第14話 レベル上げ

 今日からレベル上げをする。


 まずその前に魔力測定してもらおうという事で、受付で測定をお願いして結果を見る。


 千尋:レベル4  魔力量2,051ガルド

 蒼真:レベル5  魔力量4,182ガルド

 ミリー:レベル6  魔力量33,289ガルド


 落ち込む千尋だった。






 クエストボードの前に立つ三人。

 シルバーランクになった事により、難易度9のクエストまで受けられる。


「難易度9なんてそうそうありませんね」


「それどころか難易度8も7も無いぞ」


 レベルが上げられないとさらに落ち込む千尋だった。


 それから数日高難易度クエストは無く、その日のある最高難易度の物だけ受け続けた。






 そして七日後。


「今日は難易度8があるよー!」


 テンションが上がる千尋。


 クエスト内容:ミノタウロス討伐

 場所:アルテリア北部イーリル洞窟

 報酬:一体につき200,000リラ

 注意事項:火を吐く

 報告手段:魔石を回収

 難易度:8


「良さそうなクエストだな。どれくらい出現するのかはわからないが強敵のようだ」


「ミノタウロスですか。少し怖いですね」


「二足歩行の牛でしょ!」


 早速クエストを受注して、洞窟という事なので魔石を買いに行く。


 道具屋に行くとライトストーンが売っていたので十個ほどと、魔石を発動させる為のミスリルを購入。

 魔石用のミスリルとは小さなミスリルのカケラが貼り付けられたカゴみたいな物だ。


 買い物を済ませて北の街道を行く。






 この日はリザードマンやワーウルフが襲って来る事はなく、一時間歩き林に入るがキラーアントにも出会う事はなかった。

 先週あれだけ狩れば当然と言えば当然なのだが。






 何も遭遇する事なくイーリル洞窟に着いてしまった。


 洞窟の中は真っ暗で何も見えないが、遠くに光がチラホラ見える。

 魔石が埋め込まれているのだろうか。


 購入した魔石をミスリルカゴにセットする。

 洞窟の入り口には木の棒が置かれており、他の冒険者も使用していたのだろうと予測する。

 木の棒にライトストーンを取り付けて洞窟内を進んで行く。

 ライトストーンは普段から宿屋などで使用する為、魔石一つで一時間ほど保つことを知っている。






  ふと横切る生物があった。

  ネズミのようなウサギのような生物だったが襲ってくる事はない。






 そのまま数分進んで行くと、ギキィィィイ! と鳴き声のようなものが聞こえてくる。


 何だろうと思いながらも奥へと進むと、洞窟の道を右に曲がったところで広い部屋に出た。


 少し明るめの部屋だが……


「グルルルルルルルルッ」


 唸り声。


「伏せろ!」


 蒼真が叫び、全員伏せると同時に頭上を岩の塊が通り過ぎる。

 追い討ちを避ける為攻撃のきた方向と反対側に飛び退く。


「でかい牛だ!」


「いや、ミノタウロスだ!」


「うわっ! 怖っ!」


「どんな敵かわからないしオレやるよ!」


「そうか、気をつけろよ」


「全員でやらないんですか!?」


 試しに千尋のサイレントキラー。

 顔を魔力が覆った瞬間危険を察知したミノタウロスは、伏せるように回避した後突進してくる。

 千尋は殺意を向けるその目を銃で狙い撃つ。

 左目を潰され悲鳴をあげるミノタウロスだったが、そのまま千尋目掛けて火を吐きつける。

 咄嗟に土の盾を出して火を防ぎ、すぐさまジャンプする。

 ミノタウロスから右薙ぎに石斧が向けられ、土の盾は砕かれた。

 飛び上がった千尋は空中から再度頭を狙って弾丸を二発撃ち込む。

 一度右目を撃たれて銃を警戒しているミノタウロスは左腕で弾丸を防ぐ。


「強いね! 楽しいよ!」


 着地した千尋はミノタウロスに正面から向かって駆け出す。


 ミノタウロスは石斧を振りかぶって千尋の頭目がけて振り下ろし、左に体を捻って回避し銃を向けるが、ミノタウロスは顔を左腕で覆ってガードする。

 銃を撃てずに舌打ちする千尋に、左逆袈裟の石斧が向かう。

 それを伏せるように回避し、腕が上がりきったところでわきに弾丸を三発撃ち込む。


「グギャァァァァア!!」


 悲鳴をあげて石斧を落とすミノタウロス。

 しかし千尋も弾切れだ。


 銃をホルダーに収めてミノタウロスに接近する。


 左手に石斧を持ち直したミノタウロスは肩に担ぐように振りかぶり、千尋に向かって振り下ろす。

 右に半歩避ける事で躱し、ミノタウロスの腹部に右手で掌底を打ち込むと同時に爆破。

 ミノタウロスの腹の肉が球状に抉り取られた。

 悲鳴をあげるミノタウロスに左、右と掌底の爆破を繰り返す。


 腹部を押さえながら崩れ落ちるミノタウロスの頭にとどめの右掌底。

 やっとミノタウロスは絶命した。






 魔石を回収して二人に話しかける千尋。


「いいよ! 結構強い!」


「苦戦したようには見えなかったな」


「すんごい戦い方しますね千尋さんは……」


「内部を爆破するのに魔力を結構使ったよ。銃も一発で警戒されたし、サイレントキラーも躱されるし」


「即死魔法も使ってたのわかりませんでしたよ」


「なかなかおもしろそうだ。次はオレがやる」


 部屋には奥に進む道があった。






 奥へ少し進むとまた部屋があり、そこにもミノタウロスがいた。


 宣言通り蒼真が刀を抜く。


 魔力を練った蒼真の周囲に風が巻く。

 ボッ! という音と共にミノタウロスとの距離を一瞬で詰め、蒼真の左薙ぎの一撃をギリギリ石斧で受けるミノタウロスだったが……


「ギェェェェェエ!! 」


 悲鳴と共に血しぶきが舞う。

 胸を横一線に切られたミノタウロス。


 右袈裟に石斧を蒼真に向けて振り下ろす。

 対する蒼真の右逆袈裟は石斧ごと斬り落とし、ミノタウロスの身体は胴からズルリと崩れ落ちた。


 魔石を回収して振り返る蒼真。


「今のどうだった?」


「蒼真に風の魔法はズルいと思う!」


「圧勝じゃないですかぁ」


 とても満足気な蒼真だった。






 またさらに奥へと進み、再び部屋がある。


「もしかして次は私ですか!?」


「「もちろん!」」


「むぅ……」


 次の部屋に入ると、こちらに向かってミノタウロスが突進してくる。

 前に出たミリーはメイスを握り締めて構える。

 ミノタウロスから石斧が振り下ろされ、ミリーはメイスで受けつつ爆破する。

 石斧を破壊し、振り上げたメイスをそのまま頭に叩き付けてほぼ瞬殺に終わる。


「安定の勝利だね」


「誰だ? ミリーにメイス持たせたのは」


「怖かったので全力です!」






 そのまま奥へと突き進み、千尋が三体、蒼真とミリーが二体ずつ倒したところで帰ることにした。


 え、理由?

 お腹が空いたそうです。






「うー、すげー腹減る」


「オレも同じだ」


「たぶん魔力をたくさん使ってるからですよ!」


「魔力量少ないからかな……」


「早くレベルあげないとな……」


「ミリーは全然平気そうだもんなー」


「それでも結構使ってますよ! 数値にしたらたぶん6,000ガルドくらい」


「オレの三倍じゃん! なんかヘコむー」


「千尋さんは二戦目からは銃使わなかったじゃないですか!」


「だってー、自分を追い込もうと思って……」


「一撃だったな」


「その一撃が腹減るんだよー」


 千尋は二体目から掌底の爆破一撃でミノタウロスを倒した。

 火属性魔法と風属性魔法のミックスした球を圧縮して掌底で打ち込む。

 ミリーとは違う千尋の爆破魔法だ。






 昼食を済ませて報告に向かう。


 また高級料理店に行ったが今回の店はガッツリ肉系のお店で、柔らかい肉に満足して店を出た。






 今回の報酬は140万リラ。


 どんどんお金が貯まっていく。

 すでに400万リラ以上持っているので、今日からは高い宿屋に泊まる事にした。


「ミリーはどこか良いとこ知ってる?」


「安いところしか知りません!」


「リゼなら高いところ知ってそうだな」


「そうですね! 教えてもらいましょう!」


「リゼと同じとこがイイよねー」


「 ……  わかってて言ってません?」


 と蒼真に耳打ちするミリーだった。






 リゼの仕事が終わるまであと一時間ほどあったのでまた防具屋に来た。


 蒼真はインナーを。

 ミリーはミノタウロスに焦がされたスカートを買いに来た。

 今のよりも強度の高い物を探しに来たわけだ。


 千尋がオレはねぇ、とか言うのでリゼが悲しむと言って諦めさせた。


 蒼真は金属繊維の入った紺色のインナーと鋼鉄製の小手、鋼鉄製の額当てを購入。


 総額158,000リラ。


 ミリーはデザインをほぼ変えずに耐火素材と金属繊維の入ったスカートを選んだ。

 蒼真から頭にも何か装備しようと言われ、黒い蝶のようなデザインの髪飾りを購入。


 総額172,000リラ。


 支払いを終えて装備する。


 ミリーは髪飾りをつける為髪型を変える。

 ツインテールにして左右に髪飾りを付けた。


「似合ってるじゃないかミリー」


「本当だ。可愛いねー!」


「えへへ、褒められると嬉しいですね。リゼさんの気持ちを少し理解できましたよ」






 時刻は十五時半を過ぎたところだ。


「そろそろ研究所に向かいましょうか」


「少し早いが管理人さんと話でもしてよう」






 リゼを待ち、数分で出て来た。


「あれ、みんなどうしたの?」


「お金も貯まって来たから宿屋変えようと思って」


「そうなのね。あれ? ミリー髪飾りつけたの? 可愛いー!」


「あははっ! ありがとうございます! リゼさんどこか良い宿屋知りませんか?」


「うーん、もし良ければ私の宿泊してるところはどうかしら」


 リゼが宿泊する宿はアルテリアで最も高級な宿屋だ。

 街の西側に位置し、研究所からも近い。


「うん、そこにする!」


「確認もせず即決か」


「少し高いけどすごく良いところよ? 部屋は広いし掃除もしてくれるしご飯も美味しいし!」


「よし、そこで決まりだな!」


「蒼真さんも決めるの早いですね…… まぁ皆さんがそこに泊まるなら私も構いませんが!」


「決まりね! 行きましょう!」






 宿屋は研究所の近くにあり、他の宿よりも大きな建物だった。


 ミリーと並んで歩くリゼ。


「私はここの一人部屋に泊まってるんだけどね、二人部屋もあるのよ」


「それがどうしたんですか?」


「それがねぇ、二人部屋にはシャワーだけじゃなくお風呂も付いてるの!」


「うわぁ、いいですね!」


「でもここお金払っても一人じゃ二人部屋を貸してくれないのよね」


「そうなんですか?」


「だから二人部屋にしない?」


「千尋さんとですか?」


「ええ!? そんなわけないでしょう!?」


 赤面して否定するリゼ。

 もちろんミリーはわざとだが。


「ではリゼさん、二人部屋にしましょう!」


「やった! ありがとうミリー!」


「千尋と蒼真はどうするの?」


「「風呂あるなら二人部屋!」」






 宿屋の受付に行き、リゼの部屋をチェックアウトして再度二人部屋を二部屋借りる。


 受付の女性はレイラとといい、この宿屋のオーナーの娘でリゼとは仲が良いようだ。


「男性一名と女性三名様のようですが、お部屋はでよろしいんでしょうか?」


「オレは男だっ!」


 間髪入れずにツッコむ千尋だったが。


「ええ!? そんなに可愛いのに!?」


 レイラの言葉に落ち込む千尋だった。






 案内された部屋は広く、三十畳ほどあるだろうか。


 ベッドが左右に二つ置かれ、ベッドの脇にクローゼットがある。

 受付での説明にあった魔力鍵付きのクローゼットだろう。


 部屋の手前側にはテーブルと椅子があり、その横にはトイレやお風呂へ繋がる廊下がある。


「これで一泊五万リラか。悪くはないな」


 一人部屋の料金が一泊三万リラ。

 二人部屋の方が少しお得な設定だ。


 空調も完備されているのか丁度いい室温。

 魔石やポットも置かれており、コーヒーやお茶なども飲める。






 コンコンと扉がノックされる。

 扉を開けるとリゼとミリーが立っており、部屋に入って良いかとの事だったので通した。


「私達は隣の部屋だけど反対の作りになってるのね」


 一通り見回して中庭に行こうと誘われたので一緒に向かう。






 緑の芝生に草花の植えられた美しい庭だった。

 ここにはテラスがあり、みんなでまた宿舎のように朝は集まろうと約束する。






 晩御飯はリゼが言うようにとても美味しい料理だった。

 家庭的な料理ながらもしっかりと手が込んでおり、ここに宿をとって良かったと思えた。


 食事中の話題は今日の冒険について。

 いつも冒険の話しになるが、毎回違うクエストのため問題ない。


「へぇ、今日はミノタウロス? 強かったでしょう」


「うん、息が臭かったけど楽しかった!」


「そんな事は聞いてないと思います」


「千尋は素手だからな。必要以上に接近するからだろ」


「素手!? 何考えてるのよ! 一歩間違えたら死んじゃうじゃない!」


 素手で戦う事に驚くリゼ。


「だってレオナルドが余裕あるとレベル上がらないって言ったよ?」


「レベル4の時点で余裕なんて無いのよ?」


「千尋さんは戦ってる間ずっと楽しそうでしたよね」


「常に余裕だな」


 蒼真やミリーにとってはまぁ千尋だし、と気にする事でもない。






「どお? 料理は美味しい? 」


 レイラが手が空いたようで話しかけてきた。


「すごく美味しいよー!」


「あら、ありがとう。千尋君はほんと可愛いわねー」


 頬に触れるレイラだったが。


「ちょっとレイラやめなさいよ! 千尋が困ってるじゃない!」


「んん?」


 肉を頬張る千尋。

 ははーん とレイラが意地悪な顔をしてリゼを見る。


「彼なのね?」


「な、なによ!?」


「ふふふっ。宿舎に時々泊まるようになったと思ったら全然戻って来なくなっちゃうしー。何でかなー? と思ってたんだけどねぇ?」


「な、何が言いたいの!?」


「後でお話ししようよリ・ゼ」


 ニヤニヤしながら言うレイラ。


「あ、私もご一緒してもいいですか?」


「ミリーさんも? そうね、じゃあお部屋でお話ししましょっ!」


 赤面するリゼだったが逃れられないと思い項垂れる。


 そんなリゼを心配する千尋だったが、蒼真に女には女の付き合いがあると言われたので見送った。

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