第13話 ランクアップ

 キラーアント討伐が終わり、役所にたどり着いたところで現在十三時。


 レオナルド達から少し待っていてくれと言われたのでその間にクエストの報告をする。

 受付に依頼書と集めたキラーアントの魔石を渡し、ワーウルフやリザードマンの魔石も渡した。


 再び魔石と依頼書を持って戻って来た受付の女性も大変そうだ。


 キラーアントの討伐。

 報酬2,640,000リラ。


 リザードマン、ワーウルフの討伐。

 報酬276,000リラ。


 総額2,916,000リラとなった。


 また高額な報酬を受け取って待合室で待つ事にした。


 数分でレオナルドが出て来てブルーランクは問題なし、少し所長とランクの相談をしておくと告げられそこで別れた。






「お昼食べようよ! 豪華なのを!」


「いいですね! 高級料理店行っちゃいましょう!」


「腹が空いたな。早く行こうか」






 役所を出て三分ほど歩いた所にその高級料理店とやらがある。

 高級というだけあって立派なお店だ。


 店内には他の客もある程度入っていて、冒険者のような者もチラホラ見受けられる。

 奥の席に案内され、千尋の隣に蒼真、向かいにミリーが座った。


 メニューを見て注文するが、名前だけだとどんな料理かわからなかった。


 十分ほど待ってテーブルに皿が並べられていく。

 どうやら中華料理のようなものらしい。


 一口食べて「うまーーー!」と千尋が言うだけあってとても美味しい料理だった。


「冒険者ってすごく稼げる仕事だよね!」


「いやいやいやいや、このパーティーは異常ですよ!? 普通魔獣モンスター討伐に行ってもあんなに倒せませんからね! キラーアントなんて本来であれば複数パーティーでやるんですよ? それを三人でやろうなんて異常としか言えません!」


「ミリーはその半分以上倒してるだろ」


「粉塵爆発使う前に三十体以上は倒してたよね」


「メイスでその数は凄いな」


「さすがに腕が痛くなったので回復魔法かけましたよ」


「毎回そんなのしてたらすごい筋肉つきそうだね! ムキムキミリー! あははっ」


「それだけは避けないと! どうしたらいいんでしょう!?」


重力操作グラビティ使えるようになればいい」


「むぅ…… 」


 最後にデザートを食べてお店を出る。


 支払総額83,255リラ。

 三人の宿屋代三日分にもなった。






 店を出てすぐに声をかけられ、声のする方を見るとレミリアが手を振っている。


「皆さんを丁度探しに出てきたところなんです。今所長と話しをしていたんですが、皆さんのランクをまた上げてもらえる事になったんです!」


「ええ!?」


「皆さんの実力ならもっと難易度の高いクエストを受けても問題ない…… というか高難易度のクエストじゃないとレベルが上がらないでしょう?」


「オレだけ上がらないとか…… 」


「強敵相手ならきっとレベルも上がりますよ」


「そっか! じゃあランクアップする! 」


「そうだな、そうしてもらえるなら助かる」


「レミリアさんありがとうございます!」


「では所長室に行きましょうか」


 という事で役所へ戻る。





 役所の所長室に案内され、中ではレオナルドと所長と思われる人物がソファに座っていた。


「おお、君達が噂の三人かね。私はこの役所の所長アブドルだ。よろしく頼む」


 それぞれ挨拶をしてソファに座る。


「君達は現在ブルーランクとなるが、レオナルドの申し出によりシルバーランクとしたいのだがどうだろう?」


「シルバーランクだと何かあるんですか?」


「シルバーランク以上は住んでいる場所の提示が必要となる。これはクエストを自分達で受ける以外に、役所側から直接依頼をする場合がある為だ」


「役所の依頼?」


「例えばそうだね、自衛騎士団と協力して犯罪の防止や潜入捜査などだね。他にも大規模パーティーを編成しての討伐もある。もちろん断る事も可能だができるだけ協力してほしい」


「私達のように審査なども依頼のうちだよ」


「ふむ、それくらいなら構わないよね?」


「住む場所は変更してもいいんだろうか」


「住む場所は変更したら連絡をしてくれれば問題はない。ただあまり転々とされても困るがね」


「もし街を出る場合はどうなるのかな?」


「その際は申請してくれれば問題ない。他の街に着いたらまた役所で住む場所を提示するだけでいい」


「他には何かありますか?」


「本来シルバーランクは役所側の信頼を元に与えられるランクだ。くれぐれもおかしな事はしないように。それ以外は自由だ。冒険者として我々のクエストに協力してほしい」


 シルバーランクになる事を了承し、登録前にレベルの確認という事で魔力の測定を行った。


 千尋:レベル4  魔力量1,851

 蒼真:レベル5  魔力量2,752

 ミリー:レベル6  魔力量31,793


「君達…… これしか魔力がないのか? あれほどの強さで信じられん…… んん、まぁ今日レベルが上がったのだろうから明日には魔力量が安定する。これ以上の数値だと思うからまた測定するといいよ」


「千尋さんも蒼真さんも子供並みの魔力なんですね。ミリーさんはかなり高いようですが」


「ぐぬぬ…… そういうレミリアさん達はいくつなのさ!?」


「私はレベル10で75,000ほどです」


「私はレベル10で78,000ほどだ」


「なにー!? リゼより高い!」


 ピクリと反応するレオナルドとレミリア。


「よし、とりあえずカードを貰って出ようか」


 受付で銀色のカードを受け取り、役所を後にした。






 どこかで話そうと言うので、この後リゼも来るの予定だし宿屋の食堂に行く事にした。


 四人用の席に奥からレオナルド、レミリア、向かいに蒼真、ミリーと座り、千尋は椅子だけ隣のテーブルから持って来て座る。


「君達はリゼを知っているんだね?」


「知ってるよ! オレ達にいろいろ教えてくれたんだ」


「今日もこの後ここに来ますよ?」


「そうなのか、元々私達は彼女に用があってこの街に来たんだよ。父の指示でね」


「そうなの?」


「リゼの手紙の内容の真相を聞いてこいとね」


「どんな内容なんですか?」


「もう一度冒険に出たいと書いてあった」


「うんっ! オレ達と一緒に冒険に出るんだよ!」


「そうか…… やはり君達か」


「どういう事だ?」


「リゼは父の許可がないと冒険に出すわけにはいかないんだ」


「なんで!?」


「リゼのパーティーが以前全滅した事は知ってますか? 」


 頷く千尋と蒼真。

 え!? と驚くミリー。


「リゼがこの世界で親のように慕っていた二人と仲間の二人でしょ?」


 千尋と蒼真はリゼから冒険者を辞める事になった二年前の話を聞いていた。

 そして千尋や蒼真と共に冒険に出たいというリゼの気持ちにも気付いている。

 

「はい、その親代りだった二人。ヘインズ様とミランダ様はレオナルド様のお父上、ロナウド様の親友でした。生前、自分達に何かあったらリゼを頼むと言われていたロナウド様でしたので、彼等亡きあとリゼを養子に迎えようとしたのですが……」






 レミリアもヘインズやミランダの事をよく知っている。

 ロナウドよりも若い二人だが、ロナウドが信用を置く冒険者で、夫婦ではあるが子供はいなかった。

 そしてヘインズ達は森で見つけたリゼを保護し、親代わりとなった。

 ヘインズとミランダはリゼを自分の子として育てる事にしたのだが、二人はゴールドランク冒険者。

 役所からは高難易度のクエストが依頼される場合がある。

 そこでロナウドの家にもレオナルドがいるし、従者としてレミリアもいる。

 リゼをロナウドの自宅に預けて冒険に出ていたヘインズパーティー。


 リゼは同じくらいの年齢のレオナルドやレミリアとは仲が良い。

 異世界出身者のリゼの話は面白く、二人は地球とはどんなところかといつも想像を膨らませたものだ。

 そしてレオナルドとレミリアは、まだこの世界の字を読めないリゼに字を教えた。

 物覚えの早いリゼは自分で本を読むようになり、レオナルドやレミリアと同じように学者を教師として学び始めた。


 レオナルドは十三歳で騎士団へ、レミリアは十二歳で魔術師団へ見習いとして入団。

 それを期にリゼは十一歳からヘインズ達のクエストに着いて行くようになった。


 レオナルドやレミリアと会う機会は減ったものの、会うたび楽しそうに冒険話を聞かせてくれた。

 レオナルドは騎士団での訓練を、レミリアは魔術師団で学んだ事を話し、会う機会が減っても仲の良さは変わらなかった。


 レオナルドは十五歳になった事で騎士団へと正式に入団し、ヘインズ達も交えて盛大にお祝いをした。

 次の年のレミリアの魔術師団へ正式に入団した際にも盛大にお祝いをした。

 リゼは嬉しそうにお祝いの言葉を言い、常に笑顔を絶やさなかった。


 そして次に会ったリゼからは笑顔が消えていた。


 ヘインズとミランダの死。

 パーティー全員がリゼを残して死んでしまったのだ。

 複数の合同パーティーによる森林の調査。

 予想だにしなかった強敵の出現により、パーティーは撤退を選択するが敵があまりにも強過ぎた。


 ミランダにリゼを任せ、ヘインズはパーティーと共に殿を務めた。

 街まで逃げ切ったミランダとリゼ。

 しかしミランダは背中に深い傷を負い、ヒーラーの回復でもどうする事も出来ずに命を落とした。




 一人残されたリゼは何日も泣き続けていた。







「リゼは自分のせいでパーティーが全滅したと、彼等は自分を守って死んでいったと、その親友である父に顔向けができないと、養子には入らず研究所で生活すると言い出したんだ。父は冒険に出る事を禁じ、それを了承したという訳だ」


 レオナルドが続きを説明した。


「なるほどな。リゼが冒険に出たいと言うならば止めようとするのも仕方ないか」


「必ずしもそうでもないさ。父は話のわかる人間だ。リゼを託された以上、彼女の幸せを願っているだろう。ただ…… 生半可な気持ちでは父は納得しないだろうね」


「でもオレは連れて行くよ?」


 以前千尋はリゼを冒険者に誘った。

 しかしレベルが自分に追いついたらねと断られてしまう。

 もちろんリゼはロナウドの許しがないと研究所を出るつもりはない。


 リゼは考えた末にロナウド宛の手紙を書いた。


「そうだね、私もリゼを妹のように思っている。彼女の望むようにさせてやりたいさ。だが……」


「だが?」


「君達は強い。そのレベルにしてあれほどの実力。…… しかし、我が国の聖騎士達にはまだまだ及ばない」


 魔力量の少ない千尋や蒼真では、聖騎士相手には分が悪いだろう。


「……」


「父はリゼを連れ出そうと言うのならば、それ相応の実力を求めると思う。君達にはそれができるか?」


「もちろんさ!」


「私の予想だが、並みの騎士程度の実力では認めてはくれないぞ?」


「騎士団も倒してみせるよ!」


「ふふふっ、その粋だ。私は君達が気に入ったよ」


「レオナルド様…… いいのですか?」


「いいんだよ。リゼが望む事を私も望んでいるからね」


「そう…… ですか」


 嬉しそうな表情を見せるレオナルドに対し、困った表情のレミリア。


 その後は千尋や蒼真が地球の話をする。

 リゼの手紙にも千尋や蒼真が、リゼと同じ地球から来たことが書かれてあった。

 レオナルドやレミリアも楽しみにしていたらしく、ミリーも含めてたくさんの話をした。






 あっという間に時間は流れ、リゼが来た事で十六時を過ぎている事に気付く。


「みんな! 今日も来たわよ!」


「リゼー! 待ってたよー!」


「あれ? 今日は他にも…… レオナルド?」


「やあリゼ。父の遣いでリゼに会いに来たんだよ」


「リゼ。久しぶりね」


「レミリアも……」


 とりあえずご飯にしようと千尋が提案したので全員宿屋の食堂で食事を摂る。






 一連の話しをしてリゼは一言。


「ごめんなさい」


「なんで謝るの?」


「私が冒険に出るという事はロナウド様にあなた達を試されるという事……」


「あー、全然いいけど」


「だって私の問題に!」


「オレがリゼと一緒にいたいんだよー」


「「「「!?」」」」


 赤面するリゼと笑顔の千尋。

 それを見たレオナルド。


「あれ? もしかしてリゼは千尋君の事をす……  あいたっ!?」


「レオナルド様は黙っててください!」


「うわぁ、レミリアに初めて叩かれたよ!」


 少し驚きと嬉しさの見える表情のレオナルド。


「なに? す?」


「えーと、あのあれだ! スープだ!」


「ん? リゼはスープが飲みたいの?  ほい、あーん」


 スプーンを差し出す千尋に余計赤面するリゼ。


「彼はあれかな…… 無自覚なのか?」


 蒼真に耳打ちするレオナルド。


「千尋はあーいう生き物なので」


「リゼも苦労しそうですね……」


「あ、リゼさんスープ飲みましたね。すごい顔真っ赤ですよ」


「千尋は気にせずまたスープを飲んでるな」


「リゼが目を逸らしたね」


「いたたまれなくなってきました」


「リゼさん可愛い……」


 千尋とリゼのやり取りをジッと見つめる事にしたレオナルドとレミリア。






「あ、そうだ! オレ達シルバーランクなったんだよ!」


「え? え? そうなの!?」


 声が裏返るリゼ。


「レオナルドとレミリアが所長にお願いしてくれたんだー。助かるよー」


「そ、そうなの?」


 まだ動揺しているようだ。


「なんかオレだけレベル上がらなくてさぁ。リゼを連れ出せないじゃん? だから頑張らないと!」


「が、頑張ってね!」


 赤面しながらもなんとか答えるリゼ。


 千尋とリゼのやり取りを見ながら食事を終える。

 いろんな意味で(ご馳走様)と思った。






「実は今回の審査員として同行したのもリゼが共にしたいという冒険者が君達なんじゃないかと思ってね。正解で良かったよ。やはり実力を見ておかなければ報告ができないからね!」


 帰り際にレオナルドが言ってレミリアと共に去っていった。




「とにかくレベル7だ! 頑張るよ!」

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