


 リンゼの言葉に笑顔で腕を振り上げるハウザー。

 戻って来たハウザーに仲間からの賛辞が投げかけられて嬉しそう。


「次はベンダーの番だな。盾でまともに受けると弾かれるから注意しろ。石柱を上手く流せば耐えられるはずだ」


 さらに奥へと進んでいく。




 次の部屋のミノタウロス。

 部屋の入った瞬間に石柱を振り下ろしてきた。

 驚いて部屋から飛び退くベンダー。


「ちょっ! ベンダー! こっち来たらやばいって!! 部屋に戻れっ!」


 ベンダーの尻を蹴り飛ばして部屋の中に押し込むアニー。

「ひどっ!」とハウザーが言うがアニーは気にしていない。


 蹴り込まれたベンダーが振り返ると、ミノタウロスが石柱を振りかぶっている。

 咄嗟に盾を前に出し石柱を受け、後ろに弾き飛ばされるも踏ん張って耐えきる。


「うーん…… アドバイスがないな。盾もエンチャントしてたら別なんだが」


「蒼真さん、何か言ってあげてくださいよ!」


「ベンダーガンバレー!」


「そうじゃなくって!!」


「懐に飛び込むのは駄目なのか?」


「ベンダーはハウザーほど身軽じゃないからな。盾で受けてから隙を作れればいいが」


「ミリーさんはミノタウロスとどうやって戦うんですか?」


「石柱を破壊して頭を叩き割ります!」


「…… ソウデスカ」


 攻撃してこないミノタウロスを見て、ベンダーは自分から攻撃に向かう。

 ミノタウロスの射程に入ったベンダーに石柱が横薙ぎに向けられる。

 歯をくいしばって盾で受けながら、風を纏った剣でミノタウロスの顔めがけて振り上げる。

「グォォオ!」と悲鳴をあげたミノタウロスは、右頬から目にかけて切り傷がついた。

 石柱を受けた盾もミノタウロスにダメージを与えた事で威力が落ち、何とか耐えられたベンダー。

 そのまま振りかぶって左肩から右腿にかけて力一杯剣を振り下ろす。

 剣の威力に風の刃も上乗せされ、ミノタウロスの肉を深く抉る。

 蹌踉めいたミノタウロスの心臓にとどめの一突き。

 後ろ向きに倒れていくミノタウロス。


「ベンダー! お疲れ様!!」


 駆け寄ったアニーはベンダーにハイタッチ。


「うっぐっ……」


 左肩を押さえるベンダー。

 盾で受けた時に骨折したようだ。


「うわっ! ベンダー大丈夫か!? ミリーさん回復をお願い!!」


「はーい!」


 ミリーの回復を受けて少しずつ痛みが引いていくベンダー。


「ミノタウロスの攻撃って重いんだな……」


「あんなのまともに食らえば死ぬだろ……」


 ハウザーも苦笑いで答える。


「あとで盾にもエンチャントしてもらうといい。盾でも風魔法放てばあの程度なら受けられる」


「あんなの受けきれるのか!?」


「余裕だ。ついでに弾くともっと良い」


「いろいろと勉強なるわぁ」


 座り込んで上を向くベンダー。

 蒼真と自分の差に今頃になって気付いた。




 回復が終わり、さらに奥へと進む。


「次は私か…… 少し怖いぃぃ……」


 肩を竦ませて怯えるアニー。


「アニーとリンゼは余裕だと思うぞ。攻撃される前に倒せばいい」


「さっきの炎の矢は凄かったですもんね!」


 また広い部屋に出るとミノタウロスが立ち上がる。

 魔力を練って構えるアニー。

 槍を引き、ミノタウロスが走り出したところで炎の矢を放つ。

 風穴を空けた炎の矢は、ミノタウロスの胸を貫いて燃やしていた。


「アニーが怖えよ……」


「ミノタウロス走っただけだぞ……」


 ミノタウロスに苦戦したハウザーとベンダーが顔を引攣らせている。


「ままままさかあんなに威力があるなんて思わなかった……」


 瞬殺したアニーが一番驚いていたが。


「遠距離魔法使えるなら近付かせないのが一番ですね!」


「私も大丈夫でしょうか……」


「リンゼの魔法なら外さなければ大丈夫だ」


 さらに奥へと進む一行。




 部屋が見えてきたところで魔力を練り始めるリンゼ、ビビりすぎである。


「しっかり狙って射てよ?」


「は、はい!」


 恐る恐る部屋を覗き込むリンゼ。

 ミノタウロスと目があったリンゼは顔を引っ込める。


「おいリンゼ! 引っ込むなよ!」


 ズシン、ズシンと足音が聞こえる。

 部屋に向かって立つリンゼはスタッフを握り締めてガタガタと震えている。


「ちょっと!? リンゼ大丈夫!?」


 グルルルルル。


 唸り声をあげて部屋から姿を現わすミノタウロス。

 リンゼは震えながら魔法を射ち出した。

 爆発と共に胸部から弾け飛んだミノタウロスはその場で膝から崩れ落ちる。


「その威力の魔法射てるのに何でそんなにビビってるんだ?」


 リンゼの顔を覗き込みながらハウザーは声をかける。


「あーーー…… 怖かった」


 涙を浮かべながら呆けているリンゼだった。


「ミノタウロスの強さは主に物理的な攻撃力だからな。高威力の魔法なら問題ないはずだ」


「今後の参考に蒼真とミリーの戦いも見たいんだけどいいか?」


「ああ、次に行こうか」


 すぐ先に次の部屋がある。




 蒼真は徐ろに部屋に入りミノタウロスと向き合う。


「そうだ、ハウザー! 左のダガー貸してくれないか?」


「いいけど左でいいのか?」


「ああ、問題ない」


 魔力を練り全身に風を纏う蒼真。


「皆さんしっかり見ないと見逃しますよ! 」


 ボッ! という音と共に駆け出す蒼真。

 ミノタウロスの目の前まで一瞬で詰め寄り、左逆袈裟に斬り上げる。

 あまりの速さに微動だにできなかったミノタウロスは、そのまま上半身がズルリと滑り落ちる。


「風魔法だけだがこんな感じだ。このダガーも悪くはないな」


 蒼真はダガーをハウザーに返す。

 一瞬の出来事にハウザーも声が出ない。


「蒼真さん。今のって参考になりますか?」


「ハウザーもベンダーもやればできるだろう」


「「できるか!!」」


 ツッこまれた。


「よーし、次は私ですねー!」


 次の部屋までは少し長く歩く事になる。




「ミリーは少し防御も見せるといい」


「一撃で叩き切った人がそれを言いますか」


「アニーやリンゼには必要だろ」


「確かにそうですね! 少し防御に回ります」


 部屋が見えてきたのでミルニルを手に持つミリー。


 部屋に入った瞬間に振り下ろされる石柱。

 驚いたミリーはメイスを振り抜き全力の爆破。

 石柱ごと頭を叩き割られて絶命するミノタウロス。


「ふおおおお! ビックリしましたよ!!」


「いや、防御はどうした……」


「不意打ちにイラっとしてやっちゃいました!」


「ミリーらしいな」


「イラっとしてやったのか……」


 ハウザーも苦笑いして言う。


「つっ…… 次は防御してみせますよ!?」


「また今度でいいです」


 アニーも苦笑いで答える。


「そろそろ帰るか、アニーとか腹減っただろ?」


「はい…… もうすっごいお腹減って気持ち悪いくらい」


「お菓子持ってきたのでどーぞ」


 全員にクッキーを渡すミリー。


 帰り道はさすがにあれだけの魔獣を倒しただけあって遭遇する事はなかった。






 役所でクエストの報告をし、待合室で分け合う。


 総額7,420,000リラ。


「一日で稼ぐ金額じゃないな…… 」


 顔を引攣らせるハウザー。


「お金があるからごはん食べに行こうよぉぉぉ」


 涙を溜めながら唸るアニー。


「なんだこの金額。オレの取り分も100万超えかよ…… 」


 目を輝かせているベンダー。


「これだけ稼げたし良い宿取ろうよ! 安宿はもう嫌よ!」


 宿の心配をするリンゼ。


「等分って言ったがオレとミリーは100万ずつで良いぞ」


「ごはんは奢ってくださいね!」


 蒼真とミリーは取り分と食事を要求する。


「え? 100万ずつでいいのか? 飯奢るのも構わないけどさぁ」


「それならハウザー! すぐそこの高級料理店行こうよ! 美味しいごはん食べたい!」


 涙ながらに訴えるアニー。


「わかったわかった。皆んなそこでいいな? 行こうぜー」






 本日三度目の食事を摂り、アルテリア西部の岩場に来た。


 報酬も受け取り、ついでにベンダーの盾のエンチャントも済ませた。

 千尋の魔石もいくつか役所に預かっていたので、ベンダーの盾は蒼真が施した。

 御代として100万リラ受け取ったので後で千尋に渡すつもりだ。


「さて、腹ごなしに訓練するか。吐くまで」


「鬼か!? 吐くまでってなんだ!?」


「蒼真さんの訓練ならありえますよ……」


「嘘でしょ!?」


 などというやり取りもしながら訓練を始める。

 まずは見た方がわかりやすいだろうと、蒼真とミリーで攻撃側と防御側の説明しながら実演する。

 徐々に速くしていき、三分後には魔法は使わないまでも全力で打ち込む蒼真。

 全て受けきるミリー。

 そこから十分間ぶっ通しで続ける二人。

 双方汗を流しているあたり、魔獣相手よりも真剣なのだろう。


「はぁ、はぁ…… こんな感じだ……」


「はぁ、ひぃ…… 蒼真さん…… 実演するだけじゃないんですか?」


「つい」


「つい。じゃないですよ!」


「さて…… ハウザーとベンダー、アニーとリンゼで組んでくれ。とりあえず五分ずつで攻撃側と防御側を入れ替える」


 言われたように各々向かい合う。

 蒼真の前にはミリー。


「じゃあまずは上段から打ち込む!」


「ふぉぉぉお!! いきなりですか!?」


 受け止めるミリーだが、説明しながら攻撃されるとは思ってなかった。

 ハウザーとアニーも打ち込み、ベンダーとリンゼも受け止める。


「次! 左袈裟斬り!」


 あらゆる角度から打ち込み、受け止め、身体に慣らしていく。

 五分で攻守を入れ替わり、また同じように続ける。どんどん速くなる攻撃に防御側も必死になる。

 一時間続けて訓練を終え、ミリーが回復魔法をかける。


「今日は皆さんお疲れ様でした!」


「ハウザー、ベンダー、アニー、リンゼ。今日はありがとう。いい一日だった」


「こちらこそありがとう!」


 お互いにお礼を言い合い今日のパーティーを解散する。

 ハウザー達はもう少し訓練していくという事で先に街に戻ることにした。




 街に戻り、千尋達を探そうと思ったところでアルテリア西側の建物前にリゼが立っていた。


「リゼさーん!」


「あら、ミリー? クエストは終わったの?」


「はい! 早めに終わって訓練してました!」


「あっ! ミリーおかえりー! 蒼真もー!」


 千尋が建物から出てくる。


「この建物は倉庫ですか?」


「なんか空き店舗みたいに見えるが」


 建物を見つめる蒼真とミリー。


「ここを借りたのよ。住んだりはできないんだけどね。倉庫よりいいかなーって」


「役所にも登録済みだから今は片付け中だよ!」


「ここで職人さんやるんですか?」


「まぁそうね、作るのはミスリル専門になっちゃうけどどうかしら?」


「良いと思うぞ。宿屋も近いし日当たりもいい。あとは綺麗にしてくれないとオレは入れない」


 蒼真は汚れたところが苦手なので今は近付かないようだ。


「千尋さん! さっきエンチャントの依頼あったので御代戴いてきましたよ! はい、これ」


「パーティーのお金じゃん。オレに渡さなくてもいいよー?」


「店の改装に金かかるだろ。それ使えばいい」


「なるほどー! リゼ! 明日は買い物だ!」


「うんっ! お洒落な家具も欲しいわね!」


「家具も見てくるとしてまずは床や壁を綺麗にしないとねー。掃除用具とペンキとかも買って来ないと」


 蒼真とミリーは汗をかいたのでとりあえずシャワーを浴びに行った。

 千尋とリゼは片付けの続き。

 店内には木材などが置かれており、建物の裏の空き地に運び出している。

 十七時半には店内の物は無くなり、今日の作業を終えることにした。


 荷物は明日まで置いていても問題ないという事で、お言葉に甘えさせてもらった。


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