第33話 ルーンパーティー

 翌朝も役所を訪れた蒼真とミリー。


 たくさんの冒険者達がクエストボードを見つめている。

 そして蒼真達に気付いたと同時にクエスト依頼書を持って我先にと話しかけてきた。


「わぁ!? 皆さん少し待ってください!」


「悪いが同時には無理だ。クエストとパーティーを見て今日の参加するパーティーを選ばせてくれ」


 昨日、ハウザー達がミノタウロスをソロで倒せたと報告した蒼真。

 ミノタウロスは難易度8の強敵とされており、ハウザーパーティーは全員ブルーランクからパープルランクへと昇格した。

 それを聞いた他の冒険者達がこぞって勧誘しているというわけだ。


「言っとくけど皆んな! 甘い気持ちで誘うと後悔するぞ!」


 所長室に呼ばれていたハウザー達が出てきた。


「蒼真さんの教えは厳しいのよー?」


 アニーも忠告のつもりで言っている。


 ハウザーパーティーと挨拶をして少し話しをし、他の冒険者達も話しが気になるらしく聞いていた。


「あの後何時まで訓練してたんだ?」


「気付いたら十九時だった!」


「ベンダーが慣れてきたみたいでなかなかやめてくれなかったんだよ」


「もう攻撃を食らう気がしないな!」


 自身満々に言うベンダー。


「試していいか?」


「え!? うぉあっ!!?」


 蒼真の横一閃を盾で受けるベンダー。


「うん、いいな。少し魔力を乗せるぞ!」


 蒼真の連撃を受けるベンダー。

 かなり必死だが目を見開いてしっかりと受けている。

 一分程打ち込んだところで刀を納める蒼真。


重力魔法グラビティを乗せてみたがしっかり受けれるな。ミノタウロスの一撃以上で打ち込んだんだが問題なさそうだ」


「盾でも攻撃と同じように魔法を放つ練習をしたんだよ。蒼真のは重くて弾けねーけど」


 言って苦笑いするベンダー。


「武器や防具に魔法を乗せて間もないんだ。それだけできていたら充分だろう」


 シーンと静まり返る役所内。


「さて、今日はどこのに同行しようかな」


「あまり厳しくするなよ? ヘタしたら泣くぞ?」


 笑いながら言ってハウザーは出て行った。


 リンゼと話していたミリー。

 今日はクエストを受けずに宿探しと訓練をするそうだ。

 良い宿を探しているという事だったのでエイルをお勧めしておいた。

 料金は高めだがパープルランクなら問題ないだろう。


「このオーク討伐。ルーンのところか? 後衛いないが手数で押せるか」


「さっき受付で断られたけど、やっぱオレ達だと厳しいと思うか?」


 クエスト内容:オーク討伐

 場所:アルテリア東部森林奥岩場

 報酬:一体につき40,000リラ

 注意事項:群れで生息する

 報告手段:魔石を回収

 難易度:5


「やれなくはないが危険だろうな。オークは数が多いうえに武器を使うだろう? ルーン達の戦闘スタイルがしっかりしていれば大丈夫だろうけどな」


「今は武器に魔法を乗せて戦えるようになったから以前よりはかなり良くなっている」


 とりあえず今日はルーンのパーティーに同行する事にし、クエストを受注する。

 蒼真とミリーはゴブリン討伐クエストだ。




 まずは戦力の確認。


「ゴブリンクエストをソロでいけるか?」


「あれはソロでやるもんじゃないだろ!?」


  カール、チュリ、アザレアも頷く。


 ルーンパーティーはホワイトランク。

 ゴブリンも一撃で仕留めるのは容易ではないという。


「少し訓練してから行こうか」


 アルテリアから東に出てすぐのところで訓練をする事にした。




「ミリーはルーンとカールを、チュリとアザレアはオレとだ」


「私はどう教えたらいいですか?」


「爆裂魔法無しで攻めまくれ。ルーンとカールは受けながら全力で反撃しろ。魔法も使っていい。ミリーはいつものように速度調整と防御は魔法ありで頼む」


「了解しました!」


「よろしくね! ミリーさん!」


 ルーンもカールも少し鼻の下を伸ばしている。

 すぐに泣きを見る事になるのだが……


「チュリとアザレアのミスリルの武器は…… 右だけか。チュリは左手に防具も無いのはキツイな。とりあえずこれを貸しておく」


 蒼真の手甲を渡す。


「ありがとう……  んん? なんかいい香りがする。ところで蒼真さんは防具無くてもいいの?」


「避けるから大丈夫だ。まず二人には攻撃を覚えてもらう。対象はこれでいいな」


 地属性魔法で土壁を四つ作り出す。

 蒼真が強いのは知っているが無造作に魔法を発動する事に驚く。


「ところで魔法は何が使えるんだ?」


「私が風でアザレアが地属性強化のみだよ」


「武器が鉤爪とナックルか…… 千尋の真似になるがまぁいいか。まずはチュリの風魔法から」


 魔力を集中して手に風を纏う。

 手刀にして土の壁目掛けて振り下ろす。

 断面まできれいに切り落とされる土壁にチュリも固まっていた。


「これをやってもらう。最初は風魔法で鉤爪を覆うだろ? あとは当たる瞬間に武器に溜まった魔力で叩き切ればいいだけだ」


 蒼真は簡単に言ってくれる。


「それ私でもできるの!?」


「チュリのやる気次第だな。今日できなければ死ぬ」


「死ぬ!? まだ死にたくない!!」


「冗談だ。まずはやってみよう」


 チュリは蒼真に言われたように鉤爪を風魔法で覆うようにイメージを始める。


「次にアザレアは地属性強化か…… しかもナックル。魔法は後で教えるとして、まずは強化と操作でいくか」


 蒼真は魔力を練り拳を強化して握る。

 右の手甲を操作して土壁を殴る。

 土壁は崩れないものの、蒼真の腕は肩まで突き刺さっている。


「これならオークの頭ごと潰せるだろう。まずは強化してオレの手甲を殴ってみろ」


「わかった! いくよぉ!」


 ズガッ!  と打ち付けられるナックル。

 強化しかできないとは言っていたが訓練はしているのだろう。

 なかなかの威力と強度だ。


「じゃあナックルを物理操作グランドで操ってみようか。まずはナックルに魔力を流して腕を動かさずに操作してみるんだ」


「そ、そうは言うけど今までできなかったんだよ? そんな簡単にできないよっ!」


「体外に出た魔力の操作練度が足りないんだろう。今後訓練するとして、今はナックルに魔力が溜まるだろう? その魔力を移動するようイメージするだけだ」


 言われた通りに試してみるアザレア。


「お、おお!? すごい! 動いた!?」


「いいぞ、その調子だ。少しずつ動きを速くしてみろ。慣れてきたら拳を突き出すと同時に操作するんだ」




 しばらく練習していた二人も動作と魔法のタイミングが合ってきた。


「だいぶ良くなったな。そろそろ土壁に打ってみるといい」


 言われて全力で土壁に向かって打ち込む二人。

 土壁に鉤爪で三本の深い傷をつけるチュリ。

 土壁に腕をめり込ませるアザレア。


「切り落とせないよ!?」


 と叫ぶチュリ。


「腕が抜けなーい!!」


 と叫ぶアザレア。

 ナックルが引っかかっているようだ。

 蒼真が土を操り解放する。


「もう少し訓練を詰めばもっと良くなるだろう。今のでもオークなら充分だ」


「私死なない!?」


「オークの武器ごと破壊できるから大丈夫だ」






 ミリーはルーンとカールにひたすらメイスを打ち込む。

 爆発はなくてもミリーの攻撃は速いし重い。

 さらに身のこなしも軽く、メイスでの攻撃とは思えない程の連撃が繰り出される。

 衝撃に耐え切れずに武器を弾き落とされる事も数回。

 その都度ミリーに回復してもらっているが、反撃など一度もできない状態だ。

 何度目だろう、カールのアックスが弾き飛ばされる。


「お二人共防御はできていますが強化が甘いですね。地属性でしっかり受けてください」


「ミ、ミ、ミリーさん!? 少し手加減できませんか!?」


「充分手加減してますよ! これくらいで根を上げてはダメですよ? 蒼真さんが相手だともっとギリギリまで追い込まれますから!」


 蒼真がこっちを見ている。

 ルーンとカールは素早く立ち上がってミリーに向き合う。

 すでにミリーからの回復は済んでいる。


「そろそろ十分ですね。次はお二人が攻撃する番です。反撃もしますのでしっかりガードしてくださいね!」


「よし、カール。オレ達は攻撃の方が得意だってとこ見せてやろうぜ」


「ルーン。オレは嫌な予感しかしないんだが……」


「私は防御の方が得意ですのでいつでもどうぞ! しっかり魔法を乗せてくださいね!」


 駆け出して振りかぶるルーン。


 目一杯振り下ろす直剣がメイスと接触。

 バァン!! と爆発してそのまま弾き飛ばされるルーン。


「魔法乗せないとダメですよ?」


 魔力を練り、炎を放つアックスでミリーに打ち込むカール。

 バァン!! とカールも弾き飛ばされる。


「魔法を発動した状態で攻撃するまでは良いんですけどー、インパクトの瞬間に武器に溜まった魔力も乗せてください」


 サラっと言い放つミリーは防御してるとは言えない。

 ただメイスを相手の武器に当てるだけ。

 それだけで弾かれてしまうルーンとカールはさすがに自信を失いそうになる。


「それができればオークなんて敵じゃないですから頑張りましょう!」


 魔力を練り炎を放つ直剣と炎を放つアックス。

 息を整えて走り出すルーン。

 ガッ! と打ち付けられる剣をメイスで受け止める。

 爆発しない事から相殺できている。

 カールも同じくミリーに振り下ろす。

 わずかに弾かれたカールは、魔力の放出が少し遅かった為だ。

 汗を流しながらも必死で打ち込むルーンとカールも、多少弾かれはするものの打ち合いができるようになった。


 最初に防御を徹底した甲斐もあってミリーの反撃にも対応できる。

 息があがりフラつき出した頃にミリーが止める。


「そろそろ十分ですので休憩しましょう」


 回復を施し、へたり込んでいる二人にお菓子を渡すミリー。


「ミリーはあれだけ動いて息一つ乱さないんだな…… どんだけ訓練してるんだ?」


「ほんとにな…… 十分間ぶっ通しとかキツっ…… 吐きそう…… 」


「蒼真さんは一時間でも二時間でも続けますよ?」


「それだとクエストの方が楽そうだな……」


「クエストは楽しいですよねー!」


 危険なクエストを楽しむミリー。

 ルーンやカールは少し理解ができない。




「ミリー、こっちはどうだ?」


「たぶん大丈夫だとは思いますけど、お二人共お疲れのようです!」


「少し休憩したら先に進むか」


「あははっ! ルーンとカール情けないよ!」


 笑うチュリを睨みつけるルーン。


「お前らもミリーに稽古つけてもらえよ!」


「じゃあルーンはオレとか?」


「え!? いや! 結構です!」


 即答で断られて少しショックを受ける蒼真だった。




 三十分ほど休憩したところで先に進む事にした。

 ミリーの回復もあり疲れも特にない。




 森林地帯に入っていき、すぐにゴブリンの群れに遭遇。

 十二体のゴブリンだ。


「よし、誰からいく?」


「なんで!? 全員で行かないのか?」


「じゃあルーンとチュリで」


「まぁ一人よりマシか……」


「よーし。やるわよ!」


 ゴブリンの群れに駆け込むチュリにルーンが続く。

 魔力を練って鉤爪に風を纏わせ、一匹目を切り裂く。

 すぐに次に向かって振りかぶるチュリに、ルーンも負けじと炎の剣でぶった切る。

 武器を持つゴブリンも、武器ごと切られては抵抗する術はない。

 わずか二分程度で十二体を切り伏せた。

 このパーティーも魔石を手で回収するようだ。


「どうだ? ソロでもいいだろ」


「思った以上に楽に倒せた……」


「以前は十二体なんて四人でも苦戦してたのにね」


「次はカールとアザレアだな」


 少し進むとまた八体のゴブリンに遭遇。


 駆け出したカールは炎の斧でゴブリンを叩き伏せ、アザレアも物凄いスピードでゴブリンに右ストレート。

 頭蓋骨も粉砕されて絶命するゴブリン。

 あっという間に八体を魔石に還した。


「オークってこの先にいるんだよな?」


「森林を抜けた岩場に生息してる」


 ルーンの問いに蒼真が答える。


「岩場までは歩くだけで一時間くらいかかりますからねー。ゴブリンにもたくさん会いますよ!」






 岩場に着くまでに十三回もゴブリンの群れに遭遇した。

 最初の八回まではルーンパーティーが倒す事にし、岩場に近づいてきたところで蒼真が四回続けて戦闘した。

 歩きながら瞬殺する蒼真を見て、ゴブリンに同情するルーンパーティー。


「ここからはオークの住処だ。気を引き締めて進めよ」


 遠くにオークが見える。


 武器を持って進んで行くと、岩場の陰から突然振り下ろされる木の棒。

 咄嗟に剣を振り上げて受け止めるルーン。

 魔力を練ったチュリの攻撃はオークを切り裂いた。

 それを合図に岩場の陰から大量に出てきたオーク。

 ざっと見て三十体以上。


「囲まれてる! みんな気を付けてね!」


「目の前のオークを倒せ! 背後を取らせるな!」


「全員油断するなよ!」


「あの顔キモーい!!」


 全員声を掛け合い魔力を練る。

 ウオォォォオ!! というオークの叫びを合図に一斉に向かってくる。


 最初のオークは全員一撃で叩き伏せるものの、二匹目、三匹目と魔法の威力が落ちていく。

 魔力の練度が甘いせいだろう。


 一人ずつ戦う事を諦め、ルーンとカールが防御に徹し、チュリとアザレアがオークを倒す。


 しかし約半分倒したところでアザレアが木の棒で殴り飛ばされてしまう。

 アザレアを守るべくカールが陣形を崩して庇う。


「やばい、行くぞミリー…… って速いな」


 ミリーから返事が返ってこないと思ったらすでにオークの中心に駆け込んでいた。

 爆発とともにオークを蹴散らし、無双状態で十匹倒す。

 その後すぐにアザレアを回復するミリー。

 カールは戦闘に復帰して残りのオークを押し返す。


 残りは六体。

 アザレアは回復の途中だが戦闘に復帰する。

 全員魔力を練りあげオークへ突進。

 傷だらけになりながらも戦闘を終えた四人は息も絶え絶えだ。

 ミリーの回復で落ち着きを取り戻すルーンパーティー。


「皆んな大丈夫か?」


「おお、なんとかな……」


「危なかったねー……」


「皆んなゴメン…… 攻撃受けちゃって」


「全員ボロボロだ。アザレアが悪いわけじゃないさ」


 仲間の無事を確認し、一息つく四人。


「ミリーはよくあのタイミングで駆け出せたな。驚いたぞ」


「蒼真さんは風で一瞬で行けますからね! 私は先に動いたまでですよ!」


「ミリーさん助かったよー!」


「ほんとあの数は耐え切れなかったもんな。助かったよ」


「オレの出番は無かったな」


 少し蒼真が寂しそうだった。


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