第31話 キラーアント討伐

 しばらく行くと右側に林に入る道がある。

 イーリル洞窟へ向かう道だ。


 林に入って進んで行くと、数分もしないうちにキラーアントに遭遇した。

 十匹程のキラーアントがいたが全て逃げていく。

 仲間を呼びに行ったのだろうと予想し先に進む事にする。

 以前同様に広場になっているところでキラーアントの集団に遭遇し、その数は百匹は超えているだろう。


 ハウザーとベンダーが前に出て後ろからアニーとリンゼが構える。

 襲いかかるキラーアントにハウザーは炎のダガーを振るう。

 ベンダーも風の剣を振り抜く。

 前衛が討ち漏らしたキラーアントをアニーが突き、リンゼは魔法で弾き飛ばす。

 次から次へと襲いかかるキラーアントは、息をつく暇もないほどの勢いで襲ってくる。

 押され始めるハウザーとベンダー。


「ハウザー! 炎は常に強く出すな! インパクトの瞬間にダガーに溜まった魔力で打て!」


 言われた通りに試すハウザー。

 炎を纏わせたダガーのままだが、魔力の放出に強弱をつける。

 するとダガーに魔力が一時的に溜められ、一撃の威力が跳ね上がる。


「ベンダー! 風の放出を薄い刃が飛ぶようにイメージしろ! 剣をなぞるように薄い風の刃を飛ばすんだ! 剣に溜まった魔力で放て!」


 剣をなぞるように風が飛ぶ…… 風を剣に見立てて放つ!

 盾で受けている間にミスリル剣に魔力が溜まり、剣を振るう瞬間に魔力を放出。

 薄い刃のイメージ。

 しっかりと意識して放った風魔法は、風の刃となってキラーアントをまとめて三体切り裂いた。


 前衛が安定した事で持ち直し、キラーアントの群れを押し始めた。

 アニーも負けじと一体一体確実に仕留めて行く。


「リンゼ! 自分の練った魔力は体外で火球を作れ! 放つ前にスタッフ内の魔力で風魔法を発動して火球を覆うんだ!」


「ええ!? 難しくない!?」


「魔力を練るのは火球だけだ! スタッフ内の魔力は風魔法を発動するだけでいい!」


 魔力を練って火球をスタッフの前に生み出す。

 落ち着いて確認するとスタッフ内に溜まった魔力は確かに感じられる。

 溜まった魔力に風をイメージすると魔法が発動し、火球を覆う。

 意識しなくても火球が風で覆われた事に驚いたが、あとは放つだけ。


「みんな! 下がって!」


 ベンダーがキラーアントを盾で弾いたと同時に全員で後ろに飛び退く。

 リンゼの火球が放たれ、キラーアントに着弾。

 そして爆発。

 まとめて十匹ほどが弾け飛んだ。

 ひっくり返ったキラーアントにとどめを刺し、弾き飛ばされたキラーアントを次々と切っていく。

 まとまっていない為倒すのも容易だ。

 残り数匹というところで一匹が逃げていく。


「すぐに残りを片付けろ! 第二波がくるぞ!」


「「「「え!?」」」」


「さっきよりたくさん来ますよ!」


「リンゼは魔法を発動して待機! 来た瞬間放てば前衛とぶつかる前にもう一発打ち込める!」


「やってみます!」


「ハウザーは左でも炎を出せ! 攻撃の瞬間に右よりも魔力を乗せる量は多めだ!」


「左右では難しくねーか!?」


「ベンダーはキラーアントと距離がある場合は風魔法を横薙ぎに放て! まとめて数体倒せる!」


「おう! わかった!」


「アニーは突きはそのままで切っ先から魔力を射出させて遠距離で倒せ!」


「やってみる!」


「ミリーとオレは危険そうなら加勢するぞ」


「はいはーい!」




 ガサガサガサガサと集まってくる音がする。

 飛び出して来たキラーアントの群れにリンゼの火球が打ち込まれて爆発する。

 弾き飛ばされたキラーアントにとどめを刺す前衛。

 アニーは槍の先端から炎の切っ先を放つ。

 長距離魔法もできるアニーの魔法は炎の矢となってキラーアントを貫いた。


 二発目の爆発。

 ハウザーとベンダーは次々ととどめを刺し、目の前のキラーアントを一掃していく。

 アニーも前衛が討ち漏らしたキラーアントを貫き、リンゼは魔力を練る。


「今後リンゼが指示を出せ! 前衛が押される前に群れの態勢を崩すんだ!」


「わかりました!!」


「あとは魔力が尽きる前に言ってくれ! そこからオレとミリーが参戦する!」


 十五分ほど戦い続けるが尽きることのないキラーアントの群れ。

 戦闘開始からすでに三百体以上は倒している。

 ハウザーもベンダーも疲れが出て来たのだろうダメージを受け始めた。


「ごめん! 魔力が残り少ない!」


 アニーが声をあげる。


「オレも残り二割ってとこだ!」


「オレもそれくらいだ!」


  ハウザーに続いてベンダーも言う。


「行きましょうか蒼真さん!」


「リンゼが今魔法を放つから同時に行こう」




「ハウザー! いくよ!」


 火球が放たれると同時に駆け出す蒼真とミリー。

 キラーアントを押し返してバックステップするハウザーとベンダー。


「お疲れ! 代わるぞ!」


「皆さんお疲れ様です!」


 あたりに積まれたキラーアントの死骸が邪魔なので魔石に還す蒼真。

 ミリーはいつものようにメイスを振り回す。

 軽々と踊るようにキラーアントの群れの中で無双している。

 そして魔力を練る蒼真。


「ミリー! 伏せろ!」


 叫ぶと同時に刀を横に薙ぐ。

 蒼真の風刃。

 切っ先から3メートルの範囲を全て切り裂く。

 まとめて二十体以上も切り裂く風の刃は、同等の魔法で受けない限りは防ぐことはできない。

 一方的にキラーアントを蹂躙していく二人にハウザー達は戦慄を覚えた。


 およそ三分。

 残っていた二百体以上ものキラーアントを殲滅したあとは死骸を魔石に還す。

 最初に持っていた魔石袋をミリーと交換し、魔石回収をしている。

 戻って来たミリーはハウザー達の回復を始める。


「皆さんお疲れ様でした!」


 笑顔で言うミリーは汗一つかいていない。


「お疲れ様。ほんっと強えなミリー」


 苦笑いで言うハウザー。


「倒す速度が違うな…… 防御も一切しないし」


 ベンダーも苦笑い。


「私は蒼真さんから防御を徹底的に叩き込まれてますよ! よほどの事がない限り攻撃を受けきれますからねー」


「防御出来る自信があるからあれ程の猛攻が出来るって事か……」


「私達に足りない部分がたくさん見えたな」


 アニーはなんだか嬉しそうだ。


「私は後衛だからどうしたらいいのか」


 リンゼは苦笑い。

 そこへ蒼真が戻って来てハウザーに魔石袋を渡す。


「ハウザーの袋を貸してくれ、足りなかった。それとリンゼ、アニーはミリーの戦いを参考にするといい。主に防御の方だがな」


 言って魔石回収に向かう蒼真。


「防御してねーから参考になんねーぞ!」


 一応ツッコむハウザー。


「防御は慣れですよ! 私はひたすら蒼真さんの攻撃を受け続けましたからね…… 受けられるギリギリの速度でずーっと……  ちなみに今もギリギリです」


「そういえば蒼真の魔法さぁ、以前よりかなり強くないか?」


「あはは…… やはり気づきましたか。蒼真さんはですねぇ、刀に制限付けて戦ってたんですよ」


「制限てなんだ?」


「刀の性能を落としてたんです。そんなので聖騎士にも勝っちゃいますからね……」


 苦笑いで説明するミリー。


「化け物かあいつは!? 魔族ともそれで戦ってたって事だよな?」


「そうなりますね」


「オレ、盾要らないかな……」


 自信をなさそうに盾を見つめるベンダー。


「盾は必要だろ。防御が優位になる。それは攻め手にも繋がるから盾使えるならあるに越したことはない」


 戻ってきた蒼真がアドバイスする。


「でも蒼真もミリーも盾使わないだろ?」


「左右で武器を持ち替えるからな。考えてみろ、オレが刀で斬りかかるのをベンダーは盾で受けるだろ? そのまま刀を弾き返したらオレはベンダーの剣を避けるしかなくなるんだぞ?」


「相手がハウザーみたいに両手武器だったら?」


「両方ガードし続けたらいいだろう。左手一本で両手攻撃に耐えられるんだ。断然有利じゃないか」


「おお…… 確かにそうだ」


「相手の体重が乗ったところを弾けば隙を作れるしな。ハウザーも真っ二つだ」


「勝手にオレを殺すな!!」


「あははっ! ハウザーやばいじゃん!」


 アニーが楽しそうに笑う。


「アニーはさっきの魔法良かったな。炎の矢が飛んでいったが他の属性はできないのか?」


「イメージが湧きにくくて練習してないんだ。もともと弓矢で倒せればいいかなーと」


 苦笑いで答える。


「皆んなは他の魔法は?」


「リンゼだけ火と風だな。地属性もみんな強化しか使えない」


「なるほどな…… 他の冒険者パーティーもそうなのか?」


「たぶんそうだと思いますよ? 他のパーティーの後衛の方々と時々お話しますし」


「蒼真とミリーは何が使えるんだ?」


「私は火と地属性ですね!」


「オレは全部だ。ハウザーとベンダーも他の覚えた方が良いぞ。リンゼとアニーは全部だな」


「ええ!? 全部!?」


「難しくはない。訓練次第だ」


「私できませんよ!?」


「ミリーのは特殊だから無理だ。逆にオレにも回復魔法はできないからな……  んん? ミリー、もう回復は終わったのか?」


 座って話をするミリーに問いかける蒼真。

 あまりの回復の早さに蒼真も驚いている。


「さっき終わりましたけど?」


「それじゃあ昼食にしようか」


 弁当を広げて一休みとする。




 弁当を食べた後はある程度魔力が回復するまで休憩する。

 身体の疲れや怠さなどはミリーの回復のおかげもあってほとんどない。


「蒼真とミリーはどうやって訓練してるんだ? 」


 訓練方法が気になるハウザーが問いかける。


「二対二で実戦訓練ですね! 無敗のリゼさんに如何にして挑むかが課題です!」


「え? リゼが一番強いのか?」


「ああ、強いなんてレベルじゃないがな」


 苦笑いする蒼真とミリー。


「そ、そんなにか!?」


「手加減してでも騎士団を瞬殺できる」


「恐ろしいな……」


「ところで千尋さんはどうなんですか? 武器作ったり魔石作ったりとかできるみたいですが」


 リンゼの質問はもっともだ。

 千尋はアルテリアではほとんど戦っていない。


「千尋さんは素手で聖騎士長と互角の実力ですよ」


「「「「え!?」」」」


「聖騎士長!? なんで聖騎士長と戦ってるんですか!?」


「リゼの叔父みたいな人なんだ」


「今はロナウドさんも魔剣を使うから、千尋さんでも素手じゃ無理ですよね?」


「…… 千尋だぞ?」


「千尋さんは相手の強さとか関係ない人でしたね…… 」


 憶測で千尋について語り合う蒼真とミリー。


「見た目あれでそんなに強いのか……」


「千尋さんは可愛いですからね!」


「私は女性だと思ってた……」


「アニーも? 私も最初わからなかった!」


「まぁ千尋さんの事を語るといろいろわからなくなるので終わりにしましょう!」


「一緒にいてもわからないのか」


「常に予想の斜め上にいます!」




「魔力の回復まで少し時間があるし防御の訓練をしないか? オレとミリーとハウザーは攻撃側、ベンダーとアニー、リンゼは防御側で」


「いいのか? 是非頼みたい!」


 蒼真とアニー、ミリーとリンゼ、ハウザーとベンダーに分かれて訓練する。


 蒼真の説明を受け、攻撃側は一定速度で打ち込んでいく。

 ハウザーは時々体重を乗せるようにして攻撃を行い、合わせてベンダーは盾で弾く訓練だ。

 アニーとリンゼはミリーに行った訓練と同じ。

 様々な角度から攻撃を打ち込み、正確に受ける訓練だ。

 どちらも後衛だった為か動きや体捌きが鈍い。

 およそ三十分を通して行った為、汗が流れるものの少し様になってきた。

 ミリーが回復を行い、イーリル洞窟に向かうことにした。


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